ガルパンイベントへレッツゴー
「あー、バイト終わったー。早く家帰ってモカで癒されたい」
夏休みももうすぐ終わりに近づいて来た頃。俺はあいも変わらず日々バイトをする生活が続いていた。
「夏休みももうすぐ終わりだと思うと早いよな〜………と、電話か?」
ポケットに入れている携帯が鳴っていた。
「はい、もしもし?」
『あ、お兄ちゃん、あたしだよ〜』
「モカ?どうかしたのか?」
『うん。えっとね〜、今からつぐの家にしゅーごーだよ〜』
「え、今から?なんかあるのか?」
『これからつぐの家で宿題終わらせるんだ〜。ひーちゃん達の』
「あー、ひまりちゃんのか。モカはもう終わってるんだろ?」
『うん。もちろーん』
夏休みが始まり半分も過ぎないうちにおれは宿題を終わらせ、モカはその少し後に全てを終わらせた。今は俺たち兄妹は宿題という枷に追われず、のんびりと過ごしている。
「わかった。一回家に帰ってシャワー浴びてから向かうから。何か差し入れはいるか?」
『じゃあ、やまぶきベーカリーのパン〜』
「ははっ、言うと思ったよ。他のみんなは?」
『うーん……いっぺんに聞くのめんどくさいから、後でメールするね〜』
「はいはい。それじゃあまた後でな」
電話を切った俺は急いで家に帰り、シャワーを浴びてからつぐちゃんの家に向かった。もちろんやまぶきベーカリーのパンは忘れずに。
「おいーっす。来たぐへっ!」
「ちょっとラテさん、どういうことですかっ!!」
つぐちゃんの家の扉を開けた瞬間、ひまりちゃんが俺に向かって飛びついて来た。
「な、なんの話だ!?」
「夏休み始まってすぐの頃、私以外のみんなで宿題終わらせるためにつぐの家に集まったって!今聞きましたよ!」
「え…………あー」
俺とつぐちゃんと蘭から始まり、たまたま来た巴が合流して、バイト終わったモカが来た時の話か。
「どうしてその時私も呼んでくれなかったんですかーっ!!!」
「ひ、ひまりちゃん落ち着いて!ラテ君が気絶しちゃうよっ!」
俺の胸倉を掴んでブンブンと俺の身体を激しく前後に揺するひまりちゃん。やばい、本当に吐きそうだ。
「おかげで、私以外のみんなはほぼ宿題終わってるって……モカに至っては全部終わらせてるし」
「えへへー。すごいでしょ〜?」
「まぁ確かにあの時の勉強会がなければもう少し残ってたかもな」
「あたしも」
「私もコツコツやって来てたけど、やっぱりあれが1番進んだおかげかも」
「ほらー!!どうして私だけハブにしたんですかー!!!」
「ひまりちゃん!!本当にラテ君死んじゃうから!!ストップ。ストーップ!!」
再度俺の身体を揺するひまりちゃん。本当に待って。マジで俺死んじゃう。
「うぅ……ラテさん酷いです。私ラテさんのこと嫌いです!!ラテさんと絶交です!!」
激しく揺すられて目が回っている中でもわかる。ひまりちゃんが涙目で俺を見つめているのを。
「え、っと……ひまりちゃん?」
「ふん。ラテさんなんて嫌いです」
ぷい、と顔を背けるひまりちゃん。どうしよう、怒られてるのはわかるんだけど今の仕草物凄くキュンときた。じゃ、なかった。
「その……ほら、ひまりちゃんの好きなコンビニスイーツ買ってきたよ!」
「どうせモカに言われて買ってくるように言われたんでしょ」
何故バレた?確かにこれはモカにメールをもらって買ってきた物だ。モカから『ひーちゃんのだけ少し多めに買っておいたほうがいいと思うよ〜?』とメールが来たから買って来たものなのに。
「ほ、ほら!甘いものだけじゃなくて、パンもあるし」
「モカのパンのついでに買って来てくれたものなんていりません」
「ジュースもあるぞ」
「つぐの作ったマンゴーソーダの方が美味しいです」
ダメだ。何を言っても聞く耳を持ってくれない。誰か。誰か俺を助けてくれないか?
「自業自得」
「あー、あこに遅くなるってメールしないとな」
「……むぐむぐ」
「え、えっとね、ラテ君もきっと悪気があって連絡しなかったわけじゃないんだよ?だから、ね?ひまりちゃん?」
おかしい。助けようとしてくれてるのつぐちゃんしかいない。後の3人は全員どうでもいいような顔をしてるし。モカに至ってはいつの間にか俺の手に持ってる袋からパンとってるし。それはさておき。
「ひ、ひまりちゃん」
「なんですか?」
「えーっと、その」
どうしよう。何をしたら許してくれるだろうか?スイーツ奢る?デート一回?いや、デートなんていったら100%モカが怒るだろうし。いやでも……
「むぐむぐ……はぁ。やっぱりやまぶきベーカリーのパンは最高だよ〜」
モカはいつもと変わらず呑気だし。でも、そんなモカも可愛い。
「ねぇねぇひーちゃん?」
「なに?」
「ひーちゃんにプレゼントを差し上げよう」
「プレゼント?」
「うん。えっとねー。お兄ちゃんの事を1日自由にできるプレゼントだよ〜」
「「「「「えっ?」」」」」
「どうかな〜?」
モカの一言にひまりちゃんや俺だけではなく、蘭も巴もつぐちゃんも驚いていた。あのモカが。あこちゃんとモカを両方連れて夏祭りに行こうとした時に俺に怒ったモカが、俺を1日中にできるプレゼントをするなんて。
「ど、どうかなって言われても」
「お兄ちゃんと甘いもの食べに行ってもいいよ〜」
「ら、ラテさんと?2人で?」
「そー。その代わり〜、お兄ちゃんの事を許してあげてー?」
「で、でも……本当にいいの?」
「あの時はモカちゃん達も連絡するの忘れてたんだし〜、あたしもお兄ちゃんも悪いんだよ〜」
「モカ……」
呑気に俺の買って来たパンを食べてるだけかと思ったら……モカが俺のことを庇ってくれてるなんて。
「わかった!モカに免じてラテさんの事を許してあげるっ!」
「だってー?よかったねお兄ちゃん」
「あ、うん。そうだな」
モカのおかげで許してもらう事は出来たけど……モカがあんな事を言うなんて何か裏がありそうで少し怖い。素直に嬉しいのに、でも怖い。
「で、勉強会はどこまで進んでるんだ?」
「うっ…………それが」
「普通参考書を学校に忘れるか?」
「だ、だってぇ……」
どうやらひまりちゃんは宿題で使おうとした参考書を教室に忘れて来てしまったらしい。外はもう真っ暗だが、明日からは学校が閉まるらしいので仕方なくこの暗い夜の中、取りに行くことに。
「はぁ……先が思いやられるな」
「……やっぱりさっきの事、許さなかった事にしますよ?」
「ごめんなさい」
ダメだ。しばらくはひまりちゃんに勝てそうにない。俺が全面的に悪いからなにも言えないのが確かだし。
「とりあえず中入るか。鍵空いてるっぽいしな」
「………ていうかさ、男子である俺が無断で女子校に入っていいのか?」
「だいじょーぶ。外も中も暗いし、お兄ちゃんが入っても見つからないよ〜」
「いや、そういう問題じゃないと思うけど……まぁいいか」
正面入り口から中に入ってそのままひまりちゃん達の通う教室へと足を運び、すぐさまひまりちゃんは自分の机の中を探し始める。
「にしても、なんか出そうな雰囲気だな」
「お兄ちゃん、なんかって〜?」
「そりゃあれだよ。幽霊とか?」
「……………」
「蘭、冗談だぞ、本気にするなよ」
相変わらず、幽霊やらお化けやらは苦手らしい。あと巴も。一瞬ピクッて震えたのが見えた。
「まぁいいじゃん。お化け怖いくらい。その方が女の子らしくて可愛いじゃん」
「そういう問題じゃないし。それに誰も怖いなんて言ってないし」
「いや、つぐちゃんとモカ以外の3人がお化けとかホラー系にビビってるのはもう知ってるからな」
なにも強がらなくてもいい事なのに。素直じゃないな。
「あったよ!参考書!これで宿題が進められるっ!」
「よかったぁ」
「よし。今すぐここから出よう」
ホッと息をつくつぐちゃんと、早足で教室から出て行く蘭。どんだけお化けが怖いんだよ。
「でもさ、夜の学校って少し楽しみなんだよな。ほら、肝試しみたいでさ」
「あ、確かに。こういう所を友達と一緒に探検してみたいかもっ」
「じゃあ、今から探検する〜?」
「そうしてみたいのは山々だけど、蘭がビビりまくってるから無理だろうな」
こういう機会は滅多にないだろうし、少しは遊んでみたかったけど、仕方ないか。
「さーて。帰ったらひまりちゃんにみっちり勉強教えないとな」
「やだー。私モカに教えてもらいたいです」
「だーめ。モカの説明だと曖昧でちゃんとわからなくなるだろうから、俺が教えます」
「ぶーぶー。ラテさんのケチー」
「はいはい。俺はケチなんですよ………ってあれ?」
「どうしたんですか?」
「いや……扉空かないんだけど?」
「…………はい?」
おかしいな。さっき入って来た時は普通に空いていたのに。
「巴、つぐちゃん、他の扉?」
「ダメだ。閉まってる」
「こっちもダメみたい。もしかしたら警備員の人がもう誰もいないと思って鍵を閉めちゃったのかも」
正面玄関は全滅。さて、どうしようか。まぁここはこいつらに任せるしかないな。
「お兄ちゃーん?」
「んー?」
「おもしろくなってきましたな〜」
「その通りだな〜」
「こんな状況面白いわけないでしょ……」
ふへへー、と笑い合う俺たちにすかさず蘭が突っ込んだ。ていうか蘭が少し涙目に。
「だ、だいじょーぶ!きっと他にまだ閉まってない扉があるはずだから」
「た、体育館の非常口が空いてるじゃないか?部活で遅くなった生徒のためにいつも開けてくれてる扉があるんだ。そこなら」
「で、でもここから体育館まで結構距離あるよ……それをここから歩いて行くの?」
昇降口から体育館まで結構距離がある。ということは。
「なぁ、モカ?」
「なーに〜?」
「マジで学校探検できそうだなっ!!」
「おー、たしかに〜」
「2人ともわくわくしないでよっ!」
「みんな、行くぞっ!」
こうして俺たち6人は学校探検……もとい学校から脱出するために体育館を目指すこととなった。
「な、なぁ、みんな?」
「なに?」
「暑いから離れてくれね?」
体育館目指し歩いている途中、右手をモカ、左手を蘭、右腕をひまりちゃん、左腕を巴、服の裾をつぐちゃんが掴んで歩いている。いや、おかしいだろ。怖いのはわかるけど、これじゃあ歩きにくくて仕方ないんだよ。
「だ、だって、夜の学校って予想以上に怖くって」
「あ、あぁ。この静けさが余計にな」
「全く。とりあえず一回離れろ。それで誰か俺以外に先導する人を1人決めてくれ。お前らの学校初めて来たから道わからないんだよ。それに暗いし」
いくら男子とはいえ初めて来たやつに先導させるっていう、蘭たちも信じられないけど。
「あたしはお兄ちゃんから離れる気がないから先導は出来ないよ〜」
「心配するな。俺もモカを離す気がないから」
俺とモカは一心同体。ひと時も離れることは許されない。ていうことはないんだけど、とりあえずモカから離れたくはない。
「あ、あたしは無理」
「私も」
「アタシも無理だ」
蘭、ひまりちゃん、巴は当たり前のように無理。ていうか、モカが辞退した時にすでに決まっていたんじゃないのか?
「じ、じゃあ私がみんなを先導するね」
「ゴメンなつぐちゃん」
「大丈夫!」
勝手に借りて来た懐中電灯を持ったつぐちゃんが俺の横について歩き始める。そして俺と手を繋いだモカ、そして俺の服を掴み3人も歩き始める……って、歩きづら。
「あ、ラテ君ここを左だよ」
「ここって……あぁ、こっちな」
懐中電灯があるとはいえ、見えにくいし何より後ろ3人のおかげで歩きにくい。
「つぐちゃん、懐中電灯俺が持とうか?」
「ううん、大丈夫だよっ!でも、私も少し怖いかな?」
えへへ、と笑いつつ俺より少し前を歩くつぐちゃん。そりゃそうだよな。いくらしっかりしているつぐちゃんとはいえ女の子なんだし。
「ここは俺がしっかりしないとな」
そう思い、左手でつぐちゃんが懐中電灯を持っていない右手を優しくギュッと握った。
「ひゃあぁっ!!」
「うわぁっ!!!」
「な、なにっ!?」
「っ…………」
握った瞬間、びっくりしたつぐちゃんの悲鳴に始まり、つられた巴の悲鳴とキョロキョロ周りを見るひまりちゃん、そして、声さえ出さなかったが蘭がビクビク震えてるのがわかってしまった。
「ラテ君、いきなりなにをっ!」
「ごめんごめん。なんかやっぱりつぐちゃん1人に背負わせるのは悪いと思って。怖いのが少しマシになったらいいなって思ってつぐちゃんの手を握ったんだ」
「び、びっくりした……い、いきなりは困るからせめて声かけてからにして欲しかったよ……」
「悪かった悪かった。巴と蘭も悪かったな」
「なにもなかったなら別にいいけど、あまりびっくりさせないでくれ」
「うん。巴の言う通り」
「わかったわかった。悪かったよ」
巴に謝りつつ、再度つぐちゃんの手を握って歩き出す俺たち。暗くてよくわからないけど、つぐちゃんの顔が少し赤く見えるのは気のせいだろうか?
「そういえばさ〜」
「ん?」
「羽丘女子学園に伝わる七不思議って知ってる〜?」
「ん、なにそれ?」
「その話聞いたことあるかも。人体模型が動き出すとか、鏡に知らない人が映し出すとかだったよね?」
どんな学校にも存在する七不思議ってやつか。ピアノが勝手になり出すとか、そういう怪奇現象の。
「そーそー。他には階段が一段増えてるとかーん、体育館からドリブルの音が聞こえるとか〜?」
「あと、グラウンドにある井戸の事と、勝手になり始める音楽室のピアノの事!」
ピアノマジで当たってたのか!?
「あれ、あと1つってなんだっけ〜?」
「あと1つ?」
「音楽室のピアノ、動く人体模型、映す鏡、増える階段、体育館のドリブル音、グラウンドの井戸。これで6つでしょ〜?あと1つ……つぐー、覚えてる〜?」
「うーん、思い出せないな」
………やばい。それ全部調べたいって思ってる自分がいる。でも、モカからは離れたくないし。モカも一緒について来てくれればいいのに。
「ね、ねぇ。この話もうやめようっ!それより早く体育館目指してここから出ようよっ!」
「だな。よしっ!早く行こう!」
「うん。あたしも早く出たい」
「そう思うならお前ら自分で歩けよ!!」
こいつら俺の服を掴んで離そうとしない。あれだけ息巻いていたくせに自分では歩こうとしないなんて。
「ら、ラテ君。いこっか?」
「お兄ちゃん、レッツゴーだよ〜」
「はいはい。レッツゴー」
こうして俺たちは閉じ込められた学校から出るために、体育館を目指してまた歩き始めた。
次もなるべく早く投稿したいなw
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