霧隠れの黄色い閃光   作:アリスとウサギ

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木ノ葉舞う 火の影が照らすもの

「行くぞ! 猿魔!!」

 

ヒルゼンは如意棒へ変化した猿魔を片手に、腰を沈める。瞼を閉じ、開き、刮目。

身を屈め、力を溜める。いつでも一呼吸で動けるように。

大蛇丸はそれを悠々と眺めながら、口元を緩ませていた。切れ長い瞳を輝かせ、

 

「老猿の変化ですか……フフ……懐かしいですねぇ……」

 

どうやって、柱間と扉間を封印したのか?

どうやって、穢土転生を破ったのか?

わからないことだらけのはずなのに。

もしかしたら、自身も殺られる可能性すらある状況で。

しかし、だからこそか……大蛇丸は薄笑みを浮かべる。

この闘いで、一番の喜悦な笑みだった。

 

「フフ……面白くなってきたわね……いいでしょう。猿飛先生……アナタはやはり、私自らの手で、切り伏せて差しあげましょう」

 

言うや否や。

腹に両手をあて、何かを押し出すように押さえ込み……

口を大きく開けて……

そこから長い舌……ではなく、一匹の蛇を吐き出し……

さらにその蛇が、一振りの剣を体内から吐き出し、鞘から抜き放つか如く、鈍く光る鋼の刀身を曝け出した。

手品師もびっくりな光景。

だが、さらに驚きなのは、大蛇丸が手にした剣の存在。

『草薙の剣』

世に無数とある剣。その中でも、頂点に立つと呼ばれる剣の一振り。

それが、大蛇丸の隠し持っていた業物。

伝説の剣。

草薙の名を冠する銘刀。

それを、

 

「…………」

 

ぺろりと、刃を舐める。早く血を吸わせろと。

 

「…………」

 

それを見たヒルゼンは……

躊躇うことなく駆け出した。如意棒を器用に振り回し、一足一息で地面を爆ぜる。

身を低く構え、溜めていた力を爆発させ、加速。

ぐんぐんと速度を上げ、敵に一瞬で詰め寄り、

 

「ハ――ッ!」

 

重い如意棒を軽々と振り上げ、振り下ろした。

いや、軽々とではない。

老人の体に金剛の重さが堪えない訳がない。

しかし、それを臆面にも出さず、敵を叩く。

一撃一撃がまさに必殺の威力。

縦横無尽、如意自在。黒の嵐が旋回する。

薙ぎ払う。

突き出す。

振り下ろし、振り上げる。

ガッ!

キィン!

ガッ!

キィン!

 

「――ッ!」

 

その連撃を大蛇丸は草薙の剣で受け止め、払い退け、打ち付け、返す刃で応える。

目にも止まらぬ剣戟の応酬。

 

火の意志を体現した最堅守を誇る

――金剛如意。

 

全てを切り裂く破滅の剣

――草薙の剣。

 

その二つが、何度も何度も火花を散らす。

きっとこの闘いを見る者がいれば、一瞬、時を忘れたことだろう。

善も悪もない。

ただただ、ずっと眺めていたい。

そう思わせるような闘い。

永遠に続くかのような激闘。

だが――

この世に、永遠などというものは存在しない。

あってはならない。

終わりは必ず――訪れる。

 

『……ぐっ』

 

ヒルゼンと大蛇丸が鍔迫り合い。弾けるように、後方へ飛んだ。

次の瞬間。

二つのチャクラが爆発する。

互いの足元が爆ぜ、同時に加速し、

 

『ハ――ッ!』

 

ギィーン!!

如意棒と剣による重撃が鳴り響く。

が――

 

『…………』

 

止まらない。

 

『…………』

 

語る言の葉もなく、ただただ己の鍛え上げてきた往年の技と技を衝突させる。

 

「ハ――ッ!」

 

ヒルゼンは渾身の一撃を込め、大蛇丸の脳天目掛けて、如意棒を振り下ろした。

 

「フ――ッ!」

 

大蛇丸はそれを剣で捻るように受け流し、地面に打ち付け、力を拡散させる。

さらにその如意棒を片足で踏み、一瞬、こちらの動きを封じてきた。

そこで、

 

「もらった!!」

 

ひゅん!

草薙の剣がヒルゼンの首目掛けて――一閃。

素っ首はね飛ばさんと、刃が迫る。

しかし、

 

「甘いわ!」

 

その絶妙な薙ぎ払いを、ヒルゼンは一度如意棒から手を放し、一転。その老体からは、とても想像できない俊敏な動きで、華麗に回避してみせた。

続けて、体を半回転させながら、再び如意棒を両手に携え、

 

「ぬん!」

 

力任せに振り上げる。

キィン!

薙ぎ払ったことにより無防備となっていた草薙の剣を、大蛇丸の手から弾き飛ばした。

 

「くっ……!」

 

大蛇丸が呻き声を漏らす。

その武器をなくし、無防備となった相手に、

 

「伸びろ! 猿魔!」

 

ヒルゼンは追撃する。

伸縮自在の如意棒が伸びる。

が――

大蛇丸がこちらに片手を向け、

 

「潜影多蛇手!!」

 

大量の蛇を袖口から放出し、金剛と化した猿魔の動きを封じる。

いや、封じようとしてきた……だが……

ボン!

猿魔が変化の術を解き、自身の体を噛まれながらも、大蛇丸の片腕と繋がっている蛇達を捕まえた。

肉を切らせて骨を断つ。

これで大蛇丸は動けない。

一瞬とはいえ、動きを止めざるをえない。

猿魔が地面に倒れながらも、力強く叫んだ。

 

「今だ! 猿飛!!」

「わかっておる!!」

 

言い切る前に、ヒルゼンは大蛇丸の前に立ち、

 

「終わりじゃ!!」

 

相手を捕まえようと、手を動かした……瞬間。

 

「……ええ、終わりです……アナタの余生がね!

猿飛先生!!」

 

大蛇丸が余っていた片手を、クイッと動かし、

 

「……!? がはっ!」

 

ヒルゼンの後方死角から、草薙の剣で……

その背中を刺し貫いた……

 

『草薙の剣』

印を結ぶことで、使用者の思いのままに動かすことのできる、奇々怪々な剣。

先ほどの攻防で、大蛇丸が草薙の剣を己の手から放したのは、この最後の布石のため。弾き飛ばされたのではなく、わざと手放したのだ。

死角から攻撃できる機会を虎視眈々と窺って……

と――

その罠に、見事引っ掛かったヒルゼンに向かって、

 

「クク……最後の最後で油断しましたね、猿飛先生。どんな術を使おうとしていたのかは知りませんが、馬鹿正直に、身一つで私に突っ込んでくるなんて……」

 

自身の勝利を確信し、酔ったように唄う大蛇丸。

しかし、ヒルゼンはそれに沈黙する。

 

「…………」

 

何も答えない。

何も答えないが、口ではなく手を動かす。

再び剣が動かぬように……

血を流しながら、草薙の剣を素手で掴み……

体を貫かれた状態で……

三代目火影は――不敵に笑ってみせた。

 

「はは……大蛇丸よ……このたわけが……生まれ変わって、もう一度アカデミーからやり直せ……」

 

途端。

ボコッ!

大蛇丸の下から、地面が盛り上がる。

地中から“本体”のヒルゼンが姿を現し……

 

「なっ!?」

 

顔を歪める大蛇丸の両肩を掴み、

 

「ようやくワシの手がお前に届いたな……」

「ま、まさか!?」

「術は相手に利用されぬよう、よく考えて使え。そう、下忍の頃……教えたはずじゃが? 油断したのはお前の方じゃ!」

 

扉間の使用した黒暗行の幻術。

暗闇を作り出す高等幻術。

確かに強力な幻術だ。

木ノ葉にある、全ての術を極めたヒルゼンでさえ強力な幻術は何かと問われれば、真っ先に名を上げるほど、強大な術。

しかし、どんな術にも当然リスクは存在する。

黒暗行のリスク。それはあまりの絶大な効果に、敵だけではなく、味方の視覚すらも奪ってしまうところであった。

その暗闇の中で、ヒルゼンはこっそりと本体と分身を入れ換えていたのだ。

大蛇丸ですら気づけないほど、ほんの僅かな闘いの隙間を狙って……

それに気づいた大蛇丸が、呻くように言う。

 

「く……くそっ!」

 

が、もう遅い。

 

《キィ―――――》

 

ヒルゼンの腹から、死神の腕が、

大蛇丸の袖口から、大量の蛇が、

同時に、互いに襲いかかる。

 

『死ね――!!』

 

同時に二人が叫んだ。

そして、

 

『うぐっ』

 

同時に互いの命を掴んだ。

ヒルゼンの体には、首、肩、腕、足と至る所に毒蛇が。

大蛇丸の方は死神の腕に腹を貫かれ、魂を抜かれそうになっていた。

それを見届けた後、草薙の剣で串刺しにされていた分身ヒルゼンが、

ボン!

と、音を立て、消滅した。

支えをなくした剣が、カランっと甲高い音を立て、地面に転がる。

自由になった草薙の剣を目の端に入れ、もう一度操ろうと、印を結ぶ大蛇丸だが……

 

「くっ……」

 

術が発動できない。

既に大蛇丸の身体からは、彼の魂が半分ほど引き抜かれていたからだ。

魂の込もっていない腕が、彼の意思で動くことはない。

想像だにしなかった事態に、大蛇丸は冷や汗を流しながら、

 

「なぜ……避けなかったのです?」

 

大蛇丸の蛇による攻撃。袖口から蛇を出し、相手の虚を衝く技。

普通の忍なら、まんまと捕まるだろう。

しかし、ヒルゼンが避けられない攻撃ではない。

つまり、わざと受けたということで……

その疑問に、ヒルゼンは血を流血させながら、

 

「……この術はのォ……効力と引き換えに、己の魂を死神に引き渡す……命を代償とする封印術じゃ……避ける必要はない……どうせ死ぬ」

「くっ……!」

「お前の魂を引きずり出し、封印した後、同時にワシの魂も死神に喰われる。お前にも既に見えとるはずじゃ……」

「……?」

「この術によって魂を封印された者は、永劫成仏することなく……死神の腹の中で苦しみ続ける。封印した者とされた者……お互いの魂が絡み合い、憎しみ合って永遠に闘い続けるのじゃ……」

「……!? 何だ?」

 

人ならざる者の気配を感じ取り、大蛇丸は上を見上げた。

そこには……

 

《ウオオオオオ!!》

 

白い死覇装を纏った死神が、異形の口を歪め、魂を断つ短刀で……

 

《ハハハハハハハ――》

 

悲鳴を上げる人の魂を美味しそうに貪り喰う姿が……

 

もぐもぐと、口を動かす死神を見て、大蛇丸が絶叫する。

 

「ふざけるな!! この老いぼれが! 貴様の思い通りにはさせぬ!!」

 

蛇達がその歯を、さらに深く突き立てる。

ヒルゼンの体に毒が巡る。

 

「ゴホッ……」

 

吐血するヒルゼンを見据えて、

 

「さっさと……死ね!」

 

体中から油汗を噴き出し、それでも笑みを崩すことなく、大蛇丸が絞り出すように言った。

大蛇丸は生存本能によるものか、この状況でなお意識を保ち、死神に抵抗する。己の魂を引き連られていかないように。

そして、その力は、非情なことに……ヒルゼンが大蛇丸の魂を引きずり出そうとする力を、ほんの少しだけ上回っていた……

ここまで来て、ここまで来て……

ヒルゼンの体に、大蛇丸の魂を引き抜くほどの力は……既に――残されていなかった。

大蛇丸は息も絶え絶えの状態で。

だというのに、己の命の窮地すらも楽しむような目で、貪欲な蛇の瞳をニタリと吊り上げ、

 

「残念でしたね……猿飛先生……あと十年若ければ、私を殺すこともできたでしょうに……クク……」

 

闘いを決めるものは五つある。

戦術。戦略。戦力。運。心。

しかし後半の二つ。

運と心が戦局を左右することはほぼない。

よほどの接戦か、場を乱した時ぐらいだ。

『闘いとは、始まる前に八割ほど決まっている』

などという言葉があるが、それは――この場においても、悲しいぐらい……正しかった。

今のヒルゼンでは、死を覚悟してもなお、大蛇丸を殺すのには、あと一歩足りなかった。

 

「ゴフッ……! はあ、はあ、はぁ……」

 

吐血し、毒が巡る。

ヒルゼンの命が尽きようとしている。

同じく大蛇丸の毒蛇に、全身を噛まれながらも、ヒルゼンを叱咤する猿魔の声すら……

その身にはもう届かず……

眼の光が――

心の臓が――

 

走馬灯が駆け巡る。

 

 

「これで避難は完了しました」

 

そう言ったのはイルカだった。

木ノ葉のカリキュラムの一つ。

戦争が始まって、敵戦力の即時排除が不可能と判断された場合。

その次のステップに段階が移行する。

すなわち、女・子供といった非戦闘員の速やかな誘導。安全な地下へと避難させる。

 

それが完了したら、次の段階。

里の総力を上げ、敵勢力の全排除。

 

 

戦場。木ノ葉隠れの里。

 

チャクラを全身のチャクラ穴から放出し、敵の攻撃をいなして弾き返す。

 

『ぐわあぁ!』

 

砂と音の忍達が次々と吹き飛ばされる。

その中心には、一人の男が立っていた。

日向特有の構えをする男が一人。

 

「日向は木ノ葉にて最強……覚えておけ」

 

そこから少し離れた戦場。

殆どの景色が瓦礫の山と化した、木ノ葉通り。

 

「心乱身の術!」

 

敵を操り、

 

「く……やめろ! 体が勝手に!?」

 

味方殺しをさせる、山中一族。

その傍らに、

 

「木ノ葉秘伝・影縛りの術は初めてか?」

 

敵の動きを拘束し、

 

「じゃ、ついでにくらえ……木ノ葉秘伝・影首縛りの術!」

 

首を締め落とす、奈良一族。

さらには、

 

「倍化の術!」

 

体を何十メートルと巨大化させ、

 

「おらー!」

 

木ノ葉の町並みもろとも敵を粉砕する、秋道一族。

 

木ノ葉切っての名家。いの しか ちょう。

もちろん、木ノ葉の戦力はそれだけではない。

蟲を扱い敵を翻弄する、油女一族。

犬との連携で敵を迎え討つ、犬塚一族。

 

何千という木ノ葉の忍達が、里を守るために、命懸けで闘う。

 

ヒルゼンはそんな里の人々を、一人一人頭に想い浮かべていた。

そして……

戦争が始まる前に行われていた『中忍選抜試験本選』の、最後の試合を思い出す。

大ガマに乗って、四代目火影の羽織をはためかせるナルトの姿を。

あの大ガマは間違いなく、ヒルゼンもよく知る口寄せ動物のガマブン太であった。

ということは、行方不明であった大蛇丸と同じ伝説の三忍。

ヒルゼンの弟子の一人、自来也が里のすぐ近くに来ているということで……

 

『ひゃっほぉぉおおおおお!! オレ様すげェ〜、オレ様は強い! オレ様は最強!!』

 

試験会場から、巨体を引きずるように動き回り、破壊の限りを尽くす一尾の守鶴。

 

「ぐわぁぁああ!!」

 

木ノ葉の忍達は、足止めすることすら困難な相手に、

 

「何としても耐えるんだ! 火影様がもうじき来て下さる! それまで何としても、この化け物をくい止めるんだ!」

 

と、渇を飛ばした忍も、

 

『風遁・連空弾!!』

 

あっさりと吹き飛ばされる。

もはや木ノ葉の町並みも滅茶苦茶で、

そんな絶望的な状況で、

突如。

ズドーン!

天から大ガマが降って来た。

そのピンクの大ガマ、ガマケンの上に立つ、白髪頭の忍が見得を切る。

 

「ヒヨっ子ども!! その小せー目ェ根限り開けて、よーく拝んどけ!! 有難や!! 異仙忍者 自来也の! 天外魔境 暴れ舞い!!

そこのデカブツ!! ワシが来たからにゃ〜……」

『ひぃぃは――ァ! 面白そうな獲物発見!!』

 

見得切りの途中で、守鶴が大きく息を吸い込み、

 

『 風遁・超連空弾!!』

 

一段と大きい台風の大砲を放つ。

 

「ちょっ! おま! まだワシの登場シーンが……」

「そんなこと言ーとる場合じゃないありません! 不器用なりに、全力で闘うしか……!」

「ったく、頼むぞ! ガマケンさん! 何故かブン太の奴がボイコットしおってのォ」

 

守鶴が登場して、約一時間。

暴れ回っていた守鶴を自来也が来たことにより、漸く被害を押さえることに成功する。

 

 

命懸けで木ノ葉を守ろうとする忍達。

そんな忍達の声に応えるように……

 

「……まだじゃ……まだ、ワシの言葉はお前に届く……ワシの火の意志は消えてはおらぬ!」

 

ヒルゼンが息を吹き返す。

魂に火が灯る。

まるで、星が最期に煌めく、瞬きのように。

 

そんな光景に、奇跡……

いや……

奇蹟としか言い様のない光景に、大蛇丸は我が目を疑い、

「なん……だと……」

信じられないという面持ちで呟く。

そんな弟子の顔に、命を溢しながら、ヒルゼンは微笑み、

 

「チャクラや忍術だけが、この世の全てではないのじゃよ……大蛇丸……」

「く……! この状況でよくそんな強がりが言えますね。

『忍の力とは命懸けの闘いの中でしか生まれてこない』

アナタのおっしゃったことですよ、猿飛先生……そして、命を懸けてなお、アナタは私を殺せない! これが現実ですよ」

中忍選抜試験の予選で、ヒルゼンが言った言葉を復唱する大蛇丸。

だが、あれはウソ。

いや、ウソというより、他里の忍の前でもあったために、わざと付け足していない言葉があった。

それは……

 

「フン……何じゃ? 意外とワシの話を聞いておったのだな」

「ええ……どの言葉が遺言になるかわかりませんからねぇ……」

「……ならば、もう一つ思い出せ! かつてワシはお前達にこう教えたはずじゃ」

「…………!」

「この世の本当の力とは、忍術を極めた先などにありはしない。

『人は本当に大切な者を 死んでも守り抜く時 その真の力を表す』のだと」

 

力強く語る。

そのかつての師の言葉に、

 

「…………」

 

大蛇丸が一瞬動揺する。

蛇の瞳が僅かに揺らぐ。

何かを思い出したのか?

何かを感じたのか?

それは誰にもわからないが……

ヒルゼンはそこで、最後の呼吸を行い……

 

「では、そろそろ終いにしようかのォ、大蛇丸……」

「まだだ! まだ私の野望は終わらぬ!」

「……すまんな…もう少し話していたかったが…

もう、命が持ちそうにない……」

「…………っ」

「木ノ葉と霧が同盟を結ぶ。それをワシの生涯で、最後の大きな務めとするつもりじゃった……のだが……それはもう叶いそうにない……じゃが

……せめて……お前と一緒に死んでやろう……」

「ふざけるな!! お前一人で死ね!!」

 

絶叫する大蛇丸。

だが、それを跳ね返す“意志”の力で、

 

「グオオオオオオオオオオオオ!!」

 

ヒルゼンが吼える。

勇ましい雄叫びが、木ノ葉に響き渡る。

手、腕、肩、足――大蛇丸の魂を、その全てを引きずり出していく。

自身の命を代償に……

残り少ない命の焔を燃やし尽くして……

 

「バ……バカな……風前の灯火のジジィの……どこに……こんな力が……」

 

魂を引きずり出す。

大蛇丸の全てを摘み上げる。

その直前。

大蛇丸は最後の最期に、ヒルゼンのことを……

“ジジィ”と呼んだ。

それに、

たったそれだけのことに、ヒルゼンは満足そうな笑顔を浮かべて……

 

「封印!!」

 

《――――――――》

 

――死神の鎌を振り下ろした。

 

ヒルゼンと大蛇丸。

 

「共に逝こう……我が弟子よ……」

「猿飛…先生……」

 

師匠と弟子の魂が、この世を去って逝く。

 

 

木ノ葉舞うところに…火は燃ゆる…

 

火の影は里を照らし……

 

また…木ノ葉は芽吹く

 

 


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