この黄金の獣に祝福を!   作:ニャロー

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皆様お久しぶりです。
投稿が遅れてしまい申し訳ありません。リアルで色々ありましたので投稿すのが遅れてしまいました。
もしかしたら今後もこういうことがあるかもしれませんが、どうか暖かい眼差しで許してください(土下座)
それと、知人から色々と突っ込まれたので、先に今の設定をある程度公開しておきます。

・今は原作から7年前
・ダクネスの年齢をweb版に変更
・ダクネスはクルセイダーではなく初期職業の冒険者
・クリスの顔は傷一つ無く美しい

皆様を混乱させるような書き方をしてしまい申し訳ありませんでした!



第5話

「ところでラインハルト殿。どうして『ストライカー』を選んだのですか?」

 

  冒険者登録も無事に終わり、遅めの昼食を食べていた時、向かいに座っていたダクネスがラインハルトに声を掛けた。

 

  「どうして、とは?」

  「いえ、貴方のステータスなら他の上級職にだって就けた筈。それこそ、冒険者の花形である『ソードマスター』にもなれた。なのに、どうして拳や脚による打撃スキルしかない『ストライカー』を選んだのか。その理由を教えて貰えればと」

 

  先の出来事を始まりからずっと見ていたダクネスは、そのことをずっと疑問に思っていた。

  普通の者ならば、上級職になるとしたらメジャーな物を選択するのは当たり前のことだが、ラインハルトはそれをしなかった。

  『ストライカー』を選んだ理由。ダクネスには一向にその理由が分からなかった。

 

  「理由か……」

  「言いにくいことであれば無理に聞きはしませんが?」

  「いや、別に言いにくいという程複雑な理由ではない」

 

 ダクネスの疑問に答えるか否か。数瞬だけ考え、特に話しても問題ないと判断したラインハルトはダクネスの疑問に答えることにした。

 

  「金が無いというのも大きな理由ではあるが、それとは他にもう一つだけ理由がある」

  「それは?」

 

  興味津々で聞いてくるダクネスに、ラインハルトは少し間を空けてから答えた。

 

  「……私はなダクネス嬢、剣で戦うどころか剣を振ることさえ出来ぬ凡愚なのだ」

  「剣を振れない?まさか、ラインハルト殿も私のような性癖をお持ちに!?」

  「断じて否だ」

 

  同類でも見つけたかのようにキラキラとした目で見つめてくるダクネスをラインハルトは一言で切り捨てた。

 

  「そうだな……言葉にするより実際に見てもらった方が早いか」

 

 そう言うや否や、ラインハルトは飯を食べる際に脱いでいた外套からボタンを一つ千切り、それをそのままダクネスへと差し向ける。

 

  「ダクネス嬢、このボタンを強く握ってみてくれ」

  「?別に構いませんが……」

 

 ラインハルトからボタンを受け取り、ダクネスは言われるがまま右手でボタンを強く握る。

 しかし、そんなことをした所でボタンが突然消えたりする訳もなく、ダクネスの手には依然として普通のボタンがあった。

 

  「これにいったい何の意味が?」

  「意味は充分あるとも」

 

 この無駄な行為の意味とは何か。その真意に気付くことが出来ず疑問で首を傾げるダクネスからラインハルトはボタンを受け取る。

 

  「ダクネス嬢、卿は今このボタンを強く握ったが、ボタンには特に変化が無かったな?」

  「えぇ、しかしそれは普通のことでは?ボタンを強く握った所で何か起きるわけでも無いですし」

  「あぁ、普通はそうだ。だが……」

 

 そこで言葉を区切り、ラインハルトは人差し指と親指で挟んで持っているボタンをダクネスの前に掲げる。

 

 そして、次の瞬間────

 

「私が力を込めれば、こうなる」

 

  特に強く力を入れた様子も無いのに、ラインハルトが持っていたボタンが突如として粉々に砕け、テーブルの上にその残骸が四散した。

 

  「な!?」

  「これが、私が剣を振れない理由だ」

 

 ボタンが砕けて驚くダクネスを他所に、ラインハルトは淡々と理由を話し始める。

 

  「私が力を込めた物は何であれ壊れてしまう。触れることや持つことは出来るが、力を込めるということだけは決して出来ない。故に、剣での戦闘を常とする『ソードマスター』にはなれんのだ」

 

  剣を振るということは、少なからず力を込める必要があるということ。

 しかし、力を込めるだけで物が壊れてしまう以上、ラインハルトは『ソードマスター』を含めた武器を使って戦う職業には就くことが出来なかったのだ。

 

  「……なら、『アークウィザード』や『アークプリースト』のような魔法職は?魔法を使うだけなら力を込める必要は無い筈ですが……」

  「生憎だが、私はこれまで魔法というものを録に使ったことがない。やろうと思えば出来んことも無いかもしれないが、まだ冒険者になったばかりで慣れてない物を主戦力にすることは些か不安が残る」

 

  録にどころか全く使ったことがないというのが正解なのだが、そこは黙っておく。

 ともかく、ラインハルトの言い分も充分に理解できるものであり、ダクネスはなるほどと頷いた。

 

  「そして消去法で残ったのが『ストライカー』、ということですか」

  「然り」

 

  剣を振れず、魔法はまだ不明瞭な部分が多くて不安。そんなラインハルトにとって、拳や脚による攻撃スキルしかない『ストライカー』は正に天職と呼べるものだった。

  何せ、魔法やスキルを使うよりも殴ったり蹴ったりする方が遥かに分かりやすいからだ。

 

  「昔は剣を満足に振ることが出来ていたが、少し前から私の身体はこんな風になってしまってな。今では録に力を込めて物を持つことさえ出来ない」

 

 これは本当のことであり、事実ラインハルトは前の世界でフェンシングの代表選手としてアムステルダム五輪に出たことがある。

 しかし、ある日を境に剣を持てなくなってしまってからは、誰かに口頭でフェンシングの技術を教えることはあっても剣を持って実戦をするということが一度も無かった。

 

  「医者の話では私の脳に何かしらの原因があるかもしれないと言っていたが、それも定かではない」

 

  何故こんな身体になってしまったのか。原因はいったい何なのか。それらの答えは未だに分からない。

  握れば全てが砕けてしまう。それは普通の人間では決してありえないこと。ならば、自分はもう普通の人間ではなくなってしまったのではないかと思えてしまう。

 

  自分は間違いなく人間だ。しかし、普通の枠から外れている人間なのではないかと考えたことは幾度もある。

 その度に自分はただの凡人でしかないと、自分自身に言い聞かせてきた。

 

  「笑ってくれダクネス嬢、自分の身体を一番分かっている筈の自分でさえ全てを把握しきれていないのだ。正に無知蒙昧としか言い様がない」

 

  無表情だった顔を崩し、自嘲するかのような微笑みを浮かべるラインハルト。それを見て、ダクネスは半ば確信めいた直感のようなものを感じていた。

 

  本人は無自覚なのかもしれないが、ラインハルトは自分の身体の能力が常人から離れているが為に、自分が既に普通の人間ではなくなっていると勘違いしている。

 

 ラインハルト・ハイドリヒはちゃんとした一人の人間だ。しかし、普通の人間では無い。

 ラインハルトの中には少なくともそのような気持ちがあり、それによってラインハルトは普通の人間という言葉に少なからず執着しているようにダクネスは感じた。

 

  本当にそうだという確信は無い。けれど、ダクネスはあえて口に出した。

 

  「別にいいではありませんか。自分の身体に何があるのか把握しきれている人間なんてそうはいません。ラインハルト殿は他の人よりも力が強いというだけで、後は私達と同じ普通の人ではないでしょうか?」

 

 "貴方は普通の人間だ"と、"私達と同じなんだ"と、想いを言葉にしてラインハルトに告げる。

  出会って半日も経ってないくせして何を言ってるんだと思われるかもしれないが、それでもダクネスは何かをラインハルトに伝えなければならないと思ったのだ。

 ダクネスの言葉を聞いたラインハルトは暫し目を瞬かせ、次第に自嘲とは違う微笑みを浮かべた。

 

  「……卿の言う通りかもしれんな」

 

  安堵したかのように、安らかな微笑みを浮かべるラインハルト。

 その様子に、ダクネスは何も言わず嬉しそうな笑顔を浮かべて頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 和やかに会話をしながら昼食を食べ終えた後、ラインハルトとダクネスの二人は仕事の依頼が貼られているギルドの掲示板までやって来た。

 

  「さて、ラインハルト殿。どれを選びますか?」

  「そうだな……」

 

 モンスター討伐から始まり、ギルドの中にある酒場の料理人代行や土木工事の手伝い等々、多種多様に貼られている依頼の数々を眺めていた時、ふとラインハルトはあることに気付いた。

 

  「ところでダクネス嬢、卿はいつまで私と一緒に居るつもりだ?」

  「え?」

 

 お前はいきなり何を言ってるんだと言わんばかりに不思議そうな顔をしているダクネスに、ラインハルトは僅かにため息を吐いた。

 

  「私はこれから依頼を受けるつもりだが、卿はどうするつもりだ?まさか、冒険者でない者と一緒に依頼を受ける訳にもいくまい」

 

 ラインハルトの頭の中では、ここでダクネスと別れる未来が描かれていたのだが、しかし運命と言うのは何処までも思い通りにいかないもので。

 

  「あぁ、それなら大丈夫です。私も冒険者ですので」

  「……なに?」

 

 さも当然とばかりにそう答えたダクネスに、ラインハルトは思わず疑惑の声を出した。

  見た目15歳の少女が、自らは冒険者だと言っているのだ。疑うなと言う方が無理な話である。

 

  「冒険者カードは?」

  「勿論持っています」

 

  俄には信じられない為、冒険者カードの有無を確かめてみれば、ダクネスは懐からラインハルトが先程受け取ったのと同じ冒険者カードを取り出した。

 

  「これで信じてもらえましたか?」

  「……あぁ、卿が冒険者であることは間違いないようだな」

 

  冒険者カードを出されてしまっては疑うことは出来ない。ラインハルトはダクネスが冒険者であることを一応信じることにしたが、それに伴い気になることが一つだけある。

 

  「ならば、装備はどうしたのだ?」

 

  見たところ剣や鎧などの武器を一切着けていないダクネスの姿にラインハルトは疑問を抱いた。

  通常、冒険者というのは誰であれ何かしらの装備を肌身離さず一つや二つは着けている。

 だと言うのに、装備を一切着けていないというのはどういうことか。ラインハルトはそこが気になったのだ。

 

  「装備ですか?一応剣と鎧を持ってはいますが、それを着けるのはまだまだ先の話ですので、今は何も無いですね」

  「……卿は何を言っている?」

 

  剣と鎧を持っているのに着けないという意味不明なことを言っているダクネスにラインハルトは困惑するしかなかった。

 

  「装備があるのならば着けた方がいいのではないかね?」

  「分かってない!ラインハルト殿は分かってないです!」

 

 ラインハルトが思ったことをつい口に出した瞬間、ダクネスはダンッ!と強く床を蹴って一歩ラインハルトに詰め寄る。

 この時点でラインハルトは踏んではならない地雷を踏んでしまったことを察していた。

 

  「いいですかラインハルト殿、確かに女騎士屈辱プレイは私の望む理想そのものですが今の私はつい少し前に冒険者になったばかりの駆け出し。今の時点から騎士となって誰かから屈辱プレイして貰えるのはかなり喜ばしいことですがそれでは後の楽しみが減ってしまうことになってしまうのです。ですから、今は基本職の『冒険者』として私が喜べるようなプレイを見つけ出し、然る後に『ナイト』へと転職して女騎士屈辱プレイを楽しむのが重要なのです!」

 

  案の定、頬を紅潮させキラキラとした瞳をしながら口早に己の欲望をさらけ出すダクネス。

 それを偶然にも聞いてしまった周りに居た他の冒険者達はドン引きした様子でそそくさとラインハルトとダクネスの近くから離れていく。

  出来ることなら自分もそうやってこの場から離れたいとラインハルトは切実にそう思えたが、ダクネスが簡単に逃がしてくれるとは思えない。

 

 さて、どうするべきか。また言葉で攻めて落ち着かせてもいいがまた精神を削られるのは勘弁したいことであり、物理的に黙らそうにもダクネスにとってはそれでさえご褒美になるだろう。

  欲望を垂れ流すダクネスの言葉を全て聞き流しながらラインハルトが方法を考えている、その時だった。

 

  「あれ、ダクネスじゃん。そんなところで何してるの?」

 

  不意にそんな声が聞こえ、ラインハルトが反射的に声が聞こえてきた方に顔を向けると、そこには一人の少女が立っていた。

  歳はダクネスと同じぐらいか。腰にナイフを差していることから冒険者であることは伺えるが、可愛らしい顔や見るからに健康的な身体には何の傷も無く、露出が少し激しいことを除けば印象としては短い銀色の髪と相俟って明るく活発そうな普通の少女のように見えた。

 

  「ん?おぉ!クリスじゃないか!」

 

 ダクネスとその少女は知り合いなのだろう。欲望を吐き続けていた口を閉ざし、クリスと呼んだ少女にダクネスは向かい合う。

 

  「やっほーダクネス。それで、こんなところで何してたの?」

  「丁度いい。クリス、お前に紹介したい人が居るんだ」

  「ふ~ん。それで、紹介したい人って?」

  「あぁ、こちらに居るラインハルト殿なのだが……」

 

 そうやってラインハルトの方に顔を向けた時、ダクネスはようやく気付いた。

 つい先程まで一緒に居た筈のラインハルトの姿が無くなっていることに。

 

  「……あれ?」

  「何処にも居ないみたいだけど?」

 

 いつの間に居なくなっていたのか。ダクネスがキョロキョロと辺りを見渡しても、ラインハルトの姿は既に何処にも無かった。


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