霧隠れの黄色い閃光   作:アリスとウサギ

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合否を決めるもの

「はじめに言っておくが、オレ様に逆らうようなブタ共は即失格だ。わかったな!」

 

イビキがわいわいしていた受験者達を黙らせる。

 

「では、これから中忍選抜第一の試験を始める……志願書を順に提出して代わりにこの座席番号の札を受け取り、その指定通りの席に着け! その後、筆記試験の用紙を配る……」

 

試験官の一人がテストの束をピラピラとこれ見よがしに受験者達に見せていた。

それを見たナルトは頭が真っ白になり、叫ぶ。

 

「ひっき、ようし、用紙……!?……ペーパーテストォオォォオ!!」

 

中忍試験第一の試験はナルトの一番苦手な筆記テストであった。

 

受験者達が指定された番号通りの席に着く。

 

「あ〜、ハクと長十郎と席、バラバラになっちまったってばよ……どーしよ……」

 

頭を抱えてへこんでいたナルトに隣の席に座っていたヒナタが声をかける。

 

「ナルトくん」

「ん? お前ってばヒナタ」

「お、お互い頑張ろうね……」

「ああ、頑張ろうな」

 

チョークをコツっと黒板に叩き、イビキが試験の説明を始める。

 

「この第一の試験には大切なルールってのがいくつかある。質問は一切受け付けないからそのつもりでよーく聞いておけ」

 

黒板に最低限のことのみを書き記しながら、説明を続ける。

 

「まず、第一のルールだ! お前らには最初から10点ずつ持ち点が与えられている。筆記試験は全部で10問、各1点ずつ。そしてこの試験は減点式となっている。一問間違えることに1点減点される。三問間違えれば持ち点は7点となる。」

「第二のルール。合否はチームの合計点数で判定する。」

「第三のルール。試験中にカンニング及びそれに準ずる行為を行ったと監視員に見なされた者は、その行為1回につき持ち点から2点ずつ減点させてもらう。つまりテストの採点を待たずに、この試験中に退場させられる者も出るかも知れないということだ。不様なカンニングなどを行った者は自滅していくと心得てもらう。仮にも中忍を目指す者。忍なら立派な忍らしくすることだ。」

「それからチームの中で一人でも0点の者がいた場合……そのチームの全員を不合格とする。」

「ちなみに最後の問題は試験開始から45分経ってから出題する。試験時間は一時間だ……始めろ!」

 

全員が一斉にテスト用紙を表にする。

ナルトも苦手なテストだが一問は意地でも解かなければハクと長十郎を道連れにしてしまうと、なんとか簡単な問題を見つけて解こうとする。

……が、

問題を見ては飛ばし、見ては飛ばし、見ては……と9回同じことを繰り返し……

最後には頭を抱えて青ざめた表情になってしまった……

 

ナルトが解けないのも無理はない。

なぜなら、この試験はただの学力テストではなかったからだ。

もちろん中には自力で解く者もいるが、本来このテストの問題は全て下忍の学力では解けないものが出題されていた。

つまり、カンニングを前提にされた試験であったのだ。

しかし、ナルトがハクや再不斬につけてもらった修行は全て直接的に戦闘に必要なものだけであり、このような状況で裏の裏を読むことはできなかった……

 

だが、周りはそんなナルトを待ってくれる訳がなく、次々と試験の本当の内容を理解した者達が行動に移り始める。

 

砂を操る特殊な術でカンニングを行う我愛羅。

犬と連携でカンニングを行うキバ。

音で文字を判断し、カンニングを行うドス。

虫を使いカンニングを行うシノ。

忍具を使いカンニングを行うテンテンとリー。

 

数々の情報収集戦が行われる中、ナルトの答案用紙は真っ白のままであった。

自分がみんなから遅れているのが雰囲気でわかったナルトが頭を抱え真っ青になり、このままじゃ、まじでヤバい! と焦っていた時、

 

「ナルトくん……わ、私のテスト、見せてあげる」

「え?」

 

隣に座っていたヒナタが小声でナルトに自分のテストを見てテストの答えをカンニングするようにと勧めてきた。

それは今だに一問足りとも解けていなかったナルトにとっては願ってもない話であった。

だが、ナルトには得する提案だが、ヒナタには何の得もないであろう提案にナルトは疑問を覚え質問をする。

 

「どうして?何でオレに見せてくれるんだってばよ?」

「そ、そ、それは……」

 

ナルトからすれば当然の疑問だったが、ヒナタにとってはこれでもかというほど核心を突いた質問であり、何と答えればいいのかわからず、モジモジしながら……

 

「わ、私、ナルトくんにこんなところで消えてもらいたくないから……それに、ほら、ナルトくんのお陰で中忍試験受けようって思えたし……」

「……へへ、そっか、変に疑っちまったってばよ」

 

ヒナタの答えに納得し、答案用紙を見せてもらおうとナルトが顔を向けた時、

 

パキパキッ!

 

!?

 

ナルトとヒナタの間に氷の鏡が出現し、その鏡からホラー映画さながらの演出でハクの手だけが出て来て、ナルトに何か小さな紙を握らせた後、すぐに消えていった。

 

「「…………」」

 

ナルトもヒナタもお互い何があったのかはすぐにわかったが、なぜか暫くの間、体を動かせずに固まってしまった……

 

 

(ふん、愚図はあらかた落とし終えたな……それじゃ本題を45分経ったし始めるか)

 

開始からずっと口を閉じていたイビキが再び口を開く。

 

「よし! これから第10問目を出題する」

 

全員の目線がイビキに集まる。

 

「と、その前に一つ最終問題についてのちょっとしたルールの追加をさせてもらう……これは……絶望的なルールだ」

 

イビキは周りを見回し、説明を続ける。

 

「まず、お前らにはこの10問目の試験を「受ける」か「受けない」かを選んでもらう」

 

ここに来てのルールの追加に次から次へと疑問の声が上がる。

 

「選ぶって! もし10問目の問題を受けなかったらどうなるの?」

「受けないを選べばその時点でその者の持ち点は0となる。つまり失格! もちろん同班の二人も道連れ失格だ」

「そんなの受けるを選ぶに決まってるじゃないか!」

「そしてもう一つのルール……受けるを選び正解できなかった場合…………その者については今後永久に中忍試験の受験資格を剥奪する!!」

「そ、そんなバカなルールがあるか! 現にここには中忍試験を何度か受験している奴だっているはずだ!」

 

そんな風に下忍達から抗議の声が上がる中、イビキはそれを鼻で笑い飛ばし、

 

「クククク……運が悪いんだよ、お前らは。今年はこのオレがルールだ! その代わり引き返す道も与えているじゃねーか……自信のない奴は大人しく受けないを選んで来年も再来年も受験したらいい……」

 

イビキは受験者の前に立ち、最後の問題を出題する。

 

「では始めよう。この第10問目。受けない者は手をあげろ! 番号確認後ここから出てもらう」

 

暫く沈黙が続いたが、その重い空気に耐えられなかったのか、少しずつ手があげられ始める。

 

「オ、オレはやめる! 受けない!」

「50番失格、130番、111番道連れ失格!」

「オレもだ」

「私も」

「す、すまないみんな……」

「オレもやめる」

 

一人が手をあげてから芋ずる式に次から次へと手をあげる中、ナルトは静かに10問目が出題されるのを待っていた。

別に10問目の答えを間違えない自信があったわけではない。

ナルトは決して勉強ができるタイプではない。

それでも立ち向かわなければいけない場面というのは誰よりもわかっていたのだ。

決して頭でわかっていた訳ではないが、ナルトは本質的にこの試験で一番求められている応えを理解していた。

伊達に波の国や雪の国での闘いを乗り越えてきたわけではなかった……

 

5分ほど経ち、失格者達が抜け空席だらけになった部屋を見回し、イビキがもう一度残った者に問いかける。

 

「もう一度訊く……人生を賭けた選択だ。やめるなら今だぞ……」

 

脅しでもあるその発言に、今度は誰も応えずただただ10問目を静かに待つ受験者。

イビキは最後に試験官達に目線を送り、これ以上粘っても意味はないと判断し、残った者達に告げる。

 

「いい決意だ! では、ここに残った72名全員に……第一の試験、合格を申し渡す!!」

 

イビキはこの場にいる全ての下忍に合格を宣言する。

突然の合格に喜びよりも疑問が受験者達の頭に浮かび、我先にと質問が飛び交う。

 

「ちょ……ちょっと、どういうことですか!

いきなり合格なんて! 10問目の問題は?」

「ははは、そんなものは初めからないよ。言ってみれば、さっきの2択が10問目だな」

「じゃあ今までの前9問はなんだったんだ! まるで無駄じゃない!」

「無駄じゃないぞ、9問目までの問題はもうすでにその目的を遂げていたんだからな……キミ達の情報収集能力を試すという目的をな!」

「情報収集能力?」

 

イビキは一つ頷き、説明の続きをする。

 

「まず、このテストのポイントは最初のルールで提示した常に三人一組で合否を判定するというシステムにある。それによってキミらに仲間の足を引っ張ってしまうという想像を絶するプレッシャーを与えた訳だ」

 

イビキの言葉に思いあたるところがあった下忍達が頷く。

 

「しかし、このテストの問題はキミ達下忍レベルで解けるものじゃない。当然そうなってくると会場の殆んどの者はこう結論したと思う……点を取るためにはカンニングするしかないと……つまり、この試験はカンニングを前提としていた。しかしだ、ただ愚かなカンニングをした者は当然失格だ……なぜなら」

 

イビキが頭に被せてあった布を取り外す。

そこには……火傷、ネジ穴、切り傷といった拷問の跡があった……

 

「なぜなら……情報とはその時々において、命よりも重い価値を発し、任務や戦場では常に命懸けで奪い合われるものだからだ!」

「「「…………」」」

「敵や第三者に気づかれてしまって得た情報は、すでに正しい情報とは限らないのだ」

 

受験者が喉を鳴らし、押し黙る。

布を再び頭に巻いてイビキは話を続ける。

 

「これだけは覚えておいて欲しい。誤った情報を握らされることは仲間や里に壊滅的打撃を与える。その意味で我々はキミ達にカンニングという情報収集を余儀なくさせ、それが明らかに劣っていた者を選別したというわけだ」

 

説明を聞き、それでもまだ残っていた疑問を受験者達が口にする。

 

「でも、なんか最後の問題だけは納得いかないんだけど……」

「いや、この10問目こそがこの第一の試験の本題だったんだよ」

「いったいどういうことですか?」

「説明しよう。10問目は受けるか受けないかの選択、言うまでもなく苦痛を強いられる2択だ。受けない者は即失格。受けるを選び問題に答えられなかった者は永遠に受験資格を奪われる……実に不誠実極まりない問題だ……」

「「「…………」」」

「じゃあ、こんな2択はどうかな。キミ達が仮に中忍になったとしよう。任務内容は秘密文書の奪取。敵の忍者の数、能力、その他一切不明。さらには敵の張り巡らした罠という名の落とし穴があるかも知れない……さあ、「受ける」か「受けない」か? 命が惜しいから、仲間が危険にさらされるから、危険な任務は避けて通れるのか?……答えは……ノーだ!」

 

全員の顔を見ながら、中忍に一番必要なことをイビキが伝える。

 

「どんな危険な賭けであってもおりることのできない任務もある。ここ一番で仲間に勇気を示し、苦境を突破していく能力。これが中忍という部隊長に求められる資質だ! いざという時、自らの運命を賭せない者、来年があるさと不確定な未来と引き換えに心を揺るがせチャンスを諦めて行く者。そんな密度の薄い決意しか持たない愚図に中忍になる資格などないと、オレは考える!……難解な10問目で受けるを選んだキミ達は、これから出会うであろう困難にも立ち向かっていけるだろう。入口は突破した! 中忍選抜第一の試験は終了だ! キミ達の健闘を祈る!」

 

合格を言い渡され、今までずっと黙っていたナルトが喜びの声をあげる。

 

「よっしゃー! 祈ってて!!」

 

そんなナルトに後ろの席で座っていたハクと長十郎、隣に座っていたヒナタも微笑んでいた。

霧隠れ第一班、そして木の葉のルーキー達は皆、無事に第一の試験を突破した。

 

 


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