ダンまち×刃牙道   作:まるっぷ

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戦闘描写はやっぱり難しいですね。刃牙風の描写も加わってるのでなおさらそう感じました。

更新が遅くなってしまいましたが、どうぞよろしくお願いします。


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大剣を構えたまま武蔵と向き合うオッタル。巌のような顔には端からは変化がない様に見えるが、その実、胸中はそうでもなかった。

 

(俺の打ち込みをああも平然と弾くか……なんという男だ、ムサシ・ミヤモト)

 

密かに敵を称賛し、大剣を握る両手に力を入れ直す。こんな感情を味わうのは、一体いつ以来だろうか。

 

オラリオ最強の冒険者をして、階層主との戦いでも感じたことの無い緊張感を与えた張本人……武蔵は肩を叩いていた刀を下ろすと、その手をまじまじと見つめた。

 

「なんたる膂力………まだ痺れとる」

 

オッタルの斬撃を弾いた武蔵の刀。

 

刃を大剣の腹に滑らせる形で弾いたは良いものの、手に残る痺れからそう何度もやっていい芸当ではないと悟る。

 

「それだけではない。その剣、かなりの業物であろう」

 

「分かるか」

 

「分かるとも、オッタル」

 

睨み合ったまま語る両者。立ち合いの最中とは思えない会話に、観客たちは怪訝な顔を浮かべている。

 

そんな彼らを気にも留めず、武蔵はオッタルとの会話を続けた。

 

「俺もオラリオ(ここ)に来て色々学んだ。モンスター(妖怪)も、冒険者も、そして―――オラリオ(ここ)(かね)も」

 

僅かに細められるオッタルの双眸。

 

武蔵は表情を変えずに言い放つ。

 

「“でゅらんだる”か」

 

 

 

不壊属性(デュランダル)

 

 

 

最硬金属(アダマンタイト)の更に上をゆく、事実上、破壊不可能の金属。その硬度は凄まじく、深層のモンスターの攻撃を何度受けても、絶対に破壊されないと言われる程だ。

 

しかし不壊属性(デュランダル)はその特性の一つとして、武器そのものの威力が低いというデメリットが存在する。

 

「しかしおぬしの放った先程の一太刀はあまりに重かった。膂力によるものだけではない、恐らくは他の(かね)で出来た剣、その刃以外を“でゅらんだる”で覆っておるのだろう」

 

「………その通りだ」

 

オッタルは構えを解き、大剣を地面に突き立てた。魔石灯の光を反射し、眩く光る不壊属性(デュランダル)のコーティングが閃く。

 

最硬金属(アダマンタイト)の大剣を不壊属性(デュランダル)で覆っている。深層のモンスターとの長期的戦闘にも耐えうる、限りなく不壊属性(デュランダル)の硬度に近付けた武器だ」

 

その言葉に観客がどよめく。

 

武蔵が言い当てた事もそうだが、なによりその大剣そのものに対しての驚愕だった。

 

「マジか……」

 

「そんなんありか……?」

 

不壊属性(デュランダル)の堅牢さと最硬金属(アダマンタイト)の威力。本来両立し得ない二つの特性を持った大剣に、冒険者稼業の者たちは戦慄する。

 

そしてその中には、【ロキ・ファミリア】の面々も含まれていた。

 

 

 

「『猛者(おうじゃ)』め、とんでもない代物を持ってきたのう」

 

最硬金属(アダマンタイト)の大剣を不壊属性(デュランダル)でコーティングか。なんとも突飛な発想だ」

 

そう語ったのはガレスとフィンだった。【ロキ・ファミリア】の中でも最も長く近接戦を経験してきた彼らであるからこそ、その大剣の異常さに気が付いた。

 

フィンの隣に座っているティオネが、堪らず質問する。

 

「団長、本当にそんな事が出来るんですか……?」

 

「こうして彼がこの場に持ち出している以上、製法はあるんだろう」

 

でも、と区切り、フィンは語る。

 

「異なる金属同士を癒着させるのは至難の技だ。ましてや最硬金属(アダマンタイト)不壊属性(デュランダル)、加工にも一苦労する金属をそんな風に使うなんて……常軌を逸している」

 

コスト面、効率面から言ってもあまりに非現実的な武器。それほどの武器を武蔵との戦いの為だけに用意してきたのかと、【ロキ・ファミリア】一同は戦慄した。

 

それだけ『猛者(おうじゃ)』は武蔵を強敵と見なしているという事だ。

 

 

 

「ふむ」

 

突き立てた大剣を引き抜いて構え直すオッタルに、武蔵は何やら思案するように鼻を鳴らした。刀は依然として無造作に握ったままだ。

 

「“でゅらんだる”、中々のものだ。流石は不壊(こわれず)と言われとるだけの事はある。………が、果たしてそうか?」

 

「………」

 

「本当に不壊(こわれず)かどうか………興味がある」

 

すっ、と武蔵が抜き身のままだった刀を鞘へと戻す。

 

その刀身が鞘に収まりきる前に、オッタルが地を蹴った。先程よりも近い間合いはすぐに潰れ、武蔵へと肉薄する。

 

真正面からの斬撃。身体を両断せんばかりの勢いで振るわれる剛剣を、武蔵は半身を僅かに捻って回避する。

 

「ォオオッ!!」

 

地面を割った大剣を、オッタルは刃の向きを変えながら引き抜く。掛け声とともに足元から迫る刃は、今度は武蔵の胴体目掛けて振るわれた。

 

(「本胴」両の腕諸ともか……)

 

その剣筋が狙う先を見抜いた武蔵は、大剣から目を離さずに身を屈めた。

 

頭上を通り過ぎようとするオッタルの大剣。その瞬間を見極め、武蔵は腰に差した刀に手をかける。

 

 

 

そして、抜刀。

 

 

 

閃く武蔵の白刃。キンッ!と、鋭い金属音。

 

剣を振り抜いた格好のオッタルが素早く振り返ると、そこに居たのはすでに刀を構えた武蔵。咄嗟に大剣を盾にして、オッタルは武蔵の攻撃を防ぐ。

 

「むんッ!!」

 

「っ!!」

 

斬撃を受けた大剣から火花が飛び散り、激しい金属音が闘技場に鳴り響く。

 

オッタルは右足を鞭のようにしならせて鋭い蹴りを見舞う。顔面を狙った不意打ちの蹴りを、しかし武蔵は防いだ。足の甲に柄頭を合わせ、逆に迎撃して見せたのだ。

 

ガチンッ!という鈍い音がした。オッタルは蹴りの反動を利用し、その場から飛び退いた。

 

「っ……!?」

 

着地したオッタルはすぐさま体勢を立て直し、足の調子を確かめる。足甲に仕込まれている鉄板が盾の役割を果たし、どうやら無事のようだ。

 

「貴様……何故俺を狙って斬らん」

 

「言ったではないか。本当に不壊(こわれず)か興味がある、と」

 

戯言(たわごと)を―――ッ!」

 

再開される斬り合い。

 

オッタルの有利が揺るがぬままに順調に事が進むと信じ切っていた観客たちの目が、次第にオッタルから武蔵へと移されてゆく。

 

猛者(おうじゃ)』の戦う姿を一目見ようと楽しみにしていた者たちはいつの間にか、この無名の対戦者―――――ムサシ・ミヤモトの事を知りたがっていた。

 

 

 

 

 

眼下で繰り広げられる斬り合いを見ながら、【ロキ・ファミリア】はこの戦いを冷静に分析していた。

 

「ンだよ、あの野郎。剣ばっか狙ってやがる」

 

忌々しそうに口を開いたのはベートだ。頬の刺青を歪ませて不快感を露わにする青年に、隣に座っていたラウルが怯えたような顔で縮こまる。

 

「でもあの大剣って不壊属性(デュランダル)でコーティングしてるんでしょ?そんなのいくら切りつけたところで壊せるのかな」

 

「純粋な不壊属性(デュランダル)って訳じゃないし、流石にいつかは壊れるでしょうね。でもこの試合中に壊れるとは考えにくいわ」

 

「そうですよね、確か深層のモンスターとの戦闘にも耐えうるって言ってましたし……」

 

ティオナとティオネ、そしてレフィーヤがそれぞれの思った事を語る。

 

ティオナの疑問に答える形でティオネが意見し、それにレフィーヤも賛同した。

 

前衛職ではない彼女ではあるが、不壊属性(デュランダル)の性質くらいは知っている。それ故に彼女の目には武蔵の行動がただの徒労として映っていたのだが、ここで隣に座るアイズが、真剣に武蔵へと視線を送っている事に気が付いた。

 

「どうかしたんですか、アイズさん」

 

「……レフィーヤには、見えない?」

 

「え……?」

 

アイズの視線の先へと目をやるレフィーヤであったが、そこにはやはり武蔵とオッタルの戦っている姿があった。アイズの言葉の意味を考えようとしたレフィーヤだったが、そこに新たな声が降りかかってくる。

 

「これは……ッ!?」

 

「あやつ、まさか本当に……!!」

 

上段の座席に座っていたリヴェリアとガレスが、呻くようにして驚愕の声を漏らした。ほとんどの者たちがその言葉の意図が解らずにいる中、フィンがアイズに声をかける。

 

「気付いているかい、アイズ」

 

「うん」

 

眼下で繰り広げられる戦いから目を離さずに、アイズは首を縦に振る。

 

頬へと流れる冷や汗を拭う事もせず、彼女はフィンの言わんとしている事を口にした。

 

「ムサシさん………同じ場所を狙ってる」

 

 

 

 

 

絶えず響く鋭い金属音。それ自体は変わらないのだが、ここである異変が起き始めた。

 

「音が………」

 

「……さっきと少し、変わった……?」

 

武蔵が歩いて来た入場口から観戦していたベルとリリが同時に呟く。周囲の観客たちもようやくその事実に気が付き始めたようで、耳を澄ませている者もいる。

 

武蔵がオッタルの大剣に向けて刀を振るうたびに響く金属音。それが最初の時に比べ、どこか違って聞こえるのだ。

 

その時、背後にいたヴェルフがベルたちの前に躍り出た。入場口とアリーナとを隔てる柵をガッと掴み、食い入るように武蔵を見やる。

 

「嘘だろ……ムサシさん、本気で……ッ!?」

 

「ど、どうしたんだい、ヴェルフ君?」

 

信じられないと言った様子のヴェルフに、堪らずヘスティアが質問する。しかしヴェルフは振り向く事もせず、刀を振るう武蔵に目を釘付けにされていた。

 

鍛冶師だからこそ理解(わか)る事実。

 

鍛冶師だからこそ受け入れがたい事実。

 

間もなく突き付けられる事となる現実に、柵を掴む両手を震わせてヴェルフは呟きを漏らす。

 

不壊属性(デュランダル)が………切られる………ッ!!!」

 

 

 

 

 

「……あれ………?」

 

「なンかさ………音………」

 

「さっきまでと違くね……?」

 

大剣を振るうオッタル。

 

その大剣を狙う武蔵。

 

武蔵が刀を振るう事、既に十と余度(よたび)。間もなくその回数が二十に達しようとした時、一際大きな金属音が闘技場に鳴り響いた。

 

ギャリッ!!という音は、もはや金属を切ると言うよりは、鍛冶師が金属を加工する時の音に近い。観客たちにそんな事を連想させる斬撃を受け続けているオッタルは、ここに来て初めてその目を大きく見開いた。

 

(これは………ッッ!!)

 

大剣を握る両手に伝わる衝撃の大きさ。

 

一撃ごとに大剣の芯を揺さぶる斬撃の重さ。

 

これまでの攻防でも最も強烈な一太刀を受けたオッタルの大剣に―――――ついに一筋の亀裂が生じた。

 

「―――――ッッ!!」

 

切った跡をなぞる様に振るわれ続けた武蔵の斬撃。それは一度目よりも二度目、二度目よりも三度目、三度目よりも四度目……と、僅かにではあったが、しかし確実にオッタルの大剣を切り削っていた。

 

いまや大剣の腹は決して浅くはない傷が刻まれ、それは内に隠された最硬金属(アダマンタイト)の刀身にまで迫っている。綻びが出来てしまった以上、不壊属性(デュランダル)の堅牢さはほとんど無いに等しい。

 

(なんという男だ………ムサシ・ミヤモト)

 

胸中で呟く二度目の称賛。しかし彼の目は諦めてはいない。

 

不壊属性(デュランダル)の鎧を剥がされたとはいえ、その大剣の根本は最硬金属(アダマンタイト)。『大切断(アマゾン)』の二つ名を持つティオナの武器、大双牙(ウルガ)がそうであるように、それ自体も堅牢な代物だ。

 

(あと一度だけ振るえれば、それで良い……!)

 

「大した剣だ」

 

と、ここで武蔵が納刀しながら語りかけてきた。

 

「都合二十(たび)にも迫る俺の斬撃を受けてなお、まだ剣の形を留めておる……“でゅらんだる”、実に天晴(あっぱ)れであった」

 

「……俺の攻撃は問題にもならん、とも聞こえるぞ」

 

「確かにおぬしの剛剣は見事だが、剣筋が素直すぎる。あれでは避けてくれと言っておるようなもの」

 

「………」

 

狡猾(ずる)くあれ、オッタル。剛剣だけで押し切れるほど―――――俺は甘くはないぞ」

 

「………ふん」

 

武蔵の言葉を無視するかのように、オッタルは小さく息を吐いた。そして亀裂の生じた大剣を構えると、そのまま武蔵の元へと突貫する。

 

最初に見せた一撃を彷彿とさせるオッタルの攻撃に、しかし武蔵の目は冷ややかだ。迫りくる剛剣を見据え、鯉口を切る。

 

(やれやれ―――猪突猛進とはよく言ったもの)

 

チャッ、と刀に手をかける武蔵。

 

間合いに入るや否や、斜め下から迫り来るオッタルの大剣。その腹に刻まれた亀裂へと、武蔵は刀を振るった。

 

(なんとも策がない)

 

そんな思いを胸に抱きつつ振るわれた刀は、寸分の狂いもなく大剣の亀裂をなぞった。

 

日本刀という比類なき鋭利な刃。その中でも稀代の斬れ味を誇る無銘・金重。そしてそれを握るのは、他でも無い宮本武蔵。

 

その刃は最硬金属(アダマンタイト)ですらも問題にせず―――――遂にオッタルの大剣は両断された。

 

 

 

ギャリンッ!!という音と共に、二つに分かれた大剣。

 

呆気に取られる観客たち。

 

刀を振り抜いた格好の武蔵はにやりと笑い、そして―――――。

 

 

 

 

 

目の前に現れた、その巨拳を見た。

 

 

 

 

 

「―――――ォオオオオオオオオッッッ!!!」

 

轟く雄叫び。

 

肩から腕までの筋肉を隆起させて放たれたオッタルの左拳は、武蔵の顔面を真正面から打ち抜いた。

 

 




オッタルの剣はオリジナルで考えたものです。

原作はまだ10巻までしか読んでないので、オッタルの戦闘描写に違和感がありましたら申し訳ございません。

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