呼び出された理由になんとなく心当たりがあるラウラは、特に足取りを重くすること無く職員室までやってきた。
「失礼します!」
軍人らしくはっきりと聞こえるような声で挨拶をし、一夏の側まで背筋を伸ばして歩き、正面で休めの体勢で一夏の言葉を待つ。
「ボーデヴィッヒ……ここは軍ではないからそのような体勢でなくてもいい。楽な姿勢で聞け」
「私はこれが一番楽であります!」
「そうか……」
ラウラの考え方を矯正するのは難しいと理解しているので、一夏は必要以上に姿勢について指摘する事はしなかった。
「とりあえずこれは返しておく」
「もう作業は終わったのでありますか?」
「あのシステムの元々の作り手は束と俺だからな。多少アレンジしてあっても解除に手間取る事はない」
「織斑教官と篠ノ之博士が、でありますか?」
「俺の動きをトレース出来るかどうか試しただけの実験だったんだが、何処からかデータが漏れて、巡り巡ってお前の専用機に組み込まれた」
「私の専用機にVTシステムを組み込んだ人間は分かっているのでしょうか?」
「一両日中には判明するだろうが、ここから先は汚い大人の世界だ。お前が首を突っ込む必要はない」
ラウラにこれ以上の深入りを禁じ、急いでアリーナに向かうよう注意し、ラウラは敬礼をして職員室を後にした。
「一夏さん、私たちもそろそろ行かないといけませんね」
「そうだな……」
ラウラの相手をして少し疲れている一夏に、真耶は珍しいものを見たかのような表情を浮かべながら笑っている。
「やっぱりボーデヴィッヒさんの相手は苦手なんですね」
「アイツは良くも悪くも純粋だからな。人を疑わないのは良い事だが、いい子過ぎるのも疲れる」
「お疲れなのはわかりますが、織斑先生がいないとあのクラスは纏まりませんので」
「少しはお前も頑張れよな……」
「私にはあの個性が強い子たちを纏めるだけの威厳がありませんから」
自虐風に嘆く真耶に、一夏はため息を漏らして立ち上がりアリーナへ向かうのだった。
一人遅れてアリーナにやってきたラウラは、すぐに鈴に捕まり質問される。
「遅かったわね」
「一夏教官に呼ばれて職員室に行っていたからな」
「一夏さんに? 昨日の件?」
「そうだ。私の専用機が孕んでいた危険性を取り除き終わったので取りに来るよう言われたんだ」
「たった半日程度で取り除けるのなら、さほど危険じゃなかったって事?」
「一夏教官だから半日足らずで解決出来ただけで、本来ならかなり危険なシステムが組み込まれていたらしい」
「やっぱ一夏さんは別次元なのね……あの人は操縦だけじゃなくて解析や組み立ても出来るから凄いのよ」
「それだけではないぞ。一夏教官は我々を最強部隊に鍛え上げる程の指導力も持ち合わせている。あの人は真に尊敬に値するお方だ」
心の底からそう思っているのがひしひしと伝わってくるラウラの態度に、鈴は苦笑いを浮かべながら千冬に視線を向ける。
「その妹は大したこと無いけどね」
「一夏兄と比べれば、誰だって大したこと無いだろうが」
「それはそうだけど、どっちも知ってる人間からすれば、本当に兄妹なのかって疑いたくなるわよ」
「一夏兄と比べられる私の身にもなれというんだ! あの人が凄いのは私も理解しているし、尊敬もしている。だが妹の私にまで同じレベルを求められても無理だ!」
「まぁそれは分かるけどさ……同じレベルを求めてないけど、それにしても酷すぎるのよね」
「そんなことを言うなら、鈴のお母さんは結構胸があった気がするが、娘のお前はどうなんだ?」
「そ、それとこれとは関係ないでしょうが!」
自分が気にしている事を指摘され、鈴は大声を出して千冬に襲いかかろうとして――
「既に始業のチャイムは鳴っているぞ、馬鹿者が」
――一夏の出席簿アタックを喰らった。
「い、一夏さん……」
「学校では織斑先生だ」
「すみません」
もう一発、今度はかなり手加減された一撃を喰らい、鈴は大人しく列に戻る。鈴が戻ったのを確認した一夏は、真耶に視線を向け説明を任せた。
「今回は専用機持ちをリーダーとして、グループに分かれてISに慣れてもらいたいと思います。この二クラスには専用機持ちが多いですから、それほど時間はかからないと思いますので」
「リーダーという事は、徹底的に鍛え上げればいいのでしょうか?」
「ボーデヴィッヒさん、ここは軍ではありませんので、鍛え上げる必要はありませんよ。教えてあげればいいだけです」
「分かりました」
「他に質問はありませんか? なければ、各自教わりたい専用機持ちの人のところに移動してください」
真耶の言葉を合図に、各自教わりたい専用機持ちのところに移動したが、どうしても偏りが見られる。それを見て真耶は、どうしようかという目で一夏に助けを求めたのだった。
男子がいないから、あのような騒ぎにはなりません