聖剣を元の姿に戻すためにうさぎちゃんに頑張ってもらい、わしも出来る限りサポートして、セーラー戦士の皆様方も変身の力をうさぎちゃんに注ぎ込んで、クンツァイトは今何も出来ない状態なので「が、頑張ってください!」と小さい体で精一杯応援して、小一時間。
全員でぜ~は~と息をつきつつ、ほんの先っぽだけ美しい銀色の輝きを取り戻した聖剣を見た。
「と、とりあえず……。この聖剣が、幻の銀水晶で出来たものってことは、分かったわね……」
「こ、これは頼もしいや……。へへっ……。はぁ……」
「さ、流石に疲れたわね……。でもこれ、まだ先っぽよ? あとどれくらいで、元に戻るのかしら……」
「ううっ、みんなごめんねぇ……。あたしがもっと頑張れてれば……」
「うさぎちゃんのせいじゃないわっ。で、でも今日は流石にここまでね。みんな干からびちゃったら元も子もないわ……。いつ敵が動くかも分からないし、消耗しきってちゃお話にならないもの……」
亜美ちゃん、まことちゃん、レイちゃん、うさぎちゃん、美奈子ちゃん。みんなお疲れのご様子じゃ。これはわしが皆様方の頑張りをねぎらうべく、お茶でも用意を……!
「ヘリオドール様。あなたも頑張り過ぎです」
「ぐ、ぐう……! わしゃあ大丈夫じゃわい……! ぬお!? こ、腰が……!」
無様にも床にぺっとり横たわるわしの横にクンツァイトがしゃがみこんで、心配そうな表情で覗き込んでくる。
くっ、心配してくれるのはありがたいが、そんな哀れみの目で見るでないわい!! これは術の行使の負担が何故か腰に集中してしまっただけなんじゃ! しかし何故腰に! く、くっそう。これではまるで、体までジジイのようではないか! 情けないぞ、わしのティーンエイジャーぼでぃーよ……!
その後しばらく休憩して、とりあえず今日は解散、という事になった。美奈子ちゃんが言う通り、消耗しきっていざという時動けないというのでは危険だからのぉ。いやはや、まったくもって頑固な油汚れどころじゃない強力さじゃ、あの石め。忌々しい。
「では、家の方向が同じじゃからうさぎちゃんはわしが送っていこう。もう夕方だしのぉ」
そう言って、わしは自転車の後ろにうさぎちゃんを乗せて(腰はもう若者の意地的な気合いで治したわい!)家路についた。
そして帰宅の途中。
後ろに乗っているうさぎちゃんが、ふいにぽつりと言葉をこぼした。
「綺麗な夕日だね。……あの人の部屋の窓から見えた夕日も、こんな感じだったな」
「なんと! う、うさぎちゃんはエンディミオン様のお部屋に行ったことがあるので!? お、お二人の仲はもちろん応援しますが、うさぎちゃんはまた中学生! 異性の部屋に簡単に入ってはいけませぬぞ!」
「そ、そういうんじゃなくて! 気を失っちゃったときに、助けてもらったの! その時にまもちゃんがタキシード仮面様だって知ったのよ」
「そうだったのですか……」
「……今朝ね。まもちゃんにそっくりな後姿を見たの。そしたら今日一日、色々考えちゃって」
……わしが無理に励ましてしまったから、気丈に振る舞ってくれておったんじゃな……。今ぽつぽつ言葉を紡ぐうさぎちゃんは、年相応に幼く儚げに見える。きっと内心心細くてかなわんのだろう。
……よし!
「うさぎちゃんや、ちょっと寄り道していきませんかの?」
「え?」
「いっちょスカっとゲームでもしようではありませんか!」
「! いいの!? 実はあたしも思いっきりゲームしたいと思ってたの!」
「もちろんですじゃ! ふっふっふ。わしのダルシムが火を噴きますぞい! 学校の男友達をつきあわせてかなり練習しましたからな!」
「あたしの春麗だって負けないもん! あ、でもその前にセーラーVゲームやりたいなぁ!」
「な、なんと! むう、わしはあれ苦手ですじゃ……」
「大丈夫大丈夫! あたしがちゃんと教えてあげるから!」
そう言ってバシバシわしの背中を叩くうさぎちゃん。ふふっ、少しでも元気が出たのならよかったですわい。
…………と、所でうさぎちゃんや。今叩いてるパーカーのフードのあたりなんじゃが……。
「…………」
「きゃあ!? そういえばクンツァイトさんそこにいたんだった!? 小さいからつい忘れてて……! ご、ごめんなさぁ~い!」
星を飛ばしてきゅうとのびたクンツァイトに気づいて、うさぎちゃんが慌てる。わしはクンツァイトには悪いがそれに思わず大笑いしてしまった。そして勢いよく、ペダルをこぐ足に力をいれる。
「さあ、行きますぞ。目指すはゲームセンタークラウンですじゃ~!」
こうしてわしとうさぎちゃんはクラウンにやってきたのじゃが、来て早々ポカンとすることになった。
「やあ、うさぎちゃん」
これはいつものゲーセンのお兄さんじゃ。しかし問題は、その隣に居る青年。
「きみが、うさぎちゃん? セーラームーンと、同じお団子頭なんだね。流行っているのかな?」
そう言ってキザッたらしくうさぎちゃんの髪に触れるのは、どう見ても地場衛。エンディミオン様である。しかしその振る舞いは馴れ馴れしいが、その言動はまるで初対面のようだ。
疑問に思ってゲーセンのお兄さんを見ると、彼がエンディミオン様(仮)を紹介してくれた。
「こいつは新しくバイトに入った、オレの親友の遠藤だよ」
「古幡と同じKO大学の一年、遠藤です。よろしく。……ところで、きみはセーラーVゲームがとてもうまいんだってね。よかったら教えてくれないか? うさぎちゃんにお願いしたいん…………な、なんだ?」
わしはぽやっとエンディミオン様……遠藤を名乗る男を見ているうさぎちゃんとの間に割り込むと、身をかがめて下のアングルから眉間に皺を寄せつつ遠藤を観察する。
そしてがしっとその頬を両手で挟んだ。
「景衛さん!?」
「な、何をするんだいきなり!」
驚く周囲を無視し、わしはそのまま頭から足の先まで一気に遠藤の体をまさぐる。そしてポケットから取り出したメジャーで身長、胸囲、腰回りなどなどを瞬時に測定する。遠藤が顔を青くしてゾワゾワしているのは目に見えて分かったが、構うもんかい。
そして全てが終わり、ふむ、と一息。
骨格も体格もまず間違いなく、エンディミオン様じゃわい!! そもそもよく似た別人がこんなタイミングで都合よく現れるか!!
しかしこんな様子でこの場に居るという事は、もしかしなくとも操られておる! そしてきっとクンツァイト達と同じく、クイン・メタリアの力を授かって送り込まれた可能性も大!! わしの手には余る……しかしこのチャンス、逃してなるものか!!
「いや失礼! あまりにも素晴らしいスタイルでしたので、思わず測定してしまいました! これはわ……俺の癖でしてな! 将来はデザイナーを目指しているので、素晴らしい体格の人を見るとこうせずにはいられないんです! さてちょいと俺はお手洗いを借りようか! さっきから尿道が爆発しそうで我慢していたんだ! う、うさぎちゃんもほれ、おしっこ我慢しとったと言っていたじゃ……だろ。早くお手洗いへ行かないと!」
「えっ、えっ!? ちょ、ちょっと景衛さん、適当な事言わないで! お、おおおおしっこ我慢なんてしてないわよ!」
「いいから!」
顔を真っ赤にして憤慨するうさぎちゃんの腕をひっぱって、とりあえず遠藤を名乗るエンディミオン様から引き離す。そしてルナ殿から借り受けた通信機を取り出すと、セーラー戦士達に緊急招集をかけた。
「緊急事態発生! 緊急事態発生!! 現在ゲームセンタークラウンにて操られている様子のエンディミオン様発見! ただちに確保するため包囲網を作ってくだされ! わしは包囲網完成次第、ホシの確保に移行する!」
「やっぱりあれ、まもちゃんなの!?」
「そうですじゃ! さて、戻ってわしらは足止めに努めましょうぞ。お望み通りゲームを教えてやって、他の皆様方が来るまで時間をかせぐのじゃ!」
飛んで火に入る虫第二弾じゃ! ベリルめ、操っていることで調子に乗りおって詰めがハニートーストに生クリーム増し増しでイチゴジャムをぶっかけたくらい甘いわ! ……例えておいてなんだが普通に美味そうじゃな……じゃなくて、とにかく甘いわ!
わしが王子を見つけておいて逃がすと思うなよ。
「いやぁ、お待たせしました! 何しろ大まで出たもんで。スッキリスッキリ」
「景衛さん下品! あ、あの! あたしは違いますからね! ちょっと髪の毛なおしてたから遅くなっただけで!」
とりあえず、わしらは出来るだけ不信がられないようにお兄さんとエンディミオン様のもとへ戻った。ふふっ、我ながら演技派じゃわい。
しかしわしらの思惑とは裏腹に、エンディミオン様は冷たい目ですうっと目を細める。
「……今日は、バイト初日なんでちょっと早めに帰らせてもらおうかな。うさぎちゃん、またね」
そう言って、うさぎちゃんのおとがいに指をかけて視線を合わせて言う遠藤化エンディミオン様。ぐ、ぐおぉ……! エンディミオン様のはずなのに、エンディミオン様のはずなのにいぃ!! いちいち行動が鳥肌たつわい! くっそうベリルめ、エンディミオン様に妙な術をかけおってからに!
しかしうさぎちゃんよ、ぽおっとしている場合ではありませんぞ!
「まあまあ、そう急がずともいいだろう! どうだ? 俺で良ければゲームを教えてやろう。セーラーVでなくて申し訳ないが、俺のダルシムは強いぞ! ……まさか男がストツーの対戦を申し込まれて、逃げる事などしないだろう?」
そう言って挑発的に笑むと、ピクリとエンディミオン様の眉が動く。
「……いいだろう。ただし、一戦だけだ」
「望むところよ」
その後、わしのダルシムがエンディミオン様のザンギエフにぼろ負けした。
馬鹿なぁ!!!!
操られエンディミオン様はザンギエフでダルシムをも倒す力を授かっているぞ!