美少女戦士セーラームーン JIIYA!   作:丸焼きどらごん

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4じいや,かつての弟子は今日の敵

 わしの前世は遥か古代、地球という星そのものがひとつの国だったころまで遡る。現代にいたるまで、覚えてはいないがおそらく何度か転生を繰り返したことだろう。しかしその生ではきっとエンディミオン様に巡り会えず、その生涯を終えたのだ。

 

 そして現在のわしの名は、土御門景衛。前世の名前はヘリオドール。

 

 記憶を取り戻すことですっかり口調が前世へと戻ってしまったが、聞く人間からすればおそらく口ぶりでわかるだろう。……わしは、前世ではたいそうなジジイじゃった。

 

 

 たいそうなジジイで後どれくらい生きれるのか分からなかったわしは、己の後継者たるべき弟子を探していた。わしが死んだ後も王子と地球国を陰ながら守り支える、才能ある者を求めたのである。

 王子の側近たる四人の騎士も才能こそあったが、彼らには彼らの役割がある。王子と同じく教育者としては関わったが、師匠と弟子、という間柄では無かった。

 そんな中で、わしは一人の娘を弟子に選んだ。わしに弟子入りする前から先読みの力にすぐれ、幾度も故郷や人々をその力で救った素晴らしい預言者の卵じゃった。

 

 

 その娘の名は、ベリル。

 

 

 後に地球国の先導者として月の王国シルバーミレニアムに攻め込み、エンディミオン様を殺した張本人である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 わしはクンツァイトの背後に現れたベリルの陰に、やりきれない思いで名前を呼ぶ。しかしベリルはわしの言葉など聞こえていないようで、昔と変わらぬ美しい赤髪を悪鬼のようにうねらせて、整った顔を歪めてクンツァイトに命じた。

 

『クンツァイト、今だ! 我がダークキングダムのために、プリンセスと幻の銀水晶を奪え!』

 

 その言葉に応じてクンツァイトが動く。奴の手のひらからは一点に集中させたエナジーが放出され、プリンセスとエンディミオン様を守っていたセーラー戦士達のバリアを貫通した。

 

「いかん!」

 

 咄嗟に掴んでいた枝を前に突き出してわしも結界を張るが、セーラー戦士達四人がかりのバリアをも突破した攻撃に対して、それはあまりにも焼け石に水じゃった。しかしわしは結界で出来た一瞬の間に、クンツァイトにしがみついた。どうやらこやつ、体勢を崩しつつもプリンセス……うさぎちゃんを守ろうとした戦士達の突破は難しいと考えたのか、銀水晶からこぼれた力に満ちた光をその身に宿した、エンディミオン様だけでも攫おうと手を伸ばしたらしい。今の貴様にエンディミオン様は渡せんわい!

 

「く、また貴様か! 邪魔だ!」

「おうおうおう! デカい口きくようになりよって! 言っとくがわしゃあエンディミオン様だけでなくおぬしらのオムツも取り換えた事あるんじゃからな! 己の役割も忘れて敵に与したひよっこが、わしに偉そうな口を叩くなど千年早いわい!」

「お、オムツだと!? 何をわけのわからぬことを……」

 

 わしにしがみつかれながらも、なんとか念力でエンディミオン様を引き寄せたクンツァイトが、わしを落とそうとぐいぐい押してくる。ええい、忌々しい! こちとらしがみつくだけで精一杯じゃというのに!!

 

 しかしふと、なにやら一瞬クンツァイトの表情が変わる。

 

「まさか……ヘリオドール……様……?」

「!? なんと! おぬし、思い出したのか!」

 

 忠誠心の高いクンツァイトらが我らが怨敵に快く手を貸すことなどありえぬ。だから記憶を思い出さないままに、操られているのだろうとは思っていたが…………。もしや、先ほどの銀水晶の光をあびて正気に戻ったのだろうか。

 しかし歓喜に震えようとしたわしの身を、黒い稲妻が襲った。

 

「ぐあ!?」

『何をしてる、クンツァイト! このさいプリンセスは後回し。その男だけ連れて戻るのだ!』

 

 どうやらそれを成したのは、クンツァイトの背後の空間の歪みに居るベリルのようだ。どうやらあの歪みは別の場所へと繋がっているらしいのう……。おおう、臭い臭い! 臭いよるわ! ベリルの背後から、腐敗臭を放つ毒壺のようなエナジーの波動を感じおる! やはり此度の黒幕もあやつか!! あの忌まわしい、太陽の黒点が生んだ化け物か!!

 

 しかし稲妻に穿たれ、吹き飛ばされたわしは怨敵を前にしてもなお……エンディミオン様が攫われる様を見届けるしかなかった。その情けなさに己を殺したくなるが、このままでは終わらせんと、ぐっと握った枝にありったけのエナジーをこめる。

 

 そして落下に身をまかせつつも、その枝を空間の歪みの向こう側へ向かって、思いっきり投げた。

 

 

 

 

「ぶわっかもーーーーーーーーん!!!! 目を覚まさんかい馬鹿弟子ぃ!!」

 

『だぅあ!?』

「ベリル様!?」

 

 

 

 

 ベリルめの間抜けな声と、クンツァイトの驚愕の声を最後に……空間の歪みや奴らを飲み込み、消失した。……まんまと逃げられたのである。

 

「っと! ほっ!」

 

 後悔と憤怒の心に駆られる前に、落下する体を止めるべく東京タワーの一部にしがみつく。先ほど弾き飛ばされた時はまったく何もない虚空だったが、今度は運よく掴まる物があって助かった。かなり消耗はしたが、この程度こなせるくらいの身体強化はまだ可能だ。ふーい、ひやっとしたわい。

 

 しかし安心する間もなく、鉄塔に捕まっていた片手を何者かに掴まれる。……ヴィーナス殿だ。

 

「あたし達もいったんここから撤退します! 転移するので、あなたも来てください。…………ヘリオドール殿」

 

 彼女の背後には、涙を流すうさぎちゃんを守るようにマーキュリー殿、マーズ殿、ジュピター殿が彼女を囲んでいる。マーキュリー殿が通信機らしきものでどこかに連絡をとっているので、きっとその相手の場所に転移するのだろう。

 

 わしが頷かない道理は無かった。

 

 

 

「連れていってくだされ。わしに、あなた方の力にならせてほしい」

 

 

 

 

 

 

 

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「おのれ、あのジジィめ……! あやつまで転生してきておったのか……!」

 

 クイン・ベリルは赤くなった額を押さえながら、己にぶち当たった枝をその美しい手で忌々しそうにへし折った。

 

 先ほどプリンセスと銀水晶本体を手に入れる事は叶わずとも、銀水晶の光を身に宿した男を手に入れる事は成功した。よって多少不満は残るが、今までに比べれば上々の結果だとベリルはそれなりに機嫌がよかったのだ。なにしろジェダイト、ゾイサイト、ネフライトの四天王三人を消費しても見つけられなかった銀水晶を発見し、ついでにその力の一部をも手に入れられたのだ。水晶本体もプリンセスとセットとなれば、最早探す必要もない。いずれはプリンセスごと手に入れればよいのだ。

 地道にエナジーを人間どもから奪い探索に力を入れていた今までに比べ、なんと楽な事か。

 

 しかしその上機嫌に、最後の最後でケチがついた。それがこの枝である。

 

 ベリルが仕える大いなる支配者、クインメタリアに銀水晶のエナジーを捧げるためにベリルは先ほど咄嗟にクンツァイトへと座標をあわせて空間を繋げた。結果そのおかげで男を攫う事に成功したのだが、なんと空間を閉じる直前、ベリルが繋げた空間に無理やりエナジーをこめられた枝が割り込んできたのである。それも、結構な速度で。

 

 枝はベリルの額の装飾品を吹き飛ばす勢いで彼女の額に一直線にぶち当たり、見事なタンコブを作った。そしてベリルはその一撃を受けたことで、先ほどまでクンツァイトにしがみつき邪魔をして来ていた男が何者なのか、その正体を知る。

 

 

 頑固なジジイだった。融通の利かないジジイだった。…………そして、甘いジジイだった。

 

 

 修業の最中にちょっとでも居眠りすると、ジジイの筆記用具がよくベリルの額に突き刺さったものだ。その感覚をベリルが忘れるはずもない。

 宮廷魔導士ヘリオドール。ベリルの師であるそのジジイが、若い姿であの場に居た。それすなわち、ジジイも転生したことに他ならない。

 

 

(しかし、貴様に今さら何ができる! あの時何も出来なかった、貴様が!!)

 

 

 額のタンコブを痛そうに押さえつつ、しかしベリルは嗤う。苔むした爺さんに用はないとばかりに、見下すように。

 

 

 

 

 そこにはかつてヘリオドールが娘のように愛した愛弟子の面影は、何処にも残っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

+++++++++++++++

 

 

 

 

 

 

 あの後わしは、ヴィーナス殿達と一緒に転移した。なんとその先は先日うさぎちゃんと遊んだゲームセンター「クラウン」の地下というのだから驚きじゃ! そして先で待っていたのは、いつぞやの額に三日月のマークがある黒猫と白猫……。かつてはあまり交流は無かったが、セレニティ様の側近であったルナ殿と、彼女の伴侶であるアルテミス殿だった。

 

 その日は泣きじゃくるうさぎちゃんをなだめ、思い出した記憶を辿ることで時間を費やして終了した。それ以上はうさぎちゃんの体力がもつまいと、とりあえず家に帰ることを進めたのじゃ。

 この時にわしとセーラー戦士達は、情報交換をするために連絡先の交換と現世の名前での自己紹介をした。そして聞いた名は、ヴィーナス殿が愛野美奈子さん、マーキュリー殿が水野亜美さん、マーズ殿が火野レイさん、ジュピター殿が木野まことさん、という名前らしい。う~む、見事にそれぞれ守護星の文字を苗字に冠しておる。美奈子さんだけ愛の文字じゃが、これは金星を意味する女神が司るものじゃな。これも運命か。

 

 そして後日、うさぎちゃんが回復したら情報交換を兼ねて会合の場を設けようという事になったが……。その後一週間ほど、うさぎちゃんは学校にも姿を現す事は無かった。

 

 無理もない。記憶を取り戻したばかりだというのに、前世の再現を見せつけられたようなものじゃ。その心に負った傷は深かろう。

 

 しかし彼女はこれまで、最近世間で噂の正義の戦士セーラームーンとして戦ってきた。心強い仲間もおる。…………きっと立ち直るはずじゃ。亜美さんも「うさぎちゃんは泣き虫だけど、とっても優しくて、そして勇敢な子です。だから泣き寝入りで終わるような、弱い子じゃありません」と言っていたしな。心配ばかりするのは失礼じゃろう。

 わしとしてもエンディミオン様の安否が心配で夜も眠れんが、きっとあの方を助けるためにはわしだけでは力不足。プリンセスとセーラー戦士達と力を合わせなければ。先走って自爆しては、死んでも死に切れぬ。…………実際先走ったせいで一回死にかけたしのぉ……。

 

 

 そしてある日、わしはうさぎちゃんの家に訊ねるから一緒に来てはどうかと誘われた。

 一応手土産に焼き菓子を用意しつつ、何かうさぎちゃんを元気づける何かが出来ないかと考える。

 

 そしてあることを閃いたわしは、妹の部屋によってから美奈子さん達と合流した。

 

 …………あのお方は、エンディミオン様が愛した笑顔で笑ってくれるだろうか。

 

 

 

 

 

「あら、まあまあ。毎日心配かけて、ごめんなさいね」

 

 そう言ってわしらを招き入れてくれたうさぎちゃんのご母堂は、若々しくお美しい方だ。うむ、流石はプリンセスの母君! 雰囲気は違うが、クイーン・セレニティ様ともどことなく似ている。

 亜美さんがうさぎちゃんの様子を尋ねると、母君は困ったように眉尻をさげて憂い気にため息をつく。聞けばうさぎちゃんは部屋から外へ出ず、食事もほとんど食べていないらしい。よほどショックなことがあったのかと母君も心配しておられるが、これはいかん。いかなる時も、食事だけはとらねば。

 

 そう思って、わしは持参した手土産を母君に渡す。

 

「つまらないものですが、良ければお受け取りください。うさぎさんも以前好きだと言っておりましたので、お口にはあうと思いますじゃ」

「あら、あなたは初めて見るお顔ね。……じゃ?」

「おお! 申し遅れました! わしは……うっ」

 

 自己紹介しかけたところで、笑顔の美奈子さんからさりげない角度で脇に肘をドスっと入れられた。お、おおう。すみませぬな。どうにも口調がまだ安定せんもので……。家でもうっかりこの調子で話したら妹の玲那に「ついにお兄ちゃんがジジむささが行き過ぎてボケた……!」などと言われてしまうし。……けど、肘はちょっと痛いんじゃ……。

 

 とりあえずわし、否俺は咳ばらいをすると改めて自己紹介をする。

 

「申し遅れました。俺は土御門景衛と申します。俺もうさぎさんとは友達だったので、体調不良とうかがって心配になりまして……。こうして訊ねさせていただいた次第です」

「まあ、礼儀正しい子ねぇ。うふふっ。亜美ちゃん達といい、うさぎはいいお友達をもったわ!」

 

 そう言われると、なんだかこそばゆいものがあるな。

 

 そして母君に挨拶を済ませたわし……じゃない、俺たちは、うさぎちゃんの部屋へと向かった。

 

 

 そして部屋へ入ると、意外と元気そうなうさぎちゃんの姿。しかしその髪の毛は今まで以上に長く伸びており、初見で思わずぎょっとする。どうやら美奈子さんが言うには、記憶をいきなり取り戻した影響とのこと。……そういえばセレニティ様は、とても長い髪をされていたな。

 うさぎちゃんは美奈子さんに髪の毛を整えてもらった後、タキシード仮面(実は地場というかエンディミオン様が真面目にその名前を名乗っていたのかとその場で空気を読まず二、三回聞き返してしまった)……エンディミオン様の話題をふられると、今までの落ち着いていた様子を一変させて再び取り乱した。しかし俺が出るまでもなく、美奈子さんがうさぎちゃんをなだめる。

 そしてルナ殿の提案により、ダークキングダムの場所を突き止めエンディミオン様を助けるためにも……月の王国の記憶を辿り、光を失った幻の銀水晶の秘密を知るためにも彼女たちは月へ行く事が決定した。

 

 

 ううむ……。やはりおいぼれのわしの力など借りずとも、彼女らは強いな。そしてその絆に、憧憬の念が浮かぶ。

 …………何しろかつての弟子も仲間も、わしの方はみ~んな敵の手に落ちておるからのぉ。まったくたまらんわい。おっと、また思考がジジイに戻っておる。こりゃあ外側で取り繕っても、早々戻りそうにないのぉ。

 

 

 

 しかし、ジジイにも出来ることがあろうて!! わしだってプリンセスを元気づけたいんじゃ!

 

 

 

 そして意気込んだわしは、ここに来るまでず~っと着ていた、今の時期には似つかわしくないロングコートに手をかけた。そして渾身の台詞と共に、脱ぐ!!

 

 

 

「プリンセス殿! このわしも出来る限り力になりましょうぞ! というわけで、何事も形からですじゃ。わしもまた伝統の月の王国の戦闘衣に倣って、この姿でお供いたしますぞ!」

 

 わしが着ていたのは、セーラー戦士をセーラー戦士たらしめるシルバーミレニアム伝統の戦闘衣、セーラー服! 妹の物なのでピッチピチに伸びておるが、そのような事は些事よ!!

 今のわしではどこまで役立てるかわからん。じゃが、せめて形からでもあなた様の味方であり、共にエンディミオン様を助けるため戦う仲間と思ってほしいのです!

 

「「「「「……………………」」」」」

 

 何故か沈黙が長い。

 

「ふむ、やはり決めポーズや決め台詞など必要でしょうか? では、お恥ずかしながら披露いたしましょう。

 

「「「「「……………………」」」」」

 

 やはり沈黙が長い。ふむ、これは待っていてくださると思ってよいのですな!

 わしは少々照れつつも、コホンと咳ばらいをするとピシッとポーズを決めた。

 

 

「セーラーヘリオドールいざ参る! 地球に代わって説教じゃ!」

 

「「「「「……………………」」」」」

 

 やはり沈黙は続く。はて?

 

 

 

 しかし、突如として声が爆発した。

 

「ヘリオドール殿がボケたわ! どうしよう!?」

「か、か、景衛さん、あはは、あははははははは!! ちょ、かげもりさん、いきなり、なに、おかしー! あはははは!」

「うさぎちゃん! うさぎ! 笑ってる場合じゃないわ! いや笑ってくれたのは嬉しいんだけど! ああもう、これはどうすれば!?」

「レイちゃん落ち着いて! 冷静に悪霊払いをするんだ!」

「! そ、そうね。そうよ、これはきっと狐憑きか何かだわ!」

「土御門さん、とりあえず着替えてください! 見ていられませんから! ああでもちゃんとすね毛が剃ってある!?」

 

 美奈子さん、うさぎちゃん、レイさん、まことさん、亜美さんと、口々に言葉が飛び交う。

 それを見てわしは笑顔のまま納得した。

 

 

 

 

 

__________________ うむ、なにやらやり過ぎた。

 

 

 

 

 

 まあ、うさぎちゃんが笑ってくれたのだ。今はそれでよしとしよう。

 

 

 

 

 

 




なにげに漫画原作だとレイの口調が最初は「~ですわ」みたいなお嬢様口調でうさぎのことも呼び捨てでなくちゃん付けなので、アニメのイメージが強いとちょっと違和感あったり。漫画でも途中から呼び捨てになってお嬢様口調ではなくなっていくので、本作ではそれに合わせようと思います。

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