異常と日常の境界線   作:作者2

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1日目 ⑶

 家に帰ると卯雛はすぐさま実質にむかった。

 

 俺はそんな卯雛を見送ると台所へと向かう、そして台所につくと直ぐさま冷蔵庫の中身を確認する。

 

 ふむ、だいぶ野菜などがなくなって来ているから、明日は買い物する必要があるな。

 

 俺はそんなふうに冷蔵庫の中身をあらかた調べると、明日に付いての予定を考える。

 

 そして、明日の予定をすぐさまリビングにあるカレンダーにメモする。

 

 その後はベランダに干した洗濯物を取り込み、仕分けして卯雛の服を部屋にしまいに向かう。

 

 卯雛の部屋の扉をノックした後、俺は扉をあけ部屋に顔を覗かせる。

 

「おーい卯雛、服を持って……」

 

 俺は目の前の光景に何も言えなくなる。と言うのも卯雛の奴はどうも制服から私服に着替え中だったようで。

 

 つまり、下着姿で目の前にいるのだ。

 

 しかも着ている下着は黒のベビードールだ。

 

 頭の中ではこいつが男だと分かって入るのだが時々、本当に男だと言う事を忘れそうになる位に綺麗で可愛らしい容姿に正直言って目のやり場に困る。

 

 うん、なかった事にしよう。俺は黙ってゆっくりと扉をパタリと閉じた。

 

 部屋の中から卯雛の奴が叫んでいるようだが、きっと気のせいだろう。

 

「……お兄ちゃんのヘタレ」

 

「ヘタレで結構、弟に欲情して襲うなんてそっちの方が問題だろうが」

 

「弟だけど愛さえあれば関係ないよね♪」

 

 俺はもはや何処ぞのラノベのタイトルみたいな事を呟く弟に呆れてため息を一つ吐いた。

 

 あの後、俺はしたにおりて台所に向かい、風呂の湯を入れるスイッチを押した後夕食の支度をした。

 

 そして、ふてくされている卯雛が降りてきた所で、二人して食事を取っているのが今の現状である。

 

「ハァー⋯⋯去年から言ってるが俺にそっちの趣味は無いからな」

 

 俺は深く溜息を吐いた後、ジト目で卯雛をみる。

 

 だが卯雛は、そんな俺をどこ吹く風とばかりに、ニコニコとより一層楽しそうに笑を深くする。

 

「うん、知ってるよ。でもお兄ちゃんは僕がそう言う存在だって知ってながら、それでもそばにいてくれるよね♪」

 

 そして、卯雛は口元を片手で隠しながら目を細めてクスリと微笑む。

 

 それを見た俺は、こいつの事を何も知らない奴が見たら、思わず見惚れてしまうだろうその笑から目を逸らす。

 

「まぁ、お前が幸せならそれでいいんだがな」

 

 俺は誰に話すでもなくそう呟いた。

 

 何故なら、俺からすれば卯雛が幸せなら本当にそれでいいのだ。

 

 日常が崩壊し新たに始まったあの日かより、代償を支払う事でアイツが幸せになれるなら、俺は手足だろうが、心臓だろうが、眼球でも脳味噌でも、ましてや命だって悪魔でも神でも捧げてやるし、悪人にだってなってやると誓ったのだから。

 

 だからこそ、卯雛の幸せの為に俺は卯雛との一線を守る必要がある。

 

 何故なら卯雛を本当の意味で幸せに出来るのは俺ではないからだ。

 

 そもそも、俺がいようが、いまいが、卯雛は幸せにはなれる。

 

 それに何より、俺は実に無力で何も出来ない無能な存在に過ぎない。出来ると言えばただ卯雛のあるがままを受け入れ肯定してやるくらいだ。

 

 つまり、俺が卯雛の世話を焼いているいまだって卯雛の為と言いながら、結局はそれを自分の都合の良い言い訳にして、自分の自己満足や承認欲求を満たそうとする。自分勝手で卑しくも醜い俺のエゴでしかないのだ。

 

 そもそも俺に出来るのは、せいぜい卯雛の悪い所も良い所も、あるがままに全てを肯定し受け入れてやる事だけだ。

 

 そんな事は例え俺じゃなくても出来る。

 

 だから俺は、今の仮初の幸せだろうと卯雛の為につくそう。

 

 それが俺、平野雨夏が弟の卯雛に出来る、唯一でかつ最大限の事なのだから。

 

「あっそうそうお兄ちゃん」

 

「ん?何だ卯雛」

 

「お風呂の件、忘れてないよね?」

 

「……」

 

 まぁ、その前に俺の理性は持つのだろうか、正直俺としてはそちらの方が不安だ。

 

 俺はそう思いながら、深くため息を吐く。

 

「⋯⋯そうだな、そんじゃあとっとと」

 

 そして、そのまま立ち上がる。

 

「ふ〜ん、ふふ〜ん♪」

 

 湯煎に浸かる俺は一生懸命に無心になれと自分に言い聞かせる。

 

 そんな俺の隣では呑気に鼻歌を歌いながら身体をボディウォッシュで泡立てる弟の姿。

 

 そのきめ細かい透き通るような白いはだに、華奢で小柄な体型は保護欲を掻き立て、こいつが男だという事実を時折忘れそうになる。

 

 てかタオルを胸元まで巻くとか、その行動や動きの一つ一つが、確実に俺に同性と感じさせない為の配慮が徹底されているのがわかる。

 

 俺としてはそこにある、卯雛の思惑が分かっているだけに、内心は極めて複雑な気持ちであり、同時に呆れを通り越してむしろ感心の念すら湧いてくる。

 

「〜〜♪ ん? どうしたの? お兄ちゃん?」

 

 卯雛はどうやら俺が先程から見ていたことに気付いたのか、俺の方を見るとキョトンと首を傾げる。

 

 無邪気で無垢なその仕草に思わずグラッと来た俺は、その場で何とか踏み止まるとすぐさま卯雛から顔を逸らした。

 

 それからしばらくして俺と卯雛は風呂から上がる、正直色んな意味で危ない所だった⋯⋯これが明日も明後日も繰り返すと考えると、もはや慣れるまで頑張るしかない⋯⋯それまで耐えられるかは個人的に不安ではあるが⋯⋯。

 

 その後は俺は自室に入ると部屋の鍵をかける。

 

 以前、卯雛の奴がこっそり夜這いに来たことがあるため、厳重に3つかける。

 

 そして、俺は布団に潜るとそのまま眠りにつくのだった。


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