美少女戦士セーラームーン JIIYA!   作:丸焼きどらごん

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12じいや,戦いのその後で

 クイン・メタリアは倒され、世界に平和が訪れた。

 

 

 そしてその数日後。昔のようにエンディミオン様のお世話が出来ると喜び勇み、わしはいそいそと朝食の材料をもってエンディミオン様の住居まで訪れていた。ここ最近の、わしの新たな朝の日課じゃわい!

 

 

 

 

 

 しかし、そんなわしは何故か今……正座させられている。

 

 

 

 

 

「ヘリオドールおじい様ったら、加減が出来ないんだから。そんな勢いで抱き着かれたら、寝起きのエンディミオン様じゃ倒れて当たり前ですよ」

「ああ。昔は年のせいか俺達よりもお小さかったが、今はクンツァイトと同じくらい背丈があるんだ。体格もいい。……もっと自重してください」

「色々あったのです。エンディミオン様もまだ記憶が混濁することも多いでしょうし、我々はそれを支えねばならないのですよ。それを支えるどころか押し倒してどうするんですか、ヘリオドール様」

「まあ、お気持ちは分からなくもないが」

 

 勝手にわしが作った卵焼きをつまみながら呆れたように言うゾイサイトに、タンコブを作ったエンディミオン様の頭を氷で冷やしつつため息をつくジェダイト。エンディミオン様の寝癖を直そうと櫛とドライヤー装備のネフライトに、バリスタ並みの優雅な所作でエンディミオン様に珈琲を淹れるクンツァイト。

 約一名つまみ食いをしているだけじゃが、それぞれ思い思いにエンディミオン様のお世話をしている。そして、みな一様にわしを責める。

 ううっ、味方はおらんのか! だって、だってのぉ! じいやと、昔と変わらぬお声で呼ばれたら、嬉しいに決まっとるじゃろうが!! このパッションをち~っとくらい理解してくれてもバチはあたらんぞ!

 

「…………。とりあえず、みんなちょっと近い。色々してくれてありがたいんだが、正直ここまでされるとありがた迷惑の域だ」

 

 そんな中、額に手を押し当てて困ったというか居た堪れないというか、そんな表情で言うエンディミオン様。その言葉に四人はショックを受けたように固まるが、エンディミオン様はひきつった笑みを浮かべ首を振る。

 

「俺もちょっと我慢してたけど、この際言わせてもらおうか。…………………顔も一人で洗えるし着替えも一人で出来るし歯ブラシも自分で出来る!! いい声の子守歌も耳元に生モーニングコールもいらない! とりあえず何から何まで世話を焼こうとするのはやめてくれないか!? 俺はもう、王子じゃないんだぞ? 地場衛! 高校生だ! 一人暮らし歴長い、高校生だ! というか、王子の時だってこんな赤ん坊みたいに世話焼かれたことはないだろう!? 子守歌ってなんだ!? 会えて嬉しい気持ちは俺も同じだから、頼むから土御門だけでなくお前らも、もうちょっと色々押さえてくれ!! 大の男が揃いもそろって好意が暑苦しい!」

 

 一息に言い切ると、ぜーはーと荒い呼吸をつくエンディミオン……否、衛様。最初は大人しくクンツァイト達の好意を受け入れていたようだが、知らないうちに色々と溜まっていたらしい。

 ふんっ、これではわしの事だけ言えぬではないか!

 

 

 しかし、わしは年長者。この場を取りなさなくては。

 

 

「ま、まあまあ、衛様。お気持ちも分かりますが、少々落ち着きなされませ」

「そして土御門! お前はとにかく様付けだけはやめてくれ! 口調が直らないのはもうわかったから!」

「な、何故に!? それと、土御門などと水臭いではありませんか! じ・い・やと、呼んでくだされ♡」

 

 わしがそう言うと、何故か衛様はぶるりと震えて腕をさすった。

 

「い、いいか? 最初に言っておくが、その好意は嬉しい。じいやにまた会えて、俺だって嬉しさ。…………けどな? 同性の同級生がいきなりジジイ言葉になって、毎朝朝食を作りに来るというシチュエーションを受ける俺の身も、もうちょっと考えてくれよ……」

「エンディミオン様、おいたわしや……」

「ヘリオドール様、気を付けてくださいね」

「いや、だからお前らもだからな? いきなり甲斐甲斐しく世話を焼いてくる男が四人も同居者になって、押しかけ同級生が一人出来たとかちょっと……いや嬉しいけど」

 

 おお、なんとお優しい! ちゃ~んとわしらが傷つかないように、諫めつつも嬉しく思ってくださっていることを伝えてくださる。……今生でのご両親はお亡くなりになったと聞いたが、ちゃんと衛様を優しい子に育ててくれたんじゃな……。ありがたいことだ。

 

 

 

 

 

 

 クイン・メタリアは、うさぎちゃんが解放した幻の銀水晶と月の真なる輝きの力の前に塵となってやぶれた。そしてその後メタリアの呪いから解き放たれ蘇った月の王国へ向かった彼女の力により、エナジーを吸われた地球と人々は癒され、再び平和な世界は取り戻されたのじゃ。

 

 そしてあの戦いの後、なんと核を砕かれ消えるとばかり思っていたジェダイト、ネフライト、ゾイサイトは、クンツァイトが自らの体に……核である宝石に、彼らの魂を受け入れる事で消滅の難を逃れたようだ。これにはメタリアを倒した後、うさぎちゃんとエンディミオン様が回復のエナジーを使ってくれたことも大きい。

 

 つまり今の四人は正真正銘の一心同体。わしが結界を張った衛様のお部屋の中だけならばそれぞれ体を構築し、人の体で行動することが可能だが……。ここから一歩でも外へ出れば、彼らが四人同時に存在することはできない。誰か一人だけが宝石を核として、人の姿をとれるのだ。

 途中で入れ替わることは可能じゃがのぅ。

 

 

 これについては、本人たちはあまり悲観していない。

 

 

「ま、消えなかっただけで御の字ですよ。利用されて、散々迷惑かけて、償う前にポックリだなんて笑えない。それを考えれば、今の形は最上級の幸運でしょう」

「ええ。今の俺達を育ててくれた家族には悪いが、最早俺たちはこの生に唯一無二の目的を見つけている。こんな体で戻ったところで未練を残させてしまうだけですし、俺達はこのままエンディミオン様のお傍でお仕えします。かつての、地球国の時のように」

「今度こそ、最後までお供させてくださいエンディミオン様。俺達は、あなたの助けとなるために、生まれ変わって来たのですから」

「ああ。どんな形であろうと、俺たちは今ここに居る。だったら、存分に我らがマスターのために力を振るおう!」

 

 …………と、いうことらしい。まあ、これについてはわしも同意見なわけじゃが。

 このわしヘリオドールこと土御門景衛も、此度の生で再びエンディミオン様……衛様に忠誠を誓おう。そして、陰ながらお守りしていくのじゃ。

 

 

 でもって何が出来るか考えたところ特に敵が居ない今、とりあえずお世話を焼こうという事になって、それがあの過保護なありさまじゃ。

 ……ストレスで衛様の頭に十円ハゲでも出来たらゆゆしき事態じゃし、わしもあやつらも、衛様を構うのはほどほどにしておいた方がよさそうじゃな。

 何しろ、衛様はまだ高校生。思春期真っ盛りじゃ! 前世の恋人たるセレニティ様、うさぎちゃんとも晴れて恋仲になったようだし、そんな時に男の側近が五人もべったりというのはいかん。これからは衛様のプライベートにも気を使わなければな!

 

 

 

 

 

 

 そして、わしが生かし、保護したベリルなのじゃが……。

 

 

 

 

 

+++++++++++

 

 

 

 

 

「いや~! すっかり平和よねー!」

「どうしたのよ、いきなり」

 

 教室の机にぺったり横頬をくっつけ寝そべったうさぎが、だらけきった様子で言う。すると親友である大阪なるがおかしそうに笑った。

 ここ最近素敵な彼氏も出来たせいか、うさぎは一日中幸せそうな顔でにやついているのだ。しばらく前まで元気が取り柄を言わんばかりのうさぎがどこか悲しそうで、ふさぎ込んでいるように感じていたなるは、その様子に呆れながらもとても安心しているのだ。自然と笑みも浮かんでくるというものである。

 

 そして突然、そんな二人の間に牛乳瓶の底のような眼鏡をかけた男子生徒、海野が割り込んできた。

 

「ところでお二人とも、ご存知ですか?」

「うわっ! ちょっと海野、いきなりビックリするじゃない!」

「そうよ! ……でもご存知ですかって、何が?」

 

 海野は二人の注目が自分に集まるのを感じると、眼鏡をくいっと持ち上げて得意げに笑う。

 

「フフフフフ。実はですねぇ……なんと!」

「「なんと?」」

「今日から数学の先生が産休に入られるので、新しい先生がやってくるんですよ!!」

 

 それを聞いた途端、うさぎもなるも「な~んだ」と口をそろえて言う。そんなことちょっと前から誰もが知っている事だ。ニュースでもなんでもない。

 

 しかし海野は笑みを崩さない。

 

「それがですねぇ……。新しい先生、ものすっごく美人な外人の女の人なんですよ! 僕は残念ながら後ろ姿しかまだ見ていないんですが、男の先生方の鼻の下の伸びっぷりをみるに、相当ですよこれは……!」

「ふ~ん」

「へ~え」

 

 美人な外人の女教師。興味はある。しかしそれに興奮する海野と、海野の話を聞いて期待を膨らませる男子に向けられる女子からの視線は冷たい。

 

「でも、すっごい美人か~! ちょっと楽しみかも。あとあと、あたしはとりあえず、優しい先生だといいな~って」

「うさぎったら、数学も苦手だもんね~」

「そうなのよ~、あはは。だから、あんまり宿題出さない先生だと嬉し」

 

 言いかけた、その時。

 

「ほう、怠惰な生徒も居たものだなぁ。喜べ。存分に優しく、特別に、可愛がってやろうではないか」

 

 その声にぎょっとなってうさぎが振り返ると、そこに居たのはスーツを纏った赤髪の麗しい美女。

 

 

 

 

「べ、べべべべべべべべべ、ベリル~~~~~~!?」

 

 

 

 

 うさぎの声が、教室中に響き渡った。

 

 

 

 

 

 


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