美少女戦士セーラームーン JIIYA!   作:丸焼きどらごん

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3じいや,じいやとセーラー戦士

 月野うさぎは、ルナという額に三日月形の模様がある猫と出会った日から、正義の戦士セーラームーンとして目覚めた。ルナが言うには警察でも手におえない事件が多発しており、仲間を集めて敵を倒す事こそうさぎの使命なのだという。そして……使い方ひとつで星一つをも軽く吹き飛ばすほどの巨大なエネルギーを秘めた聖石、幻の銀水晶と月の王国のプリンセスを探し出して守る事も、戦士達の使命なのだとか。

 

 うさぎはその日から自分と同じく新たに力に目覚めた仲間……セーラー戦士達と出会い、妖魔を操り人々から生気……エナジーを奪おうとする敵、ダークキングダムとの戦いを繰り返した。ダークキングダムは幻の銀水晶を探しているようで、そして…………うさぎが初めてセーラームーンになった日から彼女のピンチを助けた、謎の青年であるタキシード仮面もまた幻の銀水晶を求め、探しているようだった。

 

 タキシード仮面。

 彼の正体は地場衛(ちばまもる)という、元麻生高校に通う男子高校生だ。話を聞けば、彼は両親を幼いころに交通事故で亡くしており、その際に自分の記憶までも失ってしまったのだという。

 そんな彼は、事故以来何年も見続ける夢に出てくる「幻の銀水晶」を追い求めた。……自身の記憶を辿る、手掛かりと信じて。

 

 

 そして、幾度目かの戦いにて。

 

 

 東京中から電気とエナジーを奪うべく、東京タワーを利用した敵と相対した時。

 

 

 

 

 

 

 エナジーを回復させるために技を使ったうさぎ。そしてそんな彼女を攻撃した敵からかばい、タキシード仮面はその胸を電光で穿たれた。

 

 

 

 

「いやああああああーーーーーーーー!!」

 

 同時に、蘇る記憶。

 

 うさぎたちが探していた月のプリンセスは、うさぎだったこと。

 遥か大古の昔に栄えた月の王国シルバーミレニアムと、長寿の生命体である月の住人が慈しみ見守っていた、美しき青い星……地球国。そこでうさぎの前世であるプリンセス・セレニティと、地球国第一王子エンディミオンは恋に落ちたのだ。

 しかしその幸せも長くは続かない。ある日、ある預言者の娘と太陽の黒点から現れた邪悪によって意識を塗りつぶされ操られた地球国の人々は、月の王国へ攻め込んだのである。

 月の王国の秘宝、幻の銀水晶を手に入れ地球を繁栄させるために。

 

 エンディミオンはそのさいも、セレニティをかばって命を落としている。そして悲しみのあまり、セレニティは自ら命を絶ってしまった。

 

 

 これでは、まるでその再現ではないか。

 

 

 生まれ変わり、再び巡り合ったというのに。

 

 

 

 

 その時だ。記憶を取り戻すと同時に、かつてのセレニティと同じドレスを纏う姿へと変わったうさぎの涙が、衛の頬に落ちた時……東京中を先ほどの比ではない膨大なエネルギーが覆った。その極光は全ての生命に活力を呼び覚まさせ、やがて光の中心である涙は、ひと粒の結晶へと変化し光はそこへ収束する。

 

 

 生まれた一粒の結晶。

 それこそが、幻の銀水晶であった。

 

 

「! なんと! これほどのお力とは!」

「え?」

 

 そしてその幻の銀水晶からこぼれた生命力にあふれる光を意識のない衛の中へと落としたうさぎだったが、突然聞こえた聞き覚えのある声に一瞬意識がそれる。そしてその視線の先には、この場には居るはずのない人間が居たのだ。

 

 

「景衛さん!?」

 

 

 なぜか東京タワーの鉄塔にへばりつくようにしがみついて「よいせ」とひといきに上りきったのは、ここ最近よく会うちょっとじじくさい高校生だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

+++++++++++++++

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地球国の事も月の王国の事も、そして我が主であるエンディミオン様の事を思い出したわしはとにかくひた走った。

 

 かつてこの身は、占星術や地球の自然エネルギーを操ることで地球国に「魔術師」として仕えたじじいだったのだ。そしてわし個人として仕えていたのは、いずれ地球国の王になったであろう聡明なエンディミオン様。生まれた時からお世話と教育係を仰せつかっていただけに、仕えるお方という以上に、恐れ多い事だが息子か孫のようにも思っていた方でもある。エンディミオン様も「じいや、じいや」と呼んで慕ってくれたものだ。

 

 わしは月の女王が娘を亡くしたことで決意し、あの邪悪を封印するまでを見届けた。そして時には"賢者"などと呼ばれたくせに、結局何も出来なかった愚かで蒙昧なるわが身を呪い、死に際に転生を願ったのである。…………今度こそ、生まれ変わったあの方をお守りするために。

 

 そして月のプリンセスのエナジーを頼りに、強化した身体能力で生身で東京タワーを上るという、普通に考えたら正気の沙汰ではないことをやってのけたわし。じゃが、この程度なんだというのか! 月のプリンセスが居るのなら、きっとお傍にエンディミオン様も居る。そしてあの方たちがまた"あれ"と戦っているのならば、わが命を捧げることになろうと、今度こそお守りするのだ!!

 

 

 だが東京タワーを目的の位置までのぼりきったところで、わしはまた間に合わなかったことを知る。

 

 

「! なんと! これほどのお力とは!」

 

 登り切る直前に感じた、先ほどよりも強力な慈愛のエナジー。その力に思わず感嘆の声をあげると、懐かしきセレニティ様のお姿をした……うさぎちゃんがこちらを見た。しかし彼女の正体に驚く間もなく、うさぎちゃんの膝に目を閉じたまま横たわっている主の姿に心臓が凍り付きそうになる。

 

 地場……! 否、エンディミオン様!

 

 そして主に害をなしたであろう敵を睨みつけんと、東京中からエナジーを奪い取っている怨敵に目を向ける。

 しかしそこに居たのは思いがけない人物だった。視線の先に居たのは、背の高い長髪の男。……その顔を、わしはよぉく知っておる。

 

 

「クンツァイト貴様ぁぁ!! 何故おぬしがエンディミオン様に仇なしておるのじゃ!!」

 

 言うなり、わしはベルトに挟んでいた枝を引き抜いて鉄塔の上から助走をつけて跳躍し、かつて自身と同じくエンディミオンに仕えていた騎士に殴りかかる。

 

「なんだ貴様は! ……!? ぐっ、頭が……! ちぃッ」

 

 長髪の男、クンツァイトは何かに苦しむように頭を押さえるが知った事ではない。理由はどうあれ主に手を出したのだ! まず一発殴らんとわしの気がおさまらんわい!

 しかしクンツァイトが腕を振り払うようにすると、発生した電気をまとった突風がわしの体を押し返す。そして考え無しに跳んでしまったが、ここはそういえば東京タワーの上じゃった。

 

「ぬおぉぉぉぉおおおぉぉ!?」

 

 どこか捕まる場所もなく、重力に従ってあえなく転落してゆくわが身。

 な、なんということじゃ! 頭に血が上り過ぎた。記憶を取り戻したばかりでは、まだ思うように地脈のエナジーを扱う事ができんというのに! 実はここまで上りきるので精一杯だったんじゃぁぁ!!

 

「む、無念ッ」

「危ない!」

 

 しかし覚悟を決めて目を瞑ったわしを、誰かが抱きとめてくれた。そして目を開けてその誰かを見れば、これまた懐かしい顔ぶれ。

 

「おお! ヴィーナス殿! それにマーキュリー殿、マーズ殿、ジュピター殿! 助かりましたぞ!」

「え、ええ。あの……あなたって……」

 

 わしを助けてくれたのは、セレニティ様をお守りする月の四戦士の方々だ。どうやらジュピター殿のお力で浮遊しているらしいの。

 しかしどうやらわしの事が分からないらしく、困惑している。……そりゃそうじゃ。我がことながら、こんなぴっちぴちの若者がじじい口調で話しかけて来たら困惑もするだろうて。

 

「わしですじゃ。ヘリオドールですじゃ!」

「! ヘリオドール殿ですって!?」

「ええ! ですが、驚くのは後にしましょうぞ! 助けてくれたことに礼は言いますが、今はセレニティ様とエンディミオン様をお守りせねば!」

「え、ええ。もちろんよ! よくわかんないけど、色々後回しよ!」

 

 さすがは四戦士のリーダーであらせられるヴィーナス殿だ。すぐに意識を切り替えて、仲間と共にバリアを展開しながらセレニティ様とエンディミオン様の前へ出た。

 

 そしてわしは改めてクンツァイトを見る。……すると、その背後に見覚えのある姿の影が揺らめくのを見て唇をかみしめる。そして叫んだ。

 

 

 

「やはりお前か! 我が弟子ベリルよ!!」

 

 

 

 そこに居たのは、かつての弟子の姿だった。

 

 

 

 

 

 

 




漫画版セーラームーンざっくりあらすじ回

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