セシリアとの対戦を終えたラウラは、千冬と箒が手招きしているのに気が付き、二人の側までとことこと歩いていった。
「何かあったのか?」
「先ほど一夏兄が来て、セシリアとの訓練が終わったら一夏兄のところに来るようにと伝言を預かった」
「一夏教官のところに?」
「私たちも良く分からないんだが、お前の専用機になにか仕掛けられているようだ」
「専用機に? これはドイツ政府が全ての技術を詰め込んだ第三世代のISなのだが、一夏教官が言うなら何かあるのだろう。それで、一夏教官は何処にいるんだ?」
「職員室にいると思うぞ。音もなくいなくなってしまったから、私たちも定かではないんだが」
「気配察知も、一夏兄には通用しないからな」
「さすがは一夏教官。千冬や箒でも気配を把握出来ないのか」
一夏の凄さを共有した千冬とラウラだったが、やっぱり一夏が何を気にしているのかが気になって、何時ものように長い間二人の世界に浸ることは無かった。
「ラウラさん、もう訓練は終わりなのですか?」
「一夏教官が私の専用機に何らかの問題を見つけたようで、これから教官のところへ行かなくてはいけなくなった」
「織斑先生のところですの? では、私の相手はシャルロットさんですの?」
「そろそろ鈴が部活から抜け出してくると思うから、セシリアの相手は鈴だろうな」
「ボクは千冬に射撃の指導をしなきゃいけないしね」
「ではそれまでは私も休憩しておきますわ」
シャルロットに教わることに最初は抵抗があった千冬ではあったが、今では普通に指導してもらっている。何時でも一夏に聞きに行けるわけではないので、ある程度の知識と技術を持っているシャルロットは、丁度いい指導係だったのだ。
「箒さんはISのスピードを上げる事と、零落白夜の使い方を反復しているところですし、次の大会はかなり強敵となり得るでしょうね」
「私と千冬は、結果云々より成績の為に参加するから、他の参加者よりモチベーションは低いぞ」
「モチベーションが低くても、実力があれば強敵となり得るのですわよ」
「候補生のお前にそういってもらえると、私たちも成長したんだなと思えるな」
「入学するまではISの知識なんて皆無だった私たちが、候補生を燃えさせられるまでに成長したんだ。これからも精進しようじゃないか」
「精進するのは良い事だな。それでは私は一夏教官のところへ行ってくる」
「あぁ」
千冬たちに敬礼をして、ラウラは更衣室で着替え職員室へ向かうのだった。
職員室にやってきたラウラは、まず真耶の姿を見つけ近づいた。
「山田先生」
「ボーデヴィッヒさん、どうかしましたか?」
「一夏教官はこちらにいらっしゃるでしょうか?」
「織斑先生ですか? 先ほど学園長に呼び出されてしまいましたが、すぐに戻ってくると思いますので、ここで待ちますか?」
「そうですね……そうさせていただきます」
「それじゃあ、そこに座って待っていてください」
そう言って真耶が指差したのは、普段一夏が使っているデスク。一夏が使っている場所に座るというのはラウラにとっては光栄極まりないことだったので、なんだか感動したような表情を浮かべながら、ゆっくりと椅子を引いた。
「し、失礼します」
「ボーデヴィッヒさんは、本当に織斑先生の事を尊敬しているのですね」
「落ちこぼれと言われていた我々を、ドイツ最強の軍隊に育て上げてくださったのが一夏教官ですから。感謝してもし足りません」
「織斑先生はボーデヴィッヒたちだけじゃなくって、現ロシア代表の更識さんの指導もしていましたし、やっぱり教師に向いているんでしょうね」
「一夏教官が鍛え上げたのでしたら、そのロシア代表の選手はきっと強いのでしょうね」
「そういえばボーデヴィッヒさんは、この学園の生徒会長の定義を知らないんでしたっけ?」
「生徒会長の定義? 選挙で勝ち抜けば決まるのでは?」
「普通の学校ならそうでしょうが、IS学園の生徒会長というのは、学園最強の称号でもあるんですよ」
「学園最強……いつかは私も呼ばれてみたいです」
「そうですね。でも普通の生徒会としても業務もあるので、毎日書類の山に囲まれるんですよ」
「で、デスクワークは私の担当ではありません」
「更識さんも好きじゃないようですね。しょっちゅう織斑先生にサボってるところを見つかって、首根っこを掴まれて生徒会室に連行されていますから」
生徒会長の裏事情を聞かされ、ラウラは苦笑いを浮かべるしか出来なかった。ラウラも一度だけ一夏の訓練から逃げ出そうとしたが、運悪く一夏に見つかって連行された過去があるのだ。
「悪かったな、ボーデヴィッヒ。こちらから呼び出しておいて不在で」
「いえ、一夏教官が忙しいのは分かっておりますので」
突如一夏に声をかけられたにも拘わらず、ラウラはすぐに立ち上がり、背筋をピンと伸ばして敬礼したのだった。
事務仕事に向いてないんですよ……