魔法少女育成計画airspace   作:皇緋那

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2.

☆オルタナティヴ

 

自らの放った光が晴れたあと、オルタナティヴはどうしてか屋外に立っていた。

周囲は更地ではなく、立派な森だ。エネルギー波によってすべてが粉微塵に吹き飛んだというわけではなさそうだった。オルタナティヴにも、ここがどこかはわからない。少なくとも、本来の使い方で起きる出来事の範疇ではないらしい。

この時間において魔法少女オルタナティヴは存在しなかった、ではなく、時空側がどこにも存在していないのだろう。魔法の端末を確認すると、時間のデータは表示されても時間は13月だとか32日だとか狂っている。単純に世界を飛んだ影響で不安定になっているとも考えられるが、それよりも明白におかしなことが周囲にはあった。

 

森が広がっている。桜が見事に咲いており、綺麗に佇んでいる。それだけではなく、その根本付近では西瓜が実っているのが見える。また隣の楓の葉は紅葉真っ只中のように赤く染まっており、地面はうっすらと雪で覆われていて白かった。

それこそ魔法でも使わなければできない光景だった。

 

まず、この世界に誰がいるのかだ。もし同じように漂着していれば、その誰かと合流しなければ。オルタナティヴは雪化粧をした満開の桜に飛び乗ると、まず一周見渡して状況を探った。まず、ここはどうやらN市であるらしい。クラムベリーが命を落としたのがN市であるから、きっとその関係だろう。そのせいか、N市よりも外の領域にはすべて濃い霧がかかっているらしくまったく見えず、どうやら出ることは叶わないらしい。

オルタナティヴ以外の人々は、こんなところで何を思って毎日を過ごしているのだろう。魔法で作られた偽りの世界ではそんな都合は無視されるとわかっていても、ふと想いを馳せたくなった。

 

季節がごった煮になった森を離れ、オルタナティヴは街の方向へ向かって歩き出した。このルートで行けば、はじめに住宅街へ入る。

しかし、住宅街まで来てみても誰かが住んでいる気配はなく、閑静どころか不穏なまでに物音が排除されていた。声を張り上げれば誰かしらに聞こえるかもしれないが、何せ雑音がない。クラムベリーの存在が確定している以上、音を出すのは得策ではないと判断してひたすら歩き続けた。

 

人影はいっこうに見えなかった。住宅街は諦めようかと思ったのだが、ふと遠くの鉄塔を見たとき、なにかが動いたようだった。目を凝らすと、たしかにこの世界では初めて見る人影があるように思えた。

遠くのことなので断定はできないが、作業服ではないだろう。そんな者が鉄塔の上に立っているなら、魔法少女であるかもしれない。

 

オルタナティヴは脚に力をこめ、鉄塔めがけて飛び出した。勢いをつけすぎたかもしれない、オルタナティヴはきれいに着地する予定が、人影のある上部よりも下に掴まることになり、鉄塔は大きく揺れた。上から悲鳴が聞こえる。

オルタナティヴの身体能力があれば、上るの程度は簡単だ。ただ、いきなり揺らされた方はたまったものではないだろう。案の定、何ですか、非常識な、という声が聞こえた。

 

ひといきで一番上まで上がり、鉄塔よりも高い空にまで自身を飛ばし、当初の予定を取り戻すように着地した。魔法少女たちの前に姿を現すのはいいのだが、そのやり方が全然普通にならなかった。全員の驚きの視線が痛い。

 

「おぉ!おぬしも生きておったか!よかった、よかった。あ、のじゃ」

 

このわざとつけている語尾はツインウォーズだ。ちんちくりんな体躯と黒髪ツインテールからしても、彼女で間違いない。

ツインも巻き込まれてしまっていた、ということは、あの光に飲み込まれた魔法少女は皆こっちへ飛ばされているということだろうか。起こってしまったことはもう仕方がないが、申し訳なくなる。

 

まずはツインに時間が狂っていることを話し、一緒に行動しようと持ちかけた。すると、ツインではない魔法少女が反応してくる。

 

「ちょっと待ちなさい。彼女はあなたの知り合いで、そいつを仲間に加えるということでいいんですのね?」

「そうなるな」

「そうですか。えぇ、わたくしたちにも何が起こっているかはわかっていませんし、鉄塔を揺らせるくらいの元気が有り余っているなら働いてくれるでしょう」

 

黄色い魔法少女には皮肉まじりに言われてしまった。

ツインのほかには3人の魔法少女がいて、それぞれ赤、青、黄色と信号機みたいだった。うち一人はよく知る顔だ。

 

「では、まず自己紹介から。名前も知らない相手を連れていくのは危険すぎますわ」

 

それもそうだ。相手にとってはいきなり出てきた奴でしかない。オルタナティヴは自分の名前を言い、ひとまず黄色の彼女はそれで満足のようだった。

 

「ありがとうございますわ。ツインウォーズさんはわたくしたちとすでに話しておりますし、ではこちらにいたしますわね」

 

オルタナティヴも、ひとりを除いて知らない魔法少女が相手だった。是非ともお願いしたいところだ。ここにいる魔法少女たちが、助ける相手になるかもしれないのだから。

最初に信号機の中央、さっきから仕切っている黄色の魔法少女が一歩前に出た。

 

「わたくしの名はタトル・クイーンズ・レオ。好きな飲み物は緑茶、お茶菓子はやはりおまんじゅう派ですわ。よろしくお願いいたします」

 

クイーンズというだけあり、高貴な雰囲気を漂わせている。金髪縦ロールとは古風だが、欧州のお嬢様というイメージにはぴったりだ。ただし、好みはおばあちゃんみたいだった。

コスチュームはまるで舞踏会のようだが、は虫類の柄が生きているように動く不思議なデザインだった。魔法少女なら、と納得できるのが困ったところだ。

 

「次は?スコヴィルにします?」

「お、私?おっけー」

 

信号のとおり、黄色からは赤へと交代した。今度前に出てきたのはいかにも炎、といったふうの赤い魔法少女だ。オルタナティヴは彼女のことを知っていた。

 

「私の名前はね!スコヴィル――」

「スコヴィル・スケイル。だよね」

「あれ?知られてた?」

「もちろん。だって、友達だもん」

 

それまで気づけていなかったスコヴィルだったが、笑顔を向けたとたんに目を丸くした。

 

「えっ、もしかして、織姫ちゃん!?」

「うん。私だよ、帆火ちゃん」

 

この魔法少女は唐木帆火だ。織姫の小学生の頃の親友で……クラムベリーの試験によって命を落とした。その帆火が、スコヴィルがここにいるのだから、実験は成功していると言えるだろう。

織姫が助けたくても後の祭りだった彼女に会えた。それだけでも、嬉しかった。

 

「あれ、でも、なんで織姫ちゃんが」

「はい、感動の再会はあとにしてくださる?アイサがおいてけぼりで、かわいそうですわ」

 

タトルに遮られ、スコヴィルは一歩下がった。またあとで、と笑っている。こういうところで切り替えが速くて、帆火のいいところだと思う。

 

次に前に出てきたのは青い魔法少女だった。ここまで一言もしゃべっていないし、表情にも変化がみられなかったが、どうやら人見知りではないように思えた。

その身体にはいくつかの管が備わっており、スカート代わりに腰部分についた何かのパーツのこともあって機械みたいだ、という印象だ。衣装そのものは競泳水着をもとにしていて、肌にぴっちりとくっついて身体のラインをくっきりと見せている。そして、くっきりと見せていても恥ずかしくないようなしっかり発育している女性の身体であった。

 

「ほら、アイサ。自己紹介しなよ」

 

促された青い魔法少女は頷くと、深く息を吸い込んだ。同時に身体に備わった管から空気が取り入れられ、間の抜けた音を立てた。

 

「わたしは……アイサ・スチームエイジ。よろしく」

 

まぶたをすべては開けきっていないのからもわかるけれど、彼女は物静かで感情の起伏が少ないタイプのようだ。よろしくね、と答えて握手を求める手を出すと、すかさずがっちり掴んできて、上下にぶんぶん振られた。

 

「同志魔法少女よ。名はなんと言ったか」

「あ、えっと、オルタナティヴだけど」

「オルタナティヴ!覚えたぞ同志!これより運命を共にする我ら、ぜひ良い関係を築いてゆこうではないかッ」

 

名前を教えたとたんにテンションが上がった。さっきよりも目を大きく開けていて、しかし口角が上がったりはしていなかった。感情表現が苦手、と一概に片付けられるものでもなくて、オルタナティヴは苦笑いで固まっていた。

 

「まぁ、そうなりますわね。彼女、蒸気でテンションが上がるっていう魔法で、こんな感じのことにたまになるのですわ」

「ご説明ありがとう、女王タトルッ!わたし自身でもこれは……説明しにくい」

 

ぷしゅう、と音をたてて、アイサから蒸気が抜けていった。それに伴ってテンションももとに戻っていく。

初対面の人相手で張り切っちゃったみたい、とスコヴィルが茶化し、3人ともの自己紹介はこれで終わったらしかった。

 

「さて、オルタナティヴさん。それにツインウォーズさん。ひとまず立ち話はここまでにして、わたくしたちの使っている拠点にいらしてはどうですか?スコヴィルとも話したいのでしょうし」

 

オルタナティヴとツインで顔を見合わせた。ツインの方は、こちらへ判断を任せてくれる方針だという。オルタナティヴはせっかくのスコヴィルとの再会で、彼女と話したいことはたくさんあった。それに、彼女を信用したい気持ちが強い。

 

ここは一緒に行動しよう、ということで話がまとまり、タトルからも心地よい返事が帰ってくる。これで、オルタナティヴの仲間たちは一気に四人も増えることとなった。


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