ダンまち×刃牙道   作:まるっぷ

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日刊短編ランキングで一位だったのを見て思った事。



”謝りたい”と”感じている”。

だから感謝と言うのだろう。

これを感謝と言うのだろう。



本当にありがとうございます。




『ギィアアアッ!!』

 

ダンジョンにモンスターの悲鳴が木霊する。

 

場所は第4階層。比較的浅い階層のため、それなりに経験を積んだ新入りの登竜門とも言える。

 

『ギュギィィイ!!』

 

薄暗い洞窟の中に他の冒険者の姿は見られない。地上では真夜中のため、この階層を利用する冒険者はすでに地上に帰っているのだろう。

 

『アギャッ!?』

 

故にモンスター達が大手を振って闊歩するダンジョンの中、一つの足音が響いている。

 

足音の主は防具らしきものは一つも身に着けておらず、武器は腰に差した刀のみ。その刀すらも、今は腰に差された鞘に収まっている。

 

『ギッ、ギアァアアアアアッッ!!!』

 

襲い掛かってくるゴブリンを手刀で迎え撃つ。と言っても、直接攻撃するわけでは無い。

 

鋭い爪で切り裂こうと飛び上がったゴブリンの身体を、斜めに手刀でなぞる。それだけでゴブリンは苦しみ悶え、やがて灰へと還っていった。

 

「ふむ」

 

その様を眺めながら足音の主……武蔵は鼻を鳴らして自らの後ろを振り返る。

 

彼の背後には灰と魔石が点在していた。既にダンジョンに入ってから何匹もこうして屠って来たため、更に後ろにはまだまだ魔石が落ちている。

 

「犬やら蛙やら子鬼やら……いつでも百鬼夜行だな、ここは」

 

ズチャ、と武蔵は歩きながらそんな言葉を零す。妖怪とは言ったが、武蔵は全く気にもしていない。その証拠に武蔵は更に、奥へ奥へと歩き続ける。

 

『豊穣の女主人』を出た後、武蔵はバベルへと向かった。

 

入口に立っているギルド職員の目を盗み、闇夜に紛れる武蔵は誰にも気付かれる事は無かった。

 

と言うのも、フィン達に案内されてダンジョンから出る際に目にしたギルド職員(門番)を警戒し、仕方なくこの方法で侵入する事にしたのだ。

 

とは言え、そう何度も出来る事ではない。

 

「紹介状の様なものが必要か」

 

コリ、と頭を掻きながら武蔵は考える。身分を証明したいが、生憎今は根無し草。浮浪者とさして変わりはない。

 

「どこかに居場所を見つけねばならんか」

 

とりあえず今後の指針が立った武蔵は、襲ってきたフロッグ・シューター(蛙の妖怪)を蹴散らしながら先へと進む。

 

ここに来たのは特に目的があったからでは無い。

 

何となくオラリオ(ここ)江戸(あそこ)ではないと分かった武蔵は、最初にいた場所まで行ってみようと思っただけ。ついでに何か面白いものが見れれば良い、くらいにしか思っていなかった。

 

確かに多くのモンスターと出くわしたが、まるで相手にならない。野生の馬の方がまだ危ない。

 

もっと奥へ、と進んでいた武蔵であったが、ここで何やら音が聞こえてきた。

 

「ん……」

 

立ち止まり、耳を澄ませる武蔵。

 

暗闇の中で耳に手を当て、聞こえてくる音に集中する。

 

「―――ォ……」

 

「……あァ―――――」

 

「―――――ォ―――ッ」

 

奥から聞こえてくるのは何者かの雄叫び。

 

奥から伝わってくるのは何者かの闘志。

 

両腕を降ろした武蔵が歩き出す。

 

やがてその音が聞こえなくなっても、武蔵は歩き続けた。

 

 

 

 

 

「おッ」

 

しばらく進み、辿り着いた第6階層。

 

武蔵の目の前には一人の少年が倒れていた。

 

武蔵と同様に防具は付けておらず、来ている服は至る所が破け、裂け、血に濡れている。

 

近くにはこの少年のものと思われる短刀と、血に濡れた爪のようなモノが落ちている。

 

武蔵はこの全身傷だらけの少年をじっと見下ろす。

 

ボロボロになった衣服。

 

全身に刻まれた生々しい傷。

 

そして、周囲に散らばる大量の灰と魔石。

 

「ふむ」

 

武蔵はこれを見て察する。

 

この倒れている少年が、あのモンスター(妖怪)共を倒したのだと。

 

「見たところ、まだ元服も済ませておらんようだが……」

 

ちらり、と少年の左手の切傷を見る。

 

まるで刀身を直に握ったかの様な傷跡。武蔵は少年の顔と落ちていた爪のようなモノとを見比べ、感心した様子で口角を釣り上げた。

 

「っほ~~~。見かけに反してなかなかに豪気な……」

 

そう言って武蔵はその場にしゃがみ込むと、そっと少年の肩に手をかける。

 

「おい、(わっぱ)、起きろ。風邪ひくぞ」

 

無遠慮に語りかける武蔵に、少年は痛みに顔を歪ませつつも反応を示した。やがて焦点の合わない目がぼんやりと武蔵を捕らえると、血が滲んだ口が開かれる。

 

「だ……誰、ですか………?」

 

「宮本武蔵と言う。おぬしの名は何と申す?」

 

「僕は………ベル、です……」

 

「べる、か……よし覚えた。して“べる”よ、いつまでこんな所で寝ているつもりだ。腹が冷えるぞ」

 

息も絶え絶えの少年に対し、武蔵は普段と全く変わらない調子で話しかけている。しかし少年はそんな事にすら気が付かないのか、武蔵の言葉を非難すらしなかった。

 

「僕……帰らなきゃ………」

 

「帰る?どこへだ」

 

「……神様の、ところです……」

 

「“かみさま”……よく分からんが、詰まるところのお前の主君か」

 

「そう…です……かえらな、きゃ……」

 

「おっと」

 

満身創痍の体に鞭を打って立ち上がる少年。しかし疲労によって体力は底を尽き、倒れ込んでしまう。そんな少年の体を武蔵は支え、そしてそのままひょいと肩に担ぐ。

 

「ここで会ったのも何かの縁。どれ、俺が送ってやろう」

 

「ぁ……ありがとう、ございます………」

 

「気にするな。して、お前の主君はどこにおるのだ。そう言うからには多分それなりの屋敷なのだろう?」

 

「……オラリオの端の……路地裏の壊れた教会です………」

 

「……はぁ………そうか……」

 

 

 

 

 

ヘスティアは硬直した。

 

いつまで経っても帰ってこないベルを心配し、近辺を探したが収穫はゼロ。

 

日を跨いでも一向に帰ってくる気配は無く、事件にでも巻き込まれたのではないかと不安が急速に大きくなっていく。

 

居ても立ってもいられなくなったヘスティアは再びベルの捜索に行くべく、勢いよく扉を開けた。

 

 

 

そしてその目に飛び込んできたのは、一人の屈強な男だった。

 

 

 

(誰!!?     泥棒!?     でっかッ!!     強そう!!     110番!?     大声出すぞっ!!     てゆーかベル君探さなきゃ!!)

 

ヘスティアの胸に去来する数々の思い。

 

身体を硬直させながらも心の中が嵐のように荒れ狂う彼女とは反対に、武蔵はのんびりとした調子で扉をくぐる。

 

「ここか、お前の主君の住居は」

 

(入って来たァ!!?)

 

ぎぎぎと首を動かすヘスティア。

 

あまりに自然に上り込んできた武蔵を引き攣った顔で振り向くが、その顔はすぐさま驚愕の色に染められる。

 

「ベル君っ!?」

 

武蔵は肩に担いでいたベルを、近くのソファに降ろした。少しくたびれたソファにベルが横たえられるや否や、ヘスティアは飛びつくようにベルに駆け寄る。

 

「だっ、大丈夫かいベル君!?なんでっ、なんでこんな傷だらけで……!?」

 

変わり果てた眷属の姿にうろたえる中、その傍らに立っていた武蔵はおもむろに口を開いた。

 

「安心せい。見かけ程傷は深くない、薬をつけて一晩眠れば良くなる」

 

「! ほ、本当かいっ!?」

 

「ああ。少なくとも死にはせん」

 

「よっ、良かったぁ~~~!!」

 

安堵の表情を浮かべ、ヘスティアはその場に崩れ落ちた。

 

その後のヘスティアはベルの介抱にてんやわんやだった。

 

服を脱がせてはいちいち大騒ぎし、傷口を見ては大騒ぎし、それでも何とか体を拭いて薬をつけ、寝室に寝かしつけた。

 

全てが終わった時にはすでに一時間以上が経過しており、慣れない事に動き回ったヘスティアはふうと額の汗を拭う。

 

「さて」

 

と、一息ついたのも束の間。ヘスティアはソファでは無く床に胡坐をかいている武蔵のいる方に向き直る。

 

「遅れてしまったけど、ありがとう。ベル君をここまで運んできてくれて」

 

「礼には及ばん。俺が好きでやった事だ」

 

「はは、君は謙虚なんだね……でも、それでも言わせてほしい」

 

ありがとう、と。

 

ヘスティアは深々と頭を下げる。瀕死と言っても過言では無い唯一の眷属を連れてきてくれた事に対し、最大限の感謝を込めて。

 

「お礼と言っては何だけど、ボクに出来る事があれば何でも言ってくれ!……まぁ、大した事は出来ないんだけどね」

 

「ふむ……“礼”か」

 

武蔵は困り顔で笑うヘスティアを見て、何やら考える素振りを見せる。

 

「ならば、その言葉に甘えて……」

 

武蔵は何かを決めたように、その言葉を口にした。

 

「俺をここに置かせてくれ」

 

 

 

 

 

「……ぅ……ん」

 

「あっ、ムサシ君ムサシ君!ベル君が起きたよっ!」

 

「ぁ……かみさま……?」

 

ベルが目を覚ますと、そこは馴染みの場所だった。

 

いつも寝ているベッドの上に寝かされていたベルは傍らで喜んでいるヘスティアを横目で確認すると、不思議そうに周りを見渡す。

 

「あれ、……僕、ダンジョンにいたはずなのに……」

 

「オウ、目覚めたか“べる”」

 

声のした方向に視線を向けると、そこに居たのは見知らぬ男。

 

華奢な印象を与えるベルとは正反対の、非常に逞しく頼もしい印象を与えるその男はそのまま二人の元まで近づいて来る。

 

「あ、あの、神様。この人は……」

 

「えっ?なんだいベル君、覚えてないのかい?」

 

説明を求めるベルに対し、ヘスティアは目を丸くしてそう答えた。

 

「まァ覚えていないのならば致し方ない。改めて自己紹介といこう」

 

新たな身分も得た事だしな、と男はそう言って、堂々と名乗る。

 

「【へすてぃあ・ふぁみりあ】の宮本武蔵だ。よろしく頼むぞ、“べる”」

 

 


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