コンテナの中にあった指示の通りIS用スーツに着替えた二人は、とりあえずISに乗ってコンテナの外に出る事にした。
「おー、やっぱり束さんの見立て通り、並んでると綺麗だね~、お目出度いね~」
「あの、姉さん? これはいったい……」
「見ての通り、ちーちゃんと箒ちゃんの専用機だよ~! あの生意気金髪娘を黙らせるためにも、ちーちゃんと箒ちゃんには決闘に勝ってもらわないといけないから」
「それで、フィッティングとパーソナライズはしてあるんだろうな?」
「まだに決まってるじゃん、いっくん。当然、いっくんにも手伝ってもらうつもりだったから逃げないでね」
「……やはりか」
束が一人でやっても十分はかからないだろうが、束は最初から一夏にも手伝ってもらって共犯に仕立てるつもりだったのだ。
「あの……何ですか、そのフィッティングとかパーソナライズというのは?」
「ちーちゃんと箒ちゃんに完全に合わせた設定をする、って思ってれば大丈夫だよ~。どうせ、二人が誰かのをやることなんて無いんだし」
「まぁ、そんな考えで構わん」
実に楽しそうな束と対照的に、一夏は心底疲れ切った表情で答えた。千冬と箒は、何とかできないかと考えたが、相手が束ではどうしようも無かった。
「じゃあ、いっくんはちーちゃんの機体をお願いね~」
「コイツの名前は?」
「白檀だよ~。それで、対になる箒ちゃんのが八重桜。姉妹機だから、なるべくならペアで戦った方が良いよ~」
「こいつらは二人とも近接格闘主体だろうが」
「うん、だからちーちゃんの機体は遠距離主体で作ったから、頑張ってね~」
「私が、遠距離担当?」
突如言われた事なので、千冬の中では情報の処理が追い付いていなかった。一夏も呆れてはいるが、既に処理済みのようで、白檀にケーブルを繋いで何かをしている。
「見事なまでに遠距離武装だな……まぁ、どうせ練習しなければいけなかったんだし、これで諦めもつくだろう」
「そういうこと~。さっすがいっくん! 束さんの考えをそこまで読むとは」
「馬鹿を言え。どうせ『面白そうだから』とか『箒と一緒に戦う千冬が見たかった』とか、そんな理由だろ」
「せいかーい!」
「……お前は一度死んだ方が良いんじゃないか?」
「ヒドッ!? 束さんが死んだら世界の損失だよ!? IS産業の発展が止まっちゃうんだよ!?」
「大して貢献してないだろうが……」
「えへ?」
一夏の容赦のないツッコミに、束は舌を出して誤魔化した。もちろん、そんなことで誤魔化せるほど一夏は簡単ではないのだが、束と付き合いが長い一夏は、これ以上言っても意味がないという理由で誤魔化されたのだった。
「フィッティングにパーソナライズしゅーりょー! さすが束さん、早いね~! 天才だね~!」
「言ってろ……」
束と同じ時間でフィッティングとパーソナライズを終了させた一夏が、自画自賛している束に容赦のない言葉を浴びせる。
「早い……のか?」
「私に聞かれても分かるわけないだろ……」
いまいち凄さが分からない箒と千冬は、この中で唯一分かりそうな簪に視線を向けた。
「とんでもなく早いよ……一流の技術者でも三十分はかかるって言われてる」
「束さんといっくんにかかればこんなものなのだ~! ん? お前、未完成のISを持ってるな?」
「えっ?」
簪の言葉に気を良くした束が、鼻をヒクヒクさせながら簪に接近する。いきなり近づいてこられて、どう反応すればいいのか困っていた簪だったが、あっという間にその距離をゼロにされてしまった。
「なるほど……自分で組み立てようとしてる訳か~。でも止めておいた方が良いよ。凡人が組み立てられる程ISは簡単じゃない」
「それでも! それをやって見せないとお姉ちゃんに対抗出来ない……」
「束、他人の事情に踏み込むなんてお前らしくないな」
「そうだね。精々完成出来なくて泣きわめく姿を楽しみにしてるよ~」
既に興味が失せたのか、束は千冬と箒の許へ戻っていく。残された簪は、唇をかみしめて束の後姿を睨みつけていた。
「気にするだけ無駄だぞ。あいつはああいう奴だから」
「ですが!」
「あいつの言葉に心当たりがあるんだな? 自分でやっててもどうしても手詰まりになっているのか?」
「………」
一夏の言葉に、簪は無言で頷く。実際行き詰っているからこそ、束の言葉が余計に胸に刺さったのだ。
「今度見せてみろ、アドバイスくらいならしてやる」
「でも、それじゃあお姉ちゃんに――」
「あいつの機体も、俺がアドバイスして造ったんだ。だから、他人を頼ることを恐れるな。一人で抱え込もうとするな。もっと周りに相談してみろ。そうすれば、意外と簡単に解決するかもしれないぞ。まぁ、何がとは言わないがな」
意味深な一言を付け加えて、一夏も千冬と箒の許へ向かって行った。残された簪は、一夏の言葉を自分の中で反芻しながら、何とか呑み込んだのだった。
一夏が言うと含蓄があるような……