SCHOOL IDOL IS DEAD   作:joyful42

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これで第1章も最終回です。
この回まで読めば、大方この作品の方向性みたいなのがわかると思うので、最後まで宜しくお願い致します。

現時点でのストックが第1章までで、第2章は執筆中ですので、投稿までにやや時間がかかりそうですが、なるべく早く投稿できればと思います。
この前書きの下らない文章にも、ここまでお付き合い頂き、有難う御座いました。
そうです。ネタが無いからこんな事書いてるんです。







第11話 ラストコンタクト

 鞄に入れている携帯電話から、メールの受信を告げる音が聞こえた。開いてみると、それは家にいる母からのメッセージであった。まだ帰らないの?という簡単な文章に、無駄に絵文字が散りばめられていた。

 

「ヤバ、はやく帰らなきゃ。」

 

 千歌はすぐに電話帳のページを開き、母の携帯番号をタップする。数回の呼び出し音の後、電話の向こうから母の声が聞こえた。

 

「ごめん、今から帰る。あと20分もあれば着くから!」

 

 

 

 電話を切った後、携帯を鞄にしまい直し、千歌は家への道を走り始めた。すぐに人気のない暗い道に差し掛かる。所々街灯は立っていたが、それが逆に不気味で、なるべくなら夜の時間帯に通りたくない道。そこに、走る千歌の、はっはっという息遣いと、波の音だけが響いている。

 

 パキッと、背後から音がしたような気がした。千歌がビクッと震え、その場に立ち止まる。今の音は何だろうか。道路を見ると、所々に細い木の枝が散乱している。それらを自分で踏んだ際に鳴った音だったのかもしれなかったが、確かに音は背後から聞こえたような気がした。そして同時に、何とも形容しがたい人の気配のような物も、千歌は背後に感じていた。

 

 恐る恐る、後ろを振り返る。そこには誰の姿も無い。ただ不気味な街灯が、等間隔に並んでいるだけだ。

 

「誰か居るの?」

 

 声に出して呼びかけてみたが、返答は無かった。正面を向き直り、千歌は家へ向かう足取りのスピードを更に上げた。

 

 

 

 やがて千歌は、あの道へとやってきていた。道の端から別の細い道が、海の方向に向かって伸びている。そう、あの公園へと繋がる道だった。何となく足を止め、耳を澄ます。自らの荒い呼吸が徐々に収まっていくと、波の音に混じって、別の音が聞こえて来る。先ほどとは違って、空耳などでは全くない、ザクッザクッという、聞き覚えのある音。またあの男が、あの場所で穴を掘っているのだろうか。

 

 だが千歌は、聞こえて来る穴を掘る音に、微妙な違和感を感じていた。いつもならあの男は、無機質にずっと同じペースで黙々と穴を掘り続けていた。だが、今聞こえて来る音は、何かがおかしい。ザクッザクッという音のペースが、急に早くなったり、遅くなったり、そしてしばらく音が止まってからまた鳴り始めたりと、とにかく不規則だったのだ。

 

 すぐに帰るという、先ほどの母との会話を千歌は思い出した。先ほどの不審な物音から来る恐怖心も、まったく消えては居なかった。しかし、勝手に吸い寄せられるように、足が音のする方に吸い寄せられていく。

 

 砂利道を抜けると、公園に出る。この公園も、昼と夜では受ける印象がまったく違い、備え付けのベンチの向こうに見える真っ暗な海のうねりが、まるで巨大な生き物のようにも見えた。また一際、ザクッザクッという音が激しくなった。足早に千歌は崖面のフェンスにまで近づき、下の砂浜を見下ろす。ザクッザクッという音は、ちょうど上からだと死角となる崖の切れ込みの中から聞こえており、この場所からでは穴を掘る男の姿を確認できない……はずだった。

 

 千歌が下を見下ろした瞬間、あの男が見えた。暗くて辺りの様子はよく見えなかったが、男の目だけは、暗闇の中でもギラギラと光り、崖の上からでもよく見えた。男の横には、微かに掘っている途中の穴が見えた。男はいつもよりも、だいぶ海寄りの場所で穴を掘っていた。

 

 男は、焦っているように穴を掘っていた。ザクッザクッという音のテンポが、いつもよりもかなり早い。昨日会った時の、穏やかに話していた様子と違い、今日の男は、見るからに殺気立っていた。何かを呟きながら、汗まみれで、血走った目で、物凄い勢いで穴を掘っていく。耳を澄ますと、ザクッザクッという音に混じって、男の呟いている言葉が徐々に聞き取れるようになってきた。

 

「……に……なのに……めたはずなのに……」

 

 男はうわ言のように何かを繰り返し、口走っていた。千歌がフェンスから身を乗り出し、更に男の言葉が聞こえるように耳に手を当てる。繰り返す男のうわ言が、ようやくはっきりと、千歌の耳に届いた。

 

「ちゃんと埋めたはずなのに!」

 

 この日は満月だった。大きく丸い月が、雲の間から顔を覗かせる。徐々にその月明りが、公園を照らし、千歌を照らし、崖を照らし、そして男の周りを照らし始めた。徐々に男の掘った穴が鮮明に見え始める。

 

「死 ん だ 少 女 が 歩 い て る !」

 

 男が絶叫した。今まで聞いた事の無いような大声だった。やがて月明りが、男の周りを完全に照らした。穴の周囲が、千歌にもくっきりと見え始める。そして……

 

「……あっ!?」

 

 千歌の悲鳴にも近い声が、辺りに響いた。男の隣に穴がある。そしてその隣にはっきりと横たわる、血まみれの制服。千歌はガタガタと体を震わせながら、自分の制服を見た。それは間違いなく、穴の隣に横たわる少女の死体と同じ物であった。まさか?まさか?気が動転していて頭が上手く働かない。、確かに男と穴の横に、浦の星女学院の制服を着た少女が倒れている。ちょうど男の影になって、顔や学年を判別する為のリボン・ネクタイは見えなかったが、明らかにそれは同じ学校の誰かの死体だった。あの男がやったのだろうか?穴はこのための物だったのだろうか?恐怖で崩れ落ちそうになりながら、千歌はなんとか耐えて、眼下の光景を眺め続けていた。

 

「僕が殺さなくっちゃ……僕が殺さなくっちゃ……!!」

 

 男が暴れ始める。スコップを振り回しながら、また同じセリフをうわ言のように繰り返し始めた。やがて男はピタリと振り回していたスコップを止めた。そして、キッと崖の上の千歌を見上げた。目が合う。気付かれた……

 

 

 

 逃げなきゃ。千歌はそう思った。この時、もしそのまま逃げだす事が出来たなら、何かが変わったのかもしれない。男と目が合い、怯んだ千歌の足はコンクリートで固められたかのように動かなかった。心では逃げ出したいと思っているのに、体が動かない。男は、血走った眼で崖の上の千歌を見上げ、指をさしながら絶叫していた。

 

「お前も……お前も……!!!」

 

 その時、千歌はようやく気付いた。崖の下は月明りに照らされ、とてもくっきりとその様子が見える。だがそんなはずは無い。そうだ、いくら満月とはいえ、ただの月明りがこんなに明るいわけがない。これは、月明りではない。

 

 背後から、奇妙な音がした。ブオンブオンともキーンとも聞こえる聞いた事の無い音。飛行機の音に近い気もしたが、違う気もした。ゆっくりと、振り返ろうとする千歌。

 

 ジュクッ……

 

 別の音がした。まるで、何かが柔らかい物を貫通するような音。千歌の体が揺らぎ、そして浮き、ゆっくりと、スローモーションのように崖の下へと落ちていく。落ちながら、先ほどの音は自分の体から聞こえていたんだと、千歌は気付いた。腹の辺りから、赤色の液体がとめどなく溢れていく。落ちていく最中、崖のそのまた更に上、上空に、見た事のない物が浮かんでいるのが見えた。それは前面から眩い光を放ち、辺りを照らしている。月明りだと思っていた光の正体は、これだった。

 

「UFOを探しているんだよ。」

 

 あの時の男の言葉が、頭の中で反響した。

 

「僕は昔、宇宙人に助けられた事があるんだ。その宇宙人がねえ、この辺にUFOを隠したんだよ。」

 

 千歌の体は回転しながら落ちていく。その最中にもどくどくと溢れ出す血液は、空中でまるで薔薇の花のように広がっていった。地面が目前に迫った時、千歌は穴の隣に横たわる少女の死体と目が合った。ここからだと、顔も、学年別のリボンも良く見えた。

 

「あれは……」

 

 千歌は驚愕した。しかし、それを表情で表すような力は、もう残っては居なかった。

 

 ドサッ……地面に激突する音と共に、辺りは静寂に包まれた。しばしの静寂の後、散らばった荷物の中の携帯電話の着信音が鳴り響く。"お母さん"と表示されたその携帯電話の液晶画面を、スコップがぐしゃりと叩き潰した。

 

 

 

 

 


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