放課後、さっそく連携訓練をするためにアリーナにやってきた八人は、トーナメントの規模を考えていた。
「参加希望者は結構いるようだが、専用機持ちである我々がそれぞれとペアを組むという噂が流れ、参加を自重するやつらが多いらしい」
「それ、誰から聞いたの？」
「さっきアリーナの使用申請を出しに行った時、職員室でそんな噂があるというのを聞いた」
「まぁ、普通に考えれば、専用機持ちのあたしたちと戦おうなんて思わないでしょうね。参加するだけでも点数稼ぎにはあるけど、無様に負けるのは耐えられないって感じかしら」
「一夏教官が言っていたように、今回はそれほど戦闘内容は気にしなくていいらしいのに、強者と戦える機会を自ら手放すとはな」
「ラウラ、ボクたちとラウラの考え方は違うんだよ……」
「そうなのか？ だが、強者と戦えば、それだけ自分が強くなれる可能性が高まるわけだろ？ ここは戦場ではないのだから、死ぬ恐れなど無いのだから」
「そもそもＩＳを実戦で使うのは国際条例で禁止されているよ。もし破れば、織斑先生と篠ノ之博士が全力を以てその国を亡ぼすとも言われているんだし」
簪の言葉に、千冬と箒が力強く頷く。どちらか片方だけでも厄介なのに、その二人を同時に敵に回したいなんて考える国は無いだろうと思いながらも、もしかしたらという不安があるのだろう。もしそんなことがあれば、再び一夏が忙しくなってしまうと心配しているのだ。
「とにかく、そういう事は私たちが考える事じゃないし、早いところ訓練しようよ～」
「本音がやる気になってるなんて珍しいね。何かあるの？」
「この間のクラス対抗戦で流れた、ご褒美のデザートのフリーパスが今回の景品になるかもって噂があるんだよ」
「本音、自分で作ればいいじゃん」
「タダで食べられるのに、自分で作る気にはならないよ～」
「本音は料理が得意なのか？」
「苦手なのは勉強と仕事だけだよ～。後は比較的得意なだから～」
何処か信用出来ない感じだが、簪が苦笑いを浮かべながらも頷いているのを見て、それなりに出来るんだろうなと残りのメンバーは本音に対する認識を改めた。
「本音、それってあたしより箒の方が強そうって言ってるの？」
「ＩＳの稼働時間ではリンリンの方が圧倒的だけど、シノノンの強さはリンリンだって知ってるでしょ～？ セッシーを追い詰めたのは確かなんだし、あんな動き他の人にはできないって」
「それはそうかもしれないけど、千冬だって篠ノ之流剣術を修めているんだから、箒の動きは千冬に聞いて覚えればいいだけでしょ？ 後は勝つだけよ」
「私もいるのですから、そう簡単に鈴さんに勝たせるつもりはありませんわよ？」
「何時当たるかも分からないし、そもそもそのペアに当たる前に他のペアと当たるかもしれないんだから、そこだけを気にするのは得策じゃないよ。というか、本音の言う通り早く訓練を始めないと、アリーナの使用時間が無くなっちゃう」
「そうだな」
ここからはペアとの会話を聞かれないようにと、それぞれ四隅に移動し作戦会議を始める。
「それで、本当に箒と戦うつもりなのね？」
「剣術の試合では何度も戦った事があるが、ＩＳでの戦闘では無いからな。一度くらいアイツと戦っておいた方が良いと判断しただけだ」
「あっそ。まぁあたしは誰と組んでも良かったし、最初に声をかけてきたのが千冬で良かったわよ。でも、さっき簪が言ったように、あのペアだけを気にしてる場合ではないのよね……ラウラとシャルロットのペアも、簪と本音のペアもかなりの強敵っぽいし」
「一夏兄が鍛えたラウラ、一夏兄が専用機完成に手を貸した簪、どっちも強敵だろうな」
「シャルロットと本音の事も気にしなさいよね……というか、後衛のアンタはそっちの方を気にするべきじゃないの？」
「そうだな……ついつい一夏兄に気に入られていると思うと許せなくて」
「アンタも変わらないわね……まぁ、点数稼ぎだけが目的じゃないって事は分かったけど、本番で暴走しないでよね？」
「するわけないだろ。鈴は私を何だと思ってるんだ」
「猪突猛進のブラコン」
「誰がブラコンだ！」
猪突猛進にではなくブラコンに怒った千冬に、鈴は苦笑いを浮かべながら両手を前に出して千冬を宥める。
「とにかく、連携を重視するわけじゃないとはいえ、そこを気にしないで勝ち残れる程甘くはないでしょうから、まずはそこを重点的に訓練していきましょう」
「……そうだな。まぁ、鈴の動きなどだいたい分かるが」
「慢心してたら一夏さんに怒られるわよ？」
「よし！ さっさと確認するぞ」
「分かり易いんだから……」
一夏に怒られる事が何よりも恐ろしいと考えている千冬に、鈴はもう一度苦笑いを浮かべながら甲龍を展開して動きを確認していくのだった。
千冬の扱いに長けている鈴……