霧隠れの黄色い閃光   作:アリスとウサギ

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霧雪舞い散る 鬼の帰郷

エンジンの付いた船に乗り、再不斬、ハク、ナルトは波の国から殆んど海路を使い水の国を目指していた。

 

水の国は深い霧に覆われた山岳部に存在し、その中でも霧隠れの里は難攻不落と呼ばれた天然の要塞の中心部に存在していた。

守るに易く、攻めるに難いという言葉をそのまま再現した里である。

だが、その要塞もいいところばかりではない。

閉鎖的、かつ排他的な水の国で産まれ育った人々は他里との交流を軽んじるばかりか、内乱も発生しやすく、外の敵からは守られていても、内側に敵だらけの状況はとても人々が安心して暮らせる環境ではなかった……

少なくとも、つい最近までは……

 

数日の船旅をしていたナルト達はついに目的の水の国、霧隠れの里に到着した。

 

「わあーー!? すげえ綺麗だってばよ!」

 

白い霧に覆われた里の景色は幻想的で、見るものの心を奪う。

花と雪が霧の中舞う景色は、もはや絵画の世界であった。

 

「……再不斬さん」

「ああ……本当に、戻ってきたんだな……オレ達は……」

 

懐かしくも変わらない景色に涙ぐむハクと少なからず感動している再不斬。

 

「?? どうしたんだってばよ?」

「ええ、ごめんなさいナルトくん、少し感動してしまって……」

「……オレとハクは最後にこの景色を見て、この国を去ったんだ。もう一度戻ってくるとは言ったが、本当にまた来られるとはな……」

「……そっか……」

 

ハクだけでなく、再不斬までもが感動しているのを見て、二人にしかわからない何かがあるのだと悟り、ナルトはしばらく口を閉じるのであった。

 

 

船場に着くと、再不斬達が来ることがわかっていたのか、見覚えのある刀を背負った暗部の面をした少年が既に三人を待っていた。

 

「お、お帰りなさい水の国へ。再不斬さん。そして、よ、ようこそ水の国へ、ナルトさんに……ハクさん?」

「はい、僕がハクです」

 

ハクは波の国での闘い以降、再不斬にこれからは面をつけるなと言われ、ここ数年、仲間の前以外では晒してこなかった素顔を見せていた。

初めて見た人がわからないのも、無理はないだろう。

 

「長十郎か……バレバレなんだから、お前もその面取れ!」

「はい! 取ります」

 

再不斬の言葉に従いすぐに面をとり、ナルトとハクより1、2才年上だろうと思われる水色髪で短髪に眼鏡をかけた少年が素顔を見せた。

自分より年下のナルトやハクにも丁寧な言葉で話し、年齢のわりにオドオドした自信のない少年である長十郎は、再不斬にびくびくしながらも、自分の任務を果たそうとする。

 

「では、こちらへ。ここからは僕が水影様のところまでご案内します」

「別に、てめえに案内されなくても水影室ならわかるぞ?」

「は、はい! ですが、水影様から仰せつかっていますので……」

「まあいい……なら行くぞ! ハク、ナルト覚悟はいいな! 水影は水の国最強を名乗る忍だ! 一応気合いを入れておけ!」

 

それに、ハクとナルトが頷きで返す。

 

「はい! 再不斬さん!」

「へ〜! 水の国最強か! 火影のじいちゃんと、どっちが強いんだろう?」

 

一同はそのまま五代目水影のところまで直接足を運ぶことになった。

水の国は一番年上の長老と水の国最強の忍の二人のツートップで成り立っており、水影は間違いなく、この国の頂点に立つ者のことである。

本来なら緊張するものだが、わりと余裕な表情で向かう再不斬達であった。

 

霧隠れの中でも一際大きな屋敷にたどり着く。

水影邸である。

長十郎はコンコンとドアを二回ノックして、相手がいることを確めてから、再不斬達を部屋に通した。

 

室内には綺麗な女性、五代目水影・照美メイと暗部の付き人が一人いるだけで、他の者達は再不斬達と長十郎だけであった。

 

「お帰りなさい再不斬にハク。随分、長い家出でしたね?」

 

綺麗な澄んだ声音。

そんな水影に、再不斬は試すような口調で話す。

 

「ふん、付き人一人だけで出迎えるとは随分と余裕なんだな? このオレ様がまたクーデターを起こすとは考えなかったのか?」

「その必要はないでしょう? あなたは無駄な事はしません。もし、私の命を狙うつもりなら、今回の帰還命令も無視すればよかっただけの事ですし……それにあなたが私に勝てると思いますか? 再不斬?」

 

その瞬間、ピリッとした空気が室内を充満する。

ナルトやハクはもちろん、あの再不斬でさえ、その殺気だけで負けを認めてしまうほどに……

 

(こ、これが水影!? やっぱりただの姉ちゃんじゃねーってばよ!)

 

「メイ、参った降参だ!」

「よろしい! では本題に入りますね。まずは約束通り、再不斬とハクの今までの罪は現時点を持って白紙にします。額あてを渡してあげて頂戴」

「わかりました。水影様」

 

新品の額あてが再不斬とハクに渡され、傷が入り、ボロボロの額あては回収される。

……額あて

それはナルトも欲しかったもので……

 

「いいな〜、いいな〜、ハクに再不斬だけ!

オレも額あて欲しいってばよ!」

 

駄々をこね始めるナルトに水影が話しかける。

 

「ナルトくん? でしたよね?」

「おう! オレってば、うずまきナルト! いずれ歴代火影を超える忍だ!」

「それは頼もしい限りです。キミにも額あてをあげるのは構いません」

「ええ! くれるのか!?」

「ええ、ですがその前に、私もキミに聞いておかなければいけない事があるんです」

「なんだってばよ?」

「キミは人柱力という言葉に聞き覚えがありますか?」

「じん……なんだって??」

 

全く聞き覚えのない言葉に首を傾げるナルト。

 

「今から私が話すことはもしかしたら、きみに不快な思いをさせるかも知れませんが、とても大事な話なので、長くなるでしょうが聞いて下さいね」

「わ、わかったてばよ!」

 

世界には九体の尾獣と呼ばれる人智を超えたチャクラを有する存在があり、尾の数が多い順に強いと言われている。

故にナルトに封印されている九尾は最強と名高い。

だが、その尾獣達は制御するのが殆んど不可能であり、それでも膨大な力故に捨てることもできない。

そんな力を有する尾獣を封印するための人柱を文字通りに人柱力と呼ぶ。

人柱力は里の最終兵器と呼ばれ、戦争時には最悪、暴走のリスクを背負ってでも使われる。

そして、過去に何度も尾獣達は破壊と絶望を撒き散らす道具として扱われて来たことから、人柱力は里によっては存在そのものが憎しみの対象となるのだ。

 

「……これがキミの背負っている運命です。ナルトくん」

「な、な、なんだってばよ!! 人柱力とか、そんなの大人の勝手な都合じゃねーか!!」

「そうですね……耳の痛い話です」

「じゃあ、じゃあ、アンタらもオレを兵器として扱うつもりか?」

「いいえ、私が水影である以上、水の国ではそんな事はさせません。ついこの間までこの国はずっと内乱続きでした……その時にあなたと同じ人柱力だった四代目水影様も拉致されたりと大変だったのです。水の国はこれからは他国が攻めてこない限りは平和な国にしていくつもりです」

 

水影の丁寧対応に、ますます混乱するナルト。

 

「じゃあ……どうしてこんな話をオレにしたんだってばよ?」

「それは、私がキミをそう扱っていなくても木の葉……いえ、他の里にとっては人柱力とは先ほども話したように切り札と呼ぶべきものです。キミが水の国、霧隠れの忍になるのなら、これからキミ自身が木の葉の忍ではなく、霧隠れの忍であることを少しずつでも各国に知らしめる必要があるのです。そうした土台を作らなければ、いずれ木の葉はキミの奪還に動いてくるでしょうからね」

「なるほ……ど? つまり、どういうことだ???」

「えーと、霧の忍になるなら苦労しますけど、頑張れますか? という質問です」

「なるほど! それならそうと言ってくれよ! オレってば、とうちゃんを超える忍になるためにはどんなことでもやる覚悟だってーの!」

 

最後の方はかなり簡潔になったが、ナルトの応えを聞いた水影。

 

「では、ナルトくん。キミを正式に霧隠れへと向かい入れます。この額あてをすれば、もう後戻りはできません。木の葉に帰るならこれが最後ですよ?」

「まっすぐ、自分の言葉は曲げねェ! それがオレの忍道だ!」

 

力強く言い返すナルト。

 

(この子、素直で真っ直ぐな目をしている。ふふふ、長十郎以来の逸材かもね)

 

「では、この額あてを……ようこそ水の国、霧隠れの里へ。キミは今日から忍者です!」

「うはははは〜、ありがとうだってばよ! 水影の姉ちゃん!」

 

念願の額あてを手に入れ、忍者、忍者とおおはしゃぎするナルトをみんなは優しく見ていた。

だが、まだ本題が残っていたので、水影は両手をパンっ!と叩き、話の続きを始める。

 

「これより、霧隠れのルーキー第一班の人員を言い渡します。隊長 桃地再不斬 班員 うずまきナルト、ハク、長十郎! 以下四名明日から任務開始してもらうから、そのつもりでね♪」

「はあ!?」

「よっしゃああ!!」

「はい?」

「やっぱりこうなりましたか……」

 

いきなりの班結成に再不斬とハクは驚く。

ナルトは喜びっぱなしで、長十郎は予め聞かされていたため驚かなかったが。

突然の宣言に、再不斬が水影に詰め寄る。

 

「待て! メイ! そんな話聞いてねえぞ!」

「あら? 暗部にも伝えたはずですよ? 退屈はするかも知れないけど、汚れ仕事ではないと。それに内乱続きだったので、ナルトくんやハクはもちろん、長十郎も下忍のままですし、いいではありませんか? それにあなたにとっても悪くない提案でしょう?」

「いや、まあ、そうかも知れねえが……オレが教師役かよ……自分でも想像できねえぞ……というか、長十郎! やっぱりお前まだ下忍だったのか?」

「騙すような形になって、す、すみません。もしかしたら、これから班を組むことになるかも知れないから、一度会っておけと水影様がおっしゃって……」

 

おどおど説明する長十郎とこれからの展開に、頭を抱える再不斬。

そこにナルトが、

 

「確かに再不斬は先生って感じはしないってばよ!」

「ナルト! てめぇが一番はしゃいでるくせして何言いやがる!」

 

続けてハクが、

 

「ふふふ、僕もこれから再不斬さんのこと先生ってお呼びした方がいいでしょうか?」

「ハク、お前までノリノリで……今まで通りでいい」

 

さらに長十郎が、

 

「えーと、僕は再不斬さんのこと、再不斬先生って呼ばせてもらいますね……」

「長十郎…………」

 

ますます頭を抱える再不斬。

鬼人と呼ばれた男がここまで悩まされる事はそうそうないだろう。

だが、水影は更なる追い討ちをかける。

 

「さらに、第一班には後々、極秘でSランク任務を言い渡します!」

「「「「はあ!?」」」」

 

Sランク任務。

それは上忍クラスの忍ですら命の危険を晒すことになるレベルで、最高クラスの重要任務にのみつけられるランクである。

 

「私の話を取り敢えず最後まで聞いて下さいね。任務の内容は2ヶ月後に行われる、木の葉の中忍選抜試験に参加して、ナルトくんのことを各国隠れ里に知れ渡らせることです」

「待て!? メイ! いくら何でも抜け忍のナルトを木の葉に連れていくのは鴨が葱しょって歩くもんだぞ!」

「いいえ、ナルトくんは抜け忍ではありませんよ?」

「そ、そうか……アカデミー落ちてたな……昨日まで一般人だったのにカカシ達と殺り合ってたのか……だが、九尾を取り戻そうと木の葉の上層部も躍起になるぞ! いくら霧の額あてをしていても、少々の屁理屈ぐらいどうとでもしてくるに決まってるじゃねーか!」

「いいえ、再不斬。それも限りなくゼロに近いです」

「なんだと!? なぜメイにそんな事が断言できる!」

「木の葉は今、砂や音の里と裏でかなり揉めています。もし、ここで霧の、うちの忍に手を出せば……」

「……なるほど……そりゃあ、ナルトに手は出せねーな……相変わらず悪知恵の働くことだ……」

 

木の葉とて九尾は当然取り戻したい。

だが、今ナルトに手を出せば、当然霧隠れを敵に回すことになる。

いくら五大国最強の木の葉でも3つもの里を同時に敵に回せば、完全に壊滅する可能性すらある。

そこで、中忍試験にナルトを出し、堂々と木の葉のど真ん中で、ナルトが霧の忍であることを公然の事実とする。

もちろん木の葉の全員がそれで納得するなどということはないが、理不尽なことでも慣れてしまえば、人は大抵受け入れてしまうものである。

おまけに、木の葉だけではなく中忍試験にスパイとして潜り込んできた他の里にも、ナルト=霧とアピールできるチャンスでもあった。

 

「なあなあ、ハク、再不斬と水影の姉ちゃんは何話してるんだ?」

「そうですね……わかり易く言えば、ナルトくんが中忍試験で目立てば目立つほど、木の葉に対しても後腐れなく、ナルトくんを霧の忍として、認めてもらえるようになるということです」

「なるほど〜」

 

ハクは内心、わかってないだろうな……と、その返事を聞いて思ったが、同時にナルトなら、やることはやってくれるとも信じていた。

 

「そういう訳です。皆さん、長旅で疲れたでしょう。今日はゆっくり休むといいですよ」

 

水影のその言葉を最後に今日は御開きとなったのであった……

 

 

 


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