美少女戦士セーラームーン JIIYA!   作:丸焼きどらごん

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1じいや.始まりの夢

 夢を見る。録画したテープを繰り返し見るように、何度も何度も同じ夢を。

 

 夢の中で俺は誰かを呼んでいた。夢の中で、俺は何かを止めようとしていた。しかしそれは叶わなかったようで夢の終わりにはいつも、どうしようもないほどの後悔に苛まれる。

 

_______________ ■■■を止められたならば、救えたならば……。■■■□■■■様も、■■■■□様も失わずに済んだのに。

 

 

 夢に映像は無く、固有名詞も聞き取れない。ただ、激流のように強い感情が押し寄せてそれが酷く苦しくてならなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 俺は、いったい誰を守れなかったんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん、今日もいい日だ!」

 

 今日もいい天気になりそうだと嬉しくなり思わずでかい独り言を呟けば、両親と妹から「朝から煩い」と苦言を頂戴してしまった。どうやら睡眠を妨げてしまったようだが、俺にしてみればみんな寝過ぎなのだ。起きたのなら惰眠を貪らずに早く起きればいいものを。

 

 早起きは三文の得である。

 

 早朝の空気は水気を含んでいて清々しく、いつも良い気分で一日を始められるのだから習慣にして損はない。だからみんな俺のように早起きしてこの幸福感を味わえばいいのにと常日頃から言っているのだが、それを言えば「あんたは早く起きすぎ」と呆れられた。……嘆かわしい事に、俺のおすすめに対し家族の評判はあまりよろしくないのだ。しかしそんなに早いだろうか? まあ、母とて起きるのは六時付近だからな。それに比べたら四時起きがデフォルトな俺の朝は早いか。……でもあと三十分早起きすれば、もっと心に余裕もできると思うんだがなぁ……。

 

 

 そんなわけで、俺の朝は午前四時に目が覚める事から始まる。昔から見ている妙な夢のせいで深く眠れないからか、すっかりこの習慣が身についてしまった。もう少し寝ようと思っても、不思議と時間になれば目が覚めてしまうのだ。そのおかげで普段の行動もあいまってか妹からは度々「じじくさい」と言われる。失礼な。俺はまだピッチピチの男子高校生だぞ。

 そして目が覚めたら顔を洗い、健康のために寒風摩擦をした後軽いジョギングで体を温め、冴えた頭で読書をするのが日課だ。読書している間に朝日が昇り始めるので、それを見ながら珈琲を飲むのが最高に幸せである。朝刊が届く時間には外に出て、新聞配達の中学生くらいの若者にねぎらいの言葉をかけてから直接新聞を受け取りそのまま一面からざっと目を通す。父も出勤前に新聞を読むから、先に読んで読む時間がかぶらないようにせねばという配慮だ。

 そうこうしているうちに母が起きてきて朝食の準備を始めるので、その間に俺は洗濯機のスイッチを入れ前日の洗濯物を洗う。こうしておくと出かける前に干せるのだ。そして洗濯中及び朝食が出来るまでの間、学生らしく勉強に励む。

 

 うむ、充実した朝だな。

 

 朝食を食べていると、遅刻ぎりぎりの時間に起きてきた妹に「なんで起こしてくれなかったのー!?」と文句を言われた。起こしたぞ、五時くらいに。その時は「ウルセーじじい! 早いっつーの!」などと暴言を吐いてきたくせに我儘な事だ。

 そんな我儘な妹だが、それでも妹は妹。可愛い奴だ。だから俺は心を鬼にしてこう告げる。

 

「じゃあ、俺は行くけど。しっかり朝ご飯は食べてくるんだぞ? せっかく母さんが作ってくれたんだから」

「ちょ、ちょっと待ってよ! お兄ちゃんまだ時間余裕でしょ!? 少しくらい待っててよ! でもって自転車乗せてって!」

 

 俺は心を鬼にする。

 

「嫌だ。寝坊するお前が悪い」

「ケチー! お兄ちゃんのケチぃぃぃぃぃ!! てゆーか、お兄ちゃんがあんな早い時間に起こさなきゃ二度寝してないもん、馬鹿ぁぁぁぁ!!」

 

 妹の盛大なブーイングを背に、俺はいつも通りの時間に家を出た。まったく、これらを教訓にこれからはもっと早起きしてもらいたいものだ。

 

 

 

 

 実に平和に、俺の時間は過ぎてゆく。しかし時々何か忘れているような、奇妙な焦燥感に囚われることもある。……きっとこれは、例の夢のせいだ。

 そのせいなのか、幸福で充実しているはずの日常が時々色を無くす。絶対に忘れていてはならない事、忘れたくないことを思い出せない感覚。いったいこれはいつまで続くのだろうか。

 

「きゃ!?」

「おお!?」

 

 気持ちの良い朝から始まった割には少々アンニュイな気分を抱えて自転車で走行していた俺。そんな風に考え事をしていたのが悪かったのか、不覚にも曲がり角から人が出てくるのに気が付かなかった。しかも相手は女性だ。なんとか避けられたが、なんという失態。か弱い女性に自転車でぶつかりかけるとは……!

 

「悪い、大丈夫か!?」

「は、はひ! だいじょうぶ、です」

 

 慌てて自転車から下りて様子を窺えば、俺の勢いが強すぎたのか相手の女性……中学生くらいの女の子は少々面食らったようにのけ反った。どうやら驚かせてしまったらしい。

 セーラー服に身を包んだその子はとても長い髪を、お団子に結ってから両サイドに流すという特徴的な髪型をしていた。大きな目をしていて小さい鼻に可憐な桜の花びらのような唇。今も可愛らしいが、きっと将来は美人になる事だろう。そして俺はそんな女の子を見た瞬間、食い入るように彼女の顔を見つめていた。

 

「えっと、あたしの顔に何かついてます……?」

 

 固まったまま見つめていた俺に、女の子は居心地悪そうに問いかけてきた。それによってはっと我に返った俺は、普段だったら絶対にしないような失態を続けて行った事に自己嫌悪を抱く。ぶつかりそうになった上に女性の顔をまじまじと見つめるなんて、マナーに欠ける。まったく俺はなにをやっているんだ。

 ……それにしても、誰かの顔を見て固まるなんてこれで"二度目"だな。前は男だったが。

 

 とにかく、初対面の相手になんとも申し訳ないことをしてしまった。そう思ったら俺の口からは自然とこんなセリフが出ていた。

 

「驚かせてすまなかったな。……ところで急いでいるようだが、その制服は十番台中学校か?」

「え、うん、はい。そうですけど……」

「急いでいたようだし、ここから行くとしたら遅刻だろう。よければ驚かせたお詫びに送っていくが」

 

 自転車の後ろを示せば女の子は驚いたように肩を撥ねさせた。う~ん、リアクションが大きくて見ていて面白い子だな。

 

「え!? でも、」

「遠慮しないでくれ。ちょうど俺も通り道だし、負担にはならないよ。俺の妹も十番台だし、場所は分かる」

 

 俺は先ほど自転車に乗せてけをわめいていた同じく遅刻組になるであろう妹のことなど記憶の隅に追いやって、更にお詫びにと申しでる。あまり強引にしてもいけないしこれで断られたら引き下がるつもりだが、女の子は数秒悩んだ後ぱっと顔をあげて人懐っこい笑顔で言った。

 

「え、えへへ……実は困ってたの。じゃあ、お願いしてもいいですか?」

「よし、乗ってけ」

 

 俺が笑って後部座席を示すと、女の子は少し照れた様子ながら横乗りに乗った。ちょっと危ないが、スカートだからな。またがるのは恥ずかしいんだろう。

 

 

「そういえばお兄さんの名前は? あたし、月野うさぎ! 妹さんって何年生? どこのクラス?」

 

 振り落とさないように細心の注意を払って自転車をこぎ出すと、女の子……月野さんが問いかけてくる。こちらが申し出たからとはいえ見知らぬ相手の自転車に乗ったり話しかけてきたり、社交的というか人懐っこい子だな。ちょっと危なっかしい気もするが、見ていてなんだか微笑ましい気持ちになる。

 

「俺は土御門景衛(つちみかどかげもり)。元麻生高校の二年生だ。妹はたしか……二年四組だったかな? 土御門玲那(つちみかどれいな)って名前だよ」

「あ、そうなんですね! じゃあ、あたしと学年は一緒だ! あたしは一組なんです」

「そっか。もし知り合う機会があったら、よろしくな。ちょっとガサツだがいい子なんだ。……よく遅刻するから、話はあうかもよ」

「べ、別にあたしはいつも遅刻してるわけじゃ……お、多くはあるけど……」

 

 最後の方をごにょごにょと濁しているあたり、この子も遅刻常習犯か。

 

「……余計なお世話かもしれないが、遅刻は良くないぞ。早起き頑張れ」

「ううっ。早起きニガテ……」

「ははっ、慣れたら大丈夫さ! 朝は気持ちいいぞ!」

「それが出来たら苦労しません~」

 

 恨めしそうな顔で言われてしまい、苦笑する。う~む、やはり早起きは俺が思っている以上にハードルが高いようだ。気持ちいいのに。

 

 その後月野さんを中学まで送り届けてから、俺も学校に向かう。ちょっと急がないと俺も厳しいかな。とばすか。

 

 

 

 

 

 

 俺は知らない。この時俺は、忘れていたナニカを思い出すきっかけをすでに手にいれていた事に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

+++++++++++++

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっとうさぎ! さっき自転車に乗せてくれてた人誰? あれ、元麻生高校の制服よね!」

「えっへへ~! さっきぶつかりそうになったから、お詫びにって送ってくれたの!」

「きゃ~! なにそれ紳士! 背も高くてかっこいいし、もしかして運命の出会いってやつ?」

 

 学校に着くなり、送ってもらっていた所を目撃していた親友のなるをはじめとしたクラスメイトの女子に興味津々と言った様子で尋ねられるうさぎ。うさぎも思わぬ出会いとラッキーにうきうきと詳細を語るが、ふと何やら思い至って首を傾げた。

 

「う~ん? でも、運命の出会いとかっていうと、ちょっと違うような……」

「え~? だってさっきの人格好よかったわよ?」

「そうなんだけど……」

 

 うさぎは先ほど少し話した青年……景衛のことを思い出し、思ったままに感想を述べた。

 

 

 

 

「ちょっと話し方が硬いっていうか、言う事がおじいちゃんみたいだったのよね。学校に来るまでず~っと早起きの良さを語られちゃった」

 

 

 

 

 

 その頃、景衛は大きなくしゃみをして「風邪か?」と不思議そうな顔をしていたりする。

 

 この二人が再び会う機会は、案外近い。

 

 

 

 

 




旧アニメ再放送見てセーラームーンの面白さを再実感。でもアニメ版沿いだと長くなりそうなので漫画版でお送りします。(ブックオフへ走りつつ七巻まで購入。続きはどこだ
ダークキングダム編を書く中編の予定。

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