美少女戦士セーラームーン JIIYA!   作:丸焼きどらごん

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9じいや,ヘリオドール(イエローベリル)

 わしのダルシムをボッコボコにしてくれたエンディミオン様に戦慄しつつも、その後もなんとかなだめすかし、最終的にうさぎちゃんにセーラーVゲームで引き留めてもらう事になった。

 操られているエンディミオン様も、もとからそのつもりのようじゃからな。……もしや、このゲームが地下の司令室の入り口であることも気づいておるかもしれんの。それと、うさぎちゃんから直接幻の銀水晶の在処を聞き出すつもりか。

 

「! エンディミ、ふぐ!?」

 

 そしてしばらくすると、気絶していたクンツァイトが目覚めたので慌てて口を塞ぐ。

 

「しーっ。ちょっと静かにしておいてくれ。今のエンディミオン様は操られておる! 今戦士の皆様がこちらに向かっておるから、包囲して確実にエンディミオン様を確保するんじゃ!」

「そ、そうでしたか。……おや、あの青年もしや……」

「ゲーセンの兄ちゃんか。ああ。エンディミオン様の事を同じ大学のご学友だと思わされている。きっと催眠術か何かだろう」

 

 そう。今エンディミオン様の隣にいるあのお兄さんも、助けなければいかん。

 幸い現在ゲームセンターに他の客は居ないから、隙を見計らって彼を気絶させなければ。このままだと巻き込みかねん。

 

『景衛さん! みんな到着したわ』

「! わかりました。では、周囲に人払いの結界を作ってくだされ。ゲームセンターの中に今居るのは、わしらだけですじゃ」

 

 通信機に連絡が入ったので、わしもすぐに動けるように体勢を整える。

 

 

 

 ……に、しても。

 

 

 

「やっぱりうまいんだな、君は。まるでVと一心同体。Vを知り尽くしているみたいだね」

「え、ええ。そうよ。力強い味方だもん……」

「ふふっ。会った事あるみたいな言い方、だね。実は俺も見た事あるんだ」

「ほうほう! あの正義の味方セーラーVに!? 俺も是非とも話をお聞きしたいな!」

 

 いつの間にかうさぎちゃんに暗示をかけようとしているエンディミオン様の前に、ぐいっと割って入る。

 

「そ、そうか。でも後にしてくれないか? 俺は今、うさぎちゃんと話しているんだが……」

「いやいや、そうつれない事を言わずに!」

 

 エンディミオン様の肩に置かれたわしの手と、わしをどかそうと笑顔のまま力を籠めるエンディミオン様の力がギリギリ拮抗する。

 

「はははは……」

「ふふふふふ…………」

 

 そのまま、しばらく。

 

「はあ!」

「!?」

 

 エンディミオン様の頭部を、美奈子ちゃん……噂のセーラーVたるヴィーナス殿のおみ足が打ち抜いた。

 

「力技すぎるよ美奈子ちゃん!?」

「いいえ、これくらい強めにいかないと! 先手必勝! 過去の大敗北があるんだもの。王子には悪いけど、ちょっと痛い目みてもらうわ! 本人と分かっているなら話が早い! 捕獲一択よ! さあ、亜美ちゃん!」

「まかせて! ここ数日、剣の解析と共にルナと景衛さんとで作り上げた、これを使う時が来たのね!」

「投げるよ! はあっ」

 

 愛しの君がいきなり飛び蹴りで吹っ飛ばされたことにうさぎちゃんがうろたえるが、セーラー戦士達は着々と捕獲作業を進める。なんとも頼もしい。

 そしてまことちゃんがわしとルナ殿、亜美ちゃんで共同開発した、万が一に備えての新アイテム。……超特殊素材で出来た、投網がエンディミオン様に投げかけられた。

 ちなみに亜美ちゃんだからって網を用意したわけじゃないぞい。

 

 そしてゲーセンの古幡お兄さんはレイちゃんがすでに気絶させている。は、早いのぉ。

 

「な、なんだこれは!?」

 

 エンディミオン様は何やら念力のようなもので投網に抗うが、そう簡単にその投網はやぶれまい。何と言ったって、わしが特別な仕掛けを施しておる。

 わしは魔術を使う際に地脈からエネルギーを借り受けるが、今はその逆。投網にアースのような役目をもたせて、特殊な力を浴びた場合それを地脈に逃がしてやることが出来るのだ! フハハハハ! これでどんなに強い力だろうと、早々には破れんわい!

 

「さあうさぎちゃん! 変身して、幻の銀水晶の力でエンディミオン様を正気にもどしてこちらに呼び戻すんじゃ!」

「う、うん! わかった!」

 

 最初は混乱していたうさぎちゃんも、きりっとした表情で頷くと胸元からペンダントに加工された銀水晶を取り出す。

 

 

 

 

 

 その時じゃった。

 

 

 

 

「もらったぁぁぁぁ!!」

「きゃあ!?」

「なんだと!?」

 

 突如として前触れなく、うさぎちゃんの前に赤髪の女が現れた。そしてうさぎちゃんから、凄い勢いで銀水晶をむしり取る。

 

 その女を、わしが見間違えるはずもない。

 

「ベリル!」

「くう! 役立たずめ! 送り込んで早々にまんまと敵に捕まるとはどういうことだ! …………まあいい。こうして幻の銀水晶は、わが手におちた」

「………………そんな力技で自分から奪いに来るなら、初めから妙な小細工をせねばよいものを」

「黙れジジイ!!」

「誰がジジイじゃ! 見よ、このぴっちぴちな十代の体を! 今のお主より若いわい!」

「やかましいわ!!」

 

 ゲームセンター内に現れたドレス姿のベリルはかなり浮いておるが、これはまずい。ゲーセンの周囲にはセーラー戦士達の結界が張られていたはず。それを力技で突破したとなると、ベリルの力は相当なものじゃ。メタリアにかなりの力を与えられていると見た。

 

「…………ともかく、メタリア様のお力で蘇り、ダークキングダム最強の戦士となった王子は返してもらうぞ」

「最強の戦士? 投網につかまってるけど……」

 

 冷静にレイちゃんが投網の中でうごうごともがいているエンディミオン様を見てつっこむが、ベリルはそれを無視することにしたらしい。それどころかわしまで完無視じゃ。こ、こやつめ。

 

「待って! まもちゃんを連れてなんて、いかせない!」

「くくっ。プリンセスか。……何度会っても、もろく幼い小娘だこと。泣いているの?」

 

 目に涙を浮かべて叫ぶうさぎちゃんを見て、ベリルがあざ笑う。そして高らかに名乗りをあげた。

 

「我が名はダークキングダム女王、クイン・ベリル!! プリンセス・セレニティよ。愛しの王子に殺されるなら本望であろう? さあエンディミオンよ! 我が伴侶となる者よ! 今こそその力を解放し、セーラー戦士を屠り、プリンセスを亡き者とするのだ!」

 

 言うなり、ベリルに投網が引きちぎられる。しまった、あれは外からの力には弱い!

 そしてエンディミオン様が解放されるなり、周囲に強烈な暴風が渦巻いた。いかん、このままではゲーセンが吹っ飛んでしまう。

 

「ルナ、時間軸の計算を! 超次元空間のシールドを作って、この場を隔離するわ!」

「! わかったわ!」

 

 真っ先にそれに対応したのは亜美ちゃんで、それに伴い周囲は暗い空間へと変異する。亜空間へと場所を移したのだろう。

 

「くくっ、何処で戦っても同じことよ」

「ベリル! エンディミオン様を返せ!」

「おお、クンツァイトか。本体が戻らぬから核ごと朽ちたかと思ったが、まさかそのような惨めな姿で落ちのびていたとはな。これはお笑いだ」

「くっ」

 

 わしの肩口に必死で風に飛ばされないようにくっついているクンツァイトが、悔しそうに顔を歪める。……それにしても、さっきから勝手な事を!

 

「ベリルよ! 我が弟子よ! ……お前の相手は、わしがする」

「……はっ。貴様が? ヘリオドールよ。私はもう、かつての無力な小娘だったベリルではない。今や貴様の力を大きく超えているのだ!」

「あの化け物にもらった力じゃろうが! 喜べ、わし直々にデトックスしてくれる!」

「戯言を。では望み通り、貴様からまず葬ってやろう!」

「ヘリオドール殿!」

 

 エンディミオン様がセーラー戦士と相対する中、わしはベリルの前に立ちふさがった。こ奴を止めるのは、師であるわしの役目じゃからな。

 

 

 

 

 …………じゃが、もし叶うのなら……。

 

 

 

 

「死ね!!」

「ふっ、くぁ!」

 

 一瞬気がそれたところに、ベリルの髪の毛がわしの首に巻き付いてくる。窒息死させる気か!

 わしはすぐさま常備していた伸縮性の杖(消費税3%税込み5015円)を取り出すと、断絶の風の刃を纏わせて振り下ろす。しかしうねる髪の毛はその斬撃をいなし、とても切れそうにない。

 

「無様だなぁヘリオドール。これが今の私と貴様の力の差だ!」

「景衛さん!」

「おっと。君の相手は俺だよ」

「まもちゃん……!」

 

 こちらに来ようとするセーラー戦士を遮ったのは、エンディミオン様。いつのまにかセーラームーンに変身していたうさぎちゃんは一瞬悲しそうな顔をしたが、すぐに表情を引き締める。

 

「……遅くなって、ごめんね。でも必ずあなたを正気にもどしてみせる!」

「俺は正気だよ。さあ、かかってこい!」

 

 どうやら向こうでも、戦いが始まったらしい。

 

「このままでは景衛さんが殺されちゃうわ。それに、きっとあの女を倒せば王子も正気に戻るはず! ここは二手にわかれるわよ!」

「わかった! あたしたちはここでタキシード仮面を足止めするから、ヴィーナスとマーズは向こうへ! セーラームーンの援護は任せてくれ」

「頼んだわ、ジュピター。マーキュリー!」

 

 そう言ってこちらに来てくれたのはヴィーナス殿とマーズ殿。うう、なんと情けない! 戦うどころか、足手まといになってしまうとは!

 

「何人かかってこようと、同じことだ!!」

「そうかしら? それは、この愛の鞭を受けてから言ってもらいたいわね! ヴィーナスラブ・ミーチェーン!!」

「そうよ。くらいなさい! 悪霊退散!!」

 

 ヴィーナス殿の武器がベリルに襲い掛かり、その周囲を螺旋を描くようにマーズ殿の炎が襲い来る。どうやらこれは、まずわしを捉えている髪の毛を焼き切って助けてくれるつもりらしい。

 しかしその攻撃はベリルが腕一振りで発生させた衝撃波によって吹き飛ばされる。

 

「こんなものか?」

「強い……!」

「では、今度はこちらから行かせてもらおうか!」

 

 ベリルは持っていた杖を掲げると、そこから黒い稲妻を放出する。それはヴィーナス殿に直撃し、その体を苛んだ。

 

「きゃああああ!?」

「ヴィーナス! ……ッ、許さないわ!」

 

 すぐさまマーズ殿が自らの炎で簡易的な炎の壁を作り稲妻をふせぐ。しかしそうなると防戦一方で、とてもではないがベリルに攻撃を加えられそうにない。

 しかし、ふらりと立ち上がったヴィーナス殿が何処か様子が変だ。

 

 そして彼女は天に向けて腕を突き出すと、はっきりとした呼びかける意志でもって叫ぶ。

 

「あたしを、怒らせたわね……! (つるぎ)よ。我が王女守れる聖剣よ! いや今助けようとしているのはおじーちゃんだけど、けど結果的に王女も救うから聖剣よ! 呼びかけに応え、今こそわが手に現れ()でよ!!」

 

 その呼びかけに応え現出したのは、この場にはないはずの石の剣。

 

 

 否、聖剣!!

 

 

 ヴィーナス殿の手に納まった聖剣は、先端しかその本来の刀身である幻の銀水晶を露わにしていなかったはずなのに、みるみるうちに聖剣を覆っていた石が剥げて輝きを取り戻してゆく。それにはさしものベリルも驚いたのか、わしの首に絡まっていた髪の毛がわずかに緩んだ。

 

「ヘリオドール殿、今です!」

「う、うむ!」

 

 クンツァイトの呼びかけで、ぼけっとその様子を見ていたわしはハッと我に返って髪の毛から抜け出す。

 

「! 逃げるな!」

「逃げはせん! 仕切り直しじゃ!」

 

 わしの脱出に気づいたベリルが叫ぶが、何もわしとて途中で勝負をほっぽり出してヴィーナス殿に丸投げする気など無い。

 

 わしは先ほどは出す間もなかった、パーカーのポケットにしまっていたパワーストーンを取り出す。

 その石は前世のわしと同じ名を持つ、ヘリオドール。……別名イエローベリルとも言われる、太陽神ヘリオスを語源に持つ石だ。

 

「ヴィーナス殿! そのお怒りは、メタリアにとっておいてくだされ! せっかく幻の銀水晶の剣が元に戻ったのです! ここで使うにはもったいない!」

「でも、ベリルが!」

「先ほどは油断しましたが、わしとて事前に準備は整えておるのです。お任せくだされ!」

「ふんっ。どうだかな。いいのか? せっかくのチャンスをふいにして!」

「せいぜい今のうちに吠えておけ! では、ゆくぞ!」

 

 

 さあ、第二ラウンドの幕開けじゃ!!

 

 

 

 

 

+++++++++++++

 

 

 

 

 

 ヴィーナスの呼びかけに応え、その真の姿をあらわにした銀水晶の聖剣。ふいに、ヴィーナスはその剣に文字が浮かんでいるのに気づく。

 

「"クイーンたる者の内に秘める、幻の銀水晶。その心のまま、動かす時なり。完全なるそれを持ち……偉大なる月の力を目覚めさせよ"……?」

「ヴィーナス、それは……」

「剣が……導こうとしているの……? "聖なる月の塔に祈りを捧げ、再び王国に平和を"……」

 

 そこまで読んだところで、ヴィーナスの体を再び何者かが攻撃してきた。それはベリルではなく、もっと強大な何か。

 

「きゃあ!?」

「まさか!? わ、我が大いなる支配者よ……! 何故、あなたが!」

 

 その強大な力を持つ何かの出現に、敵であるはずのベリルさえ驚愕の声をあげた。相対していたヘリオドールこと景衛も、新たにその場に現れた陰に目を見開く。

 

「エンディミオン様を依り代に、ここまで来たというのか……! クイン・メタリアよ!!」

「あれが……!?」

 

 いつのまにかエンディミオンと戦っていたはずのセーラムーン、セーラージュピター、セーラーマーキュリーも一か所に集まってくる。そしてエンディミオンの背後に現れた、黒く巨大な、邪悪な陰に息をのんだ。

 

『ベリルよ。今までご苦労であった』

「な、なにを……!」

『新たに現出した、幻の銀水晶の剣。しかしあの剣は、私の脅威にしかならぬ。一刻も早く、銀水晶と、そのパワーの秘密を知るであろうプリンセスを我がもとに……』

「ぷ、プリンセスは秘密を引き出し次第私が始末をつけます! ですから、御身はダークキングダムにて座してそれをお待ちください! 必ずや、私が……!」

『もう遅い! お前では、あの剣に勝てぬ。……ならば負ける前に、お前に授けた力を返してもらおう』

「め、メタリア様!?」

 

 黒い影がベリルにその腕らしきものを伸ばすと、ベリルは布を切り裂くような悲鳴を上げる。

 

「きゃああああああああああ!?」

「ベリル!?」

 

 それを見た景衛がベリルに近づくが、見えない壁のようなもので弾かれた。そしてその間に、今度はエンディミオンの手がセーラームーンに伸びる。

 

「あぐ!?」

「セーラームーン!」

「プリンセスは頂いた!」

 

 セーラームーンの腹に拳を叩き込み気絶させたエンディミオン、タキシード仮面はそのまま異空間へと消える。それと同時にクインメタリアの影も、最後の仕上げとばかりにベリルをその黒い影で覆った。

 

「お、おお……! わ、が、おおい、なる、支配者、よ……」

『さあ、わが身の中で眠るがいいベリル。……永遠にな』

 

 ベリルの身が、砂のように崩れてゆく。しかしそこに突如、男の腕が黒い影をわって伸びて来て、ベリルの腕を掴んだ。

 

「ベリル!」

「し……しょう……?」

 

 朦朧とする意識の中、ベリルは幼き日に掴んだ枯れた枝のような腕を思い出しながらその手を掴む。その腕は老人のものではなく若々しさに溢れていたが、懐かしいぬくもりをベリルに与えた。

 

「ぐ、ぐううううう!」

「無茶ですヘリオドール殿! あなたまでエナジーを吸い取られて死んでしまうわ!」

 

 苦悶の声をあげる景衛にヴィーナスが呼びかけるが、景衛はベリルを放そうとしない。

 

「わしのことはいい! それより、プリンセスとエンディミオン様を追うんじゃ!」

「でも!」

「いいから行け! 戦士達よ!!」

 

 その言葉に戦士達は迷いを見せる。一刻も早く連れ去られたプリンセスを追いたいという気持ちが強いからだ。しかしかといって、景衛を見捨ててもいけない。

 

 しかしそこで戦士達を後押ししたのはクンツァイトだった。

 

「セーラー戦士達よ、ヘリオドール様を信じるのです! あの方はご老体に鞭打って無茶はするし結構頑固だし賢者と呼ばれるくせに肝心なところで抜けている事も多いお方ですが、いざという時はやってくれるお方! 今は信じて、プリンセスたちを追ってください! あのメタリアは本体から離れた分身でしかありません。きっと、ヘリオドール殿ならなんとかしてくれる!」

「クンツァイト……」

 

 その言葉を受けて、四人の少女たちは頷く。

 

「信じますよ、ヘリオドール殿……! いえ、景衛さん!」

「ああ!」

 

 力強い言葉をうけて、セーラー戦士達も転移する。

 

 

 

 

 向かう先は、北極圏Dポイント。

 ダークキングダム。

 

 

 

 

 

『ほう、これはなかなかのエナジーだ。ベリルと共に喰らってやろう』

「馬鹿言うでないわこの汚物が!!」

 

 景衛は苛烈な声をメタリアに叩き付けると、ぐっと腕を引っ張ってベリルを抱きしめる。

 

「ベリルや……。すまんかったな。わしは、やはり頼りなくて情けない、駄目な師匠じゃ」

「離れろ……。今さら貴様に同情されたところで、惨めなだけだ……。私は貴様を殺そうとしたんだぞ……? 貴様が大事にしていた王子も、殺した。四人の騎士も、自分のために利用した」

 

 砂になってゆくベリルの体は冷たく、ぐったりとして力が入っていなかった。放せと言いつつ、自力でそれをするだけの力はもう残っていないようだ。

 景衛はこくりと頷く。その体にはメタリアによるものなのか、石化の呪いが降りかかりつつあった。

 

「そうじゃな。わしも、さっきまではお前に引導を渡すことが我が使命だと思っておった。しかしこうしてお前が死にそうになっているのを見ると……どうしても、見過ごせなかった」

「相変わらず、肝心なところで甘いジジイね……」

 

 そこで初めて、ベリルが笑う。その笑みが皮肉によるものだったとしても、久しぶりに見る弟子の笑顔に景衛は目に涙をにじませた。そして崩れゆくその身に、黄色の緑柱石……ヘリオドールを触れさせる。

 

「ベリルの罰は、わしも共にこれから背負っていこう。だから、命も半分こじゃ」

「何を……?」

 

 ヘリオドールが淡く輝き、ベリルの中へ吸い込まれる。

 

「もとは、お前の中にあるメタリアの力をはじき出すために使うつもりじゃった。しかし今は、お前の命を繋ぎとめるために使おう。……わしの、ちっぽけな人間の、命の半分の結晶じゃ。どうかわしの寿命を半分、受け取っておくれ。わしの大事な大事な、可愛い娘」

 

 慈しむように、景衛はベリルを抱きしめる。そして二人を中心に淡い光の結界が構築される。

 

『ここまで……か。しかし、ベリルの力はもうほとんど回収した。憐れな小娘に戻ったベリルになど、もう何の用もない。……クククッ。私はダークキングダムにて、プリンセスたちから銀水晶の力を得るとしよう……』

 

 それを見たメタリアの分身である影は、せせら笑いながら消えて行った。それをこの場に残り見届けていたクンツァイトは、ほっと息をついてすぐさま景衛に駆け寄る。

 

 

 

「ヘリオドール殿!」

 

 

 

 残されたその場には、眠るベリルを抱えた景衛が、肌の表皮をわずかに石に変えられたまま座り込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 




今回のお話を書いていて、なんとなくソードマスターヤマトを書いている気分になったのは秘密。

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