ダンまち×刃牙道   作:まるっぷ

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色々と無茶なところはありますが、大目に見て下さい。




最近、ダンジョンで不審な人影を目撃したという冒険者達からの報告が後を絶たない。目撃場所は定まっておらず、むしろ日毎に下層へと移動している。

 

冒険者達、曰く……。

 

「ホントに見たんだってッ!カタナを持った大柄(デカ)い男をッ!」

 

「も、モンスターを食べてました。すぐに吐き出してましたけど……まともじゃないですよ、アレ」

 

「ざんばらの髪に無精ひげを生やした、異様な感じの男だったよ」

 

と、証言を上げれば枚挙に暇が無い。

 

そんな人物がダンジョンを徘徊しているともなれば、ギルドも動かざるを得ない。しかし冒険者達からの証言は次第に度を越してゆく。

 

「えぇ、素手でした。こう、手刀みたいな形で。……はい、ヤリ合ってました、ドラゴンと」

 

「なンかこう、スパッ、て言うか、そんな感じで手を振り下ろしたんですよ。そしたらモンスターが、ねェ……逃げ出しちゃって……」

 

「青竹みたいの生えてるエリアあるでしょ。その竹で素振りしてたんだよ、ソイツ。そしたら振り下ろしただけでささら(・・・)にしちまったんだよ、青竹をだぜ?」

 

こんな証言ばかりになってくると、流石にギルドも訝しんだ。

 

そしてやがて彼らはこの結論に至った。

 

「これって……」

 

「うん……」

 

「「「「「 なンかの見間違いだね 」」」」」

 

 

 

 

 

ところ変わって、ダンジョン第51階層。響き渡る怒号が、異常事態が起こっている事を示している。

 

「全速力でキャンプへ戻れ!あの芋虫たちが襲っているかも知れない!」

 

【ロキ・ファミリア】団長、フィン・ディムナの指示の元、アイズ達は起伏の激しい岩場を、跳躍を繰り返して突き進む。

 

遠征の途中に現れた、腐食液を吐き出す芋虫型のモンスター。2班に分かれて行動していたアイズ達だったが、このモンスターの強襲によってキャンプへの帰還を余儀なくされた。

 

ラウルの負傷、そしてフィンの“親指の疼き”がその理由だ。

 

やがてキャンプに到着したアイズ達が見たものは、無数の芋虫の大群だった。残った団員達がリヴェリアの指示のもとで必死に迎撃しているが、数が数だった。急いで加勢しなければ、と全員が戦闘態勢に移行する。

 

『ギィィイイイ!!』

 

その時、アイズ達の側面に広がる森林地帯、そこから一匹の芋虫が飛び出してきた。

 

アイズが反射的に剣を構えるが、しかし芋虫はどこか様子がおかしい。不審に思っていると、やがて芋虫は力尽きたようにその場に倒れ、魔石を残して灰へと還った。

 

外傷らしいものは無かったはず。アイズが訝しんでいると、ふと森の方から足音があった。

 

パキリ、パキリと枝を踏み折ってこちらに歩いて来るその男に、アイズ達の視線は釘付けにされてしまった。

 

ざんばらの髪に無精ひげ。防具らしい防具は身に着けておらず、東洋に伝わる着物らしいものに身を包んでいる。腰には刀らしき武器が差されているが、今は鞘に収まったままだ。

 

異様と言えば異様な格好の男。しかしアイズ達の視線が釘付けになったのは、それが原因では無い。

 

 

 

それは男の風貌(かお)だった。

 

 

 

大きく見開かれた双眸は吊り上がり、静かにアイズ達を見据えている。口は横一文字に閉じており、きちんと歯まで噛み合っているようだ。更に良く見てみると、服の裾から見える地肌には幾つもの刀傷があり、この男が只者では無い事を教えてくれる。

 

「南蛮の方々」

 

男は口を開いた。

 

アイズ達はその声に敵意はない事を感じ取り、一先ず安堵した。が、ここで一同はある疑問を覚えた。

 

なぜ、こんなにも緊張しているんだ?と。

 

そんな事を思っているとは露知らず、男はアイズ達に話しかけた。

 

「何やら困っている様子。俺で良ければ手助けするが、代わりにここからの出口を教えてくれんか?」

 

 

 

 

 

その後、男とアイズ達は芋虫の大群の掃討を始めた。上級冒険者が複数がかりだった事もあり、鎮圧にはさほど時間はかからなかった。腐食性の体液が厄介だったが、予備(スペア)の武器を使い潰す事によってなんとかカバーできた。

 

「そう、予備(スペア)の武器があったから危なげなく勝てたっす」

 

こう述べるのは腐食液の被害にあった【ロキ・ファミリア】所属の冒険者、ラウル・ノールドである。

 

彼は後にキャンプでの戦いをこう供述した。

 

「アイズさんの《デスペレート》。あれは不壊武器(デュランダル)だから、アイズさんもあそこまで戦えたんじゃないのかなぁ、って思うんすよね」

 

「でも、アイズさん達が連れてきたあの人……武器も使わなかったっす」

 

「……え?素手で殴り倒したのかって?ははは、まさか。ティオネさんじゃあるまいし」

 

「多分、そういう魔法でも使ってたんだと思うっす。だってそうじゃないと説明がつかないじゃないっすか?」

 

素手で斬る真似をしただけで、ホントにモンスターがやられるなんて。

 

ねェ?

 

 

 

 

 

斬る(真似)。

 

斬る(真似)。

 

斬る(真似)。

 

男がしたのはそれだけだった。

 

それだけで男の周囲にいた芋虫達は悶え苦しみ、灰へと還る。気が付けば男の周囲は灰だらけで、しかし全く負傷などはしていなかった。

 

(なんで……)

 

アイズは剣を振るいながら、男の戦闘を見ていた。いや、あれは果たして戦闘と呼べるのだろうか?

 

端から見れば、男はただ器用に芋虫達の攻撃を避け、虚空に手刀を切っているだけ。しかし芋虫達は、バタバタと倒されている。

 

(分からない。でも、これだけは言える……)

 

強い。とても。

 

良ければ後で手合せしたいとアイズが思った、その時。

 

 

 

斬ッッッ!!!

 

 

 

「……え?」

 

アイズは思わず首に手を当てる。キメ細やかな肌にはかすり傷一つなく、しっかりと繋がっている。

 

しかし、ついさっき、アイズは首を切り落とされたと錯覚した。

 

吹き出す温かな血液、視界の端をかすめる長い金髪、そして頭部を失った自身の身体。そんなものまで幻視してしまったアイズの動揺は必然であった。

 

「スマンな」

 

「!」

 

その声にバッ!と顔を上げるアイズ。いつの間にか近くまで来ていた男はアイズの顔を覗き込むように見ている。

 

「殺気というほどでは無いが中々に強い気迫を感じてな。嬉しくなって、思わず斬っちまった」

 

「~~~~~ッッッ!?」

 

アイズが絶句するのも無理はなかった。先程の錯覚はアイズの勘違いなどでは無く、この男がやった事だと言うのだから。

 

ザァァ……と汗が吹き出す。硬直するアイズとは反対に、男は何やら品定めするようにアイズを見つめる。

 

「ふむ……まぁ、今はまだ“御馳走”という所か」

 

やがて戦闘は終わり、団員達は負傷した者達の手当てを終えて帰還の準備を進める。

 

しかし、彼らの受難はそれだけでは終わらなかった。

 

 

 

 

 

「驚いたわよ、いきなりあんな大きなモンスターが出てくるなんて、誰も思わないでしょ」

 

ラウルの言を引き継いで語るのは、同じく【ロキ・ファミリア】所属の団員、アナキティ・オータムである。

 

彼女は“その後”の出来事について真剣に語り出す。

 

「森から出てきたあのモンスター、芋虫の進化版?みたいなの。それは私達のいる方に向かって鱗粉みたいなのを寄越してきたの」

 

「そして大爆発。幸い大きな怪我をした人はいなかったんだけど、あんな攻撃してくるモンスターなんてまともに相手出来るのはアイズ達くらいじゃない?」

 

「流石にあの男の人も撤退するしかないだろうなぁ~、って考えてたら、もう本当にびっくりしたわ」

 

「あの人、その場から動いてなかったの。そう、あの爆発した場所からね」

 

「勿論、無傷じゃ無かったわ。石とか武器の破片とかが顔に刺さってたし、もう顔中血だらけ!目くらい閉じなさいよッ!って思っちゃった」

 

「でも本人は全然気にしてないっていうか、あのモンスターの観察に全神経を集中させてるっていうか。きっとあの場にいても死にはしないと分かってたんだろうけど、あんなの、徹底した合理主義者じゃないと出来ないわよ」

 

「バカでしょ……?」

 

 

 

 

 

「総員、撤退だ」

 

フィンの判断は早急かつ的確だった。

 

アイズを殿に総員の退避、彼女のそれを了承し、いざ撤退しようとした時。

 

男の声が全員の耳に届いた。

 

「ふむ、斬れる」

 

 

 

 

 

「斬れる。彼は確かにそう言った」

 

その時の出来事を団長であるフィン・ディムナは静かに語る。

 

「内包した大量の腐食液、巨大な体躯、そしてあの大爆発。それらを加味した上でも、僕の判断は間違っていなかった筈だ。アイズ以外には相手出来ない、とね」

 

「でも、どうやら彼は例外だったらしい」

 

「そこからの彼の行動は速かったよ」

 

「腰に差していた刀を抜いたかと思えば、いきなり走り出してね。崖から飛び降りたんだ」

 

「……いや、アイズみたいな魔法は使っていなかったよ。ただ単純に飛び降りて、大上段であのモンスターに頭から斬りかかった」

 

「あの闘志は凄まじかった。例えるなら“悪魔的”とでも言っておこうかな。あんなのは稀も稀だ」

 

「……その時、僕は何をしたかって?思わず大声を上げてしまったよ。“全員伏せろッッ!!”ってね。てっきり爆発するかと思っていたし、みんなの命を守る義務があるからね」

 

「しかし爆発はなかった。何故だか理解(わか)るかい?」

 

「……そう、斬ったんだよ。文字通り、宣言通りね」

 

 

 

 

 

その瞬間をアイズはしっかりと見ていた。

 

男が振り下ろした刀はモンスターの頭部に食い込んだ。

 

頭部から首、胸、胴へと斬り進んでゆく刀。そしてあっという間に芋虫の下半身に到達し、モンスターの身体は左右泣き別れとなる。

 

「いいえ。あの刀は、不壊武器(デュランダル)じゃなかったです」

 

アイズは相手の誤解を解くため、そう訂正した。

 

不壊武器(デュランダル)

 

腐食液でも破壊されなかったアイズの《デスペレート》の属性であり、それならばモンスターを斬ったと言うその男の武器も、当然不壊武器(デュランダル)であると考える。

 

しかしそれは間違いであるとアイズは断言した。

 

聞けば、本人から直接教えてもらったと言う。その刀……無銘・金重は、材質は玉鋼ではあるが、不壊武器(デュランダル)のような特殊な性質は持っていない。

 

ではどうやってあのモンスターを斬ったのか?

 

「……多分、あの刀の鋭さと、持ち主の技量の結果だと思います」

 

「腐食性の体液が刀身を溶かすよりも早く、モンスターの身体を斬ったんです」

 

「まるで刀が通り抜けるような……いえ、透り抜けるような一太刀でした」

 

「そのまま体内の魔石ごと斬り、あのモンスターは灰になりました。爆発もありませんでした」

 

「……嘘は言っていません。数瞬を詳しく語っているだけです」

 

 

 

 

 

「やはり花の一刀両断だな、気分が良い」

 

ぴっ、と刀を振り、鞘へと納める男。

 

灰へと還ったモンスターの亡骸が降り注ぐ中、男は悠然と歩き出す。

 

これが後のオラリオに名を轟かせる事となる剣豪、ムサシ・ミヤモトの最初の記録である。

 

 

 




書いてて楽しかったです。

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