SCHOOL IDOL IS DEAD 作:joyful42
実際素晴らしい曲だし、その結果自体にはまったく異論は無いんですけど、スノハレに関してはたまに疑問に思う事が無い事もないんですよ。
元々人気があった曲で、ライブではUOの演出も含めてとても盛り上がるし、アニメでも非常に扱いが良かった。
だから人気が出るのは当然だと思うんですけど、これだけ人気になると、こういう人達が出て来るんですよ。
「みんながスノハレ好きって言ってるから、自分もスノハレが好き!」っていう。
勿論本人はそう思ってないんですけど、周りが好きって言ってるから何も考えずに自分も好き!って言っちゃうんですよね。
こういう周りの意見に流されて、自分の考えを持たない人の考え方の事を、私は「スノハレ理論」と名付けました。
意外と汎用性高いので、いろんなところでスノハレ理論っていう言葉を使ってたんですけど、心理学を学んでいる人によると、心理学上では「認知負荷理論」っていう正式名称があるみたいです。
ちなみに僕は、一番好きな曲はスノウハレーションで、一番好きなカップリングはにこまきです。μ'sic forever.
海沿いの小高い丘の上に建つ浦の星女学院高校は、主に地元の子供達が通う、私立の女子高だった。白を基調とした校舎は三階建てでそれなりの広さであったが、今は各学年一クラスしかない為、多くの教室が使われる事なく、空き教室となっている。
校舎の二階にあったのは二年生の教室。一般的な広さの教室だったが、並んでいる机の数は二十台程で、後方には広々としたスペースが出来てしまっている。
教室内が始業前の騒がしさに包まる中、千歌と曜は、同じクラスの女の子から、こんな話を聞いた。
「ねえ知ってる?私たちのクラスに転校生が来るって。」
「転校生!?」
この街に引っ越してくる人などほとんどいない。特に高校二年生で突然転校してくるなんて、前代未聞の話だった。
「親の仕事の都合とかかな?」
曜がそう尋ねる。
「わからないけど、前は東京に住んでたんだって。春休みに三年生の先輩が会って話したって言ってた。」
「東京かあ……」
内浦と東京は、距離で言えばそこまで離れておらず、電車やバスを乗り継いでも三時間もあれば行けてしまう。しかしここに通う少女達にとって、東京は遠い街であり、また憧れの街でもあった。
やがて、始業のチャイムが鳴り、ほぼ同時に担任の教師が教室へと入って来た。三十代くらいの女の教師は柔らかい笑みを頬に浮かべたまま、さあ席に着きなさいと目で生徒たちに合図する。教室やベランダに散らばっていた生徒たちは、慌てて自分の席へと戻っていった。
「皆さん、進級お進級おめでとうございます。今日からは二年生として、新しい生活が始まります。」
生徒一人一人に視線を合わせながら、教師が新年度の挨拶を始める。
「と、言っても、クラス替えも無いし、担任も引き続き私だから、今までとほとんど変わりは無いんだけど。」
自虐的にそう言うと、教室はあははと控えめの笑いに包まれた。
「でも、一つだけ、皆さんにお知らせがあります。」
生徒達がなんだなんだと教師を見た。そんな中、何人かだけは顔を見合わせ、来たな、と頷く。千歌と曜も当然、その中の一人だった。教師はまたにっこりと笑い、教室の入り口の方に手を向けて、合図をした。
「どうぞ。」
教室中の生徒の視線が、入り口の扉へと集まった。やがて扉が、控えめにゆっくりと開いて行く。入って来たのは、照れて俯き加減でいる少女。生徒達から、わっと歓声に近い声が上がった。
少女は教壇の上に上がると、教師の横にちょこんと立った。やがて黒板に、教師の手によって「桜内梨子」と名前が書かれて行く。
「それでは桜内さん、自己紹介を。」
教師の呼びかけで、梨子が話し始める。緊張しているのか、小さな声で、言葉を選ぶようにゆっくりとした話し方だった。
「今日から浦の星女学院に転校してきました。桜内梨子です。よろしくお願いいたします。」
お辞儀をすると、教室が拍手に包まれた。
「桜内さんは東京から引っ越してきて、こういう田舎での生活にも慣れてないでしょうから、皆さんサポートしてあげてくださいね。」
東京、という単語にざわつく教室。だがそんな喧騒も、転校生がやってきたという驚きの声も、千歌の耳には入ってこなかった。千歌はじっと見つめていた、梨子の制服を。明らかに自分たちの物とは違う、おそらく前の学校の物だと思われる梨子が身に付けた制服に、千歌は確実に見覚えがあった。
「まだ桜内さんの浦女の制服が出来上がってないので、しばらくはこの制服で通っていただくようになります。浦女の制服に混じってると……まあ目立つけど、皆さんはあまり気にしないように。」
教師がそう注意を述べるか述べないかのうちに、千歌が勢いよく立ち上がった。机と椅子が激しい音を立てる。
「梨子ちゃん!その制服って!」
驚く梨子、座りなさいと言わんばかりの目で千歌を見る教師。その背後で、曜が一人、頭を抱えていた。
放課後の教室、千歌と曜だけが残って話をしていた。
「だから、あれ絶対音ノ木坂の制服だよ!私何回も見た事あるもん!」
「だからって、あんないきなり詰め寄られたら梨子ちゃんだって困惑するでしょ。」
「だって、音ノ木坂だよ?スクールアイドルの名門だよ?メンバーに勧誘しなきゃ!」
「やっぱりそれか……」
曜が呆れたように呟いた。
「とにかく、梨子ちゃんが戻って来たら一緒にスルールアイドルやろうって頼むんだからね!」
今日は始業式の為、午前中のみで生徒は下校。既に校内には部活のある生徒くらいしか残って居なかったが、梨子は説明があるとかで教師に連れられて職員室に行っており、その帰りを千歌は待っていたのだった。
「まだ早いよ。」
そんな千歌を優しく諭す曜。
「梨子ちゃんだって、まだ転校してきたばっかりでこの学校にぜんぜん慣れてないし、恐らく千歌の名前だってまだ知らない。そんな状態でいきなりスクールアイドルに勧誘されても戸惑うだけでしょ?」
「そうかなあ……」
「それに私だって部活があるし、お弁当食べたらすぐに練習行くからね。」
「わかったよ……」
まだ納得はしていないようだったが、渋々千歌は帰り支度を始めた。教室内の時計の針は十三時を指し、校庭からはランニングを始めた運動部員の掛け声が聞こえ始めていた。