「ああ、もう!わからん!」
「何叫んでるの、お兄ちゃん?」
「もうすぐ試験なんだよ。中間試験!」
試験が近づいていた。高校2年に上がって初めての中間試験。リビングで勉強しているとお風呂から上がってポカポカしているモカが話しかけてきた。
「あー、そういえばモカちゃんももうすぐ試験だったような〜?」
「呑気だなモカは」
「モカちゃんは優秀だから、勉強なんてしなくても全然大丈夫なんだよ〜」
そう。こう見えてもモカは成績優秀だ。こんなのんびりしていて、遅刻も良くするくせに成績は優秀なのだ。
「理不尽だ。俺もモカくらい勉強できたらこんなに苦労することはないのに」
「ふっふっふ〜」
冷凍庫からアイスを取り出し、俺の左隣にピタリとくっついてそれを食べ始めた。お風呂上がりだからとてもいい匂いがする。
「………おいモカ。また髪の毛乾かしてないだろ」
「めんどくさいんだもん〜」
「はぁ……そのまま座ってろよ」
勉強を一旦中断して、俺は洗面所からドライヤーを持ってきた。
「ほら、髪の毛乾かしてやるからじっとしてろ」
「わ〜い」
モカの後ろに立って、アイスを食べるモカの頭をドライヤーで髪を傷つけないように優しく乾かしてあげる。
「気持ちいい〜。お兄ちゃんもっとー」
「はいはい。これぐらいちゃんと自分でしろよ」
「お兄ちゃんがずっと一緒にいてくれるから、あたしはこうやってのんびりしてるだけでいいんだよ〜」
「俺はお前の下僕でも召使いでもない」
「知ってるよー。お兄ちゃんはあたしだけのお兄ちゃんだから〜」
「まったく。都合がいい時だけそういうこと言うんだから」
モカの髪は巴のように長くないから髪を乾かすのはそんなに時間がかからない。それでも決して手は抜かない。モカの外見に関わることだから。
「ほら、終わったぞ」
「ありがとう〜」
きっちり髪を乾かして俺はドライヤーを元の場所に戻して再び勉強に戻った。モカはアイスを食べ、俺は勉強する。俺たち以外誰もいないリビングで俺が書くペンの音と、時計のカチコチという音だけが響いている。
「ねぇねぇお兄ちゃん〜」
「んー?」
「ひまー。かまって〜」
「……今お前の目の前で勉強してる人間に頼むか普通」
アイスを食べ終えたモカはしばらく携帯をいじっていたが、暇になったのか、俺の方に向いて抱きついてきた。
「お兄ちゃん、お願い〜」
「……そんなこと言われても俺は勉強をやめないからな」
俺は勉強道具を片付けて、モカの体を軽く持ち上げて俺の股の間に座らせた。俺は悪くない。こんなに可愛くおねだりするモカが悪い。
「これで成績下がったりでもしたらモカのせいだな」
「あたしは悪くないよー?集中できないお兄ちゃんが悪いんだよ」
「俺としては、成績が落ちるより、モカの残念な顔を見る方がよっぽど嫌だからな」
「おー、今のはキュンッってなったよ〜」
「それはどうも」
こうしてただモカと一緒に話すだけ。それだけなのに退屈なんて言葉はどこかに吹っ飛んでしまう。素晴らしい。モカちゃん素晴らしいな。
「……っと、もう11時か。そろそろ寝るか?」
「そーだね〜」
よいしょー、と言いながらモカは立ち上がりリビングを出ようとする。
「………あ、そうだ」
「ん?」
「もしお兄ちゃんが、テストで前のテストよりも成績が上がったら、モカちゃんがごほうびをあげるよ〜」
「ご褒美?」
「そうー。素敵なごほうびだよ〜」
それじゃあおやすみ〜と言ってモカはリビングを出て行った。前のテストよりいい点数を取ることでモカからのご褒美。何をしてくれるかわからないけど、モカのご褒美。
「…………死ぬ気で頑張ろう」
次の日から俺は変わった。モカからのご褒美という言葉を信じて俺は寝る間も惜しみ、授業は全て寝ずに集中して聞いて。モカと一緒にいる時間をいつもより15分だけ削るという死にそうな思いになりながらテストまでの2週間頑張った。そして…………
「見ろモカ!テストの点数上がったぞ!」
テスト返却日。俺はドキドキしながらもテスト用紙を受け取った。点数は前回の学年末テストより大幅20点を上げ、5科目すべて80点越えを叩き出した。ここまでいい点数を取ったのは初めてかもしれない。
「おぉー、やるねー、お兄ちゃん」
「ふっふっふ。これもモカからのご褒美という言葉がここまでの成果をあげたんだ」
たった一言。その一言が俺をここまで強くしたんだ。そしてテストという壁を乗り越えたんだ。我ながら自分を褒めてやりたい。
「て事でモカ。お兄ちゃんここまで頑張ったんだし約束のご褒美を」
「いいよー。じゃあ先にお風呂はいってきてね〜」
「お風呂?なんで?」
「いいからいいから〜」
なんのことかわからないが、モカのいう通りにして俺は変えの着替えを持って風呂場に向かった。
「一体何をくれるんだろう……」
湯船に浸かりながら何をくれるのか考えてみる。プレゼント?それともモカ自身が何かをしてくれるのか?マッサージとか、いつもより過激なスキンシップとか?
「…………まさか!」
『お兄ちゃんお疲れ様。約束のごほうびだよー。お兄ちゃん、あたしを食べて〜』
下着姿でベッドに仰向けになりながら寝転び、胸にケーキを乗せたモカがそんな事を言うなんて事…………
「だ、ダメだぞモカ。俺たち兄妹なんだ。そんなことができるわけないんだぞ!」
あぁでも。想像するだけで理性が崩壊しそうだ。もし現実でそんな姿を目の当たりにしたら…………
「俺、死ぬな。社会的にも精神的にも肉体的にも」
「なんの話〜?」
「いや、モカが俺に食べて?なんて言うことかと思うと理性がモカ!!??」
「なーに〜?」
え、なに?なんでバスタオルを巻いたモカが俺の目の前にいるの?夢か。そうだこれは夢だ。じゃないと俺があんなに高い点数取れるわけない。こんな状況になるわけがない。
「モカ、ちょっと俺の両頬を引っ張ってくれ。夢なら覚めるはずだ」
「何言ってるのー?」
両頬を引っ張ってくれるモカ。痛い。うん、夢じゃない。
「………現実?」
「テストを頑張ったお兄ちゃんへのごほうびはー。モカちゃんが一緒にお風呂に入る事なんだよ〜」
「………………なぬ?」
一緒にお風呂?モカと?いつぶりだ?確かモカが中学1年終わりまでは入っていたから約2年ぶりになるのか?いや、3年なのか?ダメだ頭が回らない。
「お兄ちゃん、背中流してあげよーか〜?」
「ばっ!そこまでしなくてもいい!てか、これは流石に予想の斜め上だったよ!」
「遠慮しなくていいのに〜」
モカはシャワーで1度体を軽く流し、そして、俺に背を預けるようにして浴槽に浸かり出した。
「……やばいなこれ」
「何がー?」
「いやなんでもない」
成長したモカをまじまじと見るのはあれだが、こうしているとどうしても見えてしまう。バスタオルを巻いているとはいえ、育ったのがわかる胸。モカが風邪をひいた時とは違い、今は俺にもたれかかっているため、どうしても視点がそっちに行ってしまう。もし万が一向かい合って浴槽に浸かっていたら俺絶対死んでたな。
「ねぇねぇ、お兄ちゃん〜?」
「な、なんだ?」
「もっとギュってしてもいいんだよ〜?」
「んなっ!!?」
「これはごほうびなんだよ。お兄ちゃんがしたい事をしてくれていいんだよー」
ギュってする=抱きしめる。ただでさえ理性崩壊寸前、爆発しそうな俺にそんな甘い言葉をかけてくるなんて………モカは俺を殺す気じゃないんだろうか。
「い、いや、いい。これ以上ギュってしたらのぼせちゃいそうだし」
「んー?」
いや、できるならしたいよ?モカが妹じゃなく彼女だったら絶対してた。なんだったらそのまま襲う可能性まで考えられた。
「に、にしてもあれだな。俺もモカも育ったから浴槽がちょっと狭く感じるな?」
「前は2人で入っても余裕だったのにね〜」
昔もこうして入っていたが、あの時はこんな風に狭く感じることはなかったのに。やっぱり俺たち2人とも成長したってことなんだな。ていうかそろそろ限界かも。
「よ、よし!そろそろ上がるか!」
「お兄ちゃん、体洗ってないよね?」
「い、いや、それは」
「モカちゃんが洗ってしんぜよう〜」
「い、いやそれは!!」
「ダメなのー?」
「うっ…………」
そんな悲しそうな顔をしないでほしい。だって断れないから。そんなお腹空かしてる猫が見るような目で見られるのは本当断れないから!
「お願いします……」
「はーい」
まずモカが湯船から上がり、そして、俺も上がって椅子に座る。モカはその後ろでおそらく膝立ちになっているはずだ。モカが後ろでボディソープを出す音が聞こえる。
(抑えろ!耐えろ俺!ここさえ乗りければ俺の勝ちだ!)
いつから勝ち負けの勝負になったか?そんなのは知らない。
「いくよ〜」
「お、おう!」
そうだ。モカだって流石に素手で俺の背中を洗うわけがない。つまり、タオルを使うはずだ。感触はタオル。問題ない。
「……………………あれ?」
感触が違う。タオルじゃない。なんというかぬるぬるしていて気持ちいい。
「も、モカ?」
「んー?」
「もしかしてお前、素手で洗ってる?」
「そうだよー。昔もこうして洗ってたから〜」
「そ、そうか。あ、はは……」
つまり今俺の背中に触れているのはタオルではなく、モカの手であって。このぬるぬるした感触はボディソープであってえっと……
「モカ」
「ん〜?」
「ごめん。もう無理だ。限界」
それだけ言うととうとう俺はそのまま前のめりで倒れた。いや、無理だから。ギリギリ保ってた理性も、そんなことされたら持つわけないから。
「お兄ちゃん〜?お兄ちゃ〜ん?」
ごめんモカ。ご褒美の途中になのに倒れてしまって。でも、1つだけ言わせてくれ。
「さいっこうの……ご褒美だったぞ」
それだけ言うと俺の意識はどこか遠くに飛んで行ってしまった。
モカちゃん、そのご褒美俺にください!!と思った方は是非感想をお願いします。
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