櫻井家の末っ子   作:BK201

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櫻井誠
身長:139cm
体重:37kg
今より幼い時にカインを受け継いだためか、体が成長しなくなってしまった。
性格:少々自分勝手でわがまま。ただし、自分より偉い相手の意見は聞く。聞いた意見を反映するかどうかはまた別。

黒円卓の聖槍
(ヴェヴェルスブルグ・ロンギヌス)
初代トバルカインである櫻井武蔵が鋳造に携わった聖遺物。
櫻井の一族にしか使えない。
使い手によって形状が変化する。
初代:剣型、二代目:砲型、三代目(戒):大剣型、四代目?(誠):槍型
誠は特別思い入れのある武器や、特定の武器に対する才能がないことから名称通り槍になった。


2話 邂逅

藤井蓮にとって、それは突然すぎる事態であり、自分を混乱させるには十分すぎる出来事でもあった。

 

――――自分が人を殺しているのかもしれない

 

連続殺人事件の話を聞いて、正確には幼馴染である遊佐司狼と屋上で喧嘩して入院したあの時から見るようになった夢が、先輩は予知夢なんて簡単に言ってたけど、それはどうしようもなく非日常的で、非現実的な出来事だった。

日常にひび割れた出来事が生まれ出ることで、何気なくそう思えてしまえる出来事が重なっていく。

気分の悪くなる夢。黄昏の浜辺で血を欲しがる少女が佇み、ギロチンが振り下ろされる。

そして生まれる夢から覚めた時の倦怠感。それら総てがまるで自分の意図せぬところで動かされている出来事の様に思えてしまう。

 

「ねえ、こんな夜更けに何してるんだい?」

 

だから、夢から覚醒させたその声は、俺にとって非常に不愉快な出来事だと思えた。

 

「え?いや、何で……」

 

始めに浮かんだのは困惑だった。目の前にいる相手が誰かということなど関係ない。今自分がここにいるということに困惑せざる得なかった。

声をかけられた場所は公園、時間は真夜中、服装は寝間着ではなく何故か普段よく着る私服。ここ最近は調子が悪いからと早めに寝たはずなのに、こんな時間に無意識の内に外に出歩いていた。

まるで自分の意識がないうちに、夜の散歩にでも出ていたかのような恰好だ。

 

「初めまして、もしかしたら貴方が僕らの待ち人ですか?」

 

いつの間に、外に出ていたのか。いつの間に、着替えていたのか。分からない感覚が俺を襲う。まるで夢遊病患者の様ではないか。そんな事もお構いなしに、俺に声をかけてきた人間は言葉を続けるが、それが耳に入らない。

 

「聖槍十三騎士団黒円卓第二位、櫻井誠。貴方との関係を端的に言えば――――」

 

聖槍十三騎士団というのが何なのかも知らない。それよりも自分の現状を把握する事の方が有産されるべき事態だった。だが――――

 

()というやつです。ツァラトゥストラ」

 

敵――――その言葉をハッキリと聞き取った瞬間、咄嗟に構えを取った。言葉の中身が理由ではない。いや、勿論敵などといわれて一切警戒しないわけではない。しかし、それ以上に話しかけてきた相手が一瞬で顔が触れそうなほど近い距離に現れたことが原因だった。

 

「ッ!?」

 

「そういう顔をするって事はまだ自覚無し、ってことかな?」

 

ふざけている。言葉を投げかけられた時は、対面およそ8メートルほどの距離が開いていたはずだ。いくら意識が自分の今起こっていた出来事の把握に努め、相手の方に向いていなかったとは言え、近づかれるのに気づかなかったなどというのは……いや、そもそも一瞬で目の前に現れたという事態が現実離れしすぎている。その出来事に相手が喋っている言葉など耳に入らず、無意識で外に出ていたことも含めて益々混乱する。

 

「でも、構えを取るって事はそれなりに場慣れしてるってことか――――じゃあ、試してみようか」

 

まるで飼い犬にかまってあげる程度の気楽さで、彼は手を伸ばしてくる。だが、速さがまるで桁違いだった。

 

「嘘、だろ!」

 

ついこないだ喧嘩した司狼よりも、年がら年中竹刀を振り回してる香純よりもずっと速い一撃。躱すのは不可能と咄嗟に判断して腕を盾にして、衝撃に備える。瞬間――――視界に映る周りの風景がぶれ、意識が吹き飛びそうになった。

 

「ん?」

 

吹き飛ばされた俺を見て、違和感を感じたかのように櫻井誠と名乗った相手は首をかしげる。「力加減間違えたかな……」などとほざきながら少しバツが悪そうな顔になって、そいつは聞いてきた。

 

「ねえ、聖遺物出さないの?それとも持ってないの?」

 

「聖遺物……?」

 

「まさか本当に知らない?いや、隠してるだけとか、自覚がないとかそういうのもあり得るけど……命の危機にも反応しないって事は、これは外したかな」

 

「何を、訳の分からないことをごちゃごちゃ言ってやがる……?」

 

腹が立つ――――思えば司狼もそうだ。喧嘩したあの日、勝手に自分の理屈を言うだけ言って、こっちには何の話も無し。ふざけんなよ、どいつもこいつも俺の知らない所で勝手に話を進めやがって。

 

(変だな――――常人の枠に収まってる割には違和感を拭えない相手だし、活動が勝手に動いてるにしてもここまで命の危機に晒されて置いて何の反応も示さない。いや、聖遺物は僕が殺さないって判断しているのか?わかんないなら――――)

 

「――――確認の為に一人ぐらい、殺したって問題ないか」

 

瞬間、今までとは違って、肌から殺気を感じた。よくドラマなんかだと殺気を隠せない人間は二流だとかなんだとか話を聞くが、これは次元が違う。隠すまでもない、隠す必要も意味もない。下手すれば殺意だけで人が殺せる。

蛇に睨まれた蛙が竦んで動けないように、その殺意そのものが切先となって人に動こうという意思を奪わせる。

 

「う、ウオォォォオォォォォ――――!!」

 

喝を入れて必死に動けと意識を覚醒させるために全力で吼えた。狙うは急所――――一撃で仕留めるつもりで、そうでありながら一撃で仕留めることが出来ない事実を理解した上で二撃目も放つ。首と胸部。一発目が躱されたとしても確実にダメージを与えつつも当てれる場所を、そう思って放った攻撃だった。

 

「良い反応だけど――――やっぱり外れっていう事か」

 

だが、現実は非情だった。狙いは間違っていなかった。放てる攻撃手段は今打てる最善手だった筈だ。間違いがあったとすれば、そもそも前提として、こちらの攻撃の最高のラインが相手が敵として相対すべき最低のラインにすら届いていないことに気付くべきだった。

叫び、体が動いた時点で、転んででも這ってでも後ろに下がり、逃げるべきだったのだ。

 

「君が本来取るべき選択肢は逃走一択だよ」

 

視界が暗転する。吹き飛ばされた、と気付いた時には首を掴まれ空中に浮かされていた。意味が分からない――――吹き飛ばされたのに掴まれている。それも自分よりも背の低い少年のような奴に。それはつまり一瞬で自分が認識できない攻撃をされ、それが原因で吹き飛ばされ、その上で地面にぶつかる前に離れていく途中で捕らえられたということだ。そして体格的に自分の方が大きいにも関わらず、悠々と片手で持ち上げられる。

 

「ヴッ、ガァ……!?」

 

徐々に手には力がこもり、首が絞めつけられる。このままでは、死ぬ――――そう思うも抵抗虚しく意識がかすれ始めていく。

 

「あれ?何―――いる――姉さ――とり――――殺し――――」

 

そこで意識は途絶えた。

 

 

 

 

 

 

結局、彼は運よく殺されることがなかった。ツァラトゥストラでないかと疑った相手は灰色だったが、彼が意識を失った直後に姉さんがやってきて、ベイとマレウスがツァラトゥストラを見つけたと知らせに来たことで彼は白ということにされた。そのまま殺すのに別に躊躇いはなかったが姉さんがそれを止め、追うべき相手を突き止めたことで結果的に彼は死なずに済んだのだ。

 

だが、その数日後に彼は黒であったことが判明した。ベイとマレウスが炙り出した敵は影武者であり、本当の聖遺物所持者に餌を与える親鳥だったのだ。

 

「もー、最悪。あんだけ振り回されて結局見つかったのは外れだなんて」

 

「それで、先輩はその話を態々僕の前でしに来たのは何でですか?」

 

その話をしに来たのは、僕に黒円卓としての技術的な手ほどきをしてくれたマレウス先輩だった(マレウスや先生呼びは嫌がられる為マレウス先輩と呼んでいる)。教会で寝泊まりしている僕の部屋に来た彼女は今日転校したばかりの学校の制服を着ながらベッドに腰かけ足をフラフラさせる。

 

「いいじゃない、愚痴ぐらい聞いてくれたって。貴方が目星をつけた獲物が当たりだったわけじゃない。お姉さんの傷心を癒そうって気はないのー?」

 

「そういう話はベイ中尉の所かヴァレリア神父にしてください」

 

「やーよ、こういった愚痴を言っても気にしないで済むのは後輩(げぼく)の貴方が一番なんだもん」

 

確かに先輩には手ほどきを受けた恩もあり、下手に逆らえないのだが釈然としないと思ってため息をつきつつ、そういえばと、ここに来た本題だろうと思う話を聞くことにする。

 

「ところで、今日見てきたんですよね。どうでした?」

 

何をと問われれば当然ツァラトゥストラのことである。彼女が制服を着ているのは姉さんと一緒に彼が通う学校に潜入したからだ。彼に僕らが何しにここに来たのかと彼自身の役目を説明するために彼女たちは学校に行ってきた。姉さんと彼は僕が見逃した後で影武者から力を受け取る際に会う機会があったらしいが、マレウス先輩とは初対面の筈である。

 

「彼のこと……そうねぇ、まだまだ青いけど顔はお姉さん好みだったわよ――――あ、誠君に魅力がないってわけじゃないわよ。単純に好みの問題!」

 

ルサルカ先輩は妖艶な笑みを見せながらそんなことを言う。本題とは全く違うのだが、その位敵にするまでもなく弱い余裕の相手だということがありありと分かった。

 

「ま、あの程度だっていうのなら心配するようなことは何もないわね。むしろ弱すぎてこれからやっていけるのかお姉さん心配しちゃう~」

 

「その為に、姉さんとシュピーネが手助けしに行ったんですよね」

 

何もできない赤ん坊ではスワスチカを開くための相手として相応しくないという理由から、現在集まっている黒円卓の会議で首領代行が決定したツァラトゥストラに対する支援。今夜それが学校で行われているとのことだが、どの程度のものになるのか。

直接対面した僕は期待と不安の両方を持ちながらルサルカ先輩の愚痴を聞きつつ夜を過ごすのだった。

 

 

 

 

 

 

それから数日間、結果は上々――――櫻井誠は自ら積極的に行動することはなく、黒円卓第十位ロート・シュピーネが討たれたと同時に、第二のスワスチカが開かれたという報を聞き、ようやく動き始めた。

別にサボっていたというわけではない。これまで積極的に動かなかった理由はヴァレリアの指示に従っていたことと、トバルカインの聖遺物所持者であるからだ。カインの聖遺物自体、他の聖遺物と比べ独特であり、早期の段階で活発に動けば腐敗が進みカイン化してしまう。彼は歴代のカインと比べ、侵蝕が遅いがそれでも全く腐敗しない。故に彼はこれまで自分から動こうとはしなかった。

 

「よぉ、テメエも来るのか?」

 

今宵動こうと彼は展望タワーの方に向かおうとしたのだが、声を掛けられ止められる。

 

「邪魔する気はないよ、見学するだけ。それならいいでしょ、ベイ中尉。それに姉さんも」

 

声を掛けてきたのはヴィルヘルム・エーレンブルグ。現在諏訪原市内にいる団員の中でも最高峰の実力を持った団員。もう一人は誠の姉である櫻井螢。そして彼等の目的は櫻井誠と同じ藤井蓮――――ツァラトゥストラとの戦いであった。

櫻井誠としては自分が先に見つけた獲物だが、さして興味もなくヴィルヘルムに逆らってまで自分が相手をしたいというものではない(そもそも戦闘狂でもないので戦う必要性があると思ってもいない)。

 

「ま、いいぜ。邪魔しねえっていうのならな」

 

「……私からも特に言う事はないわ」

 

彼の姉、螢が彼に対して意見を言わない事は多い。それは弟が兄と同じカインの聖遺物を継承した罪悪感から来るものなのか、それともどう接すれば良いのか分からないからか。おそらくその両方であるのだろうが、櫻井誠はそれを気にした様子も見せず、ただ二人についていくだけである。

 

そうして、三人が展望タワーに足を運び、待ち構えているかのようにそこに佇んでいた青年を見つける。

 

「よぉ、シュピーネをやったって言うのはテメエか」

 

最初に声をかけたのはヴィルヘルム。初戦闘時に遭遇した誠や、学校へ潜入していた螢と違い、ヴィルヘルムと藤井蓮は初対面である。故に、念のためといった様子ではあるものの最初に投げかけた言葉は確認だった。

 

「……!?お前たちは!」

 

一方で蓮の方は確認するまでもなく敵と認識し、構えを取った。もとより敵としてであった二人に旧ドイツ軍の軍服を着ている彼らを見間違えるはずもない。

 

「シュピーネをやって浮かれてるんじゃねえかと不安に思ってたんだが、良い眼をしてるじゃねえか……」

 

獲物が期待外れでなかったことを喜ぶようにヴィルヘルムは顔を綻ばせる。

 

「自己紹介位はしてやるよ。聖槍十三騎士団黒円卓第四位ヴィルヘルム・エーレンブルグ=カズィクル・ベイ。劣等の猿にも戦の作法は理解できるだろうが、テメエも名乗りなガキ」

 

「お前たちみたいな奴等相手に名乗る気なんてねえよ。それに、どうせ知ってるんだろ」

 

吐き捨てるように拒絶を示す蓮。それに対してヴィルヘルムは舌打ちする。

 

「チッ、わかっちゃいねえなぁ。これから死ににいくやつの顔と名前を覚えておいてやろうっていうこっちの行為を足蹴にしやがって」

 

「そんなもの知るかよ。こっちは時代遅れの戦争体験者でも何でもないんだからな……」

 

ヴィルヘルムは蓮に向かって攻撃を仕掛けようと構え、蓮も対抗するために構えるが、それを止めたのは螢だった。

 

「待ちなさい、ベイ。今日は話し合いに来たのよ。聖餐杯猊下が貴方に会いたがってるの。抵抗しなければこちらからは手を出さないと約束するわ」

 

圧倒的に不利な状況に蓮はここで戦うべきかどうか悩む。その話が本当だという保証は一切ないが3対1の状況だ。戦っても間違いなく無事では済まない。だが――――

 

「あんた等の誘いに乗る気はない。どうしても連れて行きたいなら力ずくでやってみろ!!」

 

この程度の不利な状況、戦っていくうちにいつかはやってくるはずだ。早いか遅いかの違いしかない。そう考え蓮ははっきりと断った。

 

「ハッ!そうこなくっちゃな!面白くねぇ!!」

 

始めに手を出したのは案の定ヴィルヘルムだった。突き出した右手を蓮はギリギリのところで避けマリィに呼びかけ聖遺物――――即ちギロチンを出し反撃に移ろうとした。しかし――――

 

「それじゃあ、お客様一名ご案内!」

 

反撃に移ろうとした蓮の正面から振り下ろされたのは長大な槍。誠が放った一撃が地面を叩きつけるように放たれたのだ。蓮は咄嗟に子の一撃も躱したが――――

 

「あまりいい気にならないことね藤井君」

 

当然、次に来るのは螢の剣戟。ギリギリで受け止めて防ぐが次はまたヴィルヘルムの攻撃が続き、攻撃が途切れることがない。

 

「3対1かよ……」

 

螢の攻撃は単調でムラが無く、型通り故に強力な攻撃。一方、ベイの攻撃は一撃一撃が重く故に隙もムラも多いがそれを補って余りある戦闘経験。その中で誠は最も鈍重で一見狙いやすそうに見えるのだが、それも誘いだと見て取れる位置にいる。手を出せば痛い目にあうことは間違いない。

故に対策も立てれず防御、回避、防御、防御、回避と後手に回り続け不利になる一方。そんな状況でついにベイの一撃が蓮に当たりそうになる。回避も防御も間に合わない。くらえば致命的なのは確実。そうでなくともそこで動きが鈍ればますます不利になる。

 

その瞬間――――

 

一発の銃声。その銃弾はベイの頭を狙うように放たれた。ベイはそれを受け止め、それによって遅れた攻撃を蓮は間一髪で回避する。

 

「てめぇ……」

 

立ち上がったヴィルヘルムからは、戦いを楽しんでいた時の薄笑いは消えていた。口調こそ静かなものの、激怒しているのは誰の目から見ても明白だった。

 

「クソガキがぁ……てめえよっぽど死にたいらしいな」

 

睨み付けるヴィルヘルムを無視するように銃弾を放った男は蓮に向かって話しかける。

 

「よお、蓮――――手伝ってやろうか?」

 

その戦場に第三者が現れた。

 




ロート・シュピーネ(故):形成(笑)。特に誠との関わりは深くない。
ルサルカ・シュヴェーゲリン:カインという特殊体質からルサルカは実験動物として色々芸を仕込ませたつもり。誠にとっては色々と手ほどきしてもらった黒円卓の先輩。
ヴィルヘルム・エーレンブルグ:強い先輩。互いに興味は薄い。

スワスチカ(2/8)

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