のんびり口調の可愛い妹   作:ブリザード

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この作品覚えていらっしゃる方いない説。
タイトル通りです。


第33話 風邪を引いたラテと看病するモカ

「ゲホッ、ゲホッ。やばいな、風邪引いたか?………」

 

朝、目が覚めると妙な気だるさと喉の痛みが襲いかかってきた。

 

「体温測らないと……」

 

ベッドから降りようとすると体の節々がズキズキと痛む。熱を測るまでもなく、自身に熱があるというのは一発でわかってしまった。

 

「…………38.6℃か。完全に風邪だな。もう少し体をあったかくして寝るべきだったかな」

 

季節はもう直ぐ冬に差し掛かろうとしていた。俺はモカより寒いのが苦手なわけではないが、お風呂に入ってから薄着でモカと一緒にリビングでのんびりしすぎたせいかもしれない。

 

「幸い今日は土曜日だし、バイトもない。家で大人しくしていれば明日にでも良くなるだろうけど」

 

薬飲んで大人しくしていればすぐ良くなるはず。だがそうもしてられない事情が1つある。

 

「モカのご飯を作ってあげないとだよな」

 

痛む身体をゆっくりと起こし、パジャマを着替えて、なるべく服を着込み部屋を出ようとする。

 

「……ゲホッ。まずいな。頭もクラクラするし、これいけるか?」

 

身体も痛い。息も少し荒いのがわかる。だが、愛する妹のためにお兄ちゃんがしっかりしなければ。その気持ちを糧に階段をゆっくりと降りリビングへと向かう。

 

「んー………ここはこうで……あ、お兄ちゃん。おはよ〜」

 

リビングへの扉を開けると、悩みながらもギターの練習をしているモカの姿が。何としてでも俺が風邪を引いている事はモカに隠さないと。

 

「おう、おはよう。土曜日なのに朝から練習とはえらいな、モカ」

 

「えへへー。もうすぐライブが近いからこのスーパーギタリストモカちゃんは頑張らないといけないわけですよ」

 

「そっか………じゃあそんなスーパーギタリストモカちゃんのために、精が出るようなご飯を作ってあげないとだな」

 

「そうだね〜。お兄ちゃんの料理を食べる事ができたらあたしのやる気も元気も100%アップなのですよ〜」

 

「わかった。じゃあ早速『でーもー』ん?」

 

モカは持っていたギターを横に置き、ソファから立ち上がりトコトコと俺のそばまでやってくる。

 

「今日のお兄ちゃんはゆっくりしてないとダメだよね?」

 

「………何でわかった?」

 

「わかるよ〜。あたしがお兄ちゃんと何年一緒に過ごしてると思ってるの?」

 

恐るべし俺の愛するモカ。一言二言会話しただけで俺の調子が悪いのを見破られるとは。

 

「と、いうわけで。今日はあたしがつきっきりで看病してあげるから、お兄ちゃんは部屋でゆっくり休んでていいよ〜」

 

「いや、そういうわけには。ライブが近いっていう事は練習もしなきゃならないんだろ?せっかくの土曜日にそんなモカの練習時間を削らせるわけには」

 

「お兄ちゃん」

 

「はい?」

 

「もし仮に。お兄ちゃんがスーパー天才ボーカルギタリストで1週間後の土曜日に武道館でのライブが控えているとします」

 

「は、はぁ」

 

いきなり何を言い出すんだこの子は。俺にそんな事ができるはずがないと言うのに。だがそんな意味のわからない事を言うモカは続けて話す。

 

「その日は大事なバンド練習もある。ライブに失敗しないためにも練習はしないといけない。けれど、お兄ちゃんの愛するモカちゃんは熱を出して倒れてしまいました」

 

「うん」

 

「さて、お兄ちゃんはどうする〜?」

 

「……迷うはずもない。俺はギター練習よりも、バンド練習よりも、モカの看病を優先する」

 

「うん。そういうことだよ〜」

 

「……なるほどな」

 

つまりモカは1週間後に控えているライブよりも、熱を出した俺の方を優先したいと、そう言ってくれてるわけだ。

 

「そういうわけなので、お兄ちゃんは今から部屋に戻ってベッドで休んできてくださーい」

 

「そう言ってくれると助かる。実はこうして立っているのも結構しんどくて…………っと」

 

「およよ……お兄ちゃん、大丈夫?」

 

「すまん、大丈夫だ。ありがとう」

 

頭がクラクラしてふらついて倒れそうになる俺をモカがしっかりと受け止めてくれた。情けない兄で少し泣きそうになる。

 

「部屋まで一緒に着いて行ったほうがいいー?」

 

「いや、大丈夫。モカに風邪うつすわけにもいかないし直ぐに部屋に戻って休ませてもらうよ」

 

「りょーかーい。お兄ちゃん、寂しくなったらいつでも呼んでくれていいからね〜。お兄ちゃんが寂しくならないように、モカちゃんがすぐに駆けつけて抱きしめてあげるから」

 

「モカに抱きしめられたらすぐに風邪治りそうな気がするけどな。でも、ありがとう、その言葉だけでも俺は嬉しいよ」

 

片方の手で壁に手をつけふらつかないようにしながらもう片方の手でモカの頭を優しく撫でる。

 

「おー、気持ちいい〜…………じゃなかった。お兄ちゃん、すぐに部屋に戻らないと」

 

「そうだな。ご飯とかは適当に済ませてくれればいいから。俺は少し寝させてもらうよ」

 

「はーい。ゆっくり休んでね」

 

ニッコリ笑って見送ってくれるモカに感謝しながら俺はすぐに自室に戻りそのままベッドへと潜り込んだ。

 

「ふぅ………ゴホ、ゴホ。やばいな、安心して気が抜けたら寒気までしてきた。早く寝ないと」

 

布団にくるまり俺はすぐ寝られるように目を閉じた。

 

「モカ、ああ言ってたけど大丈夫かな。ご飯は外食にすれば問題ないけど、ライブも近いって言って……たし、ちょっと……心配…………か、も……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ん……」

 

「あ、起きた〜?」

 

「んー……あれ、モカ?」

 

「そうだよ〜。お兄ちゃんの事が大好きなモカちゃんですよ」

 

目が覚めると椅子に座って俺の顔をじーっと見ているモカの姿が。どうやらベッド入った後すぐに俺は寝てしまったみたいだ。ってあれ、モカがいる?

 

「モカ、なんでここに!?」

 

「なんでって。さっき言ったでしょー。今日はあたしがつきっきりで看病してあげるって」

 

「いや、確かに言ってたけど。でもお前に風邪をうつしたら悪いし、それにモカには練習が」

 

「練習はもういいんだよー。蘭達にも今日の練習は休むって言ったから今日はつきっきりで看病してあげるよ〜」

 

「いや、でも……」

 

時計を見ると昼の1時を指していた。モカは土曜日のバンド練習はいつもこのくらいの時間にはすでに家にいないはず。バンド練習を休んだというのは本当みたいだ。

 

「俺は寝てればきっと良くなるから俺の事は気にせずに」

 

「いやー」

 

「いやー、ってお前」

 

「お兄ちゃんが元気にならないと、あたしも心配で元気にならないから。だから、今日はモカちゃんがつきっきりで看病します」

 

「モカ………」

 

「だいじょーぶ。このモカちゃんがお兄ちゃんがいつもより元気になるように、今日はずっと一緒にいてあげるから」

 

本当に涙が込み上げそうになる。こんなに優しい妹がこの世にいてくれるだろうか。いやいない(知らないけれど)

 

「悪いな、迷惑かけて」

 

「ぜんぜーん。あたしもお兄ちゃんにはいつもお世話になっているからね〜」

 

「いや、それで言ったら俺もそうなんだけど」

 

「そうだね〜。これはモカちゃんとお兄ちゃんがお互いにうぃんうぃんな関係を築けているって証拠だね〜」

 

「ウィンウィンって、今日日そんな言葉聞かないけど」

 

「えー、そんな事ないよモカちゃん大百科には常に載ってるのに」

 

「17年間一緒にいて初めて聞いたよそんな大百科は」

 

顔を見合わせて俺とモカはどちらともなくぷっ、と吹き出してしまう。

 

「お兄ちゃん、お腹空いてる〜?」

 

「そう、だな。朝から何も食べてないし、お腹空いてるかも」

 

「ふっふっふー。そう思ってこのあたしがお兄ちゃんの為に素晴らしいものを作ってあげました〜」

 

「…………へっ?」

 

「持ってくるからちょっと待っててね〜」

 

そう言ってトコトコと部屋を出て行ったモカ。作った?モカが?という事は手作り?信じられなくなり頬をつねってみる。

 

「……痛い」

 

つまり夢じゃない。今日のような事がこれまでにも何度かあったがその時はレトルト食や母さんがなんとかしてくれたため、特に気にすることもなかったが。

 

「お待たせ〜。モカちゃん特製のお粥だよ〜」

 

5分くらいしてお盆を持って戻ってきたモカ。

 

「ささー。どうぞ召し上がれ〜」

 

「おぉー、これは」

 

お盆の上に乗っていたのは、みる限りは完璧な卵の雑炊とお水とお薬。そしてなぜかクロワッサンとメロンパンとチョココロネ。

 

「…………モカさんや?」

 

「なんでしょう、お兄ちゃんさんや」

 

「色々と突っ込みたい事があるのだけれど、この3つのパンは一体?」

 

まさか病人である俺に食べろという事なのか?確かにモカには劣るが俺もパンは大好きだ。そしておそらくこれは山吹ベーカリーのパン。こんな状態でも食えない事はない。食えない事はないが、流石にしんどい。

 

「お兄ちゃん」

 

「はい?」

 

「山吹ベーカリーのパンは………風邪を倒す殺菌作用があるんだよ!」

 

「ねぇよ!どこの民間療法だそれは!」

 

「おぉー。熱を出しているとは思えない人のツッコミだ〜」

 

思わず声を張らせて突っ込んでしまった。おかげでゲホゲホと咳き込んでしまう。

 

「おー、これは失敗。お兄ちゃん、大丈夫?」

 

「誰のせいだ誰の」

 

「えへへー。ほんのモカちゃんジョークだよ。この3つのパンはあたしが食べる為に持ってきただけだよ」

 

「あー、そういうことか。それなら納得」

 

えへへ、と笑いながらメロンパンを取り頬張り始めるモカ。そのパンを食べる幸せそうな顔だけで身体の熱が吹き飛んでしまいそうになる。

 

「あーむ。おいし〜。あ、お兄ちゃんも食べていいよ〜。つぐに作り方教えてもらいながら作ったからきっと完璧なはずだから」

 

「つぐちゃんが?」

 

「そー。お兄ちゃんが風邪引いたって言ったら、すぐに作り方教えてくれたよ〜」

 

「………そっか」

 

今度つぐちゃんにもお礼しないとな、と心の中でつぐちゃんに感謝をしながら俺はモカが作ってくれた卵雑炊を手に取る。

 

「じゃあ、モカ。いただきます」

 

「はーい」

 

モカの初の手作りのご飯に感謝しながら俺は卵雑炊を口に運んだ。

 

「………うまい」

 

「えへへー。そう言ってもらえるとモカちゃんが一生懸命つぐってよかったよー」

 

つぐちゃんが教えてくれてたとはいえ初めて作ってこれとは感動すらも通り越しそうになる。一口目を飲み込むと、そのまま二口三口と次々とお粥を口の中に運んでゆく。お腹が空いていたとはいえ、5分もしないうちに完食してしまうレベルに美味しかった。

 

「はぁ、美味しかった。本当にありがとうモカ」

 

「いえいえ〜。お兄ちゃんに喜んでもらえてあたしも何よりだよ」

 

メロンパンを食べ終え、チョココロネを頬張っているモカの頭をまた優しく撫でると気持ちよさそうに目を細めた。

 

「これはまたモカにご飯作ってもらわないとな」

 

「ざんねーん。モカちゃんのお料理屋は今日限りで閉店でーす」

 

「何故に!?」

 

「今日はお兄ちゃんが倒れているから特別に開店しただけなんだから」

 

「…………じゃあこのまま熱を出し続けてる事にしてまたモカにご飯作ってもらおうかな」

 

冗談で笑いながらモカに言ってみると、当の本人はチョココロネを咥えながらむーっ、と俺を睨んでいた。

 

「お兄ちゃん?」

 

「冗談だよ、冗談」

 

「まったくもー」

 

「でも、本当に美味しかったから。だからいつもとまでは言わないけど、たまーにでいいからモカの料理屋を開店してくれるとすごく嬉しいかなって」

 

「そうだねー。モカちゃんの気が向いたらかな〜?」

 

「そりゃいつになるか全くわからないな」

 

1ヶ月後、3ヶ月後、半年後。下手をしたら1年後やその先になるかもしれない。

 

「まぁでも気長に待つよ。モカがまた料理作ってくれるのをさ」

 

「その時はお兄ちゃんがびっくりして飛びのいちゃうくらい美味しいご飯を作ってあげるからね〜」

 

「あぁ、楽しみにしてる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、モカ。いつまでいるつもりだ?」

 

「1人でリビングにいるの寂しいから、お兄ちゃんの部屋にそのままいようと思って」

 

「そのギターは?」

 

「練習用〜」

 

「俺一応病人なんだけど」

 

薬を飲んでまた布団に潜り込んだ俺。モカはというと俺の食べた食器をキッチンへと戻しに行き、また俺の部屋へと戻ってきた。ギターと譜面を持って。

 

「あたしのギターでお兄ちゃんをリラックスさせてあげようと思ってね〜」

 

「うるさくて逆に寝れないパターンでは?」

 

「あー、ひどーい。モカちゃんはこんなにお兄ちゃんの事が心配で心配で仕方ないのにー」

 

目に手を当ててよよよーっと、泣いてるふりをするモカ。

 

「いや気持ちは嬉しいんだけど、それだったら今からでも遅くないしバンド練習に参加するべきなのでは?」

 

「それなら大丈夫。あたしが今日休むって確定した時点でバンド練習は休みになったから」

 

「いやそれもそれで問題ありなんじゃ?」

 

「ちなみにさっき連絡きて、夕方頃にみんなでお兄ちゃんのお見舞いに来るそうでーす」

 

「いや余計寝れないじゃん。今のうちに寝とかないと」

 

現在時刻昼の2時。今からすぐ寝れば3時間くらいは寝られるはず。ひまりちゃんがきた瞬間絶対眠れなくなるからなんとしてでも寝なければ。

 

「モカ、本当に俺寝ると思うけどいいんだな?」

 

「もちろーん。モカちゃんのこのリラックスギターソングでお兄ちゃんのことをゆったりと眠らせてしんぜよう〜」

 

「頼むよ、本当に」

 

夕方までに寝とかないまた熱が上がりそうな気がするから。

 

「はーい」

 

返事をしたモカが小さい音で音楽をかけ始めた。スローテンポな曲。そんな曲に合わせてモカもギターを弾き始めた。

 

「フンフンフーン♪フーン♪」

 

曲に合わせて鼻歌まで。ギターも弾きながら鼻歌も歌って。本当にモカはすごい子になったんだなぁと改めて実感してしまう。

 

「ほんとうに……すごいなぁ、モカは」

 

「すごいのはあたしだけじゃないよー」

 

俺が話しかけると曲とギターを弾く手を止め、俺の方へと振り向いた。

 

「蘭もひーちゃんもつぐもトモちんもみんなみーんな凄いんだよ。あたしたちAfterglowはあの5人だからAfterglowなんだよね〜」

 

「まぁそりゃ俺も何回か練習見てるから、言ってる意味はわかるかも」

 

「でしょー。あの中の誰か1人でも欠けちゃったら、それは全く別のバンドになっちゃうからね〜」

 

それはそうだろう。あの中の誰か1人でもいなくなったら、それはAfterglowではなくなる。それ以前にバンドとして成立しなくなる。5人全員一緒だから、バンドを続けられている。

 

「あたしたちはあたしたちがいつも通りにいる為に、バンドを始めたからね〜」

 

「そうだな」

 

「だから、お兄ちゃん」

 

ジャーン、とギターの音色を響かせたのち、モカは俺の方を向いてニコッと笑って言った。

 

「モカちゃんがいつも通りでいる為に、早く風邪治して元気になってね〜?」

 

「……あぁ、わかってる。早くこんな風邪治して、モカがいつも通り元気でいられるように俺も頑張るよ」

 

「約束だよ〜?明日風邪治ってなかったらモカちゃんも怒るから〜」

 

「それは酷くね?」

 

「あははー。じょーだんじょーだん」

 

そうしてモカはまた音楽をかけ、ギターを弾き始めた。さっきとまた同じ曲。ゆったりとしてそれでいてどこか眠気を誘うような曲。

 

「フンフンフーン♪」

 

(というか、こんな曲をライブでするつもりなのか?こんなゆったりとした曲、ライブでは合わないんじゃ……)

 

何故この曲を練習してるのかを疑問に感じながら俺は瞼を閉じた。

 

「お兄ちゃん、おやすみなさーい」

 

「お……や…すみ……も、か」




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