虚飾の魔法と嘘っぱちの奇跡   作:ジェームズ・リッチマン

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積み上げる幸福

 

 

(暁美さん……)

 

 昼。巴マミは屋上で、いつものベンチに腰掛けていた。

 隣に一人が座れるだけの空席を残すよう、最近から始まった、いつも通りに。

 

 膝の上には弁当箱が乗せられているものの、まだ手は付けられていないらしい。

 

(近頃……周りで色々なことがありすぎて、忙しいわね)

 

 思い耽るのは、最近のことばかりだ。

 

(鹿目さんたちと出会って……暁美さんと出会って……疑って……暁美さんと一緒に戦って……ソウルジェムの真実を知って。それで、暁美さんと戦って……暁美さんに許されて)

 

 特に思い出されるのは、不思議な雰囲気を漂わせる魔法少女。

 謎が多く、それでもお茶目で親しみやすい、そんな少女だ。

 

 

 ――引いてごらん

 

 

 声はすぐに思い出せる。

 得意げに、期待するように。そして優しく微笑みかける、その顔も。

 

(……暁美さん)

 

 そしてその顔は、昨夜だけで遠くへ行ってしまったような。

 そんな錯覚を、彼女は覚えている。

 

「! ぁ……」

 

 ノブを回す音と、蝶番が小さく軋む音が聞こえる。

 没頭する思考から抜け出してマミが振り向くと、そこには密かに“来ないのではないか”と思っていた人物が立っていた。

 

「……ああ、やっぱり昼は屋上だね」

 

 雰囲気まで、なにもかも同じというわけではなかった。

 それでも暁美ほむらはいつも通りの場所にやってきて、また再びマミと昼食を摂りにきたのである。

 

「暁美さん……!」

「マミ、あの」

「昨日はごめんなさい!」

「……え?」

 

 マミは昨夜からずっと言いたかった言葉を、まず堰を切ったように唐突に、吐き出した。

 頭を下げたマミからは見えなかったが、ほむらは珍しく戸惑ったような顔を浮かべている。

 

「……暁美さんは、暁美さんだもの。私を助け、励まして……救ってくれた」

「マミ」

「その暁美さんは、絶対に嘘なんかじゃないものね……信じなきゃいけないのに。なのに……」

 

 目に溜まり掛けていた涙を軽く拭い、マミは一息ついた。

 

「昨日の私は、本当に愚かだったわ。……ごめんね、聞かれたくないこと、言いづらいこと、きっと暁美さんもあるのにね」

「……マミ」

「私、暁美さんと一緒に魔法少女としてやっていくって、決めてたのに。なのに、昨日は簡単に動揺しちゃって……でも、違うの。今日はそれを言いたくて、ね?」

 

 “だから”、“それで”と意味にならないことを呟き、言葉を繋げられないまま、マミは気恥ずかしそうに頬を掻いた。

 

「ごめんね。私、気持ちを言葉にするのって、あまり得意じゃないの」

「……そうだな。難しいよ、本当に」

「本当は、もっと暁美さんを安心させるようなことを……言いたかったんだけどね」

 

 言葉では伝えきれないものがある。

 そう言いたげに、マミはほむらの白い手を取った。

 

「暁美さん……私は一緒にいるわ。私はあなたを信じているし……絶対、離れたりはしない」

 

 その瞳は、潤んでいるせいもあったが、暁美ほむらからはとても美しく、煌めいているかのように見えた。

 どこまでも純粋で濁りのない、そんな綺麗な瞳だ。

 

「だから……暁美さんも、私を信じてくれる? これからも、一緒にいてくれる?」

「……もちろんだよ。マミ」

 

 暁美ほむらは、マミの身体を軽く抱きしめた。

 マミもまた、ほむらの身体を抱きしめた。

 

「ありがとう、マミ」

「ううん、いいのよ。……ありがとう」

 

 そこに深い意味はない。

 これが友達なのだと、言葉ではなく態度で示したかった。お互いがそう感じたからこそ、抱擁を交わしたのだろう。

 

 高い空に、雲が流れる。

 街の果てから吹く風が強く、清々しいものだった。

 

「ちょっと恥ずかしいけど。マミは、暖かいね」

「ふふ」

 

 マミの体温により、暁美ほむらの中で寂しさが一つ溶けて、埋まった。

 

 自分は一人ではない。

 暁美ほむらの過去の汚れすら包んでくれる、素晴らしい友達が出来たのだと。

 

(必ず守るよ、マミ。君は……私にとって大切で。本当にこの私の、友達なのだから)

 

 マミの暖かさを再認識して、ほむらは決意を新たにする。

 過去の自分とは関係のない、新たな自分が作った友達。その大切なものを、必ず守り抜くのだと。

 

「……それじゃあご飯にしましょっか? 早く食べないと、お昼休み終わっちゃうからね」

「ふっ、そうだね。早めに食べてしまおうか」

「でも、味わって頂戴ね?」

「もちろんだよ」

 

 

 

 


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