櫻井家の末っ子   作:BK201

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あけましておめでとうございます。
本当は年内に完結したかったのですが、忙しくて更新がままならない状況が続いております。今後も遅筆の亀更新が続くかと思いますが、よろしくお願いします。


14話 決着

火球が二発、三発と放たれ、教会が瓦解していく。だが、それをこれまで躱すしかなかった誠はこれまでと一転して火球を朽ち、かき消していた。

 

「見切った!」

 

「その程度、甘いと言っている!」

 

火球を防ぎ切り、見事に距離を詰めた誠は槍で突く。しかし、エレオノーレの卓越した技量は接近戦でも発揮していた。彼女の接近戦の技量はその聖遺物の能力に反して黒円卓の中でもトップクラスの技量を持っている――――能力関係なく技量だけで測った場合、螢や誠は愚か、ヴィルヘルムやマキナを上回るほどだ。

単調な動きで突き刺そうとしていた誠の攻撃など容易く躱し、逆に隙だらけの誠の横っ腹に向けてエレオノーレは掌から火球を放った。

 

「――――!?」

 

「防げる……」

 

誠は確かな手応えを、逆にエレオノーレは一転して不確かさを感じ取った。

エレオノーレが放った火球はいずれも止めを刺すときに放ったものに比べれば小さかった。ソフトボールより少し大きい程度の火球だ。しかし、これが通じないとは思えない。威力は銃弾やパンツァーファウストと同等かそれ以上。だが、その攻撃は届かなかった。

 

(何故だ……?)

 

攻撃を防がれたエレオノーレだが、その事態に対して、彼女はあまり動揺していなかった。だが、わずかな間隙は生まれた。その小さな揺らぎを抑えようと冷静に意識を切り替える。

 

(奴が突然強くなった……いや、違うな。力が増して防御で防いでいるのではなく、攻撃そのものを無効化している。つまり能力の質が変わったということだ。だが、奴にその手の能力はなかったはず。とすれば――――)

 

「――――何かカラクリがあるはずだ」

 

誠が先ほどまで防げなかった炎を防げたのには理由がある。エレオノーレは冷静に分析した結果そのようにあたりをつける。その詳細をつかむため、そして、それを確信へと変えるため最初と同じように――――誠の創造を攻撃によって使わせて能力を見定める。いや、見定めようとした。

 

「一気に行かせてもらう!」

 

彼女が冷静さを完全に取り戻す前に誠が先に行動に移した。先手を取られたエレオノーレは動きが鈍る。とはいえ、両者ともに防げるが攻撃が届かないという膠着状態になっていた。

 

(防げるけど、こっちの攻撃も届かない…後一手を指すには、もう一歩踏み込まないといけない)

 

エレオノーレに間隙が生まれた一方で、誠にも余裕があるわけではない。自身の能力を一歩昇華させたはいいが、目の前の強敵を相手にいつまでも通用するはずはなく、能力のリスクも消えたわけではないからだ。

 

(今のままならまだ保つ、けど八方塞がりな状況を抜け出せない)

 

火球による攻撃は防いでいる。だが、攻め手にも欠けている。これを維持するだけなら自身の肉体が腐り落ちるまで保たせることはできるが、その体自体いつまで持つかはわからない。

ゆえに誠はこの状況を良しとしなかった。これ以上時間を稼いでも意味がない――――そして、意味がないことを続けることは、能力の本質を気付かれる要因になってしまう。

 

「貫け!」

 

これまでの攻めよりもさらに苛烈な特攻とも言える攻撃を仕掛けた。真正面からの一撃、返す手段などいくらでもある愚直な攻撃だった。だからこそ、この攻撃は最善手だった。

 

「ッ……!沈め!!」

 

正面から突っ込む誠に当然反撃を仕掛けるエレオノーレ。止めを刺そうとした時と同等の威力を持つ巨大な火球を一気に放った。普段の彼女であれば、一度破られた火球による攻撃という安易な選択肢を取ることはなかった。だが、高々十数年程度しか生きていない若輩に対する侮り、そして自身への慢心、ラインハルトへの忠誠心の高さから生まれた誇り、何より一欠片とはいえ自身の最高の攻撃手段を打ち破られた彼女は自覚していた以上に冷静さを欠いていた。

 

一度破られたとしてもそれは幸運によってもたらされたまぐれに過ぎない。

自分の攻撃はこんな程度ではない、もう一度同じ攻撃を放てば勝てる。そんな感情によって真っ向から攻撃をしかけてきた誠を相手に小手先で返すなど彼女の性格が許さなかった。

 

「喰らえッ!!」

 

結果としてそれは悪手――――火球は崩れ落ち、正面から突きによって炎を抜け出た誠は槍をすぐさま振り上げエレオノーレを逆袈裟に切りつけた。

幾重もの戦闘経験を積み上げてきた彼女は攻撃を突破された瞬間、経験則からくる勘によって咄嗟に後ろに下がり、致命傷は何とか避けた。だが、浅いながらも彼女は左足から右肩にかけて切り傷を負った。

 

「私に、傷を……!」

 

その攻撃に驚愕し、またしても打ち破られたことで彼女のプライドは傷つき、さらに隙を見せた。

 

「まだ!」

 

「何度も喰らいはせん!」

 

それを見て好機だと判断した誠は追撃の槍を振り下ろそうとし、エレオノーレは咄嗟にMP40による銃弾を放つ。彼女はここで自分がミスを犯したと判断した。

 

(銃では奴の腐敗は防げれん!)

 

先の火球は突破に一瞬の間があった。だから先ほどの攻撃で致命傷を何とか避けれたのだ。だが、さっきまでの戦闘で銃弾は一瞬の間もなく、それこそ自由に腐敗させることができた。だから逃れるための足止めになるはずもなく、逆に自分の行動を一手遅らせることになる。彼女らしからぬ致命的なまでのミス。しかし――――

 

「グッ!?」

 

結果は想像とは異なり、誠は銃弾をその身に受け、結果としてエレオノーレは無事に距離を取ることができた。

 

「どういうことだ?」

 

まず、湧いたのは怒りだった。敵の能力に対する不愉快な気持ちと、自身の愚かさが招いた傷と格下相手に致命傷を受けていたであろう事実に対する怒り。そしてほぼ同時に沸き上がったのは疑念。それらの感情が混じり出てきた言葉だった。

 

(しく、じった……!?)

 

同時に誠はこの攻防で自身が犯した致命的なミスを悔いる。

 

(あの場面は、追撃ではなく次につなげるためのアドバンテージを確保すべきだった。欲が出た……)

 

両者ともに自らへの叱責を内心に秘めていた。精神的に先に持ち直したのはやはりというべきか、経験に長けていたエレオノーレだった。

 

「ともかく、やはり貴様のその能力には何かカラクリがあるということが分かった」

 

「……ッ!」

 

「ゆえにだ、これより先は一切油断はせん。徹底的に叩き潰すとしよう」

 

そういって現れたのは大量の術式――――多種多様な銃、パンツァーファウスト、そして火球。複数の攻撃を同時にエレオノーレが放てる全力で構え、隙間などなく、近づかせる機会など一切与えないとばかりに構えた。

 

「全軍、前方の敵に向け斉射せよ。制圧射撃だ!!」

 

この戦いで初めて声を大にして放たれた号令。今まさに彼女は誠を敵として認めた。その呼び声に呼応するように攻撃が放たれる。

 

「そうか……まだこれなら持つな」

 

一方で誠の口からからこぼれたのは安堵の呟き、その攻撃に合わせて距離を詰める。攻撃を受け止めるのは最小限に、そして最短距離でエレオノーレに詰め寄ろうとする。銃弾が爆発がそして豪炎が彼の体を掠めるがすべて躱し、防ぎ、腐らせ近づいていた。

エレオノーレは動かない。否、敢えて動こうとしなかった――――距離を詰めらせる前に仕留める。それが無理なら誠の能力の正体を見極める。そう判断してその場から離れず攻撃を続けた。

 

「今度こそ、斬る!止めを刺す!」

 

「来い!」

 

もはやお互いに油断も甘さもない。相手を斃すという明確な殺意と敵意。鉄と炎の雨霰に曝される誠と着実に距離を詰められるエレオノーレ。結果、この攻防を制したのは能力に対するアドバンテージがあった誠だった。

距離を詰めきり槍を振り払う。エレオノーレの技量なら避けることはできただろうが、彼女はあえてそれをしなかった。槍の攻撃をぎりぎり致命傷にならない程度に受けて、誠を蹴り飛ばした。

お互いに消耗していた。

致命傷は避けているとはいえ、攻撃が通じないことで接近を許し傷を負ったエレオノーレ。

攻撃を腐敗によって防いでいるが大きな消耗と数多くの小さな傷を負っている誠。

 

(――――まて、傷を負っているだと?)

 

百戦錬磨のエレオノーレはここで違和感に気付いた。誠は小さな傷を負っているのだ。炎尾を腐敗して無効化した、銃弾や爆発も腐敗によって防いでいるはず。だが、傷は明らかに能力発動前と比べて増えている。

そして思い返し、彼女は行きついた。誠の能力の本質へと。

 

「クク、ハハハハ!」

 

突然笑いだすエレオノーレに誠は理解されたことを察し苦虫を噛み潰したような表情になる。

 

「詐欺師の類に向いているのではないか。貴様、選んで腐敗していたのだな?」

 

(バレた……)

 

早いか遅いかの違いでしかないが、この一度の交錯で能力を見破られたことに誠は何度目かもわからない驚愕があった。

誠の創造――――それは物質を腐敗させる能力、ではない。物質も腐敗させれる能力だった。誠が自覚したのは偶然だった。エレオノーレに指摘され、ルサルカの言葉を思い返し、自身と他者に対して客観的な視線をもったときにそれを理解した。

黒円卓に属したのも、特定個人に味方したのも、自分の実力を前に相手を圧倒したのも、すべて客観的に正確に相手を秤にかけ、判断したもの。そして、それこそが、誠の能力の本質を指し示すものなのだと。

 

「ああ、騙されたよ。私は貴様の腐敗は一元的なものに過ぎないと考えていた。だが、違った。

銃か、炎か。炎か、爆発か――――貴様は好きなモノを腐敗することができる。その代わり、その対象となるものを選んでいる間は他のモノの腐敗ができないのだ」

 

対象を限りなく狭める代わりに腐敗を自由に操ることができる。それが誠の本当の創造。

 

「納得したよ。貴様が自覚する前であれば物質を腐敗させるだけのの能力であるというものであっても不思議ではない。何故なら自己の認識が物質にしか及ばないものだと勘違いしている限りはそれが創造として顕現するのは道理だ」

 

そう、ルサルカに言われた物質を腐敗する創造――――つい先ほどまで誠自身がそれが本当の創造だと誤解していた。しかし、追い込まれたことで自分の創造を自覚し、発動させたのが今の誠の創造。

 

簡潔に言えば『腐敗の取捨選択』

 

「そうだよ、僕のトバルカインとしての能力は腐敗させる対象を自由に選べる能力。貴女の攻撃も選んで腐敗できた。だからこそ、貴女の攻撃は僕には届かない」

 

一見強力な誠の創造だがそれは大きなリスクを天秤にかけた能力である。

 

「なるほど……だが、これではっきりした。貴様の能力の弱点もな」

 

そういった瞬間、彼女の周囲の気配が――――いな、これまで脆弱だった存在感が露わになった。

 

「形成――――

Yetzirah

 

極大火砲・狩猟の魔王――――

Der Freischutz Samiel」

 

ここに現界したのは巨大な、圧倒的なほど巨大な列車砲そのものだった。

ひとたび戦場に出れば不敗、その強大な火力をもって、そう正に彼女は誠を己の武器を抜いて斃すに相応しい相手として認めた。

 

「好きな死に方を選ぶといい。炎に焼かれるか、砲弾に撃たれるか」

 

誠は話さなかったが、彼の創造には致命的なデメリットがいくつもあった。1つは対象を絞らなければ能力が弱体化すること。誠は強力な腐敗を2つ以上同時にできない。

数多くあるデメリットの一つであるそれを見破ったエレオノーレが立てた対策は単純明快。圧倒的な火力をもって正面から押し潰し、腐敗に対しては炎と質量と爆発の複数による防げぬ同時攻撃を仕掛けるというもの。

そして、それを満たす能力こそ彼女の形成だった。

 

「ああ、死に方は選ばせてもらうよ、アンタを死んでも斃してみせるっていうのはどう」

 

「面白い、そこまで言うならやって見せろ!!」

 

これほどの戦士を相手に創造を振るわぬことを惜しむ賞賛の念すら彼女にはあった。それだけエレオノーレと誠には実力の隔たりがあることも理由の一つではあるが、それと同時に彼女は警戒していた。全方位からの攻撃は、トバルカインという存在に対して悪手だと。

腐敗の能力が万が一創造にすら影響した場合、彼女の創造ではあまりにしリスクが高すぎる。故にここは形成が最善。誠は身構え、エレオノーレは八社の合図を出す。

 

教会に似つかわしくない、鉄の列車砲から轟音とともに砲撃が放たれた――――

 

 

 

 

 

 

決着は一瞬で着いた――――

 

砲弾がぶつかった爆心地の跡には誠が地に伏し倒れていた。おそらく、腐敗させたのは砲弾ではなく炎だったのだろう。そうでなければ今頃炎によって彼の体は燃え尽きて体の原型すら残っていなかったいたはずだ。

そして、それは即ち誠が敗北したことを意味していた――――筈だった。

 

「ば、かな……!?」

 

エレオノーレは自分の胸部に突き刺さり、自身の体を貫いている槍を前にそんな言葉しか発せなかった。能力は見抜いた、その対応方法に間違いはなかった、にもかかわらず結果は予想外のものとなった。

 

「そうか、そういう、ことか……」

 

エレオノーレは気付いた。誠は地面に倒れ伏している。そして槍は自分の体を貫いている。つまり、やったことは単純。誠は槍を投げたのだ。

 

おそらく投げた槍が砲弾と接触するまで彼は能力を物質の腐敗を選択していた。それによって腐敗した砲弾を槍が貫いた。

だが、それでも砲弾そのものの勢いは失われない。中央部だけが貫かれ、炎の弾丸と化した砲弾を誠自身はその身で受け止め、その瞬間に炎まとっている砲弾の攻撃に耐えるため、腐敗の対象を炎へと切り替えたのだ。

その結果、砲弾そのものは中央に穴ができたことで脆くなり威力を失い、炎は腐敗によって防がれた。逆に勝利を確信したエレオノーレは槍によって貫かれた。

 

「み、ごとだ……まさか、貴様のような、青二才に、してやられるとはな……」

 

驚愕しつつも認めざるなかった。誠は己の逆境を前に三つも壁を打ち破ったのだ。

一つは自らの創造を昇華させたこと、一つはその胆力と覚悟をもって一瞬の躊躇いも許されたない策を打って成功させたこと、そして何より圧倒的に格上であるエレオノーレを相手に正面から能力の競り合いで勝利をもぎ取ったことだった。

トバルカインの槍など、本来であればエレオノーレの列車砲を前に容易く砕かれたはずである。それを打ち破って貫いたのは能力の相性もあったのだろうが、トバルカインではなく、櫻井誠という一個人の力によるものだった。

 

「讃えはしよう――――だが、最後に勝つのはハイドリヒ卿だ!」

 

その身の最後の力を振り絞り、声を張り上げて叫ぶように言う。彼女の傷は致命傷であり、それに上乗せするかのように傷口から腐敗が侵食していた。

 

御身に(ジークハイル・)勝利を(ヴィクトーリア)!!」

 

そういって彼女は散った――――

 

 




創造 三相女神・禍福無門(真)

物質を腐敗させる能力ではなく、対象を選んで腐敗させる能力。ルサルカが自分に有利になるようにわざと誠の能力を誤認するように誘導したことで誠が誤解してしまった。しかし、エレオノーレの言葉で自身の本質を自覚したことで、能力を完全に把握した。
ただし、デメリットがいくつもあり、腐敗する対象は一度に一つしか選べない(一つの範囲は対象によって異なる)、腐敗速度が尋常じゃないくらい早くなる等のリスクを背負う。

スワスチカ(7/8)

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