Fate/Apocrypha 英雄王と鈴の花   作:戒 昇

4 / 8
少し遅れましたが、4話です。

5話は明日か明後日辺りに投稿する予定です。

それでは、どうぞ!


第四話 黒のサーヴァント

 時は同じ頃、ミレニア城塞内

 

 召喚された五騎のサーヴァント達は静かに佇んでいて、それを五人のマスターが見ていた時だった。その中の一人…ピンク色の長髪が特徴の少年が声を発した。

 

「妙なルールの聖杯戦争に呼ばれたもんだな~ ま、みんな強そうだからいいけどねッ!」

 

 クルリとマントを翻し、軽快なステップを踏みながら言葉を続ける。

 

「あ! 自己紹介とかやっておいた方がいいよね? じゃやるよ~」

 

 頬を右手の人差し指で指しながら、少年は自らの本当の名を告げる。

 

「『サーヴァント・ライダー』、真名は『アストルフォ』だよ!」

 

 「アストルフォ」と名乗ったサーヴァントは近くにいた青年を指差した。

 

「じゃ、君は?」

 

 青年は己のマスターである「フィオレ」に言葉ではなく、視線で真名を開示することへの同意を求めた。彼女は無言で頷いた。

 

「我がクラスは『アーチャー』、真名は『ケイローン』です」

 

「『ケイローン』…?」

 

 真名を聞き、彼は少しばかり不思議そうな顔をした。どうやら伝説で聞き及んだものと違うのでそうなったのであろうが、すぐさま笑顔に戻った。

 

 「ま、いっか! しばらくの間宜しくね!」

 

 そう言うと「アーチャー」は穏やかな表情で頷く。それを見届けて次の人物に声をかける。

 

「じゃあ次! 寒そうな服を着ている君は?」

 

 銀色の短髪と露出が多い服を着た女性サーヴァントは目を細めて睨むが、笑みを崩さない「ライダー」に無駄だと判断し、ため息をつき問いに答える。

 

「…クラスは『バーサーカー』、真の名は『ペンテシレイア』」

 

「『バーサーカー』? でも喋れているよね?」

 

「我が狂気は些か特別でな、常に狂っているわけではない」

 

 通常では各クラスに沿った伝承などに合わせて英霊を当て嵌められる、無論「バーサーカー」のクラスもそうであるが、唯一の例外もあるのだ。

 それが「理性を失わせて、ステータスを強化する」ことだ、このクラスは「狂」を付加させるだけで、「正気を失い狂った」伝承を持たずとも該当となり本来は弱い英霊などを強化させて他のクラスと渡り合えるようにしたものだった。

 しかし、あまりにも狂化が強すぎると意思疎通ができなくなり、「令呪」の効果も薄くなって複数画も使用せざる得なくなる。されに膨大な魔力量が必要となってしまうので通常の聖杯戦争では魔力切れを起こして自滅するのが普通であった。

 

 だが、今回の聖杯大戦で黒の陣営に呼ばれた「バーサーカー」ことトロイア戦争にて活躍した戦闘部族「アマゾネス」の女王「ペンテシレイア」はそれらとは一線を画していた。彼女はキチンと会話ができ、意思の疎通も全く問題なく通常のサーヴァントと何ら変わりないのだ。

 これには当初は期待を寄せていなかった「ダーニック」も驚かせ、また召喚した本人である「カウレス」も同様だった。

 

「そうなんだ~ ま、これから宜しくね~」

 

「フン…馴れ合いはするつもりはないぞ」

 

 苦笑いを浮かべる「ライダー」に「バーサーカー」はそっぽを向いてしまう。

 

 次に口を開いたのは一番後ろに控えていた者だった。

 

 「『キャスター』…『アヴィケブロン』」

 

 静かに発せられた声はどこか弱く、男性特有の低い音程が特徴的だった。そんな「キャスター」はマスターである「ロシェ」に向かう。

 

 「マスター、僕は魔術を行使する者ではない…だが代わりに作業をする為の『工房』を用意してほしい」

 

 「分かっています」

 

 「ロシェ」は頭を下げ、「キャスター」の真意を汲んで言葉を発する。

 

 「『ゴーレム』を製造するのでしょう?」

 

 それに「キャスター」は反応を示さなかったが、構わず言葉を続ける。

 

 「及ばずながら、僕もゴーレム製造を専門とする魔術師です」

 

 「…ほぅ」

 

 これまでとは違い、関心を示すような声をあげる。「ロシェ」は嬉しそうに笑みを浮かべているが、対象に「キャスター」は顔をマスクで覆っているからか表情は分からなかった。

 

 「ライダー」は最後となるサーヴァントに目をやる。その人物はただ立っているだけで、他のサーヴァントとはまるで違う威圧を放っていて、それは能天気な性格の彼でもわかる程だった。

 

 「えっと…君はどう見ても『セイバー』だよね? 真名は?」

 

 質問をした「ライダー」を一瞥するとゆっくりと口を開き、答えようとした…が、そこに横槍を入れる人物がいた。

 

 「待て」

 

 「セイバー」を召喚した「ゴルド」であった。彼は右手で発言を制止すると前へと出た。

 

 「私はこの『セイバー』の真名をダーニック以外の人物に開示するつもりは毛頭ない」

 

 この宣言はそれまで穏やかだった空気に罅が入るもので、「ダーニック」を含めたマスター達は怪訝な表情をし、その中の一人…「ライダー」のマスターである「セレニケ」は不快感を露にした。

 

 「真名の開示は召喚前に約束をしていたはず、それを今さら反故にするなんて…不信感が現れるだけよ」

 

 彼女の言っていることは最もであり、通常のバトルロワイアル式ではなくチーム戦である今回の聖杯戦争は、マスターやサーヴァント同士の連携は必要であるがため、「ダーニック」は召喚前に互いの真名を明かす取り決めをしていたのだ。「ゴルド」の発言はそれを真っ向から無視するものであり、実際に疑心の目で見る者もいる。

 

 「その時は召喚の為の触媒が手に入ってなく、真名など分からない状態だから仕方がないだろう」

 

 実際の所、これは真実であり触媒である「黒ずんだ菩提樹の葉」は取り決めから翌日に入手したのだ。しかし、ここで「アーチャー」のマスターである「フィオレ」が口を開く。

 

 「ゴルドおじ様、そうまでして秘匿するのが大事なのですか?」

 

 「…『セイバー』にとって真名の露見は致命的であり、なるべく漏れる口を少なくしたい」

 

 「ゴルド」が言い終わった所で、「ダーニック」は自らのサーヴァントであり、「公王」と呼ぶ人物に処遇を尋ねる。

 

 「よかろう、特例として許す」

 

 「はっ…それでは失礼する。来い、『セイバー』」

 

 最優と謳われる「セイバー」というクラスとマスターの発言を鑑みて特例として処置し許した。そのまま彼らはこの場を後にした。

 後に残された者達は煮え切らない思いを持つ者や露骨に不満を言う者と各自それぞれだった。

 

 

 

 「セイバー」を連れ自室まで戻ってきた「ゴルド」は改めて自分が召喚したサーヴァントの名を聞いた。

 

 「お前の真名は『ジークフリート』で間違っていないな?」

 

 それに言葉ではなく、頷きで返答する「セイバー」こと「英霊ジークフリート」である。

 

 「ニーベルンゲンの歌」と呼ばれる英雄叙情詩の主人公であり、邪竜ファフニールを退治しその血を浴びて不死性を手にした…しかし、偶然にも背中に貼りついた菩提樹の葉のせいで、その部分が不死にはならず、彼の最期はそこを矢で射られたものであった。

 

 「ゴルド」は考える…「セイバー」は誰もが知る破格の英雄である。つまり彼の弱点も当然ながら知れ渡っているに違いない。

 

 (せめて敵のアサシンを討つまでは、隠し通さなければならない…!)

 

 今回の聖杯戦争にて彼は己の有用性を示さなければならない…それが、没落した我が一族の為に…例え味方から不信感を買われてでも果たさなければいけない、それがかつての栄光を取り戻す手段なのだから。

 

 思考に耽っていた所に自室の扉がノックされる音がした。その音に心底驚きながらも、入室を許可した。

 入ってきたのは城塞内に溢れんばかりいて、且つ自らが製造の指揮をとり造り上げた「ホムンクルス」の男性であった。彼らは警備だけではなくトゥリファスなどに放っている監視用の使い魔からの報告を行っている。

 部屋を訪ねたのはそれが理由であり、その報告を聞いた「ゴルド」は急ぎ車の用意をさせた。

 

 向かうのはトゥリファスの郊外、近接する街に繋がる一本の道路であった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 ルーマニアの地にて行われようとする最大規模の聖杯戦争…「聖杯大戦」、通常の倍のサーヴァントを呼び出すこの戦いに呼び出されないサーヴァントが参戦することになった。それこそ「裁定者」こと「サーヴァント・ルーラー」である。

 

 このクラスは普通の聖杯戦争では呼び出されることはない、しかし二つある条件の内どちらかを満たされば聖杯から直接呼ばれることがある。

 一つにその聖杯戦争が極めて特殊な形式で行われ、結果が未知数な為に召喚され、聖杯そのものが人の手に及ばないと判断される場合。

 もう一つは戦争の影響によって世界に何らかの歪みが発生する時、神秘の秘匿を絶体とする魔術師達が集う聖杯戦争においては、稀なケースであるがもし、参加者の中に世界を滅ぼすことを目的する者が現れるならば、聖杯戦争の枠組みを守護する者として召喚される場合がある。

 

 それほどの特殊なクラス「ルーラー」が今回の聖杯大戦に召喚された。だが、それはいかなる意味を以て召喚されたのかは、まだ知る由もなかった。

 

 

 ルーマニアはブカレスト国際空港に降り立つ一人の女性。金色の長髪にノースリーブのシャツ、紫色のネクタイそしてショートパンツ、ハイソックスを履いており、手には大きな旅行用のカバンを持っていた。見た感じではただの旅行客にしか思えないが、彼女こそ人知を越えた存在であるサーヴァントの「ルーラー」、真名はフランスの聖女「ジャンヌダルク」である。

 

 (…いくつかの視線を感じますね、『黒』の陣営かもしくは『赤』…)

 

 何処かは分からないが先程から視線を浴びる感覚が彼女にはあった。だがいくら考えた所でも「ルーラー」を監視することはなんら違反ではない為、気にすることもなくトゥリファスに向かう手段を模索し始めた。

 

 

 

 「ルーラー」到着から約一時間が経った空港内に二人の人影が現れる。びっしりと決めた上下が深紺色のスーツに茶色のネクタイを締めた男性に、ワインレッドの長袖シャツに灰色のスカート、素足は寒いからと黒のタイツを履いた女性だった。

 正体は日本から遥々16時間もかけてやってきた「黒のアサシン」とそのマスターである「花園花鈴」である。

 

 「はぁ~疲れた、まさかこんなに時間がかかるなんて思わなかったよ」

 

 「確かに、私も肩が凝ってしまったよ」

 

 「あなたは霊体化してたでしょ、肩が凝るとかあるの?」

 

 「そうだった…つい、生前の口癖でね」

 

 「ふーん」

 

 興味がないのか適当に返事を返す花鈴だったが、それを口にした「アサシン」の表情が一瞬曇ったことに気付くことはなく、空港の出口に向かって行った。

 

 外へ出て一番に思うことは、トゥリファスまでどんな手段で行くかであった。日本のように電車があるハズもなく、仮にあったとしても現在の時刻は深夜の1時をまわっているため動いてはいないだろう。

 となれば、残っているのは車か徒歩、もしくは手元にはないが自転車になる。

 

 「車は…レンタルしている場所は時間も時間だし開いていないだろうな…」

 

 「ならば、徒歩か?」

 

 「冗談言わないでよ、場所はかなり離れているのよ? 無理に決まっているわ」

 

 「ならば…」とアサシンは空港近くの道路に止まっている車に近寄り、運転手に話しかけた。あまりにも突発的なことだったので、置いていかれた花鈴は慌てて念話で呼ぶ。

 

 “ちょ、ちょっと! 何するつもりなの?!”

 

 “まぁ見ていてくれ、すぐに終わるから”

 

 念話を切ると「アサシン」は車の窓ガラスを数回叩く、すると窓が開いて顔を覗かせたのは若い白人男性であった。

 

 「こんな夜中に失礼、ちょっといいかな?」

 

 「…何? ヒッチハイクなら他をあたりなよ」

 

 明らかに男性は警戒しており、取りつくことでさえ困難な気がした。しかし「アサシン」は構わずに続ける。

 

 「そうしたいのですが、幾分時間が余り残っていないのですよ…」

 

 ここまで言うと、言葉を詰まらせ目尻には涙が貯まって今にも泣きそうな表情を浮かべる。男性は突然のことで茫然となってしまう。

 

 「…実はトゥリファスに住む父が急病で倒れたと連絡を受けて…日本から戻ってきた所、なのです」

 

 「え…」

 

 「大好きな父の死に目に会えないのは辛いのです、だから私達には時間がありません。お願いです、トゥリファスまで乗せてください!」

 

 勢いそのままに頭を下げて懇願する、さすがの男性も驚き言葉が出てこなかった。

 無論のことだが、「アサシン」の言っているのは全て虚言であり、即興で考えたで、家族の元に帰る息子とその連れ添いという設定である。

 

 「わ、分かった。それなら早く乗りな!」

 

 男性からの承諾が得られ、「アサシン」は得意気な顔を花鈴に向けていた。そんな彼の姿を見てため息をつきながらも、車に乗り込むべく歩を進めた。

 

 

 

 

 トゥリファスまで繋がる一本道に佇む二つの人影、一人は「ルーラー」であり、彼女を見下ろす細身の男性…否、「『赤』のサーヴァント・ランサー」である。

 

 「『サーヴァント・ルーラー』とお見受けする」

 

 「あなたは…『赤』のランサーですね」

 

 道路にかかる鉄製の標識に立ち、背後には満月の輝きで照らされる姿は神々しく、美しさも感じられる。だが放たれるのは冷徹な殺意のみであった。

 

 「何故、あなたが此処へ?」

 

 「既に理解していることを問うのは、愚問と言えるな」

 

 すると、右手に黄金の柄を持つ一本の「槍」を出現させた。

 

 「俺が此処にいることこそ、明確な宣戦布告と思うがいい」

 

 「ジャンヌ」は自身が想定していた以上に動きが早いことに僅かながら焦りを感じつつ、最大の疑問を「ランサー」にぶつける。

 

 「この場で私を害することに、意味があるのですか?」

 

 「知らぬよ、我がマスターの命で始末しろと言われただけだ。俺が動くのには充分なことよ」

 

 手にもつ「槍」に魔力が集束しているのが分かる。それは止まることをしらず、やがて太陽にも似た眩いばかりの光を放った。

 

 「悪いが、お前の特権を考慮するに手加減は無用…ならば、この一撃にオレの全身全霊を込めよう」

 

 

 

 この時、「赤のランサー」も「ジャンヌ」もまだ気付いていなかった。正史とはかけ離れたことにより、今まさに新たな運命は追いついた。




次回、初戦開始―

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。