IS学園・一夏先生   作:猫林13世

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この二人にしか作れないだろうな……


VTシステムの大本

 VTシステムの解除に勤しんでいた一夏だったが、不法侵入者の気配を感じ取ってため息を吐いて作業を中断した。

 

「何の用だ、変態駄ウサギ」

 

「いっくん、だんだん束さんの呼び方が酷くなってきてないかな?」

 

「お前の相手をしてる暇は無いんだ。さっさと用件を言え」

 

「いっくんのお手伝いをしに来たって言ったら信じる?」

 

「信じん」

 

 

 回答時間コンマ五秒という一夏の返答に、束は苦笑いを浮かべながら頭を掻く。

 

「この間いっくんに迷惑をかけたばかりだから仕方ないけど、今の返答時間はいくら束さんでも落ち込むよ」

 

「自業自得だろ。そもそもお前が手伝うと言ってろくな結果になったためしがないからな。邪魔なだけだからさっさとラボに戻れ」

 

「さすがにVTシステムを見過ごすわけにはいかないから。VTシステム――ヴァルキリー・トレース・システムは、第二回モンド・グロッソ決勝の際にいっくんが見せて、相手を瞬殺した動きを真似する、操縦者にとてつもない負担をかけるシステム。いくら有象無象の区別がつかない束さんでも、非人道的だという事は分かるからね」

 

「そもそもあの動きは瞬間加速を会得している人間でもGが厳しすぎるという観点からも開発が中止されたはずだろ。研究データも完全に削除したはずなのに、何故ドイツ政府がそのデータを持っていたんだ」

 

「束さんたちに気付かれないようにコピーしていたとしか考えられないね。当時の研究所の人間のデータが残ってれば、その中にドイツ政府の中枢部にいる人間が分かるんだけど……」

 

「当時の資料は、研究データと共に完全に消去したからな。さすがに研究所のスタッフの全員の顔と名前は憶えていない」

 

「まぁ、いっくんなら相手の気配で識別出来てたから、名前を覚える必要はなかったもんね」

 

「お前は区別出来なかったからな……」

 

 

 VTシステムはあくまでも一夏の真似が出来ないかという、束の気まぐれで作られたシステムで、当時ドイツの研究所を勝手に借りて開発していたものである。もちろん一夏と束以外が見られないようにしていたはずなのだが、常にそこに留まっていたわけではないので、誰かが研究データを盗み出した可能性も否定できないのだ。

 

「束さんは姿を見られなかったけど、いっくんは当時から有名だったからね」

 

「あの事件の後だからな。いい意味でも悪い意味でも、俺の顔と名前は売れていたからな」

 

「あれはいっくんが悪いわけじゃないよ。おバカさんがいっくんに勝てないからって無い知恵を絞った結果が、あんな事になったんだから」

 

「とにかく、更識を使ってドイツ政府と非公式に交渉して、何故このシステムがボーデヴィッヒの専用機に組み込まれていたのかを解明する必要がある」

 

「そっちは手伝えないけど、解除なら任せてよ」

 

「お前に生徒の専用機を弄らせるわけにはいかない。更識妹のように、再起不能になりかねない事故につながるかもしれないからな」

 

「もう反省してるってば! いっくん、束さんの事が信じられ――」

 

「何処をどう信じろというんだ、お前は」

 

 

 束が言い切る前に鋭い視線を向けて答える一夏に、束は今度こそ肩を落として涙目になって見せる。

 

「いっくんに疑われるのは精神的によろしくないね……どうすれば信頼を回復出来るのかな?」

 

「元々信頼などしてないから、回復もないな」

 

「酷っ!? まぁいっくんはツンデレだから、そんなこと言って束さんの事信頼してくれてるもんね~」

 

「ふざけたことぬかすと、今度こそその舌、切り取ってやる」

 

「怖いって!? いっくん、なにかストレスでもあるの? 溜め込むと良くないから、束さんに相談してみるといいよ」

 

「ストレスの原因が偉そうに言うな! とにかく、VTシステムの解除は俺がやっておくから、お前は更識とは別角度からドイツ政府の事を調べろ。それならお前でも出来るだろ」

 

「いっくんは束さんの能力を下に見過ぎだよ。ドイツ政府の情報なんて、国家機密から政治家の性癖まで、なんでも調べられるもんね~! まぁ、誰が誰だか分からないけど」

 

「……VTシステムを知り得た可能性のある人物のピックアップと、その人間の現在を調べろ。それだけならお前でも問題なく出来るだろ」

 

「明日の朝には持ってこられると思うよ」

 

「頼む」

 

 

 一夏が素直に頭を下げたのを見て、束は一夏が本気でラウラの事を気にかけている事を理解し、今回はイタズラ無しで手伝おうと決意する。

 

「いっくんにそんなに大事に思われてるなんて知ったら、ちーちゃんが暴動を起こすかもしれないね」

 

「茶化すな。ボーデヴィッヒはいろいろと事情がある子なんだよ」

 

「知ってるよ。試験管ベビーなんて、束さんでも作らないって」

 

「散々俺が注意したからな。非人道的行為はしてないもんな、お前は」

 

「いっくんがいなかったら、有象無象の一人や二人、解体してたかもね」

 

 

 冗談とも本気とも取れる言葉を残して、束は姿を消した。一夏は束が消えた空間を見詰め、そしてシステム解除に戻るのだった。




束が恐れるの当然の一夏……

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