それと話が長くなりそうなので、今回から連載に変えました。
ダクソの方も書かねば……ッッ!!
パチパチ、と藁が燃えている。
焚火の傍らには武蔵が立っており、手にした何かを興味深げに弄っている。
シュッ、と親指でつまみを回せば火が出るそれに、感嘆の声が出る。
「なんと♡」
再び、シュッ。
「なんとなんと」
もう一回、シュッ。
「なんと便利な物か」
「ムサシ君、何をしているんだい?」
振り返ると、そこには若干眠たそうにしているヘスティアの姿があった。ほぼ一晩中ベルの介抱をしていたためだろう。
「“べる”はまだ起きんのか」
「うん、まだ眠っているよ。まったく無茶なんかして」
仕方のない子だよ、と膨れるヘスティアと世間話をしつつ、武蔵はやがて炭となった藁を手で掬い、予め持ってきた器にそれを入れる。
「さてさて……」
「む、ムサシ君?本当に何をしているんだい?」
「
ぐりぐり、と泥のような何かを作っている武蔵。ヘスティアは身長差があったために何をしているのかよく見えなかったが、それでも奇異の目で見ない事は出来なかった。
「出来た」
そう言うと、武蔵は
「ん」
「なんだい………それ………?」
受け取ったヘスティアの目に困惑の色が浮かぶ。
どう見てもそれは油と炭を混ぜただけの代物。汚物と言っても過言では無いそれを渡された彼女はどうする事も出来ず、そのまま突っ立ったままでいる。
「軟膏だ。“べる”の傷にそれを塗ってやれ」
「……ハァ!?軟膏?これが!?」
「なにか変か?」
「いやいやいやいやいや!こんなの塗ったらバイ菌が入っちゃうよ!?」
「馬糞よりはマシだろ」
「ばふっ……!?あ、あふぉーッ!!なにボクのベル君にう○こ塗ろうとしてるんだァーー!!」
「あれは臭かったなァ」
「無視するなぁーーーッ!!!」
とまぁ、ベルが起きるまでにそんな事があり、現在。
『ステイタス』の更新を済ませたベルとヘスティア、そして武蔵は朝食を取っていた。無論、ヘスティアが頂戴してきたジャガ丸くんだ。
「それじゃあ、ムサシさんがダンジョンで気絶していた僕を、ここまで運んできてくれたんですか?」
「ああ、そうだな」
「ムサシ君には感謝するんだよ、ベル君。あのままだったら今頃きっとモンスター達のご飯になってたかもしれないんだぜ?」
「はっ、はい。ところで神様、なんだかいっつもより距離が近いような……?」
「えー?気のせいじゃないかなァ~~~?」
ジャガ丸くんに塩を振って食べる三人は、食事をしながらそんな会話をしている。
座っているのはいつも通りソファなのだが、端に大柄な武蔵が座っているために座る面積の半分を独占、その隣に座るベルとヘスティアの距離は自然と近くなった。
「あっ、ベル君!そのジャガ丸くん美味しそうだねぇ!ボクにも一口おくれ!」
「ちょっ、か、神様!?どれも味は同じで……ひぅ!?」
(ふふふ、グッジョブだよムサシ君!君を眷属にして本当に良かった!)
ヘスティアは好機とばかりに不自然なスキンシップを繰り返す。ベルはヘスティアが動く度に当てられる豊かな双丘に悶え、隣の武蔵に助けを求める。
「む、ムサシさん!助け……!」
しかしやはりと言うべきか、武蔵は我関せずと言った様子でジャガ丸くんを食べ進めていた。
「ふむ、芋を煮るでも焼くでもなく……こんな喰い方があったのか」
「ムサシさぁん!?」
「さぁベル君!観念してそれをボクによこすんだぁーーー!!」
もにゅ、もぐ……と食べ進める武蔵。
叫ぶベル。
そして飛びかかるヘスティア。
新たな眷属を向かい入れた【ヘスティア・ファミリア】の朝は、こうして騒がしく過ぎていった。
ところ変わって。
場所は【ロキ・ファミリア】の
遠征の際の作戦会議などをする際に使用されるその部屋には、アイズ達幹部勢のほとんどが集まっていた。
「昨晩の事はなんて言えば良いんだろうね」
団長、フィンの言葉に応える声は無い。
痛いほどの沈黙が漂う室内。この空気を打倒すべく、フィンは話題を変える。
「ベートの様子はどうだい?」
「どうもこうも無いわい。目を覚ました途端にダンジョンへと潜って行ったわ」
「片方の足甲が壊れてるってのに……」
「バカ狼……」
ガレスの返答に次いでティオネ、ティオナが呟く。ベートとは決して良い仲とは言えない彼女たちだが、その言葉からは覇気が感じられない。
「ムサシ・ミヤモト……彼の名に心当たりのある者はいないね」
「ああ、誰も聞いた事のない名前だ」
「響きは極東のヒューマンのものに似ておるが……」
リヴェリアとガレスの言葉もそこで途切れる。
酔っていたとはいえ、Lv5のベートの攻撃を全く意に介さず、逆にベートを床に叩き付けると言う始末。
結局その後は誰も彼を追う事は出来ずに終わってしまったが、彼の存在は【ロキ・ファミリア】の心に深く刻み込まれた。
「ひとまず彼に関する情報があれば、いち早く知らせてくれ。あれ程の冒険者が何の噂も立たない訳が無い」
フィンの言葉に神妙に頷く一同。
それぞれがそれぞれの行動に移るために部屋から出て行く。あとに部屋に残ったのは、フィンとアイズだけだった。
「アイズ、何か言いたい事があるんじゃないかな?」
「……フィン」
「遠征が終わってから、君はどこか深刻そうな顔をしていた時があったね。そしてロキが急に倒れた時も……何か彼に関して、心当たりがあるんじゃないかな」
「……」
アイズはおずおずと話し始めた。
そしてその口から語られた内容に、フィンは改めて
朝食を終えた武蔵たちは各々の行動を取っていた。
ベルはダンジョンへ。
ヘスティアはバイトへ。
そして武蔵は冒険者登録をしにギルドへと行っていたのだが……。
「え、えーと、ムサシ・ミヤモトさんで良いんですよね?」
「宮本武蔵と言っているのだが……まぁそれで構わん」
「……所属しているファミリアは……」
「あァ~~~……確か……へす……てぃあ………」
「…………生まれは、どこですか?」
「天正××年、○○村の生まれだが……」
受付嬢、エイナ・チュールは困惑していた。
自身が担当している冒険者であるベルが嬉しそうに『団員が増えた』と聞いた時は素直に驚いたが、同時に嬉しかった。
いつまでも
しかし、流石にこのような人物を連れてくるとは思わなかった。
ざんばらの髪に無精ひげ、防具らしき防具は身に着けてらず、武器は腰に差した刀のみ。数多くいる冒険者の中でも最も貧相な身なりに、初めて見た時のエイナの顔は引き攣っていた。
ベルは武蔵が冒険者登録をしている間にさっさとダンジョンへと潜ってしまったし、今この場にエイナを助けてくれる者はいない。
よって、エイナは一人で武蔵の相手をしなければならなかった。
(なんでベル君は先に一人で行っちゃうかなぁ。せめてムサシさんの登録が終わるまで待っててよぉ……)
そんなエイナの胸中など知る由もない武蔵は先程からせわしなくギルド内をきょろきょろと見回し、感心したように溜め息を吐いている。
「これほどまでに壮大な屋敷を建てるとは……いやはや何とも……」
(それにこの人の格好……どこかで見た事があるって言うか、聞いた事があるって言うか……)
エイナは書類を作成しながらそんな事を考えていた。必死に思い出そうと記憶の本棚を探していたが、中々思い出せない。
「えいな殿」
「えっ、あッ、はい!」
「登録は済んだか?」
ぼう、としていた所に突如かけられた言葉。ハッとするエイナを武蔵はじっと見ており、何とも言えない空気が二人の間に漂う。
「も、申し訳ありません。はい、これで登録は完了です」
「うむ。承知」
そう言って武蔵はギルドを出て行った。
その姿はあっという間に人ごみの中に消えていき、やがて完全に見えなくなる。
「あれがベル君の新しい仲間かぁ」
苦労しそうだな、と、エイナは一人ベルの心配をするのだった。
ギルドを出た武蔵はそびえ立つバベルを見上げていた。
天まで届かんばかりのバベル。
初めてオラリオを訪れた者は必ずその巨大さに圧倒される。初めて見た時の武蔵も同様にそう思った。
しかし、今の武蔵が思っている事は違う。
「ふむ」
上から下へ、じっくりとバベルを観察する。
顎に手を当てて何やら考えている様子の武蔵、その胸中の思いはこうだ。
(巨大ではある……が、斬れるな)
(斬る箇所は……まァ、定石通りに足元か)
(特に負荷が掛かっている所を四箇所……否、六箇所ほど斬れば
「ふふ……この愛刀、無銘・金重をもって刃こぼれは免れ得ぬがな」
不敵に笑う武蔵は腰の愛刀をさすり、そんな事を口にした。
「城斬りもそれはそれで面白くはあるのだろうが……」
ざっ、と踵を返す武蔵。
その足はダンジョンでは無く、オラリオの市街地へと向かっている。
「とりあえず、今日は観光といこうか」
夜。
【ガネーシャ・ファミリア】の
そんな中にちんまりと存在する小さな姿。
並べられた料理を素早い動作でタッパーに詰め込む彼女、ヘスティア。ド貧乏ファミリアの主神である彼女が人知れず、涙ぐましい努力をしていると、その背に声を掛ける者がいた。
「何やってんのよ、あんた……」
「むぐっ?」
リスやハムスターのように頬を膨らませて料理を詰め込んでいたヘスティアが振り向くと、そこには彼女の神友の姿があった。
「ヘファイストス!」
「相変わらずね、ヘスティア」
「会えて良かったよ、やっぱりここに来て正解だった!」
「何よ、お金なら1ヴァリスも貸さないわよ」
「なッ……!ぼ、ボクがそんな事するとでも思っているのかい!?」
【ヘファイストス・ファミリア】主神、ヘファイストス。
神友である彼女と再会したヘスティアは喜び破顔した。そうして二言三言、言葉を交わしている内に、【フレイヤ・ファミリア】主神、フレイヤ、そしてロキまでもがやって来る。
オラリオでも高名なファミリアの主神達(約一柱を除く)が集まり、話題も弾む。
やれ、最近はどうだ。
やれ、うちの子供達は自慢だ。
やれ、この貧乏神が。
やれ、この絶壁が。
やれ、ロリ巨乳VSロキ無乳だ。
周りの神達から
「はぁ……はぁ……、き、今日のところはこんくらいにしたるわ……!」
「ふんっ!次に会うときは、その貧相なものを少しは成長させてからにするんだぞ!!」
「うっさいわボケェ!!……あーもう散々や、昨日のあのけったいな子供と言いドチビと言いもう最悪や……」
「? 昨日なにかあったのかい?」
「ドチビには関係あらへんわ。斬られてまえアホンダラ」
「なっ……!?ふ、ふっふーん!去り際の捨て台詞まで貧相とは恐れ入ったよ!この絶壁残念負け犬女神めっ!!」
「だぁぁああああうっさいわアホォーーー!!覚えとけよおぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
こうして。
『神の宴』はつつがなく終わり、オラリオの一日は過ぎていく。
『