異常と日常の境界線   作:作者2

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1日目 ⑵

 学校に着いた俺と兎雛は体育館で入学式を終え教室へ向かう為にクラス割の一覧を確認する。

 

「俺は1-Eか……」

 

「これ……どう言う事?」

 

「……兎雛?」

 

 俺の隣にいる兎雛は俯きながら拳を強く握りしめ肩を震わせる。

 

「何で僕とお兄ちゃんが同じ教室じゃないの!!!?」

 

 そして兎雛は顔を上げるとそう高らかに吠えた。

 

 俺はそんな兎雛を見てそのまま遠くを見詰めた後、頬を引くつかせて前屈みに目元を抑える。

 

「はぁ……落ち着け兎雛」

 

「こんなの落ち着いてられないよ! タダでさえお兄ちゃんとは一分一秒でも傍でお兄ちゃんの傍にいられない何て拷問だよ! 僕は常にお兄ちゃん匂いを感じていたいし、お兄ちゃんの温もりを感じていたいし、お兄ちゃんの声を姿をお兄ちゃんのお兄ちゃんのお兄ちゃんのお兄ちゃんのお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん!!」

 

 俺は明らかに取り乱し出した兎雛を見て冷静に思案する。

 

 正直言えば下手をすると暴走しかねない状況だ。場合によっては兎雛が理事長室に殴り込む可能性もある。

 

 とはいえここで無理に頭ごなしに言ったところで逆に火に油となりかねない。

 

 とはいえ俺は兎雛の兄だ。こういった状況の対応もそれなりに心得てはいる。

 

「兎雛……」

 

「許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さな……ふぇ!?」

 

 俺は暴走仕掛けていた兎雛を片手で抱き寄せる。兎雛は俺のいきなりの行動に目を見開き口をパクパクとしている。

 

 俺はそんな兎雛の耳元に口を近ずける。

 

「兎雛……確かに今回は残念ながら教室は一緒に慣れなかっただけど……ここで気持ちを抑えて我慢する事を誓えるなら」

 

 俺は兎雛の脳を蕩けさせるかのように囁く。もはや兎雛は呼吸の出来ない魚のような状態になり、顔を赤らめて硬直する。

 

 ここまでは上場だ、そして俺は兎雛に止めとして一言、

 

「今日からお風呂を解禁してやる」

 

「お、おおおお、お兄ちゃんとお、おふ、おふ、お風呂!?」

 

 兎雛は完璧にショートしたのか、顔をだらし無く緩ませてへなへなと地面に座りこんだ。

 

「ふ、ふへへ……」

 

「お~~い、うひな~~帰ってこ~~い」

 

 俺は兎雛に呼び掛けるが、どうやら効き目が強過ぎたらしい。

 

「……はぁ仕方ねぇか」

 

 明らかにうわ言を呟き意識がトリップしている兎雛、これはしばらく帰って来ないなと理解した俺はため息を吐く。

 

 先程までの一連の行動は明らかに悪目立ちした事だろう、だが最悪な状況は避けられたと考えればまぁ良しとしよう。

 

 とはいえこのままこの場に居続けるのは周囲に迷惑がかかるだろう。

 

 俺は仕方がないので兎雛を両手で抱き抱えると立ち上がる。

 

 兎雛を保健室に連れて行くのが先決だ。俺はひとまず近くにいるスーツ姿の女性に話しかける。

 

「すみません」

 

「あ、はいって、ひ!」

 

 怯えられてしまった。まぁ自分は万年貧血な事もあり顔色が悪く、何時も機嫌が悪いように見られがちだ。

 

 おまけに切れ長な目により余計に怖く見られ安いようで、こうして怯えられる事も良くある。

 

 普段は兎雛の相手をしてる事が多くてつい忘れがちではあるが、こう怯えられると改めて自分の容姿が怖い部類に入るのかが理解出来る。

 

 まぁとはいえ今は自分の事は二の次だ。俺は意を決して彼女に要件だけを伝える。

 

「あの、保健室って何処でしょうか?」

 

「は、え!?」

 

 彼女は戸惑いながら下から上と俺を見た後、腕に抱えられている兎雛を見てすぐに状況を理解したのかあぁと言ったような顔になる。

 

「それでしたらこちらです。付いてきて下さい」

 

「ありがとうございます」

 

 俺は御礼を言うと彼女はきょとんとした顔で俺を見てくる。

 

 そんな彼女に俺はどうしたのだろうかと首を傾げると、

 

「いえ、顔に似合わず随分と礼儀正しいようなので」

 

「……あぁ。自分万年貧血ですから良く誤解されますので」

 

「あ、いえ、その……すみません」

 

「いえ、気にしていない出下さい」

 

 まぁ誤解を受けるのは何時もの事だ。だから別に気にしていない、いや正直言えば、ちょっとはきにしてはいるが……とにかく今は保健室へ向かわないと。

 

「それよりも早く保健室へ行きましょう」

 

「あ、はい! そうでした!」

 

 こうして俺は彼女に案内されながら保健室へと向かうのだった。

 

「これでよし」

 

 俺は兎雛を布団に寝かせると一息ついた。

 

「お疲れ様」

 

「いえ、こちらこそありがとうございます」

 

「いえいえ、気にしないでくださいそれじゃ私は仕事がありますので、()()()()()()()()()()()()

 

 そうして彼女はそのままお辞儀をすると去って言ったのだった。

 

「う、う~~んは! ここは?」

 

「お、気が付いたか」

 

 しばらくしてベッドに寝かせた卯雛は目を覚ました。俺は卯雛を見るとそう言ってやる。

 

 卯雛は俺に気付くとバッと勢い良く起き上がり俺に飛び付く。 

 

「お兄ちゃん!おはよムグッ」

 

 俺はそんな抱きついてくる卯雛の顔面を手抑えるように突き放す。

 

「はぁ……帰るぞ」

 

「むぅ。お兄ちゃんのいけずぅ」

 

 そして俺と卯雛は保健室を出るとそのまま玄関へ向かう。

 

 すると卯雛は俺の手の袖をギュッと掴み立ち止まった。

 

「卯雛?」

 

 俺はどうしたのだろうと首を傾げ卯雛の方を見る。

 

 卯雛はしばらく俯いて黙っているが、卯雛の兄として俺はただ黙って待ち続ける。

 

 そして卯雛は顔を上げると俺の方を見る。

 

 強い決意を秘めた卯雛の瞳と俺の瞳が交差する。

 

「お兄ちゃん僕、言われた通り我慢するよ」

 

「……そうか、偉いぞ卯雛」

 

 苦渋の決断で一生懸命に考えて出したのだろう卯雛の返事。

 

 俺はそんな卯雛の頭に手を乗せると優しく撫でてやる。

 

 卯雛はハニカムように目を細めて微笑む。

 

「えへへへお兄ちゃん♪」

 

「さて、帰ろう」

 

「うん!」

 

 そして卯雛の頭から手を離し今度は卯雛に手を差し伸べる。

 

 卯雛はそんな俺の意図に気付いたのだろう、俺の手を取るとギュッと握りしめる。

 

 そして俺と卯雛は帰るために玄関へと向かう。

 

「あ、そうだお兄ちゃん! お風呂の約束絶対だからね!」

 

 全くこの弟はと俺はため息を一つ吐く。

 

 だが、それでもこれが俺の弟、平野卯雛なのだ。

 

「はいはい。分かってる約束だからな」

 

 俺は微笑みながら卯雛にそう言ってやる。

 

 今夜が楽しみなのか楽しそうに微笑む卯雛。

 

 そんな幸せそうな顔を見ながら俺は、この先も卯雛が幸せでいられるように、この笑顔を守りたいと思うのだった。




かなりじっくり考えて書いてる為、今後も投稿が遅れそうです⋯⋯。

実際、同じ1日目での出来事だから、いっその事まとめた方が良いでしょうか? 個人的には少し悩み所です。

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