SCHOOL IDOL IS DEAD   作:joyful42

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前回会話の中で登場した2組のスクールアイドル、peace!とグリーンアップルですが、今後登場する予定は特にありません。なのでグループ名はだいぶ適当に付けました。
グリーンアップルは東北のグループなのですが、青森→りんご→アップルっていう安直な名前にするのは嫌だったので、わざと宮城のグループにしました。
スクールアイドルはご当地アイドルではないので、当地の特産品や名物をグループ名に入れるのは何か違うなーと感じています。
※とはいっても公式で出てくるモブグループは大体そういうネーミングなんですけどね。








第3話 戦いのあと

 終演後のコンコースは退場する観客達で溢れかえっていた。プレスエリアは一般エリアから隔離されている為、ごった返す人の波に巻き込まれる事は無かったが、構造上プレスエリアから出るにはコンコースを通らなければならず、人の波が引くまで我々はここに閉じ込められているも同然だった。とは言ってももう慣れた事ではあるので、もう一度席に腰を降ろし、ノートPCを開いて仕事をして待つことにした。

 

「よう、神原!」

 

 声をかけて来たのは同じ出版社で同期の大西だった。大西は瀧田佑二郎という若手アイドルライターを担当しており、今日も決勝大会を瀧田と共に見に来ているという話は聞いていた。

 

「しかし参ったねぇ、この建物の構造は。もし自分が常日頃ここに入り浸らなきゃならないスポーツ記者だったらと思うとゾッとするよ。」

 

「もう慣れろよ、こんな特等席に見せてもらえる代償とでも思えばいい。」

 

「お役所仕事ってのはダメだね。一体どこのどいつがこんな設計でOKを出したんだ。」

 

「事情が事情で建設を急いでいたっていうのはあるだろ。まあ、いい仕事とは言えないな。」

 

「野球場史上空前の建設費を注ぎ込んで出来上がったのがこれだ。おまけに野球ファンからははなぜ屋外球場にしなかったんだっていう声が未だに上がってる。」

 

「あくまで国の施設だからな。野球の試合くらいでしか使えない屋外球場じゃ国会を通せなかったんだろ。」

 

 ふとグラウンドを見る。既にグラウンド上では機材の解体や撤収作業が始まっていた。ちょうどバックスクリーン下のフェンスが開いており、そこから機材や車両の搬出入をしている。屋根に目を移すと眩しい照明が目に痛い。鉄骨がむき出しになったドーム球場の天井はやや無骨な印象を与える。

 思えばもう何年も野球場に野球を見に来た事はない。なんとなく脳裏に、子供の事、父に連れられて球場に野球を見に行った時の光景が浮かんだ。あの頃今よりもはるかに大きく、広く見えたドーム球場。大歓声に包まれながら天を見上げると、白とも黄色とも言えない微妙な天井の色に、打ち上げられたボールの白が溶け込んでいった。あの時見えた天井はもう、存在しない。

 

「そういえば、瀧田さんは?」

 

 手持無沙汰で辺りをうろつく大西にそう尋ねた。大西は立ち止まり、待ってましたとばかりに俺との会話態勢に入る。溜まっている仕事などはないのだろうか。

 

「今は取材中だよ。人混みに巻き込まれないように表彰式が終わる前に出て行った。」

 

「若いライターはフットワークも軽くていいねえ。」

 

「お前の所の先生はどうしたんだよ、どっか取材行ってるのか?」

 

「帰ったよ。」

 

「帰った?」

 

 大西が何故だと言わんばかりに両手を上げる。

 

「俺は最近先生がわからない。あの人、スクールアイドルが好きじゃないんじゃないだろうか。」

 

「まさか、担当外から見てても、あの人の取材能力とカバーしてる範囲はかなりのもんだぜ?」

 

「それはわかってるよ。」

 

 それはわかってる。あの人は、そもそもスクールアイドルなんていう概念が登場する以前からアイドルライターを務めたきたいわばベテランだ。だからこそ、さっきの会話の主旨がわからない。先生は俺に何を伝えようとしていたのだろうか。なぜ決勝大会をまともに見ようとしなかったのだろうか。

 

「もしかしたら先生、悔しかったのかもな。」

 

「悔しかった?」

 

「まだ地区予選の段階……いや、もっと前の段階で目を付けていたグループがあったんだ。」

 

「どこのグループだ?」

 

「Saint Snow」

 

「どこだ?そこ。」

 

「北海道のグループだ。」

 

「ああ、思い出したぞ。たまに東京のライブでも上位に食い込んで来てた。」

 

 大西がメモ帳をペラペラとめくりながらそう答えた。

 

「そこだ。」

 

「でも、確かにいいグループだという評判は聞くが、決勝大会に出てくるほどのグループっていうわけじゃないだろ?」

 

「まあな。」

 

「じゃあそんなに悔しがるような事か?予選敗退なんて、あの先生もある程度予想はしてただろうに。」

 

「予選敗退……じゃないんだよ。」

 

「は、どういう事だ?今日出てなかったって事は、予選のどこかで敗退したって事だろ?」

 

 困惑する大谷を後目に、俺はノートPCでとあるファイルを開いた。それを大西に見せる。それはラブライブ!運営委員会が作成した文書。北海道予選の結果が記載されている。その下部に、問題の記述はあった。俺が指さした部分を、大西が読んでいく。

 

「Saint Snow……失格???」

 

 驚く大西。俺は更に別のネットニュースの記事を開き、それを大西に見せた。

 

「レギュレーション違反があったんだ。審査の時点で採点対象外になって、公式記録上は失格。」

 

「マジかよ……棄権とか欠場は前例もあるけど、失格とか聞いた事ないぞ。」

 

「俺も初めてだ。」

 

 ネットニュースの記事を読み込む大西。

 

「先生は不満だったんだ。あれがレギュレーション違反になるのが。」

 

「だから、悔しがってると?」

 

「わからん。ただその可能性はある。」

 

 静かなプレスエリアに大西の携帯の着信音が響いた。

 

「ああ、瀧田さんですか?……ええ……了解です。すぐに向かいます。」

 

 通話を切って、再び大西は携帯をスーツの胸ポケットにしまった。

 

「取材が終わったそうだ。合流するから俺はもう行くよ。」

 

「じゃあ俺も出るわ。もう外の人混みも引いてる頃だしな。」

 

 手早くノートPCや広げていた書類を片付ける。大西と並んで、プレスエリアの外へ出た。既にごった返していた人々はその姿を消していて、がらんとしたコンコースを二人で歩く。しばらく歩いた後、ぽつりと大西が口を開いた。

 

「でもまあ……レギュレーション違反はダメだよなあ……」

 

「うん、ルールは守らなくちゃな……」

 

 もうしばらくして、瀧田の待つ取材エリアがある地下へと向かう大西とは別れ、俺はドームを出て家へと帰って行った。

 

 

 

 

 


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