ていうか投稿できなかったらこの小説消さないといけなかったんじゃないですかねwww
モカのための小説なのに、投稿できなければモカのための小説とは言えないでしょう。
でも、この日をずっと待っていたのも事実です。
本当に、本当におめでとう。
て事で本編をどうぞ
誕生日。それは一年に一回ある自分の生まれた日であり、多くの人はそれを祝う日でもある。祝われる側からすれば一年の中で一番特別な日と言えるだろう。それは俺の妹、青葉モカにとっても同じであり、何が言いたいかと言うと。
「身だしなみOK、服装OK、荷物もOKっと」
兄である俺、青葉ラテが誕生日のモカを一番盛大に、そして一番喜ばせてやりたいということだ。
「よし。準備完了!」
時刻は午前11時。自分の姿をチェックして、忘れ物もない事を確認した俺はおそらく外で待ってくれているモカの元へと急いだ。
「モカ、準備完了だ!行くとしよう……あれ?」
靴を履いて外に出たがモカの姿がどこにもない。おかしい。あいつさっき『あたし外で待ってるね〜』って言ってたのに。
「お兄ちゃん、こっちこっちー」
「ん?」
後ろからモカの声が聞こえ振り向いてみると、そこには俺がアルバイトで初めて稼いで買ったパーカーを着たモカが立っていた。なぜかパンを食いながら。
「モカ?その格好は?」
「んー?今日はモカちゃんにとってスペシャルな日ですからねー。モカちゃんもびしっと決めちゃおうと思っちゃった訳ですよ〜」
「……つまり、自分の一番のお気に入りの服を着て一緒に出かけると」
「そーいうこと〜」
………俺がモカのためにプレゼントしたパーカーを一番のお気に入りって言ってくれるなんて。今日はモカの誕生日のはずなのに、いきなり俺が喜ばされてしまった。
「そ、そっか。そう言ってくれたならプレゼントした甲斐があったよ」
「うん。これで今日のあたしはただのモカちゃんからスーパーモカちゃんに変身するのだ〜」
「……やっぱりモカもテンション高いな」
「もちろーん。お兄ちゃんと二人で出かけるのは久しぶりだから〜」
「そうだな。ちなみに俺は昨日楽しみすぎて全然眠れなかったぞ!」
気づいたら日が昇りそうになるくらい明るくなっていた。おかげで今日はあまり寝れていない。
「おぉー。それは大変だ〜。じゃあ今日はモカちゃんがお兄ちゃんが歩いてる途中で眠らないようにしっかり見張ってしんぜよう」
「いや、そんな事には絶対にならないから」
と、こんなに話していても時間はただすぎて行くだけだ。
「そろそろ行くか」
「おぉー」
返事をしたモカは靴を履いて俺の隣に寄り添い、そのまま自然に俺の指に絡ませるようにして手を握った。所謂恋人つなぎというやつだ。
「……えと、モカさん?」
「なーにー?」
「いつもと手の繋ぎ方が違うような気がするんだけど?」
「今日はモカちゃんのスペシャルな日ですから〜」
「いや、それはそうなんだけど。その、知り合いに見られたら勘違いされるっていうか」
「だめー?」
……よく考えてみよう。俺自身モカとこうやって恋人のようにして歩くのが嫌かどうか。デメリットは俺たちを知っている人に見られるのが恥ずかしい。ただそれだけである。
じゃあメリットは?いつもと違うスキンシップが楽しめる。よりモカを近くに感じることができる。モカの手、指の感触が一層味わえる。
「……今日はこうやって歩くか。俺もそうしたい」
「ヤッター。今日は一日楽しく過ごせそうだよ〜」
明らかにメリットの方が多い。むしろモカからこうやってスキンシップをしてくれているのに断る方が失礼というものだ。
「じゃあ行くか」
「はーい。いやー、楽しみですなあ〜」
改めてモカと手を握り合って俺たちは出かける事にした。
「それで、今日はどこに連れてってくれるのー?」
「それはお楽しみだ。でも、ちょっと歩く距離が長いけど、いいか?」
「だいじょーぶ。お兄ちゃんが一緒だから〜」
「そうだな。俺もモカが付いてくれてるんだし頑張らないと……それにしても今日は暑いな。玄関で喋ってる時はあんまり感じなかったけど」
何度でも言うが俺は暑いのが苦手だ。今も帽子をかぶっているが太陽の光は俺を襲っている。夏はクーラーが効いた部屋でのんびり過ごすのが一番王道だと思っている。
「無理しない方がいいよー?辛いならモカちゃんが介抱してしんぜよう〜」
「大丈夫大丈夫。まだ外に出たばかりだしな」
「いやいやー。油断していると暑さで倒れちゃうかもー」
モカが一緒だから大丈夫だって。でも、心配してくれてありがとな」
「えへへー」
心配してくれるモカの頭を空いている方の手で撫でてやると頬を緩ませた。
「あれ、ラテ。それにモカじゃん。何してんの?」
「ん?おぉ、リサ。偶然だな」
「リサさん、こんちは〜」
しばらくそうしていると前方からやってきたリサが声をかけてきた。モカの挨拶に手を小さくフリフリして返す。というか出かけてすぐに知人に会うって。これは普通に手を繋いでいた方が良かったのか?
「リサは何してんだ?」
「アタシはちょっとショッピングに行こうかなーって。そういう二人は?」
「あぁ。俺たちは」
「あたしたちはデート中なんですよ〜」
「でっ、デート!!??」
俺が答えようとしたが、モカが俺の腕にぎゅーっと抱きつきながら先に言った。そんなモカの顔を見ると何やら悪いことを考えてる顔をしている。
「デートって、ラテとモカは兄妹でしょ?」
「そーですよ〜。でも、あたしだってたまにはらっくんとデートしたい時もありますよ〜」
驚くリサはマジマジと俺たちを見つめていた。…………ん?ちょっと待て。今モカは俺の事をなんて呼んだ?
「で、デートって……でも、兄妹なのに手の繋ぎ方が恋人みたいだし……呼び方もお兄ちゃんじゃなかったし、モカはなんだか気合入ってる格好してるし…」
モカはただ一番お気に入りのパーカーを着ているだけなんだけどね。というか、呼び方も勘違いじゃなかった。
「おいモカ。なんだその呼び方は?」
「今日はお兄ちゃんじゃなくてらっくんだよー。モカちゃんスペシャルデイ限定なんだよね〜」
いや知らない。そんな話今初めて聞いたぞ。新鮮だから別にいいけど。
「ま、まさか……本当に兄妹で?」
「ふっふっふー。どうでしょう〜?」
「もぉ。モカはすぐはぐらかす!ラテ、どうなの?」
「えっ。えーっと……」
チラッと横目でモカの顔を見て見ると、俺の事をじーっと見つめていた。これはつまりあれだろうか。この流れに乗ってくれという事だろうか?
「……まぁ、そうだな。俺もたまには大好きなモカと一緒にこうやってデートしたいって思うこともあるんだよ。ほら、俺も男だし、な?」
「そうそう。モカちゃんも乙女ですから〜」
モカの悪ノリに乗っかってやるとリサは顔を真っ赤にさせてワナワナと震えだした。もしかしてやりすぎたのか?
「じゃ、じゃあ俺たち急いでるから。また今度な」
「リサさーん、さようなら〜」
「あ、ちょっと二人とも!」
リサの俺たちを止める声が聞こえたが、俺はモカの手を引いて走ってその場から去った。
「………蘭に連絡した方がいいのかな?」
「ふぅ。もうだいじょーぶだな」
「ですな〜」
「ですな〜、じゃなくって。モカやりすぎ。あれじゃあリサは絶対勘違いしたぞ」
「だいじょーぶ。リサさんには今度会った時にちゃーんと説明するから〜」
「……ならいいけど」
本当に説明してくれるだろうか?モカなら『あー、ごめん。忘れてたよ〜』的なことがあるかもしれない。
「……まぁいいか」
「そんな事よりらっくん」
「その呼び方は継続なのな。で、なんだ?」
「目的地はまだ〜?」
「あぁ。走ってきたから、もうすぐ着くよ。だから、楽しみにしてろよ。きっとモカが喜ぶところだから」
「えー、気になるよー」
「はいはい。もうちょっと待ってな」
そのままモカとおしゃべりしながら歩くこと数十分俺がこの日のために調べて予約までした店に着いた。
「ほらモカ。着いたぞ」
「……ここって〜?」
「中に入ればわかるさ」
二人並んでお店の中に入る。入った瞬間これでもかというパンの匂いが俺の鼻を刺激した。眼に映るのはトレイに置かれた大量のパン。
「いらっしゃいませー。何名様でしょうか?」
「あ、えっと、予約していた青葉です」
「青葉様ですね。少々お待ちください」
「お兄ちゃん……もしかしてここは」
「呼び方戻ってるぞー。まぁ、おそらく今モカが考えてる通り。ここはパンバイキングのお店だぞ」
今年のモカの誕生日に俺自身が何をしてあげたいかと考えたとき、真っ先に思いついたのがこれだった。モカの大好きなパンをお腹いっぱいに食べさせてあげるにはこれが一番だと思ったから。
「大変お待たせしました。お席にご案内するのでどうぞこちらへ」
「はい。ほら、行くぞ?」
ぼーっとパンを眺めているモカの手を引いて俺は店員の後ろをついて行った。
「こちらへどうぞ」
店員に勧められた席に座って、バイキングの説明を少し話してから店員はその場を去った。
「俺が荷物見ててやるから好きなパン取ってきな?時間内なら何個取って何個食べようとも問題ないからさ」
「………らっくん……ううん、お兄ちゃん」
さっきから呼び方が全然統一しないモカ。というか、このお店に入ってからというもののモカの様子がなんだかおかしい。
「どうした?」
「……やばいよー」
「やばいって……何が?」
もしかして長時間歩いてどこか調子が悪いのか?
「こんな……こんな大量のパン」
辺りを見渡す限りパンだらけ。サイズは少し小さいものの、俺もモカも大好きなパンが大量に置いてある。
「大量のパン……食べずにいられない!」
そう言ってモカは席を立ち上がり、お盆を手にとって次々とパンを取って行く。
「……体調悪いんじゃねえのかよ」
様子がおかしいからちょっと心配したじゃねえか。まぁ、本人はとてつもなく喜んでるみたいだからいいけど。
「ただいま〜」
「おかえり。大量みたいだな」
「もっちろーん」
お盆の上にはまるで綺麗なピラミッドになるようにパン積み上げられていた。
「お兄ちゃん、先食べててもいいー?」
「もちろん。俺も今から取ってくるから。あ、飲み物は何がいい?」
「ん〜?」
「聞いてねぇ……もう食い始めてるし」
モカ自身パンの香りを嗅いでからというもの我慢ができなかったんだろう。ピラミッド型に積まれたパンの頂上のメロンパンを手にとって食べ始めていた。
「まぁいいか。ミルクティーでいいだろ」
パンとともに飲むものといえばミルクティー。異論は認めない。
「にしてもモカなら本当に置いてあるパン全てを平らげそうだな」
パンを十個取って、モカの分の飲み物も入れて席に戻ると、モカはもうピラミッドの三段目に突入していた。ちょっと早すぎやしないか?
「モカ、そんなに勢いよく食って大丈夫か?後々お腹持つか?」
「んー、だいじょーぶ。パンは別腹だから〜」
「その別腹にいくつのパンを入れるつもりなんだ?」
「えーっと……いくつでしょー?」
自分でもわかんないくらい詰め込むつもりならそれは別腹ではないと思うんだけど。
「まぁ、程々にな。ここ終わっても色んなところ回るつもりだしな」
「らじゃ〜」
モカとの誕生日は一年に一回。当たり前だけどその一年は存分に喜んでほしい。まぁ、本人はもう充分みたいな顔してパン食ってるけど。
「俺も食べるか」
パンの中でも特に好きなクロワッサンを一つ手に取り口に放り込む。……うん、うまい。
「ぷはー。おかわりいってきまーす」
「……マジで早いな」
奥でモカのことを見ていた店員がもう食ったの!?みたいな顔をしている。心配しないでください。モカのパンに対する胃袋は宇宙に匹敵すると思いますから。
「たいりょーたいりょ〜」
先ほどと同じようにパンでピラミッドを作って帰って来たモカ。店員がまた!?って顔をしてる。安心してください。あと何回この光景を目にするのかわかったもんじゃないですよ。
「えへへー、あーむ」
「そんだけ喜んで食ってくれると俺も嬉しいよ」
「そーかな〜?」
「そーだよ。モカのその幸せそうな表情が見れるだけでここに来た甲斐があったなって思うしさ」
「モカちゃんはこんなにたくさんのパンに囲まれて幸せだよ〜。今日はお兄ちゃんとパンの夢を見る事が出来そうだよ〜」
「ならよかった」
そんな幸せそうな表情をしつつパンを食べ続けるモカを見ながら俺もパンを食べ続けた。
余談だが、この日おそらくモカはパンを食べることにおいて今まで生きてきて最高記録を出しただろう。正確には数えてないがその数一人で七十個は食っているはずだった。サイズが小さかったとはいえここまで食うとは俺も予想外だった。
その後モカとショッピング行ったり、ゲーセン行ってゲームしたりプリクラ撮ったりしてるうちに時間は過ぎていき、時刻は午後5時を指していた。
「いやー、楽しかったな。まさかモカがゲーム結構上手かったとはな」
「ふっふっふー。今日のモカちゃんは何でもこなせるスーパーモカちゃんなのだよ〜」
「はいはい。凄かったぞスーパーモカちゃん」
「もーお兄ちゃん、流さないでよ〜」
「あはは。っとメールだ。なになに?」
ポケットに入れていた携帯からメールの着信音が響き、携帯を開いてみる。送り主は蘭だった。
『妹と付き合ってる変態ラテ。すぐにモカをつぐみの家に連れてきて』
「……誰が変態ラテだ。ったく」
りょーかい。すぐ行く。とだけ打って返信した。そして、そのままもう一人用がある人物にメールを送って携帯を閉じた。
「どしたのお兄ちゃん?」
「いやなんでもない。ちょっとメールが来ただけだ」
「メール?誰から〜?」
「蘭から。ちょっとお茶したいから今すぐつぐちゃんの家に来てだってさ」
「おぉー。蘭からお兄ちゃんに呼び出しがかかるなんてー。もしかしてこれは〜?」
「んなわけあるかよ。モカも来てほしいって言ってたから。すぐ向かうぞ」
「はーい」
モカと手を繋いで今度はつぐちゃんの家へと歩き始めた。だが、流石に色々回って疲れてるのか、モカの歩くペースが少し遅かった。俺は立ち止まってモカに聞いて見る。
「モカ、大丈夫か?ちょっと疲れてるだろ?」
「うん。モカちゃんの足はもう限界だよ〜。お兄ちゃんたすけて〜」
「だよな。ごめんな無理させちゃって。ほら、つぐちゃんの家までおんぶしてやるから」
「おぉー。お兄ちゃんやさし〜」
本当に疲れていたのか。俺が背中に乗るように屈むとモカはくたーっと倒れこむように俺の背中に乗った。
「よっと。どうだ?少しは楽か?」
「うん。ありがとうお兄ちゃん」
「気にしなくていい。今日はモカちゃんスペシャルデイだからな」
にしても……あいつあれだけの量のパンを食べていたというのにもかかわらず軽すぎないか?女の子はみんなこんなにも軽いのだろうか?
「お兄ちゃん、今変なこと考えたでしょ〜」
「滅相もございません」
「だいじょーぶ。ひーちゃんはあたしよりは重いと思うよ〜」
「考えてる内容まで読まれてる……」
まぁ確かにひまりちゃんにはあの誰でも包み込んでしまいそうな豊満な二つのお山がついてるから当然か。
「ひーちゃんにお兄ちゃんは渡さないよ〜?」
「いや、誰もひまりちゃんの物になるなんて思ってないんだけど。ひまりちゃんの豊満な二つのお山について考えてただけで……あ」
「……お兄ちゃん〜?」
「……言い訳はしません。一思いにやって下さい」
つい口が滑って考えてることを話してしまった。こんな事を考えていたなんてモカに知られてしまっては仕方ない。ここはモカのビンタでもなんでも一発喰らって………あれ?
「……えと、モカさんや?」
「なに〜?」
「あなたは私の背中になにをしてるのでしょうか?」
何故か俺の背中に二つの柔らかい感触が感じられる。いや、聞くまでもなくしてわかるんだけど、一応確認してるだけだから。
「モカちゃんもひーちゃんまでとは言わず成長してるでしょー?」
やっぱりか。モカが俺にぎゅーっと密着している。そのおかげでモカの成長途中の胸が俺の背中に当たっている。
「ま、まぁ、そのなんだ。うん。成長してると思うぞ」
「ふっふっふー、これがモカちゃんクオリティなのだ〜」
「いやごめん。それは全く意味わからない」
「えー、そんな〜。お兄ちゃんならわかってくれると思ったのに〜」
まぁそれはともかく。こうしてモカをおんぶしていると昔の事を思い出す。モカが膝すりむいた時とかもこうやっておんぶして家まで連れてったっけか。
「なぁモカ。ちょっと寄るとこあるから寄ってもいいか?と言ってもつぐちゃんの家の前なんだけど」
「うん。いいよ〜」
もうすぐつぐちゃんの家に着きそうだ。でもその前に少し寄るところがある。
「蘭にもうちょっと遅くなるって言わないとな」
「蘭のことだから、遅い。なにしてたの、って怒ってるかもよ〜?」
「そうだな。じゃあもしそうなったらモカがおんぶしてってせがんだからって言っとくよ」
「えー酷いよお兄ちゃん〜。モカちゃんは歩き疲れただけなのに〜」
「冗談冗談。そんなこと言う訳ないだろ…っと着いた」
まだ電気はついてる。って当たり前か。連絡はしておいたから大丈夫だろう。
「はい。モカ、降りて」
「えぇー。モカちゃんクタクタなのに〜」
「だーめ」
「お兄ちゃんのケチ〜」
と言いながらもモカは渋々俺の背中から降りた。
「ちわー。沙綾、いるー?」
「あ、ラテさん。待ってましたよー。というか、メール来てからここに来るの時間かかりましたね」
「すまん。モカがおんぶしてってせがんで来るから」
「えー、お兄ちゃん。それは言わない約束でしょ〜」
「それを約束したのは蘭にだけだ。沙綾に言わないとは約束してない」
ぶー。っと頬を膨らませるモカ。そんなモカの頬の空気を両手で押して抜いてあげた後沙綾に向き合った。
「あはは。相変わらず仲良いね二人とも」
「とーぜんだよ〜。お兄ちゃんとあたしは運命の鎖で繋がれた運命共同体なのだよ〜」
「いや、それは意味わかんない」
「えー、ひどーい。お兄ちゃんがノッてくれないとモカちゃん泣いちゃうよ〜」
「……それより沙綾。約束のものを」
「無視しないでよ〜」
「はいはい。これね」
「むーしー!」
隣で本当に涙目になっているモカを無視して俺は沙綾からやまぶきベーカリーの紙袋を一つ受け取った。
「ありがとう。じゃあモカ。はいこれ」
「んー?これって〜?」
そのまま受け取った紙袋をモカに手渡した。何のことかわかっていないモカだったが、そのまま中身をのぞいてみる。
「これは……パンですなあ〜」
「パンだよ。やまぶきベーカリーの。そして、俺からの誕生日プレゼントだ」
「おぉー。これはもしかして……」
モカは紙袋からパンを一つ取り出した。そのパンは普通のお店で出されているものと比べると形は歪で、見た目もいつも買ってるパンと比べるとあまり美味しそうには見えない。
「モカ。食べてみたらわかるよ」
「ほんと〜?それじゃあ……」
モカはその場を一口パクリ、とパンをかじった。
「………どうだ?」
「これはっ!」
「「これは??」」
「いつものパンの味とちがう〜」
ドテッ、とその場で崩れそうになった。まぁそりゃ違うのは当たり前なんだけど。
「でも美味しいよ〜。
「……やっぱりバレるか」
「さすがモカ。一発で見抜いちゃうか」
「とーぜん。モカちゃんがどれだけここのパンは食べて来てると思ってるのさ〜」
そう。これは俺がこの日のために沙綾に時間が空いてる時にコツコツと教えてもらって作った手作りのパンだ。今日朝早くにやまぶきベーカリーに行って沙綾に手伝ってもらいながら作っておいたのだ。
「うーん。もうちょっと時間があればモカを騙せたかな?」
「むりむりー。モカちゃんのお口はもうここのパンの味を全て覚えてしまってるんだよね〜」
「あはは、確かにそうだね。モカじゃほとんど毎日うちのパン食べてるし、一発でわかっちゃうよね。じゃあ……はい。これ私からね。ラテさんと被っちゃうけど」
「おぉー。お兄ちゃんにもパンをもらって、さーやにもパンをもらえるなんて……モカちゃんしあわせ〜」
二つの紙袋を両腕で抱えるモカ。なんて幸せそうな表情をしてるんだろう。まぁ、こんな顔を見れただけで俺は兄として幸せ者なのかも。
「お兄ちゃん、さーやもありがとう〜」
「うん。じゃあモカ。また来てね〜。あ、もちろんラテさんも」
「なんか俺はついでみたいな感じだな……まぁいいや。また来るよ」
幸せそうに紙袋を抱えるモカとともにお店を出た。
「で、味はどうだったんだ?」
「あじー?なんの〜?」
「パンだよ。お前いつも言ってただろ。俺の手作りのパンが食いたいって。そのお味は?」
「うーん……味はやまぶきベーカリーに負けてるよね〜」
「いや、そりゃそうだろうよ」
「でも、お兄ちゃんのモカちゃんに対する気持ちは口いーっぱいに広がったのがわかったよ〜」
「え、マジ?」
「うん。大マジだよ〜。だからありがとうお兄ちゃん。このパンはお兄ちゃんの心だと思って大事に大事に食べさせてもらうよ〜」
モカに何か通じるものがあってよかった。これでもし何も思わないなんて言われたらショックで立ち直れない可能性まで感じてたんだけどそうならなくてよかった。
「ていうか、大事に食べるのはいいけど、早く食べないとパンが痛んじまうぞ」
「えぇー、そんな〜」
パンを抱えてショックな表情を浮かべるモカ。本当にパンが好きすぎるこの妹は。でも俺もそんなパンが大好きな妹の事が大好きなんだよな。世界一大好きだ。
「モカ」
「んー?なーにー?」
だからそんな妹に俺が今日ずっと言いたかった言葉を今伝えよう。大好きな妹に。大好きなモカにこの言葉を精一杯気持ちを込めて言おう。
「誕生日おめでとう。これからもずーっと一緒にいような」
「もっちろーん。あたしとお兄ちゃんはずーっとずーっと一緒だよ〜」
何度でも言います。
モカちゃん、誕生日おめでとう。
盛大に祝って祝い尽くしたいです。
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