1日目 ⑴
赤い、凍り付くような冷たさと息の詰まる重苦しさの中、全てが赤く染まった世界。
クレーターの出来た床に破壊されたコンクリートの壁や電柱などの瓦礫。
血を流し気を失う者や恐怖にその顔を歪め地面に倒れふす者。
そしてこの事態が発生する以前から既に全身がボロボロな俺。
そんな俺に向ってゆっくりと近づく足音。もはや常軌を逸した状況に俺の頭の中は真っ白になる。
多分、今の俺は恐怖で顔を真っ青に染め上げている事だろう。
だが、そいつはそんな事を気にすること無く、声を出す事も、逃げ出す事も、ましてや反撃する事も出来ない俺にゆっくりと近付いてくる。
赤い、赤い、まるで世界そのものを、紅く紅く染め上げるような紅色の瞳をしたどす黒く強大なそいつが、俺の方に一歩一歩ゆっくりと近付いてくる。
やがて近づく度に徐々にだが、黒く強大な怪物は煙が薄れて行くかのように姿を消しながら、腰まである黒髪をした少女が紅色に輝く狂気を宿した瞳で、俺を見詰めながら振らつく足取りで俺の前までゆっくりと歩いて来る。
そいつは俺の前まで来ると、そのまま膝を継き純白の雪のような白い手で俺の頬に触れる。
おぞましく目を背けたくなるような狂気を宿しながら、されど今の異常な状況すら忘れてしまいそうな、吸い込まれるような美しさを持つ瞳、俺はその瞳を見て痛々しくそしてとても悲しい気持ちになる。
「…に…ちゃ…………」
■■は俺を何か怯えるような顔で見つめる。
正直言えば、頭でも撫でて安心させてやりたかった。
だが今の自分は全身がボロボロで身動きが取れない、当然目の前で怯えたように見詰めて来るそいつの頭を撫でるだけの力すらない。
何故こうなってしまったのだろう、ただこいつには笑顔でいて欲しかったそれだけなのに、ただそれだけが罪だとでも言うのだろうか?
ならそんな運命にすら抗えない自分はもっと罪深い事だろう。
だからこそ、何処までも無力で非力でどうしようも無い自分に思わず腹が立った。
「う…な……」
だが、意識があるのは幸いだった。俺は上手く回らない口で■雛の名前を読んだ。
兎■は俺が生きている事に気付き安心したのか、瞳から涙がを流しながら微笑んだ。
「よか……た……」
そして、糸が切れたように俺の胸元に倒れ込んだ。
小さな寝息や鼓動に温もりを感じる事から、どうやら気を失い眠ってしまったようだ。
暫くしてサイレンの音が響く中、俺に寄り掛かりながら眠る大切な存在を守りたいと思った。
そして、同時に自分がいかに無力で非力なのかを理解し涙を流した。
鳴り響く携帯のアラーム音にて俺、
そして、何とか万年貧血の為に上手く動かせない身体を何とか動かし、俺ははアラームを止める。
「夢…か………」
俺はそう呟く、それにしてもあの日の出来事を夢に見るとは、俺とアイツの日常が崩壊した日、そして新しく今の日常がはじまった日、俺はそんなふうに少し懐かしむ。
それから動けない身体で暫く悪戦苦闘してから何とか起き上がると、直ぐにタンスから衣服を取り出し新しく入学する高校の学生服に着替える。
そして自室を出てから階段をおり、リビングへと足を運び、台所に着くと早速朝食の支度を始める。
まぁ、本来万年貧血な俺は朝は弱いのだが、俺がこれをしないと面倒になる事もあり、もはや日課となっている。
ちなみに今回のメニューは出汁巻玉子にサラダ、御飯に味噌汁である。
まぁ出汁巻玉子は昨日の残りだったりするのだが。
朝食を作り終えると、俺は朝食を机に並べ取り残しは無いか確認し頷く。
「よし!」
さて、そろそろアイツを起こさないとな。俺はそう思い、二階に登りそいつの部屋の扉をノックする。
そして、慎重に扉を開き部屋の中にはいる。
部屋の中は、パソコンにクローゼット丸椅子の机があるが、デザインは可愛らしい色合いで如何にも女の子らしい部屋であった。
まぁクローゼットとパソコンの中にある物を知らなければ……だが。
そして部屋の中で布団を頭まで被り、気持ち良さそうに眠るソイツの身体を片手でゆする。
「ほら起きろ」
「う、う~~ん」
揺すられた事でそいつはモゾモゾと布団の中を動くと、眠そうに起き上がる。
「ふわぁ~~おはよう」
そいつは眠そうに目を擦ると、そう可愛らしく返事をする。
腰まである長く艶やかで滑らかな黒髪をしたそいつは小ぶりでふっくらとした艶やかな唇を開き欠伸をする。
そんな大きくもつぶらな瞳をして絶世の美少女のような容姿をしたコイツの名前は
大事な事なのでもう一度言う、俺の弟だ。
と言うのもコイツは美少女のような容姿をしている上に女装の趣味があり、そのせいで良く女性だと誤解されるからである。
現に今もピンクのスリップの姿をしていて、こいつが男だと頭の中では分かっているのだが、分かっているのだけれども、正直言わせれば目のやり場に困ってしまう。
「ほら、朝食は出来てるからさっさと着替えろ」
「ん……分かった」
そして兎雛はフラフラと立ち上がり、クローゼットから
そしてすぐ様、階段を下りてリビングに着くとそのままソファの上に腰掛ける。
暫くして階段を降りて風呂場の方にある手洗い場に向かう兎雛を見届けると、ソファーの上に置かれているクッションを掴んで立ち上がり身構える。
「お兄ちゃん! アイ・ラブ・ユー!」
そして、手洗い場の扉が勢い良く開くと兎雛は俺に向って勢い良く飛び掛る。
そして俺はすぐ様、飛び掛って来た兎雛にクッションを向ける。
「フグッ!」
飛びかかった兎雛はクッションに顔面を埋め、そのままボテッと地面に落ちる。
「うう……酷いよ」
地面に俯せで倒れたまま兎雛はシクシクとそう呟く。
「ハイハイ……馬鹿やってないで飯にするぞ、せっかくの味噌汁が冷めちまう」
「はーい」
兎雛はそう言って直ぐに立ち上がる。
そんな兎雛を見て俺は思わずため息を吐く。そして、俺と兎雛はお互い向き合う形で席に着座する。
「いただきます……」
「いただきます!」
兎雛は朝の弱い俺と違い元気いっぱいの声でそう言うと、早速お互い箸を取り食事を始める。
そんな中、兎雛は何を思ったのか出汁巻玉子を箸で取ると机の上に身体を乗り出した。
「はい、お兄ちゃんあーん♪」
楽しそう笑う兎雛、そんな兎雛を見て俺はため息を漏らす。
「……やらないからな」
「あーん」
「……さて、今日の晩飯はピーマンを使うとするかな?」
「はぁ……分かったよ」
兎雛はふくれっ面で席に座り直す。フフ甘いな、こちらは兎雛とそれなりに向き合って生活してるのだ。
お前の取り扱い方には慣れているのだよ。俺は可愛らしく頬を膨らませる兎雛を見ながら。食事を再開するのだった。
そして食事を終え軽く兎雛の頭を撫でてやった後、俺は食器を洗い始める。
そして食器を洗い終えると兎雛と共に玄関に移動し靴を履く。
「お兄ちゃん!」
「ん? 何だ兎雛?」
「言って来ますのチュウお願い♪」
「さてと行くか」
「あ、待ってよ!」
こうして俺は兎雛と共に、学校へと向かうのだった。
こんにちは今まで死亡していた永遠の2番手、作者2で〜す。
今回から平野卯雛の原点であるこちらのオリジナル作品を書いてみました。
ちなみにハイスクールDXD〜異常者達の狂想曲~なのですが、ひとまず原点であるこちらのオリジナル作品を書き終えてから、リメイクしようかと考えています。