SCHOOL IDOL IS DEAD 作:joyful42
今まで、サブタイトルは章ごとに付けていましたが、今後は各話にも設定して行こうかなと思います。
単純にその方が見やすいと思ったので。ただ章のサブタイに比べてだいぶ簡単な付け方にはなるかと思います。
出てくる要素の中から一単語、とか。
既に投稿済みの分に関しても、徐々にサブタイトルを更新していくつもりです。
結構サブタイトルに力を入れたいタイプなんですよ。だからこれまでの章タイトルも結構色々考えた上で設定しているのですが、それを各話事にやっちゃうと時間かかりすぎるんですよね。
第一章の『海の見える丘』とか、何てことないサブタイに見えて、今後結構重要だったりします。
第1話 校長室
街全体が、喪に服していた。快晴が続いていた空も、この日はうってかわって厚い雲に覆われており、どんよりとした空気が辺りを包む。街行く人々も、知っている顔を見つけても笑顔で話しかけるような事はなく、小さく笑みを作って会釈をした後、話もせずに通り過ぎて言った。
浦の星女学院高校はこの日も、臨時休校を決めていた。平日の昼間であったが、校内には生徒の姿が全く見えず、校門付近に数名の報道陣が構えているのみであった。
やがて、一台の車が校門を通り、校内へ入っていった。銀色の、高級そうなセダンの後部座席には、二人の人影。そのうちの一人の姿を見て、報道陣が俄かに色めきだった。同じ会社の人間同士でアイコンタクトをし、セダンを追いかける。
セダンは校舎横の駐車場に止まった。運転席の扉が開き、男が一人出てくる。後部座席に乗る人物の専属運転手であると思われる男は、後部ドアを開いて中の人物が出てくるのを待つと、すぐに反対側へと移動し、同じようにドアを開けた。出てきた人物の一人は、黒いスーツを身に纏った、いかにも厳格そうな男だった。歳は四十代ほどであろうか、男は集まって来た報道陣を見渡し、軽く一礼をした後、校舎へと向かう。
「あ、待ってくださいよ、黒澤さん!」
慌てて報道陣が後を追った。
「今回の、女の子が崖から転落死した事件について、一言お願いします!」
黒澤と呼ばれた男は、一旦足を止め、報道陣の方に向き直った。
「とても不幸な事故だったと思います。遺族の方々のお気持ちを察すると、何と言っていいのか。地域としても、二度と同じような事故が起こらぬよう、考えていかねばなりません。」
では、と言って再び去ろうとする。
「待ってください!現場には転落防止用のフェンスが張り巡らされてたんですよね?これは本当に事故なんでしょうか?」
「勿論色んな可能性があると見て、警察は捜査しているようですが、あくまで現時点では、事故の可能性が高い、という話です。」
黒澤が校舎の中へと入っていく。横に立っていたダイヤが、報道陣に深くお辞儀をした後、自分の父親の後を追って、校舎へと入っていった。
残された報道陣が、しばらくその場に残って会話をしている。
「あれは、黒澤さんの娘かな?」
「ああ、ダイヤさんだろ。黒澤さんの長女で、この学校の生徒会長を務めているらしい。」
「じゃあ、出てくる所を待って、話でも聞くか?」
「やめとけ、同じ学校の生徒が死んでるんだ。皆それがわかってるから黒澤さんにだけ話しかけてたんだよ。」
「まあ、それもそうだな。」
報道陣がぞろぞろと、自分の持ち場へと戻っていく。
黒澤親子は、校長室へ来ていた。テーブルを挟み、対面するのは、浦の星女学院の校長。歳は五十くらいだろうか、白髪交じりの、威厳のある男である。
「学校としてどういう対応を取るか、ですな。あの辺の立ち入りを禁止する事が一番手っ取り早い方法ではあるんですが、日常的にあの道を通学路として利用している生徒も多いもので。」
「地域のパトロールを強化しようにも、この学校の通学範囲の広さと人口の少なさでは限界があります。だがこうしてマスコミにも注目されている以上、学校として何かのアクションを起こさなければ、世間の反発を買いかねません。」
「ううむ。」
校長が唸り、目の前のコーヒーカップを一口啜った。
「ところで、生徒たちの様子はどんな感じなのかな?まあ、聞かなくてもある程度は察しが付くが……」
はい、とダイヤが口を開く。
「私の周りの子達の様子しか存じ上げませんが、皆一様にショックを受けている様子でした。あの子は交友関係も広くて、三年生にも知り合いが多かったですから。同じクラスだった二年生の子達は、きっともっとショックを受けているはずですわ。」
「なるほど。これからはそういった生徒達の心のケアも、学校としてやって行かなければならない。君も同じようにショックだろうが、各先生方に、出来る範囲でいいので協力してくれないかな。」
「わかっておりますわ。今日も二年生の担任の石崎先生とお話をする為に、ここへ来たのですから。」
「そうだったね、石崎先生なら職員室に居るはずだから、もうそちらへ行って構わないよ。」
「ええ、では失礼致します。」
深くお辞儀をして、ダイヤが校長室から出て行った。しばらくの沈黙。
「しかし、このような事が起こってしまいまして、黒澤さんには大変申し訳ない事です。この選挙前の大事な時期に。」
黒澤が、ふっと笑った。
「校長や学校の責任ではありませんよ、これは不幸な事故なんです。しかもそれを未然に防ぐ為の必要十分な対策は施した上での事故だった。」
「そう……だと良いんですがねえ……」
校長が窓の外を見る。高台の上にある学校の為、遠くの海まで景色がよく見えた。離れた場所にあるもう一つの丘、その周辺に慌ただしく動き回る人影と、張り巡らされた黄色いテープが見えた。
「もう新聞なんかだと書かれていますが、事故にしては不自然な事が多くて……警察の説明も、どうも曖昧ですからなあ……」
机の上には何社分かの新聞が置いてあった。黒澤がその中から適当に一部を抜き出す。高校生の女子、崖から転落死。という見出しの記事を開くと、事の顛末の詳細に書かれている。その中の"死因は転落時の衝撃による頭部の損傷"という文字を、黒澤は何度も読み返した。
「この学校も、あと数年で無くなります。それまで校長として静かに職務を全うしようと思ってたのですが、人生そう上手くも行かんようです。」
そう言って自嘲気味に笑った校長は、またコーヒーを一口啜った。
「それで、事件現場で不審者が目撃されていたっていうのは?」
「ああ、あの浜を水泳部がたまに練習で使っていたようなんですがね、その時に、おかしな男を見たようでして。」
「おかしな男?」
「ずっと砂浜をスコップで掘っていたらしいんですよ、それもボロボロの汚い服を着て。」
「穴……ですか……」
黒澤の表情が曇る。
「それで、その男の身柄は特定できているんですか?」
「それが全然。水泳部に付き添っていた顧問も、見た事のない顔だと言ってましたし、怪しいには怪しいんですが、特に何かをしているわけでも無かったものですからな。」
「歳はいくつくらい?」
「二十代くらいだと、その先生は言ってましたが。」
「丁度くらいだな……」
「え?今何かおっしゃいましたか?」
「いえ、とにかく今は、警察の捜査が終わるのを待つしか方法は無いですね。この後、警察の方とも会う予定がありますので、その時にでも進捗を聞いておきましょう。」
では、と言って黒澤が立ち上がる。それを見て校長も立ち上がった。
「黒澤さん、期待しております。この街を、もう一度活気付かせる為の政策を。」
「ええ、その為に、まずは選挙で頑張りますので。ご声援頂けたら幸いです。」
校長に一礼をし、黒澤は校長室を後にした。