櫻井家の末っ子   作:BK201

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シュライバー戦を書くのに苦戦したので投稿が遅れました。今後もペース的には遅れるとは思います。


11話 崩れる一角

シュライバーは蓮が急激な成長を遂げたことを戦場を生きてきた経験からすぐさま理解していた。

しかし、現状の成長――――蓮の創造なら自分を倒すことは出来ないということも直感的に察していた。

だからこそ、教えてやらねばならない。圧倒的な力というものを、勝てない強力な壁を見せつけてやらなければならない。

 

「さらばヴァルハラ 光輝に満ちた世界

Fahr' hin, Waihalls lenchtende Welt

 

聳え立つその城も 微塵となって砕けるがいい

Zarfall' in Staub deine stolze Burg」

 

シュライバーにとって速さとは揺らぐことのない自身の絶対的な象徴である。蓮の速さはまだまだ自分の速さに遠く及ばないが、たとえ僅かであっても自身の領域に踏み込んできたことに断罪を、そして敬意を現した。

 

「さらば 栄華を誇る神々の栄光

Leb' wohl, prangende Gotterpracht

 

神々の一族も 歓びのうちに滅ぶがいい

End' in Wonne, du ewig Geschlecht」

 

せめてこの創造を身をもって知れたことを幸運に思うがいい――――シュライバーはそう思いながら詠唱を続ける。

蓮が創造を使ったことでシュライバーも本気を見せることにした。本来なら蓮の今の創造では形成であっても軽くあしらえるのだ。

藤井蓮はシュライバーが直々に全力をもって殺すにふさわしい。

 

「創造

  Briah――

 

死世界・凶獣変生

Niflheimr Fenriswolf」

 

そうして発動された創造。これで蓮もシュライバーもお互いに創造位階に立っての戦闘――――だが、その差は圧倒的。

結果は火を見るよりも明らかだった。元々形成であっても蓮の創造を打ち破れる実力と自信があったシュライバーにとって、創造は正に過剰殺傷(オーバーキル)――――根本的に相性が悪かったことも蓮にとって不幸だったといえる。

 

蓮の創造は自身の時間を引き延ばすこと。周囲が遅くなる中、自分だけは普段通り動けるというものであり、ギロチンの攻撃力が合わさることでかなり強力な能力になる。その時のコンディションによって引き延ばせる時間に変化があるものの、普通の団員なら(それこそ以前負けたヴィルヘルムであっても)圧倒できる能力だった。

 

しかし、シュライバーの創造は相手よりも必ず速くなるという単純なもの。元々団員の中でも最も速いシュライバーからしてみれば一見不必要に見える能力だがそうではない。形成の場合、その速さには限界がある。どれだけ足が速かろうと彼は光の速さに到達することは出来ない。つまり一瞬でも何かしらの手段を講じればシュライバーの速度に対処できるのだ。

だが、彼の創造はその壁すらも条件がそろえば超えられる。正に絶対最速であり絶対回避の力だ。

 

「ウッ、ガッ……畜生!?」

 

勝ち目がない――――蓮も薄々それを察していた。明らかに相性が悪いのだ。いくら時間を引き延ばしてもシュライバーの動きを捕らえることすら出来ない。馬鹿正直に攻撃したのでは勝てない。

横薙ぎに振り払っても上に躱される。突き刺すように放っても気付けば後ろに回り込まれる。ギロチン以外の体術も一切通じない。

迫りくるバイクに向かって放とうとした攻撃は構えた瞬間、逆に反撃を受けてしまい吹き飛ばされる。やはり勝ち目はないのかと、蓮はそう感じる。

 

「それ、でも……諦めて、たまるかッ!」

 

初めて成功した創造によって疲弊した精神、勝てない相手と対峙し続ける恐怖、そして肉体的なダメージ――――既に心身ともに蓮は限界を超えていた。

 

「止めだァ!」

 

正面から叩き潰そうとシュライバーがバイクの前輪を浮かせ、全力で叩き潰そうとする。その瞬間だった――――

 

「司狼!」

 

「ああ、ここしか――――ねえだろォ!!」

 

止めを刺す時こそ、最大の隙となる。セオリーに忠実な、この決定的な瞬間を彼らは狙っていた。奇策が通用しない相手だからこそ、王道となる隙を狙うしかない。

蓮と司狼だから出来た無言の連携――――速さなど関係ない。蓮はシュライバーを最大限引き寄せるために動きを最小限にとどめ、司狼は銃弾の攻撃だけではなく、そこら中に散らばっていた鎖を引っ張って張り寄せ、巻き上げる。そして出来上がったのは蓮ごと巻き込んだ鎖の牢獄。どれだけ速かろうが隙間がなければ躱すことなどできない。

 

「終わりだ!!」

 

鎖の牢獄の中で蓮はギロチンを、司狼は銃弾を当てようとする。ここならばシュライバーは回避できない、躱そうとすれば鎖にぶつかる筈だ。なのに、シュライバーにとって絶望的な状況で、彼は笑った。

 

「――――!?」

 

(そうだ、奴はここで攻撃してくる!)

 

シュライバーは司狼のことを忘れていなかったのだ。しつこい連携と中々死なない粘り強さを持つ彼らを殺すためにあえて隙を見せた。ギリギリまで誘い込んで躱すために創造を発動した。

 

(奴はここで殺す!!)

 

シュライバーは敵の中で最も危険なのが遊佐司狼だと戦ってからずっと認識していた。

現世にいる黒円卓の生き残りの面々で誰が裏切ろうともまともに三人の幹部と戦える相手はいない。

聖餐杯は致命的なまでにマキナに弱く、リザ・ブレンナーの戦闘力は皆無、後から入った螢や誠のことをシュライバーは知らないが四半世紀も生きていない相手に負ける程甘くない。

そしてツァラトゥストラの藤井蓮――――先も評価したように彼の成長速度こそ驚愕に値するが、それだけでは絶対に勝てない。相性最悪のシュライバー、絶対的な経験とぶれない強さで正面から押しつぶせるザミエル、ある理由(・・・・)で対等に渡り合えるようになるマキナ。全員が蓮を相手にするのに脅威にならない。

 

だからこそ、シュライバーは遊佐司狼という人物に注目した。一般人でありながら何度も聖遺物保持者と渡り合い、聖遺物を奪いとった。常識外れの人間。しかし、そこは問題ではない。

シュライバーの獣のような驚異的な嗅覚は感じ取っていた。奴が異端であることを――――強いのではない、まとも(・・・)じゃないのだ。

 

「ハハハハ――――!!」

 

笑う、哂う、嗤う――――シュライバーを止めることなどできない。相手より速く動けるシュライバーは僅かな隙間から鎖を躱した。向かった先は死に体の蓮ではなく司狼。鎖の速さも銃弾の速さも、蓮の動きも追いつかない。最早、勝利は目前。勢いづいたバイクで司狼をこのまま轢き殺そうと走り出した。

 

「司狼!?逃げろ!」

 

蓮は間に合わないことをわかっていても叫ぶ。司狼は動かない、いや既に攻撃の構えを取っている彼は回避のために動こうとしても間に合わない。

絶体絶命の状況。死の旋風が近づいてくる中――――司狼は笑い返した。

 

「いや、これで今度こそ俺達の勝ちだ」

 

そう、シュライバーは司狼の危険性を認識していた。しかし、彼の認識は把握にとどまっていた。もっと考えるべきだった――――考えて把握するだけでなく理解すべきだったのだ。

司狼がまともでないことに気付いたにもかかわらず、力押しで勝てると思った。

 

「所詮お前は獣だったってことだ」

 

だから罠に引っかかる。瞬間、シュライバーの足元が爆発した。

 

「ガアァァァッ――――!?」

 

今まで一度も傷ついたことのなかったシュライバーが傷ついた。司狼の攻撃に当たったわけでも、蓮が追いついたわけでもない。では、なぜ傷ついたのか。

 

「相手よりも速く、誰よりも速く動ける。そいつはすげえが……だからこそ、当たり前のことだが自分より速く動くことはできねえだろ?」

 

相手より速く行動できるシュライバーだが、当然既に行動した過去にまでさかのぼれるわけではない。シュライバーが形成の状態だった時に、司狼が攻撃を受ける直前に放った攻撃――――それは既に仕込んだ罠だったのだ。

相手より速くなり、相手より速く行動できても自分の行動の結果によって起こした事柄に対しては速く動けない。それがシュライバーの創造の限界だからだ。

通常なら罠など意味をなさないのだが、司狼が仕掛けた罠は地雷(のようなもの)。そして司狼自身の身を顧みないタイミングで仕掛けたことによって、シュライバーの予期しないタイミングで発動した。その虚を突いた攻撃によってシュライバーは倒れた。

 

「いや、だ……僕は、僕は死なない!誰も、誰も僕に触れるな!?」

 

バイクから転げ落ちたシュライバーは傷だらけの自分の身を見て、つぶやき、叫ぶ。彼は触れられたくなかった。誰にも触れられたくなかったから誰よりも速くなった。だから司狼の罠、誰にも触れられていない結果によって生まれた自傷行為を避けることが出来なかった。

 

「哀れだな、お前はここで死ぬんだよ」

 

シュライバーの過去に何があったかは司狼には分からないが、とにかくここを逃せば殺せない――――それをすぐに理解した司狼は銃を構え、哀れな獣に銃を撃ち止めを刺した。

 

 

 

 

 

 

蓮と司狼がシュライバーと戦っていた時――――教会の方でも戦場になっていた。いや、戦場と言うにはいささか語弊がある状況だった。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 

「……ッ」

 

櫻井姉弟とザミエルの戦い。それはあまりにも一方的なものだった。

 

「ハァッ!!」

 

必死に剣を振るう螢。それを最小限の動きで躱し、ステップを踏むかのように動いて螢を蹴り飛ばす。

 

「ここだ!」

 

蹴って浮き上がったザミエルの着地時に狙いを定めた誠が槍を突き放つ。だが、それも届くことすらなく、腕を振るって放った火の粉によって吹き飛ばされる。

 

「どうした、二人がかりでその程度か?」

 

ザミエルはまだ五つという制限されたスワスチカの中で、更に十分の一の力も使っていない。その程度の力しか出せないにもかかわらず、彼女は櫻井姉弟を軽くあしらっていた。

 

「期待外れもいい所だな」

 

勿論、二人もまだ創造を使っておらず本気ではない。ここで本気を出せば氷室玲愛、ゾーネンキント達を巻き込むことになるからだ。だが、それを差し引いても圧倒的な差があった。

ザミエルは煙草をゆっくりと吸い込み、煙を吐く。言葉通り彼女にとって二人は期待はずれだった。一応は第二次大戦時に自身が黒円卓への推薦者として選んだ血族の末裔。更に言えば片方は認めていないとはいえ、ベアトリスの後釜だった。

 

「まさかこれで終わりということはあるまい?」

 

「そうか……なら、見せてやろうじゃないか!」

 

挑発するザミエルとその挑発に反応する誠。どの道、このままではゾーネンキントを逃すことも出来ない。簡単にあしらい油断している今だからこそ隙を見いだせる。そう考えて誠は創造を発動させた。

 

(理性を飛ばす――――力を解放する!)

 

「待って、誠!」

 

螢はそれを止めようとする。誠の創造は――――いや、トバルカインの創造は一度でも発動すれば、その体の腐敗が大きく進むからだ。

 

「ほう、ならば少しは楽しませろ?」

 

ザミエルの周囲からドイツのライフルであるMP40とパンツァーファウストが十数丁ずつ並べられた。

 

「なッ!?」

 

想像だにしなかった光景に玲愛達を庇うように立っていたリザは驚愕する。

 

「何を驚くブレンナー、私が貴様のように約定の時まで何もせず惰性に身を委ねていたとでも思っていたか?」

 

これはザミエルが第二次大戦時にグラズヘイムへと移動してから60年の月日、戦いの研鑽を重ねることで得た力の一端――――自身が今まで共に戦ってきた兵団の火器を召喚・運用できるようになったザミエルは、その銃や砲弾に聖遺物の力を込めて放つことが出来た。

 

「破滅 粗暴 虚無

Sors immanis et inanis,

 

揺れ動き 定まることなし

rota tu volubilis, 」

 

そんな会話を無視して誠は創造の詠唱を唱える。銃弾といくつもの砲火が斉射された。その一発一発が並の聖遺物所持者を一撃で瀕死に追い込んでもおかしくない威力を持つ。

だが誠は躱さない――――躱せば後ろにいる他の人たち全員に被害が及ぶから。

 

「恩恵なきままに消え行くのみ

status malus, vana salus

 

影に潜み帳に覆われ 重く圧し掛かり来る

semper dissolubilis; obumbrata et velata 」

 

誠の周辺から歪みが生まれる。辺りに瘴気が漂い、世界の理が創られる。それは彼の創造が覇道であることを示している。

 

「汝の邪なる戯れに、今や顕わなる後ろ姿を晒すのみ

mihi quoque niteris; nunc per ludum dorsum nudum fero tui sceleris. 」

 

銃弾が間近に迫る。だが、その銃弾は誠にたどり着く前に錆び朽ちた。

 

「創造

  Briah――

 

三相女神・禍福無門

velut Luna statu variabilis Fortuna 」

 

 




シュライバーの絶対回避って実際どの程度まで回避できるのか怪しい。ザミエルの創造やヴィルヘルムの創造は当たるのだから絶対回避と言っても限度はある。その上で司狼の不死身補正がかかったので勝利した。


スワスチカ(6/8)

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