SCHOOL IDOL IS DEAD   作:joyful42

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転校生が来るって、学生にとっては結構な大イベントですよね。
確か小学校3年くらいの時に、坂井君っていう男の子が転校してきたんですよ。
明るい子で、すぐにクラスに溶け込んだんですけど
転校してきて初めての道徳の授業の時に、坂井君が突然先生に質問したんですよ。

「先生、道徳って何ですか?」

先生が一瞬沈黙して、

「前の学校ではやって無かった?」

「はい。」

その後先生が、「道徳っていうのは心のお勉強です」みたいな事を言って、坂井君がわかりました!って答えたんですね。
当時はその様子を見ながら、道徳の授業が無い学校もあるんだなーとか思ってたんですが
今考えると、絶対そんなわけないですよね。
坂井君がなぜそんな質問をしたのか、今となっては知る由もありません。








第6話 セカンドコンタクト

 夕陽が西に沈み始める頃、千歌は一人とぼとぼと、家までの道を歩いていた、あの後、せめて自己紹介くらいはしようと一人で梨子の戻りを待ったが、よく見ると梨子は荷物を持って職員室へと向かっており、教室に戻ってくる事は無かった。

 

 ふと気付くと、歩いている道の端から、細い砂利道が横へ伸びているのが見える。あの、公園への入り口の道だった。何の気なしに、千歌は再びその道へと足を踏み入れた。

 

 階段を降りると、そこは先日と同じ人気の無い砂浜だった。夕陽でオレンジ色に染まる海の向こうに、淡島が見える。

 

 千歌は、この前の果南の言葉を思い出していた。あなたとスクールアイドルをやる気はない。と、曜を冷たく突き放した果南。確かに今まであの二人が仲良くしている所は見た事が無かったが、それはただきっかけが無かったからで、何ならこのスクールアイドル活動を通じて、二人の仲も進展すればいいなとまで、千歌は考えていた。いずれにしても、あの果南があそこまで曜を拒絶するとは、千歌は思っていなかった。一方の曜もあれ以降、何も気にする素振りは見せずにいつも通りに振舞っており、まるであの一件を無かった事にしようとしているようにも見えた。

 

 先ほどよりも更に陽は沈み、淡島の上に見える大きなホテルの窓に、照明の光が灯り始めた。そのホテルから数十メートルほど離れた場所にある平屋のログハウス、それが果南の家が経営するダイビングショップである。建物の横で人影が動いているのが見えたが、距離が遠く、それが果南であるかは確認する事が出来ない。

 

 最近は今までのように漁港横の果南の家を訪れたり、淡島まで遊びに行っても、都合が合わなくて遊べなくなる事が増えた。メンバーが集まり、スクールアイドルが軌道に乗れば、生活はどうしてもスクールアイドル活動が中心になってしまうだろうし、果南と会う機会は更に減るだろう。果南がスクールアイドルに加入しないとなると、もしこのタイミングを逃してしまえば、二人が打ち解け合う事は難しくなってしまうのだろう。そして何よりも、千歌自身が果南との間に距離感のような物が出来てしまうような気がした。

 

 

 

 千歌の頭をぐるぐると回るそんな考えは、どこかから聞こえる奇妙な音によって掻き消された。

 

 砂浜の奥から響いてくる、ザクッザクッという聞き覚えのある音。千歌は慌てて音の下へと走った。

 

 あの時と同じ場所で、男は穴を掘っていた。あの時と同じように、ボロボロのポロシャツを着て、全身は汗だくであった。「あの人と話しちゃだめだよ!」曜の言葉が頭をよぎる。岩陰に身を隠し、男を観察した。男には特に怪しい様子は無かった。いや、こんな所でずっと穴を掘っている時点で怪しい事この上無いのではあるが、それ以外に怪しい点が見当たらない。男はただ、黙々と穴を掘っているだけなのだ。徐々に千歌の中の、男に対する警戒心が薄れていく。

 

「あの!」

 

 思い切って声をかける。この前と違い、男は一回で声で気付き、ゆっくりと振り返った。

 

「キミは……この前の……」

 

 男が声を発した。表情は全く崩さないままだったが、初めて男が千歌に向かって言葉を発したのだ。会話ができる……。千歌は精一杯に笑顔を作り、男に聞いた。

 

「穴を掘って、何をしているんですか?」

 

 男は少しの間、考え込んでいた。自分の手にあるスコップを見て、掘られた穴を見て、そして千歌を見る。

 

「UFOを……探しているんだよ。」

 

「ゆ、ゆーふぉー?」

 

 想像だにしなかった回答に、千歌は目をパチクリとさせた。その様子を見て、男はフッと笑う。

 

「僕は昔、宇宙人に助けられた事があるんだ。その宇宙人がねえ、この辺にUFOを隠したんだよ。」

 

 小声で視線は伏し目がちであったが、そう語る男はどこか嬉しそうだった。

 

「ここに?」

 

「そう、それを見つけなきゃならないんだな、僕は。」

 

 そう言って、再び穴を掘り始める男。また波の音に混じり、ザクッザクッとスコップの音が聞こえて来る。

 

「見つけたら、どうするんですか?まさか、操縦して宇宙旅行とか!」

 

 穴を掘る男の背中に、千歌が語りかける。

 

「……遠い、所に行っちゃうよ……」

 

「私、星とかが大好きで、木星とか土星とか、遠い宇宙の果てまで行ってみたい!果南ちゃんも星が好きだから帰って来たらお土産話を沢山……あっ、果南ちゃんっていうのは私の幼馴染で……」

 

 ハイテンションで話す千歌の背後で、太陽はどんどんと沈み、辺りを夜闇が包み始める。

 

「その果南ちゃんが最近なんだか変で、遊びに行っても会えない事も多くて……私、どうしたらいいのかな?」

 

 消え入るような声で、千歌がそう呟く。男が再び穴を掘るのを止め、もう一度千歌の方を見た。

 

「大切な友達なら、感謝を伝えて見たらどうかな。」

 

「感謝?」

 

「いくら仲の良い友達でも、喧嘩をする時もあるし、お互いがすれ違う事もある。でも君が、その友達に思っている事をしっかりと伝える事が出来たなら、向こうも心を開いてくれるんじゃないかな。……なんてね。」

 

 男がまた自嘲気味に笑う。しかしその言葉は、千歌にとっては目から鱗だった。思えば、幼馴染である果南に感謝の気持ちを伝えた事はあっただろうか。小さい事でありがとうとお礼を言った事は何度でもあったが、いつも仲良くしてくれてありがとう、友達で居てくれてありがとうと改めて伝えた事は無かった。付き合いも長くなればすれ違いも起こりやすい。改めて二人の関係を清算する必要があるのではないだろうかと、千歌は考えた。

 

「なるほど……ありがとうございます!」

 

 改めて感謝を伝えるなど、小恥ずかしい事ではあったが、明日さっそくやってみようと、千歌は心に誓った。そんな様子を男はただじっと眺めていた。まるで何かを言いたそうな表情ではあったが、何も言葉を発する事は無かった。

 

 

 

「キミは、自分の事をどんな人間だと思う?」

 

 しばらく時間が空いてから、男がそう聞いた。唐突な質問だったが、先ほどまでとは違い、男の目は真っ直ぐに千歌を捉えている。

 

「私……ですか?」

 

 自分を指さし、きょとんとする千歌。それを見て、男はうんと頷く。

 

「そう言われても、私とくにこれといって特技も無いし……ただ元気が取り柄なだけの、普通の女の子です。」

 

「普通……か……」

 

 頷く千歌。

 

「普通っていうのは……とってもいいなあ……」

 

 そう言って男は穴を掘る作業に戻る。千歌はこの質問の意味がわからなかったが、普通……普通……と何となく繰り返し口に出していた。

 

 既に太陽は完全に沈み、空にはいくつかの星が輝き始めていた。

 

 

 

 


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