霧隠れの黄色い閃光   作:アリスとウサギ

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希望という名の橋

クレーンの駆動音や釘を打ちつける音が、絶えず響き渡る大橋造りの現場。

休養をしているカカシや木登りの修行をしているサスケとそれに付き合っているサイの代わりに、第七班の紅一点。

春野サクラはタズナの護衛に付いていた。

 

「ふぁあああぁ〜」

 

と口を大きく開け、欠伸をしながら……

暖かい陽気の中、少し気の抜けたサクラに、タズナが言った。

 

「一人で暇そうじゃな? あのスカした小僧と超口の悪い小僧はどうした?」

「木登りの修行中」

「お前はいいのか?」

「私は優秀だから。カカシ先生がおじさんの護衛をしろって」

「……本当か?」

 

サクラの返答をいぶかしむタズナ。

そんなタズナに作業仲間の一人、ギイチが声をかけてきた。

 

「なぁ、タズナ……」

「どうした? ギイチ」

「あぁ……色々考えたんだが、橋造り……オレ降ろさせてもらっていいか?」

「何でじゃ!? そんな急に! お前まで!」

「タズナ、お前とは昔ながらの縁だ。協力はしてやりたいが、これ以上無茶やれば俺達までガトーに目を向けられちまう……それに、お前が殺されてしまえば、元もこもねぇ……ここらでやめにしねぇか……橋造りも……」

 

そんな話を聞きながら、サクラはただ黙るしかなく耳を傾ける。

だが、タズナは違う。

 

「そうはいかねぇよ。この橋はわしらの橋じゃ! 資源の少ない超貧しい波の国に物流と交流をもたらしてくれると信じて、町のみんなで作ってきた橋じゃ!」

「けど! 命までとられたら……」

「もう、昼じゃな……」

「タズナ!」

「ギイチ……次からはもう来なくていい」

 

 

泥棒ー! と子供を追いかける大人。

何でもやりますという看板を抱えた人達。

ただただ座り込む人々……

 

サクラは夕ご飯の買い物に来ていたタズナの護衛に町まで来ていた。

 

「なんなのこの町……」

 

今まで一般家庭で裕福ではないにせよ、普通に育ってきたサクラにとって、波の国の現状は衝撃をうけるものだった……

 

「どうなってんの、この町……」

「ガトーが来てからはこのざまじゃ。ここでは大人達はみんな腑抜けになっちまった……」

「タズナさん……」

「だから今あの橋が必要なんじゃ。勇気の象徴! 無抵抗を決め込んだ国の人々にもう一度逃げない心を取り戻させるために……

あの橋さえ、あの橋さえできれば、町はまたあの頃に戻れる、みんな戻ってくれる!」

 

途中から拳を握りながら、そう強く語るタズナに、サクラは今回の任務の重要性を感じていた。

 

 

買い物から帰ってきたサクラは、修行を終えたサスケと合流し、タズナの家でみんなでの夕食をとることになった。

そして夕食後、ずっとある物を見ていたタズナの孫、イナリの様子が気になりサクラが尋ねる。

 

「あの、何で破れた写真何か飾っているんですか?」

 

その言葉をきっかけに、かつて波の国の英雄と呼ばれた男の話を聞くことになった第七班。

その英雄は血の繋がらないイナリの父親でタズナの娘であるツナミの夫である男だった。

 

名をカイザという。

 

その男は波の国で「男なら後悔しない生き方を選べ! 自分にとって本当に大切なものは辛くても悲しくても頑張って頑張って、例え命を失うようなことがあったって、この両腕で守り通すんだ!」と、いかなる時でも波の国の人達の助けになり、英雄と呼ばれていた男だった……

 

ガトーに目をつけられるまでは……

 

ガトー達は波の国を乗っ取りにきた時、町の人達の心を折るために、最初にカイザを捕まえて……公開処刑を行ったのだ……

 

その話を聞き、第七班の一員は暗い表情をしながら、何も言えなかった。

 

 

 

「はぁああああああ!!」

 

いつもの修行場所でナルトは水風船を片手に持ちながらチャクラを放出し、もう片方の手で乱回転するようにチャクラを練っていた。

最初は飛雷神の術と平行して覚えようとしていたナルトだが、飛雷神の方はまだまだ会得できる兆しがなく、時間制限もあるので、螺旋丸だけに集中することにしたのだ。

 

そして九尾やハクの助言のもと、ついに……

 

バンっ!

 

と水風船が木っ端微塵に割れたのであった。

 

「いっよっっしゃあああぁぁああ!! 割れたってばよ! ハク! 見てたか! 見てたよなぁ!! あははは!!」

「はい! ついに修行の第一段階クリアですね! ナルトくん」

 

ハクの手を取り、おおはしゃぎするナルト。

そんなナルトに少し困りながらも一緒に喜ぶハク。

 

「よ〜し、このまま次の修行に入るってばよ! 九尾にアドバイスもらって来るから、ちょっとだけ待っててくんない?」

「はい、それは構わないのですが……その前にナルトくんに一つ聞いておきたいことがあるんです」

「オレに聞きたいこと? 聞きたいことってなんだってばよ?」

 

首を傾げるナルトの目を真っ直ぐ見て、ハクはナルトに尋ねる。

 

「ナルトくんは何で、こんなにボロボロになってまで修行なんかをするんですか?」

「えっ? そりゃあ、強くなりたいからだけど……」

「でも、ナルトくんは今でも十分強いですよね?」

「ダメダメ! オレってば、もっともっと強くなりてぇの! というか、オレより強いハクに強いって褒められても……」

「……それは何のために?」

「それは……オレがとうちゃんより凄い忍者になりたいから! あと、今はサスケをぶっ飛ばすためかな?」

「それは誰かのためですか? それとも自分のためですか?」

「…………ん?」

 

問いかけにさらに首を傾げ、眉間にシワをよせているナルトを見て、ハクは少し笑う。

 

「な、何が可笑しいんだってばよ!」

「ナルトくん、キミには大切な人がいますか?」

「大切……? 何が言いたいんだハク?」

「僕は昔、ナルトくんと同じように自分の村の人に殺されそうになった経験があります」

「えっ……!?」

「九尾の力ほどではありませんが、今まで修行で何度か見せたように、僕には血継限界という力があります。その力を持っていることが知られて、村の人達が僕を殺そうとしたのです。ナルトくんなら何となくわかりますよね……」

「そ、そりゃあ……うん……」

「僕はどこに行けばいいのかわからず、いろんな所をさ迷っていました。残飯を漁っていた時期もあります。そんな時です、僕が再不斬さんと出会ったのは……」

「…………」

「ナルトくん、僕は再不斬さんの夢を叶えたい。それが僕の夢なんです……」

「……ハク」

「もう一度聞きます。ナルトくんはどうして強くなりたいのですか?」

「そ、それは……」

 

ハクはナルトの目を正面から真っ直ぐに見て語りかける。

本当に大切なことを伝えているのだと伝えるために……

 

 

「人は……大切な何かを守りたいと思った時に 本当に強くなれるものなんです。」

 

「大切な何かを守りたい時……」

 

 

『ワシをまた封印する気か!? しかもあんなガキに!!』

産まれたばかりのナルトに、爪を突き立てようとする九尾。

それを身体を張って止める四代目火影とクシナ。

身体を貫かれながも封印の鍵を用意して、別れの挨拶をするナルトの両親。

「ナルト…これからつらい事…苦しい事も……いっぱいある……自分を…ちゃんと持って、そして夢を持って、そして夢を叶えようとする自信を持って……!」

 

四代目火影に見せてもらった自分が産まれた日の事を思い出すナルト。

 

 

「……うん、それはオレも、よくわかるってばよ!」

 

笑顔で応えるナルト。

そして、今度は自分からハクへ問いかける。

 

「でもさ、ハク。それだと再不斬はどうなんだってばよ?」

「えっ? 再不斬さんですか?」

「ハクが再不斬のこと大切だから夢を叶えてやりたいのはわかる。けど、再不斬は何のために闘っているんだ?」

「そ、それは……再不斬さんの道具である僕には必要のない答えです」

 

その言葉を聞いて、ナルトは素早く立ち上がり、ビシっと指を突き付け、

 

「それだっ! 前々から言おうと思ってたんだけど道具ってなんだよ! 再不斬だってハクのために頑張ってるんじゃないのか? 大切な人を道具呼ばわりするなんて、おかしいってばよ!」

「ナルトくん、それはいいのです。僕は再不斬さんの道具であることに自分の存在価値を持っているのですから……」

「人は本当に大切なものを守る時、強くなるんだろ? もし、再不斬がお前を大切にしてないなら、再不斬は強くないってことになるぞ! いいのか! それで!」

「!?……それは……」

 

その矛盾に言葉を詰まらせるハク。

いきなりうつむき顔を曇らせるハクを見て、言い過ぎたと悟り、ナルトは慌てて話を方向転換させる。

 

「ま、まぁ……そんな難しい話はあとで考えるとして……今は修行を進めねぇといけないよな! ハク、また手伝ってくれってばよ!」

「ええ、もちろんです。」

 

 

二人が修行を再開するのを見て、今まで木の陰からこっそり様子を見に来ていた再不斬は静かにアジトへと戻って行った……

 

 


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