蒼紅天使のマスカレード   作:GT(EW版)

26 / 61
 新年あけましておめで投下。
 ゲームの話に戻る予定でしたがフィアの話はちょっと時間が掛かりそうなので、予定を変更してストックのある追憶編を先に投下します。


《紅の追憶5》異世界テロリスト

 その少女の存在がゼン・オーディスにとって誤算だったことは、もはや語るまでもないだろう。

 しかしオーディスは、以前から「紅井久玲奈」という少女の存在を把握していた。

 

 オーディスが彼女のことを初めて見つけたのは、半年後に行う大規模な勇者召喚の為に選定する人材を、異世界観測の魔法で調査していた時のことだった。

 

 今回チキュウという世界で見つけた勇者候補は、過去に例を見ないほどに豊作だった。

 中でも彼が目を掛けていたのは、白石勇志とその妹の白石絆――紅井久玲奈の三人である。

 六年周期で行われる大規模な一斉召喚で、召喚可能な最大の人数である十三人にまで絞り込んだ勇者候補の中でも、この三人は際立って高い適性を秘めていたのだ。

 彼らがこのフォストルディアで魔王軍との戦いで刺激を受け続ければ、今までに見たことがない進化を成し遂げるかもしれない。過去最高の素材達をこの世界から目にした時、オーディスは言い知れぬ高揚を抱いたものだ。

 

 しかし有望な勇者候補の一人である紅井久玲奈が突如として勇者の力に目覚め、神巫女の弟であるロア・ハーベストと出会ってしまったことは誤算だった。

 

 地球に居ながらも地球人が勇者に目覚めるなどということは、長年召喚師として地球を観測してきたオーディスにとっても初めての出来事だった。さらに予想外だったのは彼女が目覚めた力を苦も無く最初から完璧に使いこなしていたことだ。

 何より驚くべきは自分の不幸を呪い、病院で不貞腐れ続けているだけだった小娘が、まるで召喚魔法の恐ろしさをその身で経験してきたかのように鬼気迫る行動を見せたのだ。しかも会ったことのない白石兄妹に対して異常な執着心を見せているのだから、その不可解さは極まる。

 

 そんな彼女を見て、オーディスは「紅井久玲奈はある日を境に何らかの出来事によって未来の出来事を見たのか、未来予知の能力を身に着けたのだろう」と当たりをつけていた。そうでもなければ彼女の変貌には説明がつかないのだ。

 創造神ルディアの神巫女ロラ・ルディアスも彼女のことは気に掛けているようであり、実に興味深い存在である。

 

「嬉しそうじゃな、ゼン」

 

 気づかない間にその頬に笑みが浮かんでいたのであろう、オーディスの表情を見て傍らの玉座に座る老人が愉快そうに呟く。 

 確かにオーディスがこのような笑みを最後に浮かべたのは、五年以上は前のことである。老人――このフィクス帝国の王が部下の珍しい表情に関心を示すのも、至極真っ当な反応だった。

 

「ええ。今までの勇者を遥かに凌ぐ逸材を見つけたのだから、嬉しくもなります」

「ほほ、今のお主の顔は、まるで新しい玩具を見つけた子供のようじゃ」

 

 王の前で感情をコントロール出来ないとは、自分もまだまだ進化の余地を残しているようだとオーディスは思い知る。

 自らの笑みが喜びの感情から来ているものだということをオーディスは肯定したが、しかしその喜びの理由は王の分析とはまた別の方向性にあった。

 

「お言葉ですが陛下よ、あの少女は玩具にはなり得ません。私が喜んでいるのは、彼女が私の同類だと思ったからです」

「ほお……」

 

 今現在帝都の空では聖地ルディアの聖堂騎士団が不毛な騒ぎを起こしており、この城の地下ではロア・ハーベストらによって神巫女を奪い返されている頃だろう。しかしそのようなことも、今のオーディスには構う必要のない些事に過ぎなかった。

 帝国の召喚師として神巫女を攫った表向きの理由は聖地ルディアをこのフィクス帝国に従属させる為であったが、実際のところは完成した結界破りの魔道具の性能実験と、半年後に行う大規模な勇者召喚の前に最大の懸念材料である彼女の動向を把握しておきたかっただけなのだ。

 しかしその勇者召喚も、彼女――紅井久玲奈を捕らえさえすればさしたる必要も無くなる。

 オーディスは魔王軍との戦いも、この国の存亡にも興味は無い。それどころかたかが(・・・)フォストルディアの一つがどうなろうと、彼らからしてみれば大した問題ではなかった。

 

 進化を止め、衰退に向かっていくだけの世界に興味は無いのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この王城の中から、一瞬にして多くの気配が消え去っていく。

 それは地球でもロアが使っていた人払いの結界、「封鎖結界」の発動だった。あの男――ゼン・オーディスがこれから始まる戦いの前準備として、帝都への被害を抑える為にこの町の空間を切り離したのだろうとクレナは察した。

 突如として無人と化した王城の中は不気味な空間であったが、余計な雑魚の相手をする手間が省けたのは悪いことではなかった。

 

 そうしてクレナは何の障害も無く、彼に導かれるまま王城の三階――階段を昇って彼の待つ「謁見の間」へとたどり着く。

 

 全長六メートルもある無駄に大きな扉を、クレナは無法者のごとく豪快に蹴破ってこじ開ける。そんなクレナの入室を、コンサートホールほどもある広大な広間の中で二人の男が出迎えた。

 

 一人はこの国の王。玉座に腰を下ろした姿は大人しそうな白髪の老人だが、その老人こそがフィクス帝国の帝王陛下その人である。

 

 そして彼の傍らに佇んでいるもう一人の男は、もはや語るまでも無いだろう。

 爬虫類めいた細く尖った眼光は、青と銀の虹彩異色(オッドアイ)。銀髪をローブのフードに隠した壮年の姿は記憶の中にある彼と相違なく、クレナの戦意をこれ以上ないほどに昂らせてくれた。

 

「オーディス……」

 

 魔王よりもどす黒い心を持っていながら、聖者ぶった淀みの無い純白のローブを纏った装いはクレナの神経を悉く逆撫でする。

 この壮年こそがゼン・オーディス――未来の世界で十三人の子供達を異世界召喚し、未来の勇志達の人生を狂わせた元凶なのだ。

 他の者とは桁違いの魔力を宿した彼は玉座のフィクス帝王の傍らに立ちながら、この謁見の間へ立ち入ったクレナの姿を小馬鹿にした目で見下ろしていた。

 王の為に着飾られた豪奢な部屋の風景には目も暮れず、クレナはただそんな彼の姿を睨みつけていた。

 

「会いたかったよ、ああ……会いたかった。観測魔法でも見ていたが、こうして直接目にする君の姿は実に美しい」

 

 オッドアイの瞳で嘗め回すようにクレナの姿を映した彼の放った第一声は、全身の毛がぞわりと逆立つような不快感を与えてくれた。

 似たような言葉でも、クレナの兄彗が歯の浮くような台詞を口にした時の感覚とはまるで別物の気持ち悪さである。この男が語るだけで、クレナの中ではどんな褒め言葉だろうと吐き気を催す確信があった。

 

『お前の姿は、思っていたよりも醜い』

「それは手厳しい」 

 

 この心に満ち溢れる怨嗟の思いを翻訳魔法に込めながら、クレナはこの時代の「紅井久玲奈」として初めて彼と対峙する。

 今しがた彼は「観測魔法でも見ていた」と言ったが、やはりクレナの存在は以前から知っていたようだ。

 つくづく召喚師というものは、人のプライバシーを覗き見るのが好きらしいと眉をひそめる。

 

『やはり見ていたのか、私のことを』

「君だけではない。いずれ召喚する勇者候補の存在は、皆把握している。白石勇志、白石絆、紫藤美夏、青木翼……今回は例年にない当たり年で、十三人の内半数以上が優れた素質を持っていた。その中でも君は、とりわけ私の想像を超えていったものだがね」

 

 未来のクレナが辿った歴史通り、勇者召喚の計画は今も推し進められており、最悪なことに彼は既に召喚する勇者候補について調査済みのようだ。

 しかし、だとすればさぞや驚いたことだろう。自分の手で召喚する筈だった地球人の一人が、自分の手に掛かる前に何の前触れも無く勇者の力に目覚めてしまったのだから。

 クレナがざまあみろと侮蔑の感情を込めて哂えば、彼は気取ったように鼻を鳴らしながらその時のことを語った。

 

「ふふ……流石の私も驚いたよ。よもや勇者候補として目を掛けていた一人のチキュウ人が、召喚する前に覚醒してしまうとは夢にも思うまい。君は一体、何者なのだ? チキュウ人というのは仮の姿に過ぎず、本当はルディアの遣わした天使なのではあるまいな?」

 

 何の抵抗も出来ずに異世界に拉致されていくだけだと思っていた人間が、得体の知れない力を持って自分の前に立ち塞がって来たのだ。彼が生きてきた長い人生の中でも、それは初めての経験であろう。

 しかし今の彼はその状況に狼狽えるどころか愉快げな笑みを浮かべており、その様子が気に入らなかったクレナは唇をへの字に曲げると、激情の赴くままに宣戦布告を叩きつけてやった。

 

『紅井クレナ……異世界召喚を終わらせる女だ』

 

 長きに渡り、このフォストルディアから地球の民へと行われ続けてきた異世界召喚。

 彼らによって都合良く連れ去られ、望まぬ戦いを子供達に強い続けてきたこの世界の歪んだ歴史。

 それを、ここで断ち切る。二度とあんな未来を繰り返さない為にも……地球に住むあの兄妹をこれからもずっと、笑顔で居続けさせる為にも。

 

 ――その為だけにクレナは今、口もききたくなかった筈のこの男と対峙していた。

 

「それは結構」

 

 クレナの宣戦布告を聞き届けたゼン・オーディスが、その表情から笑みを消す。

 桁外れの内なる魔力を静かに高ぶらせながら、彼はクレナを見下ろす。その傍らでクレナ達の言葉のやり取りを無言で傍聴していたフィクス帝王が、たった一言彼に命じる。

 

「ゼンよ、そ奴を捕らえよ」

「御意」

 

 オーディスが王からの命令を承ったその瞬間が、クレナ達の開戦の合図となる。

 オーディスが右手に持った杖を振り上げ、クレナがその右手に紅に揺らめく炎の剣を生成する。

 オーディスが虚空に振り下ろした杖の先から光の砲弾が放たれると、クレナが薙ぎ払った剣の切っ先から灼熱の炎が噴き放たれる。

 

 光と炎――二つの力は真っ正面からぶつかり合うと、この王城を襲う激震と共に眩い爆発が広がっていった。

 

『灰よりも惨めに燃やしてやる……お前だけは……!』

 

 飛行魔法を発動し、背中に展開した紅蓮の翼を羽ばたかせながら上昇していくと、クレナは煌びやかなシャンデリアの並ぶ天井の高さから敵の姿を見下ろす。

 その視線の先では、今しがた巻き起こった爆煙から王の身を守っているオーディスの姿があった。

 

「この炎……やはり火炎魔法の類ではないな。これが君の持つCの力か」

『この世の穢れを焼き払う浄化の炎だ。だからお前の肉片は、灰すら残らない』

「……なるほど、それは恐ろしい」

 

 爆煙に煽られる中でも威風堂々と佇んでいたオーディスの周囲は、彼らを守る透明な障壁によって覆われている。彼がその魔力で作り出したバリアによって、自らの身と王の身を守ったのであろう。

 挨拶代わりの力のぶつかり合いからこちらの力をある程度見抜いたのか、警戒心の宿った目でクレナを見上げながら彼は王に向かって手を振りかざした。

 

「陛下はお下がりください。あの娘は、貴方を庇いながら戦える相手ではありませんので」

「うむ、確かにお主が称えるほどの逸材のようじゃ。健闘を祈る」

 

 瞬間、王の姿が玉座の上から消え去る。

 転移魔法――その魔法で、主君の身をこの封鎖結界の外へと送り飛ばしたのであろう。

 賢明な判断だ。寧ろ国の要人である王様が、わざわざ命の危険があるこの場所に居合わせていたのがおかしいのだ。

 尤も、獲物が一人逃げ出そうと同じことだ。オーディスの後は、王も仕留める。それでこの国の民が大混乱に陥ろうと、クレナには知ったことではなかった。

 

 

「さて、邪魔者が居なくなったところで始めようか。我々の戦いを」

 

 王が消え、この封鎖結界の中でクレナとオーディスが二人きりになったところで、オーディスが動く。

 杖底でコンッと床を叩くと、自らの身を起点に光の魔法陣を構築したのである。

 それは疑いもしない。忌々しい召喚魔法の発動風景だった。

 

「現れよ、私の愛しいコレクション達」

 

 帝国最強にして、世界最高の召喚師と言われているのがゼン・オーディスという男だ。その肩書通り、彼の戦闘スタイルは膨大な魔力によって行われる召喚魔法を駆使した召喚獣の使役である。

 

 彼の扱う召喚獣は、いずれも上級の魔物に匹敵する力を持っている。

 

 未来のクレナの記憶から得たその知識から、次々と現れ出る召喚獣の姿に警戒心を強める。

 魔方陣の中から現れた三体の召喚獣からは、やはりロアの使役していた召喚獣とは比べ物にならない大きな力を感じた。

 

「な、に……?」

 

 しかしその三体の召喚獣の姿は、クレナにとって予想外なものだった。

 どんな怪物が出てくるのかと身構えていたが、彼の魔法陣から現れた召喚獣は三体とも召喚「獣」ではなく……人の姿をしていたのである。

 

『……人間……? いや、違う……』

 

 それぞれ黒、青、白の異なった髪色を持ち、その髪と同じ色をした衣装を纏っている人型の存在は、いずれも歳若い少年少女の姿をしていた。三人ともその手には武器を装備しており、黒い少年は大剣を持ち、青の少女は杖を片手に、白の少年は両手に短剣を携えている。

 

 そんな三人の人型を一目見た時、クレナが彼らの身に感じたのは人の気配ではなく、幽鬼のような虚無感だった。

 

 三人の存在からはいずれも膨大な魔力を感じるのだが、人間ならば必ずある筈の命の気配が限りなく薄いのだ。彼らが本当に人間であることすら、疑ってしまうほどに。

 こちらを見つめる三人の双眸は虚ろで光を灯しておらず、整った端麗な容姿も相まって、さながら精巧に作られた人形のようだった。

 そんなクレナの疑問に答えるように、オーディスが淡々とした口調で説明する。

 

「そう、これらは元々人間だったものだ。君と同じ、チキュウの民だった」

「……っ」

「君にはやや劣るかもしれないが、三体とも美しい姿をしているだろう? 彼らは私の最高傑作なのだ」

 

 何気ない表情から平然と語られた事実に、クレナの表情が自分でもわかるほど憎悪に歪んでいくのがわかる。

 そんなクレナの反応を楽しむように眺めながらオーディスは笑みを深めると、身の毛がよだつような実話をその口で語った。

 

「あれは今から五年前のことだったかな? 我々フィクス帝国の召喚師は地球から素質を持った人間を複数人召喚し、魔王軍と戦わせた。この三人は、そんな勇者達の中でも数少ない生き残りだった。しかし肉体こそ五体満足だったものの、心は脆弱なものでね。残念ながら、三年も持たずに壊れてしまったのだよ」

 

 全く残念そうには見えないどころか愉悦の表情を浮かべながら、オーディスは「人形」と称した三人の中で手頃な距離に立っていた青髪の少女の頭を一頻り撫でた後、その頬に手を触れる。

 そんな彼から行われる生理的な不快感を禁じえない行動に対して、青髪の少女は表情一つ変えずにされるがまま受け入れていた。その姿に、感情の色は存在しない。

 ……確かに、まるで人形のようだ。しかしオーディスが少女の頬に爪を立てれば、人間のものと何ら変わりのない血液が傷口から赤く滴り落ちていた。

 その光景が彼女らが人形ではなく、れっきとした人間であることをクレナに知らしめる。

 彼女らはクレナにとって言わば先輩……未来のクレナ達と同じようにかつて、この世界に召喚された地球人だったのだ。惨たらしいその事実を、オーディスは嬉々として語り続けていく。

 

「心が壊れてしまった彼女らは、それ以上魔王軍と戦うことが出来なくなってしまった。強大な力を持ちながら、それを生かせないほど虚しいことはあるまい。だから私はほんの親切心から、彼女らの肉体を私用の戦闘人形(コレクション)として調整し、再利用することにしたのだ。するとどうだろう? ドラゴンなどよりも遥かに強く、有用な召喚獣の出来上がりだ」

「なんて、ことを……!」

 

 自分で勝手に召喚し、戦わせておきながら……心が壊れて戦えなくなったら戦闘人形として使用し続ける。彼は何の罪も無い地球の子供を、一度殺しただけでは気が済まず今も延々と殺し続けているのか。

 彼女らがどんな思いで戦ってきたのか、どんな思いで心を壊すことになったのか……それさえ気に留めず、労いの言葉一つ無く利用し続ける。

 

 ――短い一生を終えた子供達に、安らかな死すら与えてやれないと言うのだ。

 

 未来知識から、この男の腐った性根は最初から知っていたつもりだが、その狂気を自らの目で認めたクレナの胸には、未来の記憶を見た時にさえ浮かばなかった感情が湧き上がってきた。

 

「名前は君達の世界の神から取って、左から順に青龍、白虎、玄武と付けた。中々洒落ているとは思わんかね?」

『お前は、何様のつもりだ……!』

「君がそれを言うのかね? 私はただ無駄なものが嫌いなだけだ。使えそうなものは、骨の髄まで利用しなければ気が済まんのだよ」

 

 使い捨てた勇者達の身体をクレナ物として利用し、あまつさえ彼女らの生きていた証である名前すら取り払った。

 この男には必死に戦い続けてきた彼女らに対する情などありはしない。彼はただ、自分にとって使えるか使えないかでしか人を見てはいないのだ。

 そういう男だと言うのは、わかっていた。しかしこうもクレナに不快感を与えながらそれを再確認させるのは、この男がゼン・オーディスたる所以であろう。

 青髪の少女――青龍と呼ばれた美しい少女から手を離したオーディスが、次は彼女らに向けていた視線と同じものをクレナに浴びせる。

 

『私をここに誘い込んだのは、私を捕獲する為だと言うのは察している。これまでの道のりは、あまりにも守りが薄すぎたからな……それで今度は私の存在を、その中に加えるつもりか?』

「確かに、君を朱雀としてコレクションに加えるのも心魅かれる。だが、君ほどの力を持った肉体なら、もっと有効な使い道があるだろう。君を捕らえた後、それを考えるのが楽しみだ」

「ふざけるな……!」

 

 彼から向けられる好色的な眼差しに、クレナは思わず日本語で啖呵を切る。

 魔王よりも、魔王軍よりもクレナは彼が憎い。この世界の歪みを生んだ根源とも言えるこの男が、誰よりも憎くて殺してやりたい。

 炎の剣を携えながら一瞬で彼の元へと急降下すると、クレナはその剣を袈裟斬りに振り下ろす。

 しかしその一閃がオーディスの身体へと届く前に、無言で待機していた彼の戦闘人形の一体――玄武と呼ばれた黒い少年が動き、その手に持つ大剣で受け止めた。

 

「ふふ……美しいな。怒り、憎しみを表現した人の顔は実に美しい。それが君のように歪な人間であれば、なおのこと手に入れたくなる」

『どこまで……どこまで人を貶める! オーディス!!』

 

 玄武がクレナの攻撃を止めている隙に、クレナの背後から白虎と呼ばれた少年が短剣を携えながら踊り掛かってくる。その気配を察知したクレナは飛行魔法として展開していた紅蓮の翼を振り回すことで、接近する彼を乱暴にはたき落とした。

 

「っ……」

 

 しかし、背後の攻撃を対処した直後には正面の玄武が攻勢に出てくる。

 豪快に踏み込んできた彼がその大剣を横薙ぎに払い、クレナの襟元を斬り裂いたのである。咄嗟の回避が間に合い、剣先がこの皮膚にまで到達することはなかったが……まともに受ければダメージは免れなかっただろう。

 それほどの強さ――クレナを殺しうるだけの力を、彼らは持っているのだ。

 その事実が、彼らが「元々地球の勇者だった」と言う話に信憑性をもたらしている。

 だからこそ、クレナの心は怒りの炎に満たされた。

 

『こんな……こんな奴の為に、ユウシ達は!』

 

 玄武と白虎、二人の剣撃を炎の剣で捌きながら、クレナは自らの手を下すことなく高みの見物を決め込んでいる召喚師の姿を一瞥する。

 彼の為に、多くの地球人が戦わされ死んでいった。そして今もなお、こんな戦闘人形にまで成り果てて生き恥を晒され続けている者達が居る。

 こんなことをする……こんなことをさせる奴らの為に、誇り高いあの兄妹の人生を狂わされていったことが何よりもクレナには許せなかった。

 

「そうか、やはり君は未来を見たのだな?」

 

 クレナの憤怒の眼差しを受けながら、オーディスが何かに気づいたように問い掛ける。

 二人の戦闘人形に挟まれながら戦闘しているクレナがその言葉に答えることは無かったが、彼は構わず考察を始めた。

 

「おそらく未来予知の能力か、私の知らない誰かから与えられた予言か……君は何らかの方法によって、今後訪れる未来を見た。そして半年後、私に召喚される勇者達の行く末を知ったのだろう」

 

 未来の世界で死んでいったクレナ自身からそのまま記憶を受け継いだ……とまではたどり着いていないようだが、ここに居るクレナが未来の出来事を知っているという彼の考察は概ね当たっていた。

 憎たらしいほどに、彼は洞察力や直感に長けているのだ。

 いつだってこの男は、他人の心の中に土足で踏み込んで荒らしてくる。そう言った点ではあの神巫女ロラ・ルディアスとも似ているが、この男の場合は彼女と比べるのもおこがましい。

 生かしてはおけない、灰にしてやるのすら生ぬるい男だ。

 

「君の目を見る限り、それは悲惨な最期だったに違いない。君は今、その勇者達の行く末と、目の前の人形達の姿を重ねている。実に興味深い……これは君を捕まえた後で、じっくり聞かせてもらいたいものだな。君の見た未来とやらを」

「オーディスッ!!」

 

 よりにもよって大切な者達のことをその口で触れたオーディスに、クレナの怒りが限界を超えていく。

 瞬間、クレナの体内から暴走していくように荒々しい炎が奔流していき、その圧力を持って斬り掛かってくる二人の人形を吹き飛ばしていった。

 そしてその力の勢いのまま、クレナが炎の剣を振りかぶり、オーディスの元へと斬り掛かろうとした次の瞬間――三人目の戦闘人形がクレナの前に立ちはだかった。

 

「やれ、青龍」

 

 二人の戦闘人形がクレナの相手をしている間に、その力を溜めていたのであろう。

 虚ろな目でこちらを見つめる青龍と呼ばれた青の少女は、その身にクレナに匹敵するほどの魔力と……魔法とはまた別の、人知を超えた力を解放した。

 

 それはクレナが持つ「C.HEAT」と同じ類の力――このフォストルディアに召喚された地球人だけが持つ、「勇者の力」の顕現だった。

 

「Cの力、「永遠の氷結」……燃え盛る炎を氷に閉じ込めるのも、面白いとは思わんかね?」

 

 愉悦の笑みを浮かべるオーディスの声が聴こえた頃には既に、彼女の放った青い力がクレナの身体へと降り注いでいた。

 その力に当てられた瞬間、この手に生成していた炎の剣が力を失いながら呆気なく消失していく。

 それと同時に、手足の感覚が一気に失われていくのがわかる。これは、彼女の放った力によってクレナの身体が「凍っている」のだ。

 

「く……ぁ……っ……」

 

 身体が動かない。

 炎のクレナとは相反する氷属性の「C.HEAT」能力……哀れな人形と化した先輩勇者の攻撃は、怒りに燃えるクレナの思考を物理的に冷却していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 幻想世界フォストルディアという世界の概要を一言で表すなら、いかにもゲームや漫画と言ったサブカルチャーの舞台になりそうなファンタジー的な異世界である。

 世界各地には魔物が闊歩し、人が持つ当たり前の体機能として魔法がある。一方で科学技術においては地球の先進国よりも幾段遅れており、良くも悪くも各地の町並みは中世時代を彷彿させた。

 

 しかし、このフィクス帝国の帝都ドラボスだけはそんな世界の中にあって、際立って高い技術力を誇っていた。

 

 町並みを見渡してみればビル街やショッピングモールと言った建造物が建ち並んでおり、民家の造りも極めて現代的である。アスファルトで舗装された道路もまた、現代日本と比べても遜色が無かった。

 帝国を治める王の居城を始めとして中世的な威容を放つ建造物の姿も多いが、全体の風景はまるでファンタジー世界と現代世界、両方の文化を混ぜ合わせたように混沌としていた。

 

 何故この町だけが現代日本に近いのか……その理由は、この国の恒例行事である勇者召喚にある。

 

 基本的に召喚された地球人がこの世界で行うことは、フォストルディアの中で彼らにのみ目覚める特殊な異能「C.HEAT」によって魔王軍と戦うことにあるが、平和な時代の場合はその限りではない。

 かつて帝都の召喚師は地球人の持つ優れた科学力に目を付け、勇者召喚を名目に知恵のある技術者の召喚を行い、彼らの技術を蒐集したことがあったのだ。

 尤も風土諸々の都合から全ての技術をこの世界で再現することは出来なかったが、地球の技術者が持つ膨大な知識はこの国に革命的な発展をもたらした。有名どころでは誰でも一定の殺傷能力を得ることが出来る「魔導銃」と言った武器や、国の手軽な移動手段として扱われる「魔導車両」と言った地球で言うところの拳銃や車のようなものが発明されており、今日の道路でも現代日本ほど交通量は多くないものの、多くの乗用魔導車が走り回っていた。

 

 その車両の群れに紛れながら、町を移動する多くの者達とは正反対の方角へ向かっていく一台のトラックの姿があった。

 

 ……そう、トラックである。

 

 大型貨物用自動車。

 夕日に照らし出される白銀色のボディーは現代日本であればありふれた姿であるが、このフォストルディアでは珍しい外見だ。帝都においてトラックという乗り物は召喚魔法にも応用することが出来る高級車として扱われており、現代日本に最も近しい町並みをしているこの町の中でも滅多に見ることのない希少な車両だった。

 そんなトラックが走る道路の上空では、聖地ルディアから攻め込んできたワイバーン乗りの騎士達と帝都の衛兵達が使役する召喚獣が戦っている光景が広がっている。

 パニックになりながら蜘蛛の子を散らしたように逃げ惑う住民達の姿を眺めながら、トラックを運転する中年の男がうんざりした調子で呟いた。

 

「いざ戦いに巻き込まれると、住民達も臆病なもんですね」

 

 自分達の生活している環境でこれほどの騒動が起これば、力の無い住民達が怯えるのも道理だろう。

 しかし恥も見聞も無く、女子供を蹴散らしながら我先にと逃げ出していくお偉方達の姿は、控えめに言って見苦しいものだった。

 このフィクス帝国が地球から召喚した子供達に強いてきたことを思えば、なお不愉快に映る光景である。

 そんな運転席からの呟きに、助手席に同乗する灰色の髪の青年が返した。

 

「彼らは国に守られている立場なのだから仕方ありません。寧ろ東京に他国の軍隊が攻め込んできたとしたら、この程度の騒ぎでは済まないでしょう」

 

 ため息交じりの息をつきながら目元に掛けたサングラス越しにバックミラーを眺めた後、灰色の髪の青年はシートの背もたれに背中を預けながら淡々と語る。

 

「しかし普段から守られることが当然だと思われるより、ほんの少しでも戦う者の痛みを知れたのはいい経験です。守られる者の無知は、時に守ってきた者の心を傷つけますから」

「経験者は語るって奴かい?」

「……そんなところです」

 

 微かな憂いを込めた言葉を言い放った後、青年は前方のフロントガラスから見える空の光景に目を移す。

 比較的人通りの少ない場所を選んでいるものの、彼らの乗るトラックは戦場からの避難民に混雑した道路で度々停車を強いられている。停めた車の前で貴族の大集団が横切っていく中で、運転手の男もまた戦場の風景を見上げながら待ち時間を潰していた。

 

「しかし、いい感じに混乱してくれましたね。うほっ、あの騎士、中々イイ腕してるじゃないの」

「ここまで思い通りに動いてくれているのは、僕としては複雑な気分ですがね」

 

 彼らの視線の先で繰り広げられている聖地ルディアの竜騎士と帝都の召喚師達の戦況は、どちらも譲らぬ膠着状態に陥っていた。

 数の面ではホームグラウンドである召喚師達の方が圧倒的に優位なのだが、連携や個々の戦闘技術といった面においてはルディアの騎士達が彼らのそれを大きく上回っているのだ。

 不利な条件でもルディアの騎士達が帝都の召喚師達に押されていないのは、やはり実戦経験の違いだろう。国土を覆う厳重な結界に普段から守られ、魔王軍との戦いを避けてきた帝都の召喚師達は、神巫女奪還に決死の覚悟で臨んでいる騎士達に気持ちに面でも圧されていた。

 彼らの姿を見た灰色の髪の青年は、ルディアの民を相手にするに当たって最も恐ろしいのは聖堂騎士団ではなく、やはり神巫女ロラ・ルディアスの人を惹きつけるカリスマ性だろうと改めて認識した。

 

「騎士達は、お姫様を取り返せましたか?」

「……ええ、作戦は順調なようです。王城に潜入した騎士達は、数分ほど前にロラを連れて脱出しています。今しがた、地下水道で帝都の兵達と鉢合わせてしまったようですが」

「おいおい、それはマズいんじゃないかい?」

「いえ、問題ありません。ロラ自身が立ちはだかる障害を排除していますから」

「……頼もしいお姫様ですね」

「まったくです」

 

 灰色の髪の青年がサングラスの下で両目を閉じながら魔力を放ち、この帝都に存在する全ての人々の動きを読み取る。

 「探知魔法」――生命が持つそれぞれの気配を読み取るその魔法は、魔法文明が浸透しているこのフォストルディアにおいても完璧に扱える者は少ない。何故ならそれには緻密な魔力操作と、膨大な情報を受け止めるだけの情報処理能力が要求されるからだ。過去にはこの魔法を使った結果、脳に異常を来してしまった者も少なくない。

 しかし過去に度重なる「実戦」の中で幾度となくこの魔法を扱ってきた青年には、そのような高度な魔法さえ呼吸をするように扱うことが出来た。

 そしてその「探知魔法」によって感知した気配が、彼の頭脳に重要人物達の動向を教えてくれた。

 

「あの子はもう、放っておいても大丈夫でしょう。問題はロラよりも……彼女だ」

「彼女?」

 

 騎士達が行ったロラ・ルディアスの救出は、ほぼ完了したと見える。王城から連れ出された彼女は仲間と共に地下道を通って逃走している最中であり、その過程では神巫女の真価を発揮し無双の限りを尽くしている。

 青年の「経験則」としてその気になったあのじゃじゃ馬は、フィクス帝国の召喚師が束になろうと抑え込める存在ではない。召喚師の中で唯一対抗しうるのはゼン・オーディスぐらいなものであり、そのオーディスの気配も今は王城内に張り巡らされている封鎖結界の中にあった。

 

「まさか、君まで邪神に導かれていたとはな」

 

 彼が最重要人物である神巫女を放置してまで王城に留まった理由を、灰色の髪の青年は知っていた。探知魔法により、彼は今や懐かしいとさえ思えるその気配を感知していたのだ。

 封鎖結界に中で召喚師ゼン・オーディスと対峙している燃え盛る炎の如き苛烈な存在は、青年にとって今回の「事象」における一番の懸念材料だった。

 

「……そこに居るのか、クレナ」

 

 真紅の髪と目を持つ、生前(・・)の自分を最も苦しめた女傑の姿が脳裏に浮かぶ。

 彼女が今、あの王城の中に居る。その事実は彼にとって、決して見過ごすことが出来ない「あり得ない歴史」だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ほんの少しの間意識を失っていたクレナが目を開けた時、その身に感じたのは氷河地帯のような寒々しさだった。

 

 ……力が入らない。

 

 青龍の放った冷気の一撃により、クレナが携えていた炎の剣は消滅し、この両腕は完全に凍り付いている。そして凍ったのは腕だけではなく、下を見れば首から靴のつま先まで完全に氷の中に封じ込められていた。

 背中もまた彼女の一撃で出来たのだろう、この謁見の間の床から天井に掛けて伸びている氷の柱の中に埋め込まれており、今のクレナの身体はまるで氷で作られた十字架に磔にされているような状態だった。

 そんな屈辱的な体勢をしたクレナを嘲笑うように、オーディスが彫りの深い顔を歪めて言った。

 

「良い眺めだな、紅井クレナ」

「オー……ディス……!」

 

 豪奢に着飾られたこの謁見の間は、今や見渡す限りが氷点下の白い世界に塗り替えられていた。

 床も壁も天井もオブジェも、ありとあらゆる場所が氷に覆われており、冷え切った空気がクレナの身体で唯一凍らされていない頭部の肌へと突き刺さってくる。

 こんな氷如き、すぐに浄化の炎で溶かしてやるとオーディスを睨み、クレナは今一度身体から「C.HEAT」を発動しようとするが……冷たい氷に覆われた肢体はピクリとも言うことを聞かず、「C.HEAT」どころか魔力を行使することすら出来なかった。

 

「……っ……!」

「良い目だ。勇者の氷に囚われながら、戦意も怒りも失っていない。しかし迂闊だったな。その怒りの大きさが、冷静さを損なわせたのだ」

「うる、さい……!」

 

 ……クレナの炎がただの炎ではないように、この身を覆う氷もまたただの氷ではないようだ。

 おそらくこの氷には身体の動きだけではなく、封じた者の力そのものを奪う効果があるのだろう。物言わぬ先輩勇者の成れの果てが手にした「C.HEAT」は、絶対的な封印能力だったらしい。

 それはクレナに対して、憎たらしいほどに効果的な力である。

 魔力行使も出来なければ魔法による身体強化も出来ず、こうやって囚われている間のクレナは無力な小娘に過ぎない。それでもクレナの戦意は微塵も衰えていないが、今この身を蝕んでいる状況は最悪に近かった。

 

「このまま結界を解いて君を王に差し出せば、私の役目は終わるのだが……それはあまりに面白くない。そんな格好をさせて申し訳ないが、ここはもう少し私と話をしようではないか」

「はなし、だと……?」

「そうだ、せっかく同類に会えたのだ。君との語らいを終わらせてしまうのは惜しい」

 

 今やこちらの力は完全に封じられ、片や敵は三人の戦闘人形が健在の上、それらを操るオーディスは全くの無傷だ。

 クレナを磔にした氷の柱の傍らでは玄武と呼ばれた黒髪の少年が待機しており、オーディスの命令一つで彼の持つ大剣がクレナの首を撥ね飛ばすだろう。

 敵に命を握られた、絶体絶命の状態……この状況を打開する方法を探りながら、クレナは内心の焦燥を悟られないようにオーディスを睨んだ。

 

「どう、るい? なんの、ことだ……?」

「おやおや、生の声は随分と可愛らしい」

「こたえろ」

「ふふ……そう急ぐな」

 

 青龍の氷により翻訳魔法すら使えなくなったクレナは、不服ながら情けない喉から放った肉声で問い返し、それがオーディスの嘲笑を買う。

 世界最高の召喚師は日本語にも堪能とでも言うのか、彼はクレナの肉声が放つ言葉の意味をはっきりと理解している様子だった。

 そして彼自身も流暢な日本語を使いながら、生理的に受け付けられない目でクレナの姿を見下ろしながら続けた。

 

「流石の私も、君のように未来まで見たわけではない。しかし君の在り様はこの私と、実によく似ているのだよ」

 

 クレナを指して「同類」と言った言葉の意味を、クレナが身動き出来ないことを良いことに無防備で近づきながらオーディスが語る。

 

「狭い世界の中で誰にも辿り着けぬ異常進化した力を持ち、気に入ったものに対して執着が強い一方で、それ以外のものには一切心を開かない」

 

 オッドアイの瞳が間近からクレナの顔を見つめ、その口がこちらの相槌も待たずにまくし立てる。

 確定事項を叩きつけるように放たれたそれは、有無も言わせない一方的な言葉だった。

 

「おまけに自分よりも劣る存在を力で捻じ伏せ、屈服させることに快感を見出す性癖までそっくりと来ている。ほら、やはり似ているではないか」

「…………」

 

 似ているだと? 私と、お前が?

 いつも上から高みの見物を決め込んで、人を弄ぶことに生き甲斐を感じるような男と私が似ている?

 聞き捨てならない物言いに、クレナは無言の睨みを返す。そんな彼女に対して、オーディスは諭すように続ける。

 

「魔法の無い地球でその力を使っていた君の姿は、私もここから見ていたよ。あれは実に素晴らしいものだった。今まで親切にしてくれた人々の記憶や認識を躊躇いなく改ざんする姿も、戦意を失ったキラーマンティスを惨殺する姿も、姉の救出を健気に懇願する少年の頭を足蹴にする姿も……全て君が、地球の誰よりも強いからこそ出来る在り方だ」

「……なにが、いいたい?」

 

 確かにクレナは、地球の者達では抗う術の無い魔法の力を惜しげも無く行使してきた。それが褒められたものではないことは、クレナ自身も理解している。

 クレナはネチネチとまどろっこしい言い回しをする彼の口を今すぐにでも封じてやりたかったが、身体に力を入れようとすればするほど、この身を覆う氷はクレナの全身に虚脱感を与えていった。

 そんなクレナを前にして、オーディスはなおも語り続ける。

 

「この世界に来てからもそうだ。君は聖地ルディアの民に対して、あえて創造神ルディアを彷彿させる力を見せつけただろう? 自分のことを創造神の天使なのではないかと疑わせることで、君は手っ取り早く立場を得た。信用を得る為に必要な過程を省略し、その力で民の心を一人占めだ。彼らから送られる畏敬の眼差しは、君の自尊心をさぞ満たしてくれたことだろう」

「……だまれ」

 

 こんな男の言葉に耳を傾ける必要など、どこにもない。頭ではそれをわかっている筈なのに、クレナの心に彼の言葉は染み込むように入り込んできた。

 それは違う……と、クレナの喉から出掛かった反論が発せられることはない。

 

 ……彼の言い放った指摘は、正確な分析だったのだ。

 

 今のクレナがこうして堂々と外に出られるようになったのも、未来のクレナから受け継いだこの力あってのものだ。目的の為には人を超えたこの力が必要だと思った。だからこそ、クレナはこの力を行使することに躊躇いを持たなかった。

 ……そしてこの力を使うことで思い通りになっていく現実に、心の内で充実を感じていたこともまた事実だった。

 

「君がどんな経緯を経てその力を手に入れたのかはわからない。しかし、良い気分だったろう? 何もかも思い通りに焼き尽くせる、無敵の力を振るう全能感は」

「だまれ……!」

 

 それでも……クレナは受け入れたくなかった。

 クレナがこの力に全能感を感じていたのは、確かに事実だ。しかしそれを頭では理解しても、心の底では認めたくない自分が居たのだ。

 

 ――ましてや、この男の前では。

 

 唇が切れそうなほど憤った表情で、クレナは大きく見開いた目で彼を睨む。

 黙れ、黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!!――声に出せないほどの感情を視線にして叩きつけても、彼は涼しい表情を崩さない。

 

「私はね、君を見ていると思うのだよ」

 

 力を得たあの日からクレナの心に芽生え始め、戦いを通して自覚してしまった感情を――受け入れたくないクレナの心を裸にしていくように、彼は言い放った。

 

「君はあの兄妹を守ることに命を懸けているつもりのようだが……結局のところは、そんな自分に酔っているだけなのではないのかとね」

「……っ」

 

 やめろ……と、否定する筈の言葉がクレナの喉から吐き出されることはなかった。

 

「君が彼らを気に掛けているのは、君が見た何らかの未来に関係しているのだろう。しかしその未来はここにある現実ではなく、この時代に居る君自身が経験した過去ではない筈だ。聡明な君はそれを理解している。だからこそ、自らを指して「器」などという言葉で誤魔化していた」

 

 あの兄妹を守る為、クレナは彼らの未来の為に行動すると誓っていた筈だ。

 この時代に生きてきた「クレナ自身の心」を切り捨て、未来のクレナから受け継いだ想いを成し遂げる為だけに生きると……あの日、そう決めたのだ。

 

 ……そう。クレナの心にはこの時代のクレナ自身である「紅井久玲奈」と、未来で勇者として白石兄妹と共に戦っていた「アカイクレナ」の両方の想いが混在しているのだ。

 それ故にクレナは未来のアカイクレナから記憶を受け継いだ存在に過ぎず、未来のクレナ自身が死の淵から逆行して過去に帰って来たというわけではない。

 だからこそ、クレナはここに居る自分自身の存在を「器」として規定していたのだ。そうでもしなければ未来とこの時代、どちらの自分が「クレナ」なのかわからなくなってしまいそうだったから……それは誰にも言わず、墓場まで持っていく筈だった「クレナ」の弱さである。

 そんな「クレナ」の心の恥部を弄りながら、オーディスは嬉々として嘗め回すように言った。

 

「君は別に、心の底から彼らを守ろうとなど思っていないのだ。君が本当に欲しかったのは、その力を全力で振るう為の大義名分だけだ。そうだろう? だって君は……」

 

 アカイクレナではない、この時代の紅井久玲奈の心。 

 自分を取り巻く環境の何もかもが嫌で……全て燃えて、灰になってしまえばいいと思っていた「クレナ」。

 それは紅井久玲奈が紅井久玲奈として苦しみ続けてきた、自身の心の闇との対面だった。

 

 

「君は今まで、人を好きになったことが無いのだから」

 

 

 彼の語る紅井久玲奈という少女の人物像――それは「クレナ」自身さえ否定することが出来ない事実だった。

 

「勇者候補の中でも君はお気に入りだったからね、紅井久玲奈の過去はよく知っているよ。君が長い間、優秀な家族に劣等感を抱いていたことも。その劣等感を拭い去る為に、友人さえ作らずひたむきに自分を磨き続けていたことも。……その果てに、何一つ非がない自分を落ちぶれさせていった理不尽な運命を、病室の中で憎み続けていたことも知っている」

 

 ……身内自慢になってしまうが、クレナの家族は誰も彼も優秀な人間ばかりだった。

 母は今でこそ普通の主婦をやっているが元は国民的な大女優であり、旧姓を名乗れば知らぬ者は居ないほどの有名人である。父は数多くの賞を受賞した売れっ子の作家であり、二人とも目立つことを嫌っている為住処こそ質素だったが、既に我が家には数世代先まで遊んで暮らしていける財産が貯蓄されていた。

 そして兄の彗は絵に描いたような完璧人間であり、昔から何でもこなす天才児だった。

 クレナこと紅井久玲奈は、そんな嘘みたいに恵まれた家庭で育ってきたのだ。誰もがそんなクレナの生まれを羨んでいたし、妬まれもした。

 しかし他でもないクレナ自身が、その家庭に馴染めていなかったのである。

 

「辛かったろう、何をやっても家族の姿がチラつき、一個人として認められない日々は。悔しかったろう、どれだけ自分を磨いても遥か彼方にあった兄の背中は。諦めてそういうものなのだと認めてしまえば、いくらでも幸福を享受することは出来た。しかし、君にはそれが出来なかった。紅井久玲奈という誇り高い少女は、自分の実力だけで愚民の上に立たねば気が済まなかったのだ」

 

 紅井久玲奈は天才的に優秀な家族の中で、彼らと比べれば目立った長所の無い平凡な人間だった。

 家族のことを尊敬はしていた。大切にも思っていた。しかしそれと同じぐらい、自身が平凡であるが故に彼らの背中を追い掛ける日々を苦痛に感じていたのだ。だから優しくて立派な筈の家族に対して、クレナはずっと愛情を抱けないでいた。

 

 しかし家族から才能を受け継がなかった一方で、紅井久玲奈は人よりも自尊心が高く、支配欲が強い人間だったのだ。

 

 そのきっかけが何だったのかは覚えていない。しかしクレナは昔から表面上こそ取り繕っていたが、何かにつけては周りの者を従えたがる獰猛な支配欲を持っていたことを覚えている。

 実の家族に対するそういった欲求は特に強く、両親にこそ巧妙に隠していたものの、三つ歳上の兄には常に対抗心を剥き出しにしてはやんわりと対処されていた記憶だ。

 

「初めて幼い頃の君を見た時、私は驚いたよ。君は平和な世界に生まれながら、誰に教わったわけでもなく支配者の素養を持っていた末恐ろしい子供だった。そんな傑物をいつの日かこの手で従えられると思うと、我が事ながらゾクゾクしたものだ」

 

 しかしそんなクレナは中学入学から程なくして訪れた理不尽な事故に巻き込まれ、挫折を味わうことになった。

 重傷を負ったクレナはもはや兄や両親達を追い掛け追い抜き支配するどころか、その辺の一般人にすら劣る惨めな姿に成り果ててしまったのだ。なまじ元の自尊心が高かったが故に、それは致命的な挫折となった。

 

「不幸な事故によって君の心が折れてしまった時は失望したものだが……今はどうだ? 君は地球の誰よりも大きな力を手に入れ、その気になればいつでも支配者になれる存在になった。まさしく今の君は、あの時私が思い描いていた女王そのものだ!」

 

 たった一度の、それもトラック同士の衝突という何一つ自分に非が無い事故によって、それまでクレナが積み重ねてきたものが何もかも失われたのだ。

 まともに外を出歩くことすら出来なくなったクレナは敗北者となり、対抗心を抱いていた兄や両親から憐れみを受け続ける存在に落ちぶれていった。

 

 ――そして、そんな日常を急変させたのが、未来のクレナから受け継いだ記憶だった。

 

 クレナは降って湧いたその奇跡によって復活を成し遂げ、浄化の炎という全てを焼き払う力を手に入れた。

 どんなに優秀な人間であろうとたどり着けない領域に立ち、周りを見下ろす。それはまさしく、事故が起こるまでのかつてのクレナが目指していた理想の自分だった。

 

「君もまた、心の中では今の自分を気に入っている。圧倒的な力を得た自分に酔いしれているのだ」

 

 圧倒的な力を自由に振る舞い、己の充実感を満たしていく……なるほど、確かにその点に関して言えば、クレナとゼン・オーディスはそっくりである。

 そこまで看破されてしまえば、受け入れざるを得なかった。

 

「……わたしのことを、よくしっている」

 

 伊達に長年異世界召喚に携わってはいないようだと、クレナはオーディスの彗眼を讃える。

 彼に自分の過去まで見られていたと思うと吐き気がするが、彼から見た紅井久玲奈の人物像には何一つ異論は無かった。

 憤りを消した表情で力無く呟いたクレナの姿に満足したのか、オーディスが微笑を浮かべながら言う。

 

「理不尽な事故で受けた屈辱は辛かっただろう? だが、今の君ならチキュウの王にだってなれる。その力で人々を服従させ、どんな命令もし放題だ。理不尽な屈辱を与えてくれた世界に、存分に復讐することが出来る」

「……おまえは、わたしに、なにをさせたい?」

 

 クレナにとって人生の汚点であり、紅井久玲奈の心の闇である過去の話を掘り返してまで彼が勿体つけている本題を問い質す。

 ここまでの語りは全てクレナ自身の心を丸裸にした後で、何かを求めたがっているからなのだろうとクレナはこの男の性格から推測していた。

 そしてその推測通り、質問を受けた彼は自分の意図が伝わったことを嬉しそうに……表情から笑みを消して言い放った。

 

「私と来い、紅井久玲奈」

 

 クレナの目を真剣に見つめるオッドアイの瞳からは、この男のものとは思えない誠意が感じられた。

 今までのように人を見下しきった顔ではない。対等な目線から、真っ直ぐにこちらを見つめて言ったのだ。

 

「私は君を、これまでのチキュウ人達のように扱う気は無い。同志として、共に二つの世界を従えようではないか」

「……なにを、いう」

「君に魅力を感じた。率直に言うと、君に惚れ込んでいるのだよ。何なら友好の証として、フィクス王の首とこの国をくれてやってもいい。私は本気だよ?」

 

 その目を見る限りは、演技には思えない言葉だった。彼はこのフィクス帝国の召喚師として仕えている立場だが、別段王に対して忠誠を誓っているわけでもフォストルディアの人類の未来を憂いているわけでもない。そのことは、クレナも未来の自分から得た知識で知っている。

 

 この男は、一貫して身勝手なのだ。

 

 ただ自分が充実出来ればそれでいいだけの狂人。そんな彼の琴線に、紅井クレナという歪な存在が触れたのだろう。

 彼がその気になれば今すぐにでも王を殺し、この国を掌握した上でクレナに支配権を渡すことだって出来る。元来それが出来るだけの強者であり、そんな行動を起こすことがありありと想像出来る人格破綻者なのだ。

 言葉通り彼が本当にクレナを気に入ったのなら、今口にしたことを実行する可能性も高いだろう。

 

「君も気づいているのだろう? その力を得て私と同じ怪物になってしまった君はもう、支配者となる以外にチキュウで生きていく道は無いのだ」

「オーディス……」

 

 かつて自分が欲しかったものの為に、彼に身を委ねてみるのも、選択肢の一つなのかもしれない。

 いずれにせよ氷に身を囚われ、抵抗する力を失っている今のクレナが返せる答えは一つしかなかった。

 

 

「ばかか、おまえ」

 

 

 たとえこの世界がひっくり返っても、お前と組む未来などあり得ないと。

 クレナは心から見下した侮蔑の目で彼を睨みながら、そう吐き捨てた。

 

「……なに?」

 

 全身を蝕む氷の冷気によって身も心も冷え切った今、クールダウンは終わりだ。

 クレナは怪訝そうな顔をするオーディスの前で、彼が動き出すより早く口を開き、声を放つ。

 その声はクレナの胸元の内ポケットに収納している、一枚の魔道具(カード)に向けた言葉だった。

 

「でてこい」

「……ッ!?」

 

 瞬間、クレナの胸元から眩い閃光が広がっていく。

 それと同時――光の中から飛び出してきた鋭利なツノによってクレナの上半身を覆っていた氷を突き破りながら、白い天馬がこの広間に顕現した。

 大きな翼を広げた天馬は咆哮を上げて旋回すると、その前足でクレナの四肢を磔にしていた氷の柱を乱暴に砕き割り、落下していくクレナの身体を背中で受け止めながら広間の宙を飛び回っていく。

 それまでの動作に掛かった時間は三秒弱。オーディスなら十分に対処できる時間であったが、白い天馬の姿を茫然と見上げる彼の表情は、驚愕の色を浮かべていた。

 

「次元幻馬だと!? 馬鹿な……邪神の眷属が何故……?」

 

 クレナのことを見ていたと言っていたが、クレナがロアから半ば強引に預かっていたこのカードの存在は失念していたのだろうか。……いや、それにしてもオーディスらしからぬ動揺である。

 

「フィアルシアが目覚めたと言うのか……!」

 

 憎ましげに天馬の姿を睨むオーディスを警戒しながら体勢を整えると、クレナは翼の動作の妨げにならない位置に腰を下ろしながら天馬の背中に跨る。

 しばらく氷に囚われていたからか、無惨にもクレナの着ていた那楼中学の制服は上下共に内側まで水浸しになっていた。身体強化の魔法さえ使えば水分を含んだ衣服程度大した重りにはならないが、相手はあのゼン・オーディスだ。念には念を入れることにしたクレナは全身から放った浄化の炎によって、可能な限りその水分を蒸発させておいた。

 

「ふう……」

 

 身体中に纏わりついていた不愉快な感覚が無くなったところで気を取り直し、クレナは天馬の上から飛び降りる。

 飛行魔法によって真紅の翼を展開したクレナは、自らの力で宙を舞いながらオーディスの姿を見下ろした。

 氷の束縛から解放されたことにより、クレナの気分はさながら籠から飛び立った一羽の鳥だ。

 再び魔力行使が出来るようになったことで、クレナは身体強化の魔法と同時に翻訳魔法を発動して彼に言い放った。

 これまで彼が語った「クレナ」に対する認識には、幾つも指摘してやりたい点があったのだ。

 

『お前は致命的に、私のことを勘違いしている』

「勘違い、だと?」

『兄さんや両親に対するわだかまりなんてとっくに消えているし、今でもプライドが高い自覚はあるがお前が言うほどナルシストのつもりは無い』

 

 彼は紅井久玲奈の人物像を的確に分析していたが、それを「クレナ」と結びつけるのは正しくない。

 孤独でプライドが高く、表面上はまともなふりをして獰猛な支配欲を心の内に隠し持っていた紅井久玲奈なら、確かにオーディスとの共通点が深い。

 

 しかし「紅井クレナ」はもはや未来のアカイクレナ本人ではないように、この時代の紅井久玲奈でもないのだ。

 

 どちらでもあって、どちらでもない。我ながら人間なのかどうかすら怪しく思っているが、二つの心を持っているからこそクレナは過去と未来、どちらの自分の姿もある程度客観的に見ることが出来た。

 だからこそ、言える。

 

『確かにこの時代の紅井久玲奈は、未来の私ほどあの二人を愛しているわけじゃない……だが、彼らを守りたいと思う「クレナ」の気持ちは、お前如きに何を言われようと揺らぎはしない』

 

 ここに居る「クレナ」が起こした行動の全ては、たった一つの感情に帰結しているのだと。

 

『確かに私も、今さら自分が地球に馴染めるとは思っていないし、圧倒的な力で怪物を捻じ伏せた時こそ充実を感じていたのも事実だ』

 

 事故前までの紅井久玲奈では、見つけられなかった感情だ。

 

『だが私は、それでも地球人だ。未来でも過去でもない紅井クレナは、地球人としてお前を否定する』

 

 それは、皮肉にも異世界召喚を経たことによってアカイクレナがやっと見つけることが出来、過去を見つめ直した今の「クレナ」が便乗して理解することが出来た初めての感情だった。 

 

 今の「クレナ」の根幹を為しているそれこそが、「愛」という感情である。

 

 彼は紅井久玲奈に対して、人を好きになったことが無いと指摘した。

 しかし過去の久玲奈がそうでも、未来のアカイクレナの記憶を受け継いだ「クレナ」は、その感情をはっきりと理解している。

 だからこそクレナは、クレナ自身の心でオーディスを憎んでいる。彼女が生まれて初めて好きになった白石兄妹達未来の人々を苦しめた、彼の全てを滅ぼしたかったのだ。

 

『私は……異世界召喚を許さない』

 

 何もかもが空っぽだったアカイクレナに、人を好きになることを教えてくれた人達のことが……今ここに居る「クレナ」も同じように好きになっていたのだ。

 オーディスには知る由もない事実だった。

 

「……君なら、私の同志になれると思ったのだがな」

 

 はっきりと口にしたクレナの拒絶に対して、オーディスが心底落胆した様子で返す。

 そして次の瞬間、これまでには感じなかった彼の「殺気」と、暴力的な魔力の高ぶりを感じた。

 

「……残念だよ、クレナ君。フィアルシアとのつながりと言い、君は危険な存在だ。捕獲はしない。王命に逆らうことになるが、ここで消えてもらう」

「しぬのは、おまえだ」

 

 待機していた三人の戦闘人形がオーディスの元に集い、再び向き直る。

 長話は終わりだ。しかしこれまでの彼との語らいは、「クレナ」にとっても無駄なものではなかった。

 死んでいったアカイクレナの後悔でも無力だった紅井久玲奈の支配欲も関係なく、純粋なクレナ自身の心で彼を殺せるのだから。

 




【根も葉もない外見イメージ解説】

 クレナの炎の剣→カイロ・レンのライトセーバーみたいな形。
 オーディスの見た目→古き良きテンプレオリ主の壮年期みたいな外見。



 四年掛けたパワプロ小説をようやく完結させた去年。
 今年はこの作品を含む他の作品も完結させていきたいものです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。