やはりぼっちとコミュ障のボーダーは間違っていない 作:癒しを求めるもの
八幡side
ボーダー本部大広間に、総武高の二年生が集まっている。
ボーダー隊員以外は入れないこの場所だが今日は職場見学のためいつも以上の人数がボーダー本部に集まったのだ。
誰が好き好んで自分の職場にわざわざ見学しに来るのだろうか?
遥は嵐山隊として案内の係を担当するためここに来ているが、他の隊員も総武高に通っているため、今更だが全員がボーダーに行くだなんて決断を反対しときゃよかった。
俺は溜息を吐いて辺りを見回すと、ボーダー組は平然としていて、クラスメイトだろう生徒に囲まれて質問されたりしている。
しかし、比企谷隊のメンバーだけが生徒に囲まれず普通にしていた。いや、十和はマスクを着用した状態でキョロキョロと他の生徒を見ていた。十和のその姿に通りかかったC級隊員たちが驚いていたが話しかける者はいない。
早く帰りたい
何度も何度も頭の中でリピートされるその言葉を口に漏れそうになった時だった。
嵐山隊が出てくる。その瞬間に一部。女子が色めき立った。
流石ナイスガイ。
「総武高校のみんな、今日はよく来てくれた。君たちの職場見学を案内する嵐山隊隊長の嵐山准だ!今日はよろしくな!」
流石は嵐山さん。何度も見ているが俺とは真逆目の輝きただ。
入隊当初はあの爽やかさが苦手だったなぁ……。
今は嵐山隊はよく出入りしていて嵐山さんとも会うから慣れたけど。
「じゃあ早速初めていこう。まず、ボーダーという職種についてだが……」
「……といった感じだ。ボーダーの職種については以上だ。それでここからは入隊したばかりの訓練生がうけるオリエンテーションをしていく予定だ」
プレゼン的な何かが終わったようだ。俺がぼーっとしている間に終わった説明に生徒一同が拍手する。
隣にいるマイエンジェルの戸塚はキラキラした笑顔でそのプレゼンを見ていた。………男じゃなくね?
俺が永遠に解決出来ないであろう問を見つけてしまうが見学はまだまだ前半だ。
「じゃあ次に、どうやったら訓練生が正隊員になれるかを説明して行こう」
嵐山さんが近くの生徒にトリガーを渡し、起動させる。
同じく遥、時枝、木虎、佐鳥が全員にトリガーが行き渡るようにして配っていった。
他のボーダー隊員はオペレーターを含め受け取らなかったが俺はちゃっかり受け取った。
「この手の甲の数字が見えるかな?この数字を4000まで上げること。それがB級昇格の条件だ」
俺は仮入隊知らなかったから普通に初めてポイント1000スタートだったな〜。その後、同期の奴らからどんどんポイン奪っていって苦労したぜ、全く。
「攻撃手と銃手の昇格条件はさっき言った通りだが、狙撃手は少し違う。それをこれから説明するから、みんなついてきてくれ」
そうして嵐山隊を先頭にして狙撃手訓練場へと向かった。
比企谷八幡、未だにステルスヒッキーを使用してボーダー組からも声はかけられていません!
***
狙撃手のとこでは佐鳥がいろいろやってツインスナイプとかドヤ顔で見せびらかしてて、その顔がムカついた。以上。
そして現在は個人ランク戦のある訓練場に向かっている。俺は最後尾で目を腐らせながらダラダラ歩いていた。
「大丈夫かい?ハチ」
声をかけられたので前を見ると後ろに来ていた優菜が話しかけてきた。
「大丈夫に見えるか?今もビクついて歩いてんだよ」
「私はバレても問題ないけどトワも冷や汗かいてたよ。それ見た訓練生の顔が面白かった」
「悪魔………」
優菜が言ったように、十和は髪をボサボサにしてマスクにメガネを装した状態であるが、汗をかいているのがわかる。
コミュ障でも気が合うオタク友達はいるらしくてその数名に大丈夫かと声をかけられている状態だった。
ぼっちの俺が女子と話しているとステルスが効果しなくなる恐れがあるため念の為、優菜にお前がバラすなよとだけ言った俺にわかったと返事を返した優菜は元の位置に戻る。
まあ、そんなこんなで訓練場到着。
「訓練生には、まず最初に大型ネイバーとの戦闘訓練を行ってもらう。仮想戦闘モードで、ボーダーの集積したデータから再現されたネイバーと戦う訓練だ。今日も何人か体験してもらうが、さすがに全員はできない。だからこれから体験してもらう人を決めよう。誰かやりたい人はいないか?」
すると予想通りほぼ全員が立候補するのだった。
選ばれたのは、葉山、三浦、由比ヶ浜、川崎、雪ノ下の5人で、この順で行われた。戸塚の戦闘服見たかったが仕方ない。
「八幡、もっと近くでみない?」
「いや、俺はここでいい」
せっかくの戸塚の頼みだが俺は拒否をする。
だって、あんま近くいくと嵐山さんにバレるし………
「そう?じゃあ僕は見てくるね」
「おお」
そうして戸塚は訓練室の近くへ行った。
ちなみに今俺がいるのは最前列の一番端っこで、下手に後ろいくと視界に入りやすいから此処にいるのだ。
すると、一人の隊員がさりげなく近づいてきて話しかけてきた。
「比企谷先輩、やっぱり来たんですね」
「よお、木虎か。久しぶり」
話しかけてきたのは木虎である。
俺が職場見学に参加することになった理由を知っている木虎はなるべく目立たないように小さな声で話しかける。
「出来れば別の場移動してくれる方かがが助かるんだが……」
「いいじゃないですか。私は此処で少し様子を見ています」
で、そんなこんだで葉山が終わる。記録は51秒。そこそこだな。
汎用性の高い孤月を選ぶのはいい判断だが使い方が上手くない。やはり戦闘には向いていないようだった。
「51秒、まあまあですね」
「まぁ、9秒のお前から見りゃそうだろうな」
「それを比企谷先輩が言います?」
ジト目で見るな。怖いから。
葉山が終わるとすぐに三浦の出番になったが時間は2分半。
スコーピオンでこの遅さは才能ないな。
同様に、バイパーを選んだ由比ヶ浜は一発を当てられずに時間オーバーだ。てか初心者にバイパーなんて難しいもん使わすなよ。
次に川崎だがーーー
「孤月で1分五秒。一見、時間だと葉山には劣って見えるが………」
「動きが丁寧でしたね。慣れたら普通にボーダーに入っても大丈夫なレベルだと思います」
確実に足を狙って動きが鈍った所を、弱点の目を狙っていた。
前は冗談で誘った入団試験はトリオン量さえ問題なければ合格するだろう。
お、次は雪ノ下か。
自称、何でもできる毒舌はどこまでが嘘なのか見極めてやる。
「すみません、私は戻ります。後で綾辻先輩に挨拶しておいて下さい。今日は綾辻先輩が計画立てたので」
「ああ、わかった。じゃあな」
そう言って木虎は定位置に戻っていった。
そこで雪ノ下が終わる。記録は21秒か。この中では確かに速いな。
しかし、ただ仮想の敵相手に速く倒せるだけ。
当然の結果だと思って満足しているようだが井の中の蛙。傲慢なだけだ。
雪ノ下がでてくると、軽く歓声が上がるが、誰近づこうとはしない。
あいつ本当はぼっちじゃないんじゃね?
歓声上がるだけで誰も近づいて来ない。やはりぼっちか。由比ヶ浜は三浦のグループの所にいるし。
と、そこで雪ノ下と目が合うがドヤ顔をして元の場所に戻っていった。ウゼー。
すると嵐山さんは笑顔を浮かべて雪ノ下に近づいて行った。
「君、すごいじゃないか!21秒なんて訓練生はそうそうできるものじゃない」
「ありがとうございます。それで、参考までに聞きたいのですが、ボーダーでの最高記録は何秒なのでしょうか」
こいつ、どんだけ自信あんだ?
参考にとか言ってるが敵意むき出しだぞ。
しかし不味いぞ。雪ノ下の質問に嵐山さんは答えるだろう。そうしたら俺はーーー
「今の所ボーダートップは比企谷隊の比企谷と志神が共に2秒なのが最高記録だな」
アウトォォォっ!
ヤバい!嵐山さん名前出しやがった!
静寂が広がった訓練場に他の生徒は誰それ?と言っているが戸塚とか由比ヶ浜が驚いた顔をしている。そして雪ノ下なんかこっちみて睨んできやがったため自然と俺に視線が降り注ぐ。
嵐山さんの横にいた遥は慌てて嵐山さんを止めようとするが無理のようで、手を合わせて謝ってきた。
「あの、嵐山さん」
「ん?どうしたんだい?」
「比企谷とは、比企谷八幡のことですか?」
「そうだ。A級部隊の比企谷隊の隊長だ。ん?確か総武高の生徒だったよな。おーい!比企谷隊は前に出てきてくれ!」
ヤバい、一刻も早くこの場所から逃げなければーーー
「逃げちゃダメだよ、ハチ」
「優菜、後世だ。今度、デザートの食べ放題奢るから」
「うっ!……いい提案だけど意味無いわよ」
突如現れた優菜によって逃げ道を寸断された俺だったが優菜が示す方向をみて諦めた。
「ひっ!歌歩さんに宇佐美さん!?」
「すまんね十和くん。優菜からの司令だから君を強制的に連れてくぞ?」
「ごめんね十和君」
「や、やめて!ま、マスクだけはーっ!?」
三上に抱きつかれる形で動けなくされ、宇佐美に引っ張られていく相棒の姿をみて、俺は優菜と一緒に嵐山さんの所まで行った。
「ごめんね八幡君。結局、こうなっちゃった………」
「大丈夫大丈夫。遥ちゃんは悪くない」
「それ、俺が言うセリフだろ………まあ、俺も怒ってないから安心しろ」
マスクを取られまいと必死で抵抗する十和を片目に俺は怒ってなかったがーーー
「2秒??こんなのが?」
「おい、そりゃどういう意味だ」
「言葉通りよ。あなたみたいなぬぼーっとした人が私より記録がいいなんてありえないわ。何か卑怯なことでもしたのかしら?A級に上がったのも、同じチームの人と共同でズルしたんでしょ?」
「へ〜ヒキオ、ずるしたんだー。そんなことしてA級になるとかキモいんですけどー」
雪ノ下の罵倒に、更に三浦が便乗してきて周りに知らしつけるような声でわざとらしくボヤいた。
雪ノ下は単純に俺が気に食わないらしく、三浦はこの前の件の仕返しのつもりだろう。
クラストップの三浦の意見に周りからはボツボツと賛同する声が聞こえた。
「おい、流石にキレ「あなたこそどういう意味なの?雪ノ下さん」……る、ぞ……」
雪ノ下の言葉に呆れ半分、怒り半分になった俺の話を無視して優菜、いや悪魔が冷たい目で雪ノ下を見ていた。
しかし冷たい目で見るのは優菜だけではない。雪ノ下の発言は静寂していた訓練場全体に響き渡っており、ここにいたC級隊員、総武高のボーダー組、そして嵐山隊全員が反応していた。
その異常な様子に、先程まで賛同していた三浦のクラスメイトも、訳が分からないようで、一先ず三浦から距離をとって、本人は周りをみてあたふたすることしかできない。
「篠崎さん、何故その男を前から庇うのかしら?」
「自称頭がいい雪ノ下さんは気づかないの?私は呼ばれたから来たんだけど」
「!?まさか………」
「そ、私は比企谷隊のオペレーターなのよ。で?誰がズルしてA級まで上がったって?」
どうやら周りの視線を知らない雪ノ下は優菜の言葉に睨んでくる。
対する優菜は冷めたような表情でそんな雪ノ下を見ていた。
「雪ノ下さん、だったかな?俺も君の考えは訂正しておくよ。比企谷たちは実力でA級まで上がった。それは紛れもない事実だ」
「で、でも!ヒキオは前にズルしてテニスに勝ったし!」
「っ……!……そうです、それは彼は卑怯者ですよ?そんなのがA級だなんて何かしたに違ーーー」
珍しく怒りの様子の嵐山さんに反論しようと、ただ喚く三浦と、一旦冷静になった雪ノ下の言葉は、
一発の銃声と
その攻撃を斬る
二つの音によってかき消された。
雪ノ下は膝から床に座り込むがどうだっていい。俺は武器を持つ二人をみた。
「………十和、何をする」
「ダメだよ秀次。トリオン体でも攻撃しちゃポイント没収されるよ?」
銃声がした方向には、見学に来ている奈良坂を除いた3人で防衛任務があった筈の三輪隊隊長の三輪が雪ノ下に銃口を向けて立っており、そのトリオンの弾丸を斬ったのはいつの間にかトリガーを起動させてマスクを外し、大鎌【ファルクス】を持った十和だった。
「わかってる。だがその女はお前達を馬鹿にしたんだぞ」
「知ってるよ。そもそも僕と八幡はこうなるだろうって思って此処に来たからね。簡単にはキレないよ」
十和の話を聞いた三輪は銃型トリガーを腰に戻して雪ノ下を遥かに凌駕する睨みを雪ノ下と三浦に浴びせた。
それに含まれる殺気にやられて三浦は葉山と由比ヶ浜に支えられながら崩れ落ちた。
「比企谷。お前は何も思わないのか」
「あ?別に何とも。だってなぁ、十和」
「そうだね。二人は下手したら退学になるんだし」
十和の一言に全員が騒ぎ出した。
大半の生徒が何故そうなるのかわかってないようだ。
「な、何であーしが退学になるし!」
「簡単だろ?お前たちは正隊員の俺たちを否定した、つまりそれは俺たちを採用したボーダーを否定していることと同じだ。当然、ボーダー側が学校側にお前たちの言動を報告するだろう。学校としてはボーダーとの連携を崩す訳にはいなねぇから何らかの罰が与えられるだろう」
「………っ!お願いだ。どうか優美子と雪ノ下さんを見逃してくれ!」
「隼人………」
苛立たしい
三浦と雪ノ下を庇う葉山だが、ただいつも一緒にいる三浦が罰を受けると自分まで影響が及ぼされると思っての謝罪だろう。
本当に謝るなら最初の方で言ってる筈だ。
そんなことを知らない三浦は、葉山を自分を救ってくれる王子様のように見えているのだろう。
本当に反吐が出る。
「諦めろ。三浦と雪ノ下は今回の件を報告される。だからお前は退学じゃなくて停学になるよう願っとけ」
「………そんな……」
「最初にお前がせめて三浦だけでも止めようとすればよかったことをしなかった。自分の行動を悔い改めろ」
「………どうか、どうか許してください、
ブチっ
葉山が最後まで言葉を口にした瞬間、近くで二つほど完璧にブチ切れた音が聞こえた。いや、俺自身もキレたから三つだ。
「葉山、だったよね。あんたは今、誰の名前を言った?」
「ひ、
「ふーん。じゃあさっきのはわざとか………面白い挑発だね」
優菜から、いや三輪たちも含めたここにいるボーダー隊員の怒りをぶつけられた葉山は怯えて困惑するのみ。
理性を保って完全な野性の支配からは逃れた俺は十和の方を見ると光のない目であったがこっちを見て頷いてきた。
すると、優菜は今にも殴りに行かんとする様子だったので十和が押さえつける。
「どいてトワ。あいつ殴れない」
「優菜さん、ちょっと落ち着いていて。後は僕たちがどうにかするよ」
握った拳を解いた優菜を確認して俺に近づいてきた十和と一緒をみて、大きめの声で言う。
「葉山、お前、いやお前らに一回だけチャンスをやる」
「……チャンス?」
「ああ。葉山、三浦、雪ノ下の3人で俺と戦って勝ったら今回の見学は何も無かったことにしてやる。どうした、受けるか?」
「……それは本当か?」
「ああ。そして俺はハンデでお前たちが選んだ武器一種類のみで相手してやる」
「……わかった。その勝負、受けるよ」
主人公風にキメてきた葉山だが寧ろ悪役だ。
何人かのボーダー隊員は俺の提案に納得しないようだが黙っている。
だって正隊員なら誰でも勝てる、ましてやA級の俺が負けるはずがないとの考えだろう。
葉山と三浦は希望を見出してやる気を見せ、雪ノ下は潰すき満々の状態だが、俺からしたら馬鹿な行動だ。
そして、ふと、いいことを思いついた俺は嵐山さんの方に向かった。
「すみません、嵐山さん。勝手に決めてしまって」
「大丈夫だ。今回の件は無視出来ない内容だからな。それで、用があるんだろ?」
「ええ。遥、模擬訓練を俺にさせてくれないか?」
「………わかった。……八幡君は、平気なの?」
「当たり前だ。俺は遥や十和、優菜たちを信頼している。だからあれ如きで本気にキレん」
そう言って俺はトリオン兵が設置された部屋に入っていった。
相手はバムスター。捕獲用のデカいトリオン兵で動きは鈍い。
だからまずは足を狙ってーーーなどとは考えない。
孤月を抜いた俺はただ、戦闘開始の合図が来るまで普通に立っている。そしてーーー
『仮想訓練、開始!』
「旋空弧月」
四文字を言い終える前に放たれた斬撃はバムスターの硬い構造を無視して縦に真っ二つに斬ったのだった。
『記録0.4秒』
いくらトリガーを使ったとしても速すぎるその結果に、見ていた生徒は唖然として、3人の相手は絶望するしかなかった。