7/1 中忍試験当日。
三代目火影と会談した次の日。
ナルト、ハク、長十郎は中忍試験を受けるため、一次試験の会場である校舎の中にまで足を踏み入れていた。
途中、中忍二人による幻術を使ったふるい落としなども行われていたが、そんなものにひっかかる第一班ではなく、ナルト達はスムーズに会場の扉の前まで足を進めた。
そして……
最後の扉の前に立っていた人物へと、こちらから話しかける。
「再不斬!」
「再不斬さん」
「再不斬先生」
凭れ掛かるように、扉の前にいた再不斬が姿勢を正し、
「よぉ! まあ、一応担当上忍だから見送りに来てやった……が、はっきり言ってお前達の心配はあまりしてねえ。オレ様が直々に鍛えてやったんだ。他の里の下忍ごときに負ける訳がねえからな……行ってこい!」
「「「了解!」」」
再不斬から激励を受け、第一班は中忍試験の扉を開ける。
「よっしゃー! 行くってばよ!!」
意気揚々と足を踏み入れたナルト達に待っていたのは、試験会場に犇めく数多くの各隠れ里の忍達であった。
「す、凄い数ですよ、ハクさん、ナルトさん!」
「確かに、すげー数だな!」
「ですね、凄い数です。」
長十郎はその100は超えるであろう受験生の数に少し気圧されているが、ナルトはわくわくしており、ハクは冷静に他の受験生達を観察していた。
そんな第一班に知り合いが声をかけてくる。
「「ナルト!?」」
「ん?」
ナルトが声をかけられた方を振り向くと、そこには第七班のサスケとサクラが立っていた。
「サクラちゃん! サスケ!」
「なんでナルトがここにいるのよ?」
「そりゃあ、もちろん中忍試験を受けに来たんだってばよ!」
「まさか、あんたまで受けに来るなんて……」
サクラはナルトが中忍試験に来るとは思っていなかったため驚きの声をあげる。
次にサスケが不敵な笑みを浮かべながら、
「ナルト……まさかまた会うことになるとはな……だが丁度いい。以前の借りは、この中忍試験できっちり返させてもらう……」
「へっ! サスケ……あれから修行して強くなったのは、何もテメーだけじゃねぇってばよ!」
「ふん、望むところだ!」
早速、火花を散らすナルトとサスケ。
そして勿論、この会場にいるナルトの知り合いはサスケとサクラだけではなかった。
次々に木の葉のルーキーが集まってくる。
その中で最初に話しかけてきたのは、ナルトと同じぐらい目立ちたがり屋のキバであった。
「なっ!? ナルトじゃねぇか!」
「おー! キバじゃねえか!」
「お前、里を抜けたってウワサが流れてたけど、マジで里抜けしてやがったのか!」
キバはナルトがしている霧の額あてを見る。
「ああ、これのことか……その通り、オレってば、今は霧の忍者だ!」
「自慢気にいうことかよ! アカデミーの卒業試験に落ちたから抜けたとか、なんとか聞いたがカッコ悪いにもほどがあんだろ!」
「はあ? なに言ってんだ、お前?」
キバとナルトが微妙に噛み合わない会話をしていた時。
今度は木の葉第十班のメンバーがナルトの前に姿を現し、その中の一人、シカマルが声をかけてきた。
「ナルトじゃねーか」
「あっ! お馬鹿トリオじゃねぇか!」
「その言い方はやめろって言ってんだろ……ったく、クソめんどくせー」
「懐かしいなあ〜、お前達、全然変わってないってばよ!」
「いや……というか、お前今までどこ行ってたんだよ? 霧の額あてまでしてるしよ」
「さっきキバにも説明したばっかだぞ……オレってば、霧の忍者になったんだ!」
「木の葉を抜けたのか! あの火影バカのお前がか!?」
「火影バカって……まあ、そうなっちまうな……」
「マジかよ……めんどくせーな……」
「お前ってば本当に変わってねーな……あっ、そうだ……」
ナルトは思い出したかのように、今までナルト達の再会を邪魔しないようにと気を使って下がっていたハクと長十郎の腕を引っ張り、みんなの前に連れてくる。
そして、
「みんなに紹介したいやつがいるんだ。この二人が今のオレの仲間でハクと長十郎って言うんだ!中忍試験の間、よろしく頼むってばよ!」
「ハクです。よろしくお願いしますね」
「長十郎です。よ、よろしくお願いします……」
いきなり全く接点のない霧の忍の紹介をされ、紹介した側もされた側もぎこちないながらも挨拶をする。
そんな中、ハクという名前に聞き覚えがあったサスケとサクラが困惑気味に、
「おい、ハクって名前……たしか……」
「ああ、波の国でオレと一緒にいた仲間だってばよ!」
「仮面の下はこんな綺麗な顔した女の子だったのね……(近くで見ても、私より可愛いじゃない! しゃんなろーー!)」
「すみません、僕は男です」
「「「!?」」」
ハクのあっさりとした回答に、今日一番驚いた顔を見せる木の葉の下忍達。
そしてナルトはハクだけでなく、波の国でのもう一人の立役者についても、サスケとサクラに説明する。
「サスケとサクラちゃんは波の国で長十郎にも会ってるってばよ。ほら、捕まってた姉ちゃんを助けた……」
「「あの時の暗部!?」」
「い、いえいえ、僕は暗部ではありません。あの時はたまたま面をつけていただけです……」
ナルトの第一班の紹介を聞き終わった後、いや聞いていた最中もサスケは体をウズウズさせていた。
それに気づいたナルトが、
「ん? どうしたんだ、サスケ?」
「ふん、この中忍試験が楽しみになってきただけだよ……」
「へっ! このオレの仲間を見てびびったか?」
「ウスラトンカチが……武者震いだよ……」
またも睨み合う二人の間にキバが割って入る。
「おいおいサスケくん、この二人がどれだけ強いかなんて知らねぇが、このナルトのチームだぞ。オレにはそれほど強いとは思えねぇな、な、赤丸」
「ワン!」
そんなあからさまな挑発に、当然ナルトは乗り、
「ンだと〜キバ! ハクは女の子より女の子っぽいし、長十郎はいつも自信なさげだけど、いざという時はメチャクチャすげーんだぞ!」
「はっ! 悪いがナルト、オレ達の班は下忍になってからかなり修行したからな! お前らには負けねーよ!」
「ふーん……」
「ふーんって、てめぇ……」
「おい、キミ達! もう少し静かにした方がいいな……」
ルーキーの下忍達が騒いでいた時に、それを見かねたのか、眼鏡をかけた木の葉の額あてをした男が注意を促しに来た。
「かわいい顔してキャッキャッと、まったく……ここは遠足じゃないんだよ」
いきなり現れた男に、いのが文句を言う。
「誰よアンタ? エラそーに!」
「僕の名前はカブト。それより辺りを見てみな」
「辺り?」
カブトの言葉にルーキーの下忍達が辺りを見回すと、周囲からナルト達を睨みつけるような視線が降り注がれていた。
下忍達が自身の言った言葉を理解したのを確認して、カブトは話しを続ける。
「試験前でみんなピリピリしてるから、どつかれる前に注意しとこうと思ってね……ま、新人さん達みたいだし仕方ないか……」
眼鏡の男が同じ木の葉の下忍で仲間なのを察したサクラがカブトに質問をする。
「カブトさん、でしたっけ? 色々試験について詳しそうということは、あなたは今年で2回目なの?」
「いや、僕は7回目だ。中忍試験は年に2回しか行われないから今年で4年目ということになるね」
「そんなに!」
「そうだね……じゃあ、かわいい後輩にちょっとだけ情報をあげようかな。この忍識札でね」
「忍識札?」
カブトがポケットから200枚ほどのカードの札を取り出す。
表は真っ白で何も書かれていないカードのようだ。
その札の一枚を取り、人差し指で床に押さえつけ、くるくると回し始める。
「なにやってるの?」
「僕のチャクラを使わないと見ることができないようになってるんだ……例えばこんなの……」
カードからボンっと小さな煙が吹き出した後、真っ白だった表紙に立体図が浮かび上がっていた。
「うわぁ、凄い見易い立体図! 何の情報これ?」
「今回の中忍試験の総受験者数156名とその参加国。それを個別に表示したものさ」
その手際を見て、サクラの次に今度はサスケが情報をカブトから聞き出そうとする。
「そのカードに個人情報が詳しく入ってるやつ、あるのか?」
「あるよ……気になる奴でもいるのかな?」
「……いる」
「なら、その気になる奴の情報を何でもいいから言ってみな。検索してあげよう」
「砂隠れの我愛羅。それから木の葉のロック・リー……そして」
サスケはカブトが何をやっているのか、いまいち理解できていないナルトを見ながら、
「霧隠れのうずまきナルトだ」
「ん?」
自分の名前が出たのはわかったが、話についていけていなかったナルトは、様子を見守ることにした。
「なんだ、名前までわかっているのか。それなら早い」
カブトはサスケから三人の名前を聞き出した後、札からさっと三枚のカードを引き、
「これだ!」
「見せてくれ」
また先ほどのようにカードをくるくる回し、焼きつけていた情報を見える形にして、カブトはルーキー下忍達に説明を始める。
「じゃあ、まずはロック・リーだ。年齢はきみ達より一つ上だな。任務経験はDランク20回、Cランク11回。班長はガイ。体術がここ一年で異常に伸びてるが他はてんでダメだな。きみ達と同じく今回初受験。チームには日向ネジとテンテンがいるね」
「ん? 日向?」
ナルトにも聞き覚えのある名前だったが、どこで聞いたかわからず、説明の続きを静かに聞くことにした。
「次は砂漠の我愛羅。任務経験はCランク8回、Bランク1回。凄いな! 下忍でBランクか……他国の忍で新人だから詳しい情報はないが、ただ任務は全て無傷で帰ってきたそうだ……チームにはテマリとカンクロウがいるね」
「Bランク、しかも無傷で……」
木の葉のルーキー達はもちろん、霧隠れ第一班のナルト達も我愛羅の底知れぬ何かに驚きを隠せずにいた。
Bランクを無傷で達成するのは中忍であっても、任務内容にもよるが、ほぼ不可能。
それを下忍の我愛羅がやってのけたのだから、驚くのも無理はない。
「最後にうずまきナルト。任務経験はDランク5回、Cランク3回、Aランク1回……えっ!? え……と、こちらも他国だから詳しい情報はないね。班長は再不斬。チームにはハクと長十郎がいるね」
と、カブトが説明をし終わったのだが、Aランクの任務経験の話が出た辺りから、木の葉のルーキー達の耳には殆んど届いていなかった。
サスケがすぐに本当なのか確める。
「ナルト……お前Aランク任務なんてやったのか……」
「え? あ〜、そういえばAランクになったんだっけ? あの任務は思い出に残るいい任務だったってばよ!」
「「「!?」」」
ナルトの肯定に絶句する木の葉のルーキー達。
それもそのはずで、ナルトはアカデミーの卒業試験に落ちるほどの落ちこぼれだったのだ。
少なくともみんなの中では……
そんなナルトがAランクの任務を受けて、無事に生還しているのだ。
驚くのは当然である。
……映画を見ていない人にとっては……
今度はシカマルと同じ班のお馬鹿トリオの一人、いのがナルトに掴みかからん勢いで詰めより、
「ナルト! あんた、あの映画やらせじゃなかったの!」
「へ? え……えー! いのまで見たのか!」
「何言ってんの、私だけじゃなくてサクラとヒナタも見てるわよ」
「え?」
ナルトがギギギと首を捻り、サクラとヒナタを見る。
「えーと、合同任務の帰りにたまたまみんな一緒になっちゃってね……でも、ナルト、あんた、凄かったじゃない! 正直、あのいかにも悪そうな面した奴がぶっ飛んで行ったところはスカッとしたわ!」
力こぶを作り、まるで自分が倒したかのように語るサクラ。
続けて指をもじもじさせながらヒナタもナルトに近づき、
「な、ナルトくん……私も、映画見て……その…………」
「「「ん?」」」
突如黙り込んでしまったヒナタに首をかかげる、ナルト、サクラ、いの。
だが、サクラまで見ていたのを知って気をよくしたナルトが、
「いや〜、サクラちゃんにまでオレの活躍を見てもらっていたとは、テレるってばよ〜」
「本当は私もいのも、ミッチー様のお姿を目に焼きつけに行ったんだけどね」
「ははは、そんな落ちなのはわかってたってばよ……」
頭をがくりと下げたナルトに、いのがとどめをさす。
「正直、映画見た時は不覚にもあんたのことがカッコよく見えてしまったけど……」
「な、なんだってばよ」
「実物見たら、やっぱりナルトはナルトね……」
「むっきー! オレってば、現実でもカッコいいんだぞ! なあ、ハク、長十郎!」
「ふふふ」
「ぼ、僕達の映画、やっぱり木の葉にも……」
フォローを求めたナルトにハクは微笑むだけで、長十郎の方は自分達の存在が知れ渡っていることに緊張しぱなっしであった……
カブトは話が一区切りしたのを見計らい、眼鏡をクイっと上げ、
「まさか、そんな凄い任務があったなんて……僕の情報収集もまだまだってことだね……じゃあ、最後にとっておきの情報を教えよう」
みんなの視線がまたカブトに集まる。
「木の葉、砂、雨、草、滝。ここまでは例年通りだが今年はみんなも知っての通り、音と水の国からは霧も参加することになった。今回の参加者は三人とは言え、霧は木の葉や砂と同じく力のある里だ。そんな里がどうしてわざわざ木の葉に試験を受けに来たかというと……実は中忍試験が終わった後、木の葉と同盟を結ぶかも知れないという話が出ているんだ」
「「「!?」」」
ナルト、ハク、長十郎はそのカブトの情報に驚いた顔をしてしまった。
木の葉と霧が同盟を結ぼうとしている話は当事者のナルト達を除けば、互いの里の上層部しか知らないことである。
つまり、カブトも知る訳がなく……
「どうしてカブ……「ナルトくん!」」
口を開いたナルトを慌ててハクが閉じさせたが、後の祭りであった。
ハクはカブトが忍識札を出した辺りから怪しいと思っていたのだが、今のでその疑心は確信に変わっていた。
どこの者かはわからないが、このカブトがただの下忍ではなく……恐らくスパイであると……
ハクがカブトを問い質すべきか考えていた時、試験会場に煙が立ち込み始める。
ボン!!
大きな煙とともに現れたのは……
「静かにしやがれ!! ド腐れ野郎どもが!!」
ずらっと並ぶ試験官達であった。
そして、その真ん中にいるのが、
「待たせたな「中忍選抜第一の試験」試験官の森乃イビキだ!」
中忍試験の開始の合図がなった……