魔法少女育成計画airspace   作:皇緋那

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3.

★タトル・クイーンズ・レオ

 

オルタナティヴが見つけた魔法少女の手がかり。それを追って、タトルは発見者である連れられて拾得地点に赴いた。拠点からは遠くない。これだけ活動地域も近く、まさしく幸運だったといえるだろう。

その場所は確かに山道への入り口であり急いでいればひっかかったことに気づかないか、と納得もできる地点だった。オルタナティヴが見つけた希望も現実味を帯び始めている。自分達は戦う魔法少女ではあるものの、今後あの巨大な相手や特殊な敵、それこそこの前の透明なハンターでも現れたらと不安要素はたくさんある。加えて負傷者もいる以上、戦力の問題は常についてまわるし、タトルは何度もその問題について考えなければならない。

 

ふと、何かを見つけたらしいオルタナティヴが声をあげる。魔法少女の驚異的な視力があれば、山道の中でも見通せるのだ。オルタナティヴが指すほうには、小柄な女の子の姿が見えた。

 

「持ち主、彼女ですか?」

「間違いないよ。間違えるわけないもん。いますぐ行こう!」

 

オルタナティヴが駆けていくのに、タトルはいきなりのことで一瞬追い付かなかったが、幸運続きで気分は悪くない。少女のもとへ急行すると、オルタナティヴの方が一方的に知っているだけなのか困った顔をした。オルタナティヴは「困った人を助けるのは魔法少女の基本」と言っているが、そういった困った顔ではないふうに見える。事実、手渡された髪飾りをもらってもあまり嬉しそうではなかった。

それでもありがとうございます、という彼女。オルタナティヴはというとたいへん満足そうだ。

 

「ねえ、わかる?私だよ、路伊ねえ」

「え!その呼び方、もしかして」

「私だよ。織姫だよ!」

 

スコヴィルとオルタナティヴの再開のときと同じような、感動の瞬間を見せつけられる。実際嬉しいところなんだとは思うが、だったらタトルにことわりをいれてスコヴィルを代わりに連れていってほしかったと思う部分もあった。部外者は退屈だ。

 

「えと、この人は……?」

「タトル・クイーンズ・レオさん。私がいまお世話になってる、魔法少女チームのお姉さんだよ」

 

タトルは頭を下げた。女王らしい気品を意識し、少女の反応をみる。彼女はすこし苦い顔をしていた。それから、よろしくです、と頭を下げる。特にチームと言ったときからはっとして怯え顔になっていたのを、タトルは見逃してはいない。チームを組むということになにかしらのトラウマでもあるというのだろうか。

 

たしかに、少女は見るからに着込んでおり内向的な性格も立ち姿からわかる。オルタナティヴと話しているときは少しだけ柔らかくなっているものの、こちらを見るときは心の内に何かを抱えていて、隠し事をしているような気がする。オルタナティヴの知り合いだというなら信用してやりたいが、世の中には成り済ますのが得意な魔法少女だっているし、本人だとしても利用されているかもしれない。知り合いではないタトルあたりが疑っているくらいがちょうどいいだろう。

 

タトルはそう判断し、オルタナティヴには彼女を連れて帰るかどうかの話だけをした。返答はもちろんイエスだった。予想通りだ。素直に迎え入れても、女王が気を抜かなければいい。

帰りには飛んでくる銛、そして背後の少女の動向に気を張りながら、再び心配をして杞憂に終わらせた。

 

 

拠点で待っていた三人のうち、特にスコヴィルが反応し、タトルとアイサとツインはおいてけぼりにされる。数年会えていなかった友人同士の再会となれば、周りが見えなくなるのも仕方がない。

スコヴィルとオルタナティヴと少女は喜びを分かち合ったのち、あらためてその少女の紹介をはじめた。

 

「えっと、わたし、裂織サキっていいます。よろしくっ、おねがいします!」

「サキはね、私とオルタちゃんの友達なんだよ。三人のなかで一番先輩なの」

 

先輩とは言っているが、スコヴィルたちの態度とサキの体躯などからして、お姉さんとはたぶん呼べない。背丈はツインといい勝負だ。服装は魔法少女らしいコスチュームではなく防寒着のボロを何枚もつなぎあわせて着ているものでありシルエットではふくらんで見えるし、茶髪のポニーテールもまた魔法少女の派手さにはそぐわない地に足のついた可愛らしさを感じさせる。威圧感というものはなく、また本人も縮こまってしまうタイプだ。

女王としては扱いやすいかもしれないが、隠し事をしているなら、警戒すべきだと思った。

 

「……ここで生活させるのじゃ?」

「えっ?」

「いや、悪い癖でな。つい瞳を見てしまうのじゃ。サキといったか、おぬしの瞳はこの場にいる誰とも違う。罪悪感の目じゃ。普通はそんな目、久方ぶりに友達と会っておいてせんわ」

「ちょっと。何様のつもり?サキにオルタちゃんをとられたくないってこと?」

「そんなことが言いたいわけではない。ただな、よからぬことを考えている輩、よからぬことをさせられている輩、なんかとは何度も出会っておるからの。見過ごせないと言えば、それが本音になる。のじゃ」

 

ツインはサキに対して否定的で、タトルと同じく疑っているがスコヴィルの神経を逆撫でしてしまっている。何かしらの策があるのか、それともスコヴィルの言っているとおりの嫉妬だろうか。ツインに限ってそれはないだろう。

タトルにはツインの言いたいことのすべてはわからない。恐らくはタトルよりずうっと場数を踏んでいるツインを頭ごなしに否定するのは悪手だ。

 

かといって、サキを追い出すようなことを言い出せば、オルタナティヴやスコヴィルの気持ちを尊重しているとは言えない。民から強い不満を買えば、王政は崩壊する。タトルはツインとスコヴィル、双方のことを考え、結論を出さなければならない。

 

「……焦るなよ、女王タトル。私は馬鹿だ、だからまともな案は出せない。だが、ここでは皆が他人のことを想っているんだ。未然に防ぐのが一番いいのは確かだが、ひとりを切り捨て危険を排除するのが女王の務めではないだろう」

 

アイサの言うことは確かだった。タトルは、落ち着かなければならない。

サキを疑っているのは、不確かな証拠しかないツインとタトル。信用しているのもまた証拠を持たないオルタナティヴとスコヴィルだ。まずは確実になるまで様子をみるしかない。タトルは考えた末、こう決めた。

 

「オルタナティヴとスコヴィルとサキは共に行動するように。何かあれば報告すること。お二人とも、信じていますわ」

「そうじゃな。わらわもそれでよい」

 

ツインも納得してくれたらしい。タトルは胸を撫で下ろし、サキも自分を取り囲む火花に困っている様子だったが知り合いふたりが一緒と聞いてその色は薄くなった。

女王は時に決断を求められる。上に立つ者には、そういった責務がついてくるのだ。

 

サキのことは旧知の友人であるふたりに任せ、三人で一緒にいてもらうために隣の家に移ってもらった。ツインとアイサもそれぞれ一室を使い、タトルがやっと今日の責務を終えた。

 

タトルの心と身体をいたわってくれる緑茶も和菓子もなく、娯楽も睡眠くらいしかない。最低限の家具の他には何も残っていないあたり、ひたすらにつまらない街だと思う。N市の外に出ることもできない。

タトルはアイサやスコヴィルと出会えたからよかったものの、彼女らがいなかったと思うと。ひっそりと、自死を選んでいたかもしれない。

 

タトルは机に突っ伏して吐息をこぼした。考えることしかなくて、あんこが足りず頭がいたくなる。気分転換に外の空気を吸いに行こうと思ったが、ひとりで出歩くのは危険だ。アイサとツインはいまなにをしているのだろう。

ぼんやりと外を眺め、空想で瓦礫の森に一羽の鳥を飛ばし、その心境を思う。我ながらさみしく、悲しい暇潰しだが。女王は孤独でいい。それこそ、あの瓦礫の森を飛ぶ鳥のように。

 

やがて、その鳥は狩猟者によって撃ち落とされてしまう。

 

タトルは背に鋭い痛みを感じた。刃の感触だ。覚えがある。これは骨に阻まれまだ浅く一命を取り留めているが、もっと的確に狙われていたら即死だった。

刃を持った魔法少女はこの家にはツインしかいない。彼女がやったのか。混乱する頭で振り返り、どの視界には誰もいなくて、無から放たれた刃をふたたび受けた。

今度は片腕を犠牲にして逸らすことができた。これは銛だ。あのとき襲ってきた見えないハンターに、ついに拠点が割れてしまったらしい。タトルに流れる女王の血が垂れ、床が赤くなる。

 

自分が死ねば、このチームはどうなるんだ。指揮はサキを疑いスコヴィルと食い違うツインではまとまらない。タトルは生きていなければならない。

 

魔法を使って自らの目を変化させる。あまりに美しくなく、女王にそぐわないため使おうとは思えなかったが、不必要なまでに見える甲殻類の目を借り、なにもないかと思われた空間を見る。

 

目の前に、バラの花を纏った魔法少女がいる。彼女は今度こそタトルの息の根を止めるべく銛をつがえている。間に合うか。間に合わせるしかない。尾を形成させその足元へ振るい、相手の反応は一拍遅れたというのに当たることはなかった。狙いがずれた銛が壁に突き刺さるだけだ。次の銛を装填するまで一瞬の隙がある、そのうちに叫ぶしかない。

 

「……メルヴィルッ!再び女王を狙うのですね、不届きものがッ!」

 

その魔法少女――『メルヴィル』はタトルのよく知る敵だ。理由は単純、アイサにとってのデイジーのように、メルヴィルはタトルを殺した張本人であるのだから。


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