SCHOOL IDOL IS DEAD   作:joyful42

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この作品のテーマの1つとして、いかにスクールアイドルの殻を破れるかっていうのがあるんですよ。
別に公式等で明記されているわけでもないのに、何となくそういう感じになってしまっている、例えば「スクールアイドル(ラブライブ!)は廃校を防ぐ為の物語」だったりとか、「スクールアイドルは部活である」みたいな固定観念には、悉くノーであると言わせてます。
それも含めて果南の「アイドルはもっと自由な物」っていう台詞に繋がってくるんですけど、もっと自由であっていいと思うんですよね。
廃校を防ぐから偉いわけじゃないし、地域を背負っているから偉いわけじゃない。
ステージ上で一番面白い物見せた奴が強えんだっていうの私の価値観なので、浦の星の移転・統廃合に関しても、一応提示しましたが、グループとしてそれに立ち向かうみたいな展開は無いと思います。







第10話 ありがとう

 既に辺りは真っ暗だったが、千歌はじっと船着き場の堤防に腰掛け、海を眺めていた。海を挟んだ向こう側に見える、果南の家のダイビングショップ。まだ営業しているのか、室内の灯りは煌々と光を放っている。曜や梨子と別れた後、千歌はこの場所にかれこれ1時間ほど座っていた。ここで待っていれば、手伝いを終えた果南が船で戻ってくると踏んでいたのだが、未だ果南は姿を現さなかった。先ほどから、ダイビングショップの建物を目を凝らして見ていたが、人の出てくる気配も無ければ、辺りに人の姿も見えなかった。

 

「千歌、こんな所で何してるの?」

 

 不意に背後から声をかけられた。慌てて振り返ると、そこには荷物がいっぱいに詰まったトートバッグを持った果南が立っていた。

 

「果南ちゃん!こっちに居たの!?」

 

「今日は家の中でやる作業があってね、終わったから、今からこれをお店に届けに行く所。」

 

 果南が、この前と同じように、小さな船に荷物を積み込み始めた。

 

「それより、今日は何の用?前にも言ったけど、スクールアイドルならやらないからね。」

 

「ううん、スクールアイドルはね、曜ちゃんと、転校生の梨子ちゃんと3人で始める事にしたの。」

 

 曜、というワードに、果南がピクリと反応したような気がした。

 

「へえ……そうなんだ。」

 

 果南が船のエンジンを始動させる。前にも見た光景だったが、時間が夜だという事だけで、感じ取れる雰囲気が違う。光の無い真っ黒な海の中で、船のスクリューの下から白い泡が吹き上がってくる様子が、千歌には少し不気味に見えた。

 

「あのね、果南ちゃん。」

 

 千歌がじっと果南を見据える、それに気付いた果南が、作業の手を止め、千歌と視線を合わせた。

 

「いつも、ありがとう。」

 

 今日、果南に伝えようと決めていた、あの感謝の言葉を、心を込めて伝えた。数秒の沈黙が流れる。

 

「どうしたの?急に。」

 

 果南が笑った。

 

「果南ちゃんには、私が小さい頃からお世話になってて、沢山遊んでもらって、色々な事を教えて貰って……でも、ちゃんと感謝の気持ちを伝えた事って無かったから。だから今日は、絶対にこれを伝えようと思って、ここで待ってた。」

 

 そう言うと、またあははと声を上げて果南が笑った。

 

「それだけの為に?ここで待ってたの?」

 

「うん。」

 

 果南が一旦船を降りた。そして千歌の所まで歩いてくる。

 

「私も、千歌には感謝してる。」

 

「でも私、果南ちゃんに何もしてあげた事無いよ。」

 

「そんな事無いよ、千歌はいつだって太陽のように、元気で明るいから。それに元気付けられた事なんて、山のようにある。」

 

 果南が遠くの海を眺めた。真っ暗な海のそのまた更に向こうに、工業地帯の灯りが微かに見えた。

 

「私は千歌みたいに明るくないから、色んな事を考えてしまう。ほら、内浦の夜ってとても暗いから、その暗闇の中で船に乗っていると特に、ね。」

 

「果南ちゃん……」

 

 果南は普段、とにかく人に弱みは見せなかった。姉御肌というか、親分気質というか、そんな感じで、長い付き合いの千歌も、果南が悩んでいたり、苦しんでいたりするのを見た事がないほどだった。だがそれはあくまで表向きの話で、実際は悩む事も考え込む事もあるのだろうと、千歌は初めて気付いた。

 

「だから、ありがとう、千歌。今はお家の方が忙しくなっちゃって、学校以外で会う事は減ったけど、こうやってたまに会いに来てくれるから、私も心が楽になってる。」

 

「なんでも言ってよ。」

 

「え?」

 

「果南ちゃんが困ってたら、私に何でも言ってよ。何ができるかわからないけど、でも、私に出来る事だったら何でもするから。」

 

「うん、ありがとう。」

 

 笑顔でそう言って、もう一度果南が船に乗り込んだ。千歌にじゃあねと手を振りながら、エンジンの出力を大きくする。

 

「それから!」

 

 エンジン音に掻き消されぬよう、千歌が声を張り上げた。

 

「曜ちゃんとも、仲良くしてあげてね!」

 

 果南がピクリと震えた。そして、申し訳なさそうな顔で千歌の方を見る。

「うん……ごめんね、あの時は変な所見せて。」

 

 エンジンの音が一際大きくなる。やがて果南を乗せた船はゆっくりと前進し始め、やがて海の上の闇へと、消えて行った。

 

 

 

 


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