霧隠れの黄色い閃光   作:アリスとウサギ

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IQ200の切れ者

火の国の国境と繋がる森の中。

イルカ、キバ、赤丸、チョウジ、シノ、シカマル、サクラ、ネジ。

七人と一匹。

普通の小隊の約二倍近くある、変則的な木ノ葉小隊が、木を蹴り、風を切り、森を駆けていた。

音忍に攫われた、サスケを救出するため。

道すがら……

起爆札を五カ所に貼りつけ、敵を誘い込み爆破させるトラップ忍術。

ワイヤーを用いた追撃者撃退用の罠が数々。

足跡を二重に別れさせ、どちらを追跡すればいいのか迷わせる、初歩的な仕掛け……

などなど。

音忍による熱烈な歓迎を受けた木ノ葉小隊だったが……

この班には、木ノ葉切っての探知能力を有する忍が二人もいたのだ。

一人は、犬塚一族のキバ。

もう一人は、日向一族のネジ。

それに加えて、中忍のイルカに、シノのサポートも相まって……

敵の策略に嵌まることなく、かなりスムーズに、足を進めていた。

途中、休憩を入れたりしながらも、二十時間ほど走っただろうか。

そこで、ふとネジが立ち止まり、言った。

 

「捕まえた」

 

つまり、その視野の広い白眼で、ターゲットを捕捉したわけだ。

そんな光景を、後ろの方でぼんやりと眺めていたシカマルは、ぼそりと呟く。

 

「……これ、もしかしてオレ……いらなかったんじゃねーのか……」

 

もう、みんな凄すぎる。

正直、若干へこむほどに。

自分は、そんなに取り柄のある忍じゃない。

それがシカマルの自己評価だった。

精々、ちょっと作戦立てるのは上手いかなぁ……という程度。

だが、そんな自分でも、仲間を見捨てるのだけは嫌だった。

口には出さないが、他の奴らもきっとそうだろう。

でなければ里の命令を無視してまで、こんな所まで来ることなんてありえない。

だというのに、里の門をくぐってから、ここまで。

自分は何の役にも立っておらず……

 

「マジで……ちょっとへこむな……」

 

ため息を吐いた。

が、すぐに気を引き締め直す。

今は任務中、ぼやいている暇などない。

先頭にいたイルカがこちらを向き、

 

「お前達……ここからが本番だ。今から何パターンかの作戦を話すから、頭に叩き込んでくれ」

 

サスケ奪還手順の説明を始める。

ここからが、この任務の本番だった。

 

 

作戦が決まり、各自が指定の位置に着く。

シカマルは木陰からこっそりとターゲットを見ていた。

そこからは音忍と思われる忍が四人と、怪しげな棺桶が一つ、肉眼で確認することができた。

だが、肝心のサスケの姿が見当たらず……

シカマルは横で待機していたネジに尋ねた。

 

「サスケがいねーぞ?」

「……どうやら、あの棺桶の中だな」

「……死んでるのか?」

「わからん。桶に結界が張ってあるらしい……透視しづらい」

「結界……ねぇ」

 

棺桶を見る。

ネジと違って、白眼など持ち合わせておらず、シカマルの目には何も見えないが……

だが、かなりの危険をおかしてまで、サスケを欲しているような奴らだ。

生きている可能性の方が高いだろう。

それにイルカから聞いた話によれば、サスケは音忍達と戦闘を行ったらしい。

恐らくサスケは、無理矢理棺桶の中に入れられ、何らかの術で拘束されていると考えるのが妥当だろう。

などと……

思考を巡らしていた時だった。

突如、音忍の一人がこちらを振り向き……

シュっ!

クナイを投げつけてきた。

しかも、ご丁寧に起爆札付きのクナイで……

 

「なっ!?」

「くっ!?」

 

それに気づいたシカマルとネジは、慌てて前方に飛び込み、対爆防御の姿勢を取った。

直後。

ドカーン!!

爆破音。

起爆札が起爆した。

爆風が治まる。

少し土を被ったぐらいで、怪我はしていない。

いないのだが……

シカマルとネジが上を見上げると……

 

「何だ? 戯れにヤブを突ついてみたら、蛇どころか、虫二匹かよ」

 

クナイを投げつけてきた音忍のリーダーらしき人物が、こちらを見下すようにそう言った。

戯れ……いや違う。

明らかに、的確に、こちらを狙って投げてきていた。

つまり、どこかでこちらの動きがバレていた訳で……

見えないトラップにでも引っ掛かったか?

などと思考を巡らしながら、シカマルは両手を上げ、無抵抗を示す。

 

「ちょい待ち! 待った! オレ達は戦いに来たんじゃない! ただ交渉をしに来ただけだ……」

 

それを聞いて、音忍のリーダーの隣にいた蜘蛛のような男が、

 

「だったら、こりゃ何ぜよ!」

 

手から伸びていた糸を引っ張る。

すると、その糸に捕まっていたキバとシノが、草むらから引き釣り出され、

 

「のぅおお!」

「……くっ」

 

叫びながら、表に出て来た。

最初から、相手の掌の上だったという訳か。

だが……まだ計算の範囲内。

シカマルはイルカの立てた作戦に加え、自分が思いついた案も皆に話し、計画に組み込んでもらっていた。

例えば、今のように第一の作戦が失敗した時のため、次善の策などを……

 

「行くぜェ!」

 

キバが糸に足を絡め取られながらも、空中で一回転し、笑みを浮かべた。

ポーチから、煙玉を取り出す。

それを音忍達が密集している所へ……叩きつけた。

頼りない音とともに、辺り一面の視界が白く染まる。

音忍達の視覚を奪う。

だというのに、彼らから焦りの色は窺えず……

蜘蛛男が余裕の表情で、

 

「クク……その煙玉にどんな意味がある? オレからは絶対に逃げられんぜよ。辺りにはワイヤーよりも細く、丈夫で、殆んど見えないオレの糸が敷き詰めてある」

 

などと、やられキャラよろしく、能力の説明をしてきて……

つまり、途中で見かけた数々のワイヤートラップは、罠に掛けて敵を捕まえるというより、こちらの位置を把握するために仕掛けられた二重……いや、三重トラップだったという訳だ。

シカマルは、頭の中で敵の能力の一つを分析する。

そして、煙の晴れた視界に映る四人の敵を見据えて……

 

 

「まいったな……こんな能力者がいたとはな」

 

意味ありげな笑みを浮かべて、

 

「でもよ。こんな能力者もいるんだぜ。キレーに作戦にハマってくれて、ありがとよ」

 

シカマルの言葉に、一瞬何言ってんだ? という顔を見せた音忍達だが、

 

「は? 何言って……何だ? 体が……」

 

すぐに事態を理解したようだ。

煙玉は逃げるために使ったのではない。

相手を捕まえるまでの、時間稼ぎのために利用したのだ。

作戦は見事に、綺麗に決まった。

そこへサクラが、木陰から跳び出して来て、

 

「ナイスね、シカマル! 影真似の術…成功!」

 

と言いながら、印を結ぶ。

作戦の最後の仕上げだ。

敵の能力がわからない以上、迂闊に近づく訳にはいかない。

だから一度、シカマルの影真似で動きを縛ってから、ある程度近づいて使う必要のあるサクラの幻術で敵を無力化し、その後にサスケを奪還する。

それがイルカの立てた作戦であった。

ここまでは上手く作戦通りに、事が運んでいた。

だが、そこで。

音忍のリーダーが動く。

 

「まいったな……けどよ、オレにはこんな能力もあるんだぜ」

 

と言った、次の瞬間。

シカマルの目に、信じられない光景が映った。

音忍のリーダーが……分裂したのだ。

分身などではない。

影真似で縛ってあるのだ、印など結べない。

だというのに、最初から二人いたかのように分裂して。

その分裂した男が、幻術をかけようとしているサクラに迫り……

 

「えっ!?」

 

予定外の事態に、サクラの動きが止まる。

その隙に、

 

「ザコ共が、一丁前にピーコラ言ってんじゃーねぞ!」

 

音忍が一気に距離を詰める。

シカマルは舌打ちしながら、影真似をかけようとするが、とても追いつける速度ではない。

が……

上空から、サクラを助けるために出て来た影が一つ。

 

「させん!」

 

イルカだった。

だが、音忍は止まらない。

それどころか、さらに加速して、技を繰り出した。

 

「先公が! ガキの前だからって、格好つけんじゃねーよ!」

「ぐあっ」

 

速度の上げた体術で、イルカをサクラごと蹴り飛ばす。

吹き飛ばされた二人は、そのまま直線上にいたシカマルの方へ飛んで来て……

 

「ぐっ」

「きゃっ」

「ぐお!?」

 

三人が無様に地面を転がる。

間接的とはいえ攻撃をくらったことにより、影真似が解けてしまった。

たった一つの想定外のお陰で、こちらの作戦は全て台無しであった。

それを見て、最後まで身をひそめていたチョウジが慌てて跳び出し、

 

「シカマル! みんな!!」

 

と援護に来るが、状況はさらに悪化する。

影真似が解け、自由になった音忍の一人。

モヒカン男が、地面に両手をつき、

 

「土遁結界・土牢堂無!!」

 

術を発動する。

土の壁が迫り、瞬く間に木ノ葉小隊を土で出来たドーム状の結界へと閉じ込めた。

それを見た音忍のリーダーが、結界を作り出したモヒカン男に、

 

「次郎坊。食い終わったら、チャッチャッと来いよ」

 

と言い捨て、次郎坊と呼ばれた男だけを残して、サスケの入った棺桶を担いで、その場から去って行った。

 

土の壁。

岩と土で出来た、ドーム状の結界。

シカマルはぐるっと辺りを見回す。

360°だけでなく、上も閉じていて、雲一つ見えない。

そんな所に、木ノ葉小隊の全員が閉じ込められていた。

やられた!

心の中で呻く。

こちらの人数は蜘蛛男の能力で、予め数えられていたはずだ。

だから全員が揃ったところを、一網打尽にされてしまい……

こりゃー、個々の能力は向こうの方が断然上だな……

と、心の内でぼやきながら……

やる気も覇気も感じられない目で、シカマルは念入りに土の壁を探る。

が、当然出口すらも見当たらず……

一見、抜け出す方法などないように思えるが……

そこで。

ふと、一つの情報を思い出す。

イルカが出発前に言っていたこと。

確か、結界忍術を使えると言っていた。

ということは、攻略方法もわかるのではと推察し……

 

「……イルカ先生」

 

次郎坊に聞こえぬよう、こそりと話しかける。

それに合わせるように、イルカも小声で応えた。

 

「何だ? シカマル……」

「結界忍術って、そもそもかからないようにするのが一番セオリーっスけど、かかった場合はどうやって抜け出すんっスか?」

「オレもこんな術を見るのは初めてだが、結界忍術というのは、どのようなものであっても、明確な弱点が存在するものなんだ……」

「明確な弱点?」

「そうだ。術者が手や足を結界から放してはいけない…とか、脆い所があったり…とかな」

「なるほどね……」

 

術者に攻撃する。

なるほど……それはわかり易く、手っ取り早い。

が、その選択肢は始めから存在しない。

全員拘束されているこの状況では、実現不可能な選択だからだ。

なら……

シカマルはしゃがみ込み、座禅を組む。

この体勢がシカマルにとって、一番集中し易い姿勢だった。

だから、座禅を組み、作戦を頭の中で構築する。

思考を深く、深く、沈める。

すると……

バリバリバリ

ポテチを食う音が鳴り始めた。

こちらの意図にチョウジが気づいたようだ。

やっぱり長年コンビを組んできた相棒は役に立つなぁ……

などと思いながら、思考を巡らす。

 

「こんな壁、ぶち抜いてやるぜ! 通牙!」

 

キバが体術を使い、土の壁を削ろうとする。

これで貫通できたら話は早いのだが……

そう簡単にいく訳もなく……

キバの動きが止まった。

 

「ちっ!」

 

壁は途中までしか削られず、キバが悔しそうな顔で舌打ちを漏らす。

しかも、そのキバが削った壁は、張り巡らされた次郎坊のチャクラにより、勝手に修復される始末だ。

が……

 

「……なるほどね……弱点がある…か」

 

確かに、キバに削られた箇所はみるみると修復され始めている。

だが、その壁の治り方は均等ではなく、明確な差異が見て取れた。

修復の速度が早い箇所と、遅い箇所があった。

シカマルはそれを見て――攻略方法を見つけた。

立ち上がり、全員の視線が集まる中、キバに言う。

 

「キバ、もう一度暴れられるか?」

「あ?」

「もう一回この壁を削ってくれ。試したいことがある」

「試したいこと? シカマル、てめー見てなかったのか? この壁、削った側から治りやがんだぞ」

「いや、修復されても構わない。一手目はただの確認だからよ」

「ん? 何だかわかんねーが、必要ってんなら、やってやんぜ! 行けるな、赤丸!」

「ワン!」

 

次に、シカマルはネジを見て、作戦に必要なもう一つのプロセスを伝える。

 

「ネジ、あんたは白眼でチョウジの後ろの壁と、シノの後ろの壁。その両方を中心に、チャクラの動きを観察してくれ」

「……わかった」

 

ネジの即決の返事を聞いて、シカマルは口元を緩める。

頭のいい奴との会話は、話が簡単で楽に済む。

あとは推測が正しいのを、祈るだけ……

というところで、イルカがシカマルに尋ねてきた。

 

「シカマル……お前、まさか……」

「いや、まだ可能性の話っス。でも、たぶん上手くいきます」

「……わかった……任せよう」

 

シカマルが頷く。

と、同時に。

キバと赤丸が、コンビネーション攻撃を繰り出された。

 

「牙通牙!!」

 

土煙が舞う。

かなり気合いを入れたらしく、キバと赤丸の攻撃が、土の壁に幾つもの穴を開ける。

その穴の一つに……

カッ!

ネジの投げたクナイが刺さった。

 

壁の治り方に差異がある。

それは言い換えれば、結界に強い所と弱い所があるということだ。

そして、チャクラの流れを見切るネジの白眼により、それはさらに明確となる。

つまり、ネジのクナイが刺さった場所こそ。

この結界の弱点。

 

最後にチョウジを見る。

するとその相棒が、待ってましたという顔でポテチの袋をポーチにしまい。

印を結び、術を発動した。

 

「倍化の術!!」

 

そんな光景を、ずっと黙って見ていたサクラが、イルカに顔を向け、

 

「ねぇ、イルカ先生。これってもしかして」

「ああ、どうやら脱出法を見つけたようだ」

「うそ……こんな短時間で結界を破る方法を見つけるなんて……」

「そうだな……オレが一番驚いているよ……」

 

イルカが舌を巻くように言った。

続けて、

 

「全員、脱出に備えろ!」

 

全員に指示を出す。

下忍達はイルカの声に、無言で頷いた。

その直後。

チョウジが叫ぶ。

 

「よーし! 行くぞォ!!」

 

巨大化した体を丸めて、結界の一番脆い箇所目掛けて、

 

「肉弾戦車!!」

 

破壊の音を立てる。

一段と大きな土埃を巻き起こし、土の壁に大きな穴を開けた。

光が差し込んだと同時に、全員が外への脱出に成功する。

 

「な、何っ!?」

 

驚きの声を上げる次郎坊の前に、七人と一匹が集結した。

シカマルは結界を突き破った相棒を見て、

 

「チョウジ。やっぱりお前は…最高だぜ!」

「へへ」

 

次は、木ノ葉小隊が狼煙を上げる番であった。

 

 


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