「えー、では、次の試合を始めますね」
電子音が鳴り始める。
電光掲示板に表示された次の二人は、
カンクロウvsテンテン
(オレの番じゃん)
(私の番ね!)
二人が下へと下りてくる。
砂の忍達は応援などもせず、ただ見ているだけであった。
一方、テンテンの方は、
「ファイトです! テンテン!」
「己の力を信じるんだ!」
「テンテン! 僕達が付いています! 全力でぶつかって下さい!」
「いいぞ! もっとだ! もっともっと熱く応援しろリー!」
「おーす!!」
と、リーとガイが熱烈な応援をしていた。
ハヤテが開始の合図を宣言する。
「では、第二回戦……始めて下さい」
開始の合図と同時にカンクロウがどさりと、背に背負っていた包帯にぐるぐるに巻かれた自身の忍具を床に置いた。
そして、様子見をしているテンテンに、
「どうした? 早くかかってこいよ」
と、挑発する。
テンテンは後ろに跳び、
「じゃあ、お言葉に甘えて!」
ポーチからクナイを取りだし、カンクロウへと放つ。
彼女の忍具の扱いは、下忍の中ではピカイチのものを持っていた。
持っていた……のだが……
キィン!
そのテンテンが放ったクナイを難なく、同じくクナイで弾くカンクロウ。
余裕の笑みを浮かべ、
「これじゃあ、遊びにもならないじゃん」
「くっ!」
(落ち着くのよ……挑発に乗ってはダメ。今度は防げない攻撃をすればいい)
冷静に間合いをはかり、テンテンはポーチから巻物を取り出す。
そのまま上空へ跳び、巻物を開く。
「これで、どう!」
空中でコマのように回転しながら、巻物から呼び寄せた無数の武器をカンクロウに放つ。
手裏剣、クナイ、槍、舵、様々な武器が吸い込まれるかのようにカンクロウに迫り……
「ぐあぁぁああ」
苦痛の声。
複数の飛び道具が、カンクロウの体に突き刺さり、針のむしろができていた。
しかし、
それを上から見ていた我愛羅は一言。
「……つまらん」
と、呟く。
なぜなら、
しゅるるると、カンクロウが地面に置いていた傀儡人形……いや、正確には傀儡人形だと思わせていたカンクロウ本体が白い布をほどき、姿を現す。
無傷で現れるカンクロウ。
それを地面に下りてきたテンテンが見て、
「そんな! 傀儡人形!?」
「その通り。人形をいくら攻撃しても痛くも痒くもないじゃんよ」
「くっ!」
「そろそろケリつけてやるじゃん……」
相手の発言に後退るテンテン。
そこに、上からリーが、
「テンテン! 相手に飲まれてはダメです! 平常心です! 平常心!」
目を閉じるテンテン。
(……わかってるわ、リー……本当は予選じゃなくて本選で使いたかったのだけど、そうも言ってられないみたい……)
冷静さを取り戻し、刮目。
ポーチから今度は二本の巻物を取り出す。
自信に満ちたその目に、何かあるなと警戒するカンクロウ。
テンテンは地面に立てるように、巻物を置き、印を結ぶ。
「面白い、最後の悪あがきか……」
カンクロウの挑発には乗らず、テンテンは腕をクロスさせ、
「双昇龍!」
直後。
煙が爆発し、二本の巻物が龍のごとく昇龍。
テンテンがその渦を描く、巻物の中心の上へと跳び、巻物から様々な忍具を口寄せする。
その数、数十。
いや、下手をすれば百はあるか……
先ほどの比ではなかった……
「くそっ!」
カンクロウは毒づきながらも、傀儡人形で迫りくる忍具の雨を受け止める。
ズドドドドド!!
とてつもない攻撃であった……
轟音が鳴りやむ。
何とか傀儡を操り、攻撃をガードしたカンクロウだが、今の攻防で彼の人形はバラバラとなっていた。
そのチャンスを逃さずテンテンが、
「まだまだ!」
再び、宙を舞う。
先ほど投げた武器を強力なワイヤーで引き上げ、上空からカンクロウに狙いを定める。
天井に犇めく数々の武器。
もはや、カンクロウに防ぐ手段はない……
そして、一斉に、
「はっ!」
放たれた。
無数の武器が、上空からカンクロウへと降り注いだ――かのように見えたが……
「甘いじゃん……」
バラけた傀儡人形のパーツをチャクラ糸で操り、
キィン! キィン! ガキン!
自分に飛んできた飛び道具をカンクロウは一つ残らず相殺した。
「そんな!」
とっておきを防がれたテンテンは顔を歪ませ、地面に下り立つ。
そこに、
「これで終わりじゃん!」
傀儡人形の頭が迫り、口をぱかりと開け、そこから睡眠玉を噴出した。
「きゃあー!」
まともに受けたテンテンは数秒と持たず、眠りについた。
ゴホッと咳を吐いた後、ハヤテが勝者を告げる。
「第二回戦。勝者、カンクロウ」
試合の後、眠っているだけのテンテンをガイが受け取り、観戦席まで運んで横に寝かせた。
その後、すぐに次の対戦者が発表される。
電光掲示板に発表された二人は、
イヌヅカ・キバvsテマリ
「ひゃっほおおー! 赤丸、俺達の番だぜ!」
「ワン、ワン!」
(ふん……犬っころ二匹か……)
二人と一匹が下に下りてくる。
ハヤテが合図を宣言する。
「では、第三回戦……始めて下さい」
開始と同時に、キバと赤丸は敵から一歩後ろへと距離をとる。
砂の実力を一度見たキバは相手を警戒していた。
そんなキバをテマリは鼻で笑い、
「様子見なんて、100年早いんだよ。私が攻撃を始めたら、すぐに試合が終わるんだから先に来な!」
と、自分の胸を親指でさす。
ぴくりと、眉を動かすキバ。
「そうかよ……なら、遠慮なく……赤丸!」
キバはポーチから兵糧丸を取り出し、赤丸の口に放った。
「あーん、パク!……グルルゥ!」
突如、赤丸の白い毛並みが逆立ち、赤く染まる。
相棒の準備が完了したのを見計らい、キバは煙玉をテマリへ投げつけた。
ボフーンと音を立て、煙が辺り一面に広がる。
(目隠しか?)
相手の出方をただ黙って見ているテマリに、キバと赤丸が先手必勝と攻撃にでる。
「行くぜ! 赤丸!」
「ワン!」
煙の中へ突撃し、テマリへと襲いかかる。
「くっ! 煙に紛れて攻めてきたのか?」
コンビネーションを利用した的確な攻撃に、余裕をかいていたテマリが少し焦りを感じた。
視界が悪い戦況はキバにとっても不利なはずだったが、その状況をものともせず、テマリを追い詰めるキバと赤丸。
なぜ、キバだけが視界の狭まった状況で、普段と変わらずに戦闘できているのかというと、今、彼の嗅覚はチャクラを鼻に集めることにより、通常の何万倍にも跳ね上がっていたからだ……
キバと赤丸は匂いだけで、テマリの居場所を察知していたのだ。
暫く一方的な攻防が続き……
その後。
攻撃がやみ、一瞬の間が訪れ、
煙が晴れる。
……そこには、
「くっ……犬っころが……」
「へっ! オレらを舐めてるからだ!」
「ワン! ワン!」
防御はしていたが、何発か攻撃をもろに受けたテマリ。
そして、全くの無傷で余裕の表情を浮かべるキバと赤丸。
試合が始まった時と互いの表情が逆転していた。
チャンスとばかりに、赤丸がキバに乗りかかり、二人は同時に印を結ぶ。
「次で決めるぞ、赤丸! 擬獣忍法……」
「ワンワン!(擬人忍法)」
「「獣人分身!」」
赤丸の体がキバそっくりに変化する。
もはや見た目だけでは判断できないほどに……
「なんだ?」
術を観察していたテマリだが、そんなのを待つキバではない。
すぐさま煙玉を取り出し、再びテマリへと投げつけた。
ボフーンと、辺り一面に煙が広がる。
「コイツ……バカの一つ覚えか!」
「そのバカの一つ覚えに、テメーは負けるんだよ! 行くぞ赤丸! 四脚の術!」
「ガルルル……」
途端、目を兵糧丸の影響で目を血走らせたキバと赤丸が……
加速する。
その速度は初撃の時を遥かに上回っていた。
「ひゃっほおうー!」
得意な戦況を作り、獲物を追い詰めるキバ達。
だが、
テマリは身の丈ほどの扇子を手に取り、
「調子に乗るな! 忍法・カマイタチ!」
直後。
風が舞う。
その風は突風となり、煙もろとも、キバと赤丸を吹き飛ばした。
「ぐおっ!」
「ぐあっ!」
地面に転がるキバと赤丸。
それに容赦ない追撃がくる。
「随分と舐めた真似してくれたじゃない! これで終わりだ! 忍法・カマイタチ!」
チャクラでできた風の刃が、キバと赤丸へ襲いかかる。
それを見たキバは赤丸を突き飛ばし、攻撃外へと逃がした。
……が、
「ぐっぁぁああ!」
逃げ遅れたキバが、テマリの術をまともに受けた。
「かはっ……」
吐血し、地面へ倒れるキバ。
もはや動ける状態ではない。
そんな相棒を守るように、
「ワンワン!」
擬人忍法が解かれ、元の犬の姿に戻った赤丸が立ちはだかる。
しかし、テマリは攻撃の手を緩めない。
「弱い犬ほどよく吠える……消えな負け犬! 忍法・カマイタ……!?」
とどめをさそうと、テマリが振り抜こうとした扇子が、一瞬にして、彼女の背後に回っていた者に捕まれ、その動きを止められていた。
「えー、これ以上は戦闘続行不可能と見なし、私が止めますね……」
「……ちっ」
ハヤテのストップにテマリは大人しく下がった。
キバの担当上忍の紅が、部下の怪我を見るため、下に下りてくる。
それを見たハヤテは勝者を宣言した。
「第三回戦。勝者、テマリ」