IS学園・一夏先生   作:猫林13世

97 / 368
誰もまともな恋愛していない


恋愛事情

 職員室で食事を摂っていた一夏は、なんだか同情された気がして食堂の方を睨みつけた。ちょうどその位置にいた真耶が、自分が睨まれたと錯覚して泣きそうな顔で一夏に近づく。

 

「あの、一夏先輩……私、また何かドジを踏みました?」

 

「ん? あぁ、別に真耶を睨んでたわけではないんだ。勘違いさせてすまなかった」

 

「いえ、私が睨まれてたわけじゃないならいいですが……それで、何であんな怖い顔をしてたんですか?」

 

 

 自分が睨まれてたわけじゃないなら、何故一夏があんな顔をしたのかが気になった真耶は、一夏の隣に腰を下ろして事情を聞く体勢を取った。

 

「別に確信があるわけじゃないが、なんだか同情された気がしてな」

 

「同情ですか? 一夏先輩の事を誰が同情するというんですか?」

 

「千冬か箒、後はその周辺の小娘たちだろうな」

 

「織斑さんや篠ノ之さんは分かりますが、他の子たちもですか?」

 

「俺の昔話でも聞いたんだろう。あの馬鹿ウサギの相手がどれだけ大変かとか、クソ親に捨てられて千冬の面倒を見ながらバイトしてた時の事とか」

 

「ISが出来てからは、一夏先輩はそっちの世界で稼ぐ事が出来たから良かったですが、それ以前は大変だったんですよね」

 

「ISが出来てからも大変だったがな……あの阿呆が全世界にISをアピールするために核兵器の発射スイッチをハッキングして、同時発射しようとしたり、気に入らない相手を消し去ろうとソイツの情報を全世界に流そうとしたり」

 

「そんなことまでしようとしてたんですか? ところで、その気に入らない相手というのは……」

 

 

 何となく想像がついたのだろう。真耶も最後までいう事なく一夏に確認だけする事にしたようで、一夏も真耶の気遣いに感謝しながら、具体的な相手の名前は言わなかった。

 

「誘拐を企てたヤツは、束に特定されているとは思ってないだろうがな」

 

「世界的にも、誘拐犯は一夏さんが締め上げた人たちだっていう事になってますしね」

 

「別に締め上げたわけじゃないが……まぁ、血祭にしてやろうと考えたのは確かだが」

 

「なお悪い気がしますが……まぁ、一夏さんの逆鱗を蹴り上げたような事をしたわけですし、あの結果は仕方なかったのでしょうね」

 

「何だか含みのある言い方だな?」

 

「いえいえ、家族思いなのは良い事ですよ」

 

 

 真耶は千冬がブラコンなのは間違いないと思っているし、一夏の方もシスコンなのではないかと疑っている。もちろん、一夏の方は実の妹の事を性的な目で見ていないのは分かっているので、そこまで心配はしていない。

 

「家族思いなのは悪いことではないですけど、織斑さんの一夏先輩を見る目はちょっと危ない気がします」

 

「あの変態駄ウサギの影響だろうが、千冬も箒も人の事を兄以上の感情を込めて見てくるからな……箒は兎も角として、千冬はちゃんと教育してやらんとこの先困るだろう」

 

「篠ノ之さんは良いんですか?」

 

「血縁ではないから、その点は問題ないだろ。もちろん、手を出す気など無いが」

 

 

 前半部分だけ聞いて慌てそうになった真耶だったが、一夏にその気がないとはっきりしたので、ホッと息を吐いたのだった。

 

「何を安心してるんだ?」

 

「いえ、一夏さんが篠ノ之さんの事が気になってるのかと思ったものでして」

 

「箒は妹みたいなやつだからな。気にかけているのは確かだが、それ以上でも以下でもないのも確かだ。そもそも、アイツの姉の事を考えれば、そんな気持ちになるわけないだろ」

 

「では、篠ノ之博士の方が良いんですか?」

 

「何をどう解釈したらそんな結論になるのか聞いてみたいものだが、束と恋愛するつもりなど毛頭ない。アイツにも直接言ったことあるが、アイツと恋人になるくらいなら、真耶の方が何千倍マシだと思ってる」

 

「えっ……」

 

「照れてるところ悪いが、実際に付き合うつもりは無いからな?」

 

「わ、分かってますよ!」

 

 

 図星を突かれた所為か、必要以上に大きな声を出した真耶を、職員室に残っていた教師全員が見つめる。

 

「す、すみません、何でもありませんので」

 

 

 自分が注目されている事を自覚した真耶は、恥ずかしそうに頭を下げてそっと腰を下ろし縮こまる。

 

「恥ずかしいです……穴があったら入りたいです」

 

「そもそも、真耶だって俺みたいな男なんて願い下げだろ?」

 

「そ、そんなこと無いですよ……私だって中高と女子高で、ISに関わってるせいで男性と知り合う機会が少ないので説得力がないかもしれませんが、一夏先輩以上の男性など、そうそういないと思います」

 

「そうか? まぁ、恋愛云々は千冬が一人で生活出来るようになるのを見届けてからだろうな。それが保護者代理としての務めだ」

 

「真面目ですね、一夏先輩は」

 

 

 兄として最低限それだけは見届けたいのだろうと、真耶は一夏の気持ちを正確に理解したのだった。




立派な保護者代理ですね

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。