木の葉の地下。
木の葉の闇。
そこには今、戦時下だというにもかかわらず、千の忍が集結していた。
根の暗部面を着けた忍。
木の葉の戦力となりうる忍。
それが、
戦争に参加せず……
集まっていた。
ある男の呼びかけに従い。
包帯で片目と片腕を隠した、野心に満ちた目を持つ男。
闇の忍。
志村ダンゾウに従って。
そして、そのダンゾウが皆の前に立ち、宣する。
「これでヒルゼンの時代は終わる」
淡々と。
三代目火影は終わると。
この戦争で、終わると。
それに部下の一人が、
「我々も戦争に参戦した方がよいのでは? ダンゾウ様が上に立たれたとしても、木の葉に住まう人々がなくなった後では意味がありません」
と、言う。
だが、ダンゾウは首を縦に動かさず、
「この戦争は大蛇丸を中心に引き起こされたもの。奴はヒルゼンの教え子。老いたとはいえ、ヒルゼンもただでは殺られまい……それなりの被害は受けるだろうが、儂にとっては必要な犠牲だ」
闇の忍の代名詞が、己の野望を口にした。
「儂が火影になるためのな」
ダンゾウは何も考えなしで、力を温存している訳ではない。
三代目火影に嫌がらせをしたい訳でもない。
ただ、霧に奪われた形となっている九喇嘛。
九尾を取り返す必要があると考えていた。
今の木の葉には尾獣が一体もおらず、各里との尾獣バランスが完全に崩壊している。
これは木の葉の弱味だ。
そして、こうなってはもはや自らが九尾をコントロールする……人柱力になるしかない。
そう考えていた。
野心もあるが、彼なりに木の葉を想えばの結論であった……
だからこそ、
根はひっそりと時を待つ。
場面は上へ。
中忍試験会場ステージ。
だった場所。
で、
今ナルトは、とんでもない事態に直面していた。
「アハハハハハハ! 逃げているだけか、うずまきナルト!」
50メートルはあるだろうか?
そんな化け物。
一尾の人柱力である、我愛羅に命を狙われていた。
大事件である。
その我愛羅の、小さな災害とも呼べる攻撃を二回避けたところで、ナルトは叫んだ。
「何なんだってばよー!」
ナルト自身は飛雷神で攻撃を避けていたため、この状況で、驚くべきことに無傷でいた。
しかし、会場は滅茶苦茶である。
まだ戦争が始まってから五分も経っていないだろうに、既に死者の数は数百を超えていた。
その半分近くが、我愛羅の手によって……
圧倒的な戦力。
これが里の最終兵器。
尾獣の力。
それにナルトは、
「…………っ」
歯をくいしばる。
自分と同じ人柱力のやっていることに。
我愛羅自身の意思か、里の命令か、はたまたその両方か。
どちらかはわからないが、何故か腹が立って仕方がない。
だというのに、
「いつまで逃げているつもりだ! うずまきナルト!!」
我愛羅が息を吸い込み、三度目の攻撃を放とうとしてくる。
それをナルトは術式クナイを片手に、回避しようとする。
確かに我愛羅は強い。
だが、スピードだけなら、ナルトは我愛羅の遥か上をいっていた。
正直、逃げようと思えば、いつでも逃げられるほどに。
しかし、木の葉の里を見捨てていいのか? と悩み、その決断ができずにいた。
そんな時。
ふと、自分の後ろにいた人物に気づく。
その人物は観客席にいた。
それは暫く会っていなかった人物だが、ナルトにとって、大切な人の一人で……
「なっ!? 風雲姫の姉ちゃん!」
と、その人物の名を叫んだ。
元々、雪の国に帰るまでは、風花小雪姫は火の国で女優の仕事をしていたのだ。
当然、中忍試験本選の案内状は毎回送られており、今回はナルト達が出ることを知ったため、内密で応援に来ていたのだ。
それをナルトが、奇跡的に見つけたまでは良かったのだが……
「………………」
今はカブトの幻術にかかり、寝てしまっていて…
「や、やべぇ」
ナルト一人なら、どうとでもなる。
だが、風雲姫を守るとなれば、飛雷神を二回使う必要があった。
ナルトが風雲姫の所へ移動するのに一回。
さらに攻撃を避けるのに一回。
二回クナイを投げる時間は、もう……ない。
風雲姫を守るには……
「すぅぅぅぅぅ」
今にも技を放とうとしている我愛羅を、正面から迎え撃つ必要があり……
ナルトは九喇嘛に呼びかける。
『九喇嘛!』
それに九喇嘛は、
『フン、言われるまでもねェ』
ナルトが言葉を発するまでもなく、チャクラを送ってきて。
そんな九喇嘛に、サンキューと心の中で呟きながら、印を結ぶ。
亥 戌 酉 申 未
「口寄せの術!!」
ド――ン!!
一際大きな煙を立ちのぼらせて、ナルトの呼び声に応えたのは……
「喚ぶのが遅いじゃろうが、ナル……のォ!?」
満を持して、再び登場したガマブン太。
その大ガマにいきなり、
「風遁・無限砂塵大突破!!」
砂塵の嵐が吹き荒れる。
それにガマブン太は、すかさず印を結び、
「水遁・水陣壁!!」
口から大量の水を噴出し、防壁を作り、
ザブーン!!
大規模な忍術がぶつかり合う。
我愛羅の起こした砂の津波ではなく、正真正銘、本物の津波が発生した。
そんな闘い。
一尾の守鶴の姿をした我愛羅と渡り合う、ガマブン太とナルトに、
「いいぞー!」
「何て闘いだ……」
「す、すげぇ」
「皆もぼやぼやするな!」
「我々も援護するぞ!」
などと、我愛羅を止められずにいた木の葉の忍達が口々に言い出し始める。
が、そこでガマブン太の頭に乗るナルトの横に、一人の少年が跳んできて、
「ナルトくん! これ以上目立つのはマズイです」
と、ハクが言って。
そのすぐ後に、長十郎も跳んできて、
「ナルトさん。僕達は霧の忍です。これ以上戦争に参加するのは、色々と危険ですよ」
言葉を繋ぎ、
最後に、再不斬が後ろに跳び乗り、
「何から驚きゃいいのか、わかんねーが……
ナルト! 兎に角、今は逃げるぞ!」
第一班が撤退を促す。
そんな風に、わらわらと自分の頭に乗る三人をガマブン太がギロリと睨み、
「なんじゃ、ワリャ! お前ら、ワシの頭にポンポン勝手に乗りおってからに〜 遠足気分か!」
それにハクが少し低い声で、
「すみません、ガマブン太様。ですが、今は不測の事態ですので、どうかお許しを……」
「……フン」
ガマブン太は鼻息で返事した後、我愛羅の方を見て、周りを見渡して、ナルトにさもめんどくさそうな声音で、
「ありゃ……砂の守鶴じゃがな……それに、こりゃ大蛇丸の仕業かのォ?」
「大蛇丸? 誰だってばよ?」
「自来也のあほと同期の奴じゃ……そんなことより、ナルト。どうするんじゃ?」
「え?」
「闘うにしても、逃げるにしても、はよ、選ばんかい。せやないと……」
そこで、我愛羅が笑う。
心の底から愉しそうに笑う。
自分の獲物に歓喜し、
殺戮を楽しむ。
ニタニタと顔を緩ませ、
「面白い! 面白いぞ! うずまきナルトォ!!」
叫びながら、我愛羅の元の体が守鶴の頭の上に、ずずずずっと、姿を現した。
そして、印を結ぶ。
「ここまで楽しませてくれた礼だ。砂の化身の本当の力を見せてやる」
世界をねじ伏せる力を――解放した。
「狸寝入りの術!!」
次の瞬間。
守鶴の目が一度ぐりんっと回り、
軋んだ歯車が回り、
絶望が始まる。
完全な尾獣が目覚める。
破壊が口を開く。
『ひゃっはァアア!! やっと出て来れたぜェ!!』
テンションの高い声が鳴り響く。
本当の恐怖の始まり。
木の葉全体に咆哮が轟く。
破滅の時間。
終焉の開幕。
『ひゃはァ〜!! いきなりぶち殺したい奴、発け〜〜ん!!』
守鶴がガマブン太を指さす。
それにナルトが慌てて、
「ガマオヤビン、今、後ろに風雲姫の姉ちゃんがいるから、避けずに何とかしてくれってばよ!」
「風雲姫の姉ちゃん? 誰じゃ?」
「え〜と、雪の国の姫様で、すっげぇー格好いい姉ちゃんだってばよ!」
と紹介するナルトに、ガマブン太は声を荒げ、
「姫様じゃて? 何かあったら国際問題になるじゃろうが! そがーな大事なこと、はじめに言えや、ボゲェ!」
それに同意するように、ナルトの後ろにいた再不斬もすぐさま事態を把握して、
「まったくだぜ……ったく、ナルト! 姫さんはオレが連れてくるから、取りあえずそれまでの間ここを死守しろ!」
部下に指示を出す。
ナルトは力強く頷き、
「おう! やるってばよ! ガマオヤビン!」
「殺るのは、ワシじゃろが!」
ガマブン太が最大限に警戒し、敵を見据える。
そこに守鶴が、
『風遁……』
大きなその腹に、空気を溜め、
『連空弾!!』
ゴウッっと、聞いたこともない音を発しながら、空気咆を発射。
それに応えるように、ガマブン太もチャクラを練り、
「水遁・鉄砲玉!!」
バシュッッ!!
風と水の巨大砲が衝突。
轟音と雨の嵐。
地形を変える闘い。
周囲にいた木の葉や砂の忍もろとも吹き飛ばす。
そんな光景にハクと長十郎は畏怖を覚える。
「な、何て闘いを……」
「水のない所で、このレベルの水遁は、霧でも水影様ぐらいしか使えないですよ……ね」
大ガマの頭から振り落とされないように、足にチャクラを巡らしながら戦慄する。
味方のハクと長十郎ですら、恐怖を感じる。
それほどまでに、桁外れな闘いだった。
化け物と呼ぶしか言い様のない、規格外の獣が二匹、木の葉の中心部で熾烈な激闘を繰り広げる。
が――
しかし、そこでガマブン太は、
「不味いのォ……起きた段階でこの力じゃと、こっちが押されるのも時間の問題じゃのォ」
と、珍しく弱気な発言をしてきた。
それにナルトは僅かに身を乗り出し、
「オヤビンでも勝てねーのか?」
「相手は最強のチャクラを持っとる守鶴じゃ! あんなもんに、ぶっつけ本番で勝てる訳がなかろーが」
「ええー!? オヤビンが勝てないんじゃ、どーしようもねーじゃん!」
が、ガマブン太はすぐに返事を返してきた。
突破口を少年に提示する。
「策がねー訳じゃねーけどのォ」
ナルトはそれに食いつくように、さらに身を乗り出し、
「作戦があるなら、もったいぶってねーで教えてくれってばよ!」
「あの人柱力のガキをどつき起こせ! 術が解ける!」
「どうやって?」
「近づいて、守鶴の動きを一瞬止めるんじゃ! その隙をつく!」
「だから、どうやって?」
あんな風に暴れ回っていては、飛雷神のクナイも途中で吹き飛ばされるだろう。
守鶴に姿を変えた時点で、苦労してつけたマーキングの術式も外されてしまっていた。
普通の方法では近づくことすら不可能。
そこで、ガマブン太は作戦を話す。
「ガマのワシには、奴の動きを封じる牙も爪もねーけんのォ! 変化の術でそれらを持っとるもんに、変化する!」
ひゃっはぁァアアっと言いながら、空気砲を放ってきた守鶴の攻撃を回避しながら、ガマブン太が説明を続ける。
「とはいえ、ワシは変化の術が得意じゃねーけんの! じゃけんの、お前がワシの意思になって印を結べ! コンビ変化じゃ!!」
「え〜!?」
「牙と爪があるもんじゃぞ!」
言うや否や、ガマブン太が守鶴目掛けて走り始めた。
ハクと長十郎が必死にしがみつく中、
ナルトが牙と爪、牙と爪と頭を混乱させていた時……
『ナルト! ワシのチャクラを練ろ! 調子に乗ったクソ狸に、格の違いを見せてやる』
九喇嘛がナルトの返事を聞く前にチャクラを流してきて……
「いくでェ〜!」
三位一体の術が発動する。
『「「変化!!」」』
ボン!! と、大きな音と煙を立てて出てきたのは……
『よォ! クソ狸』
オレンジ色の体毛。
守鶴と同じぐらい大きな体格。
トレードマークの九本の尾をたなびかせた。
――九喇嘛であった。