簪の専用機が完成したため、一年生の専用機持ちは五人となった。
「今度の学年別トーナメントですが、ペアで開催しようという意見が出ているのですが」
「この間のオルコットと凰の動きを見てわかるだろうが、一年の小娘たちにペア戦が出来るとは思えないんだが」
「それを加味しての開催を目指してるようですよ? 一夏さんが散々発破をかけた所為じゃないですか?」
「俺は事実を言っただけだ」
一夏としては、自分の感想で学園行事のルールを変えられたら堪ったものじゃないので、人がいるところでは愚痴をこぼしたりはしない。なので今回のルール変更も自分のせいではないと思っている。
「まぁ、例年の成績不振者が点数稼ぎの為に参加するのとは違いますからね、今年は」
「騒ぎすぎなような気もするがな……まぁ今回は議員の爺どもは来ないだろうから、落ちついて開催する事が出来るだろうな」
「そうですね」
前回のイベントでは、束の介入と共に議員の相手をしなければならなかった一夏の機嫌が悪かったが、今回はそんなことも無いだろうと、真耶は穏やかな気分だった。
「あと残ってるのは、ボーデヴィッヒの問題か」
「ボーデヴィッヒさん? 何か問題があるんですか?」
「真耶は気にしなくていい。俺が解決しておくから」
立ち上がり真耶の頭を軽く撫でてから、一夏は職員室からラウラがいるであろうアリーナへと向かう。子供扱いされた真耶だったが、一夏に頭を撫でられるのは嫌いではないので、文句は言わずに黙って撫でられ続けられたのだった。
訓練をしていた千冬たちは、アリーナの入口に一夏がいる事に気が付いて訓練を中断した。
「織斑先生、どうかなさったのですか?」
「ボーデヴィッヒはいるか?」
「ラウラですか? それでしたらあちらでセシリアと対戦中ですが」
箒が指差した方に視線を向けると、セシリアとラウラが真剣に訓練している。二人の頑張りようを見て満足そうにうなずいた一夏だったが、すぐに険しい表情に変わった。
「一夏兄?」
「織斑、篠ノ之、訓練が終わったらボーデヴィッヒに職員室に来るように言っておいてくれ。俺は必要なものを用意しておく」
「必要なもの? 一夏兄は何をするつもりなの?」
「ボーデヴィッヒの専用機に仕掛けられたトラップの解除だ」
「「トラップ?」」
二人同時に首を傾げたが、一夏はその問いには答えず、音もなく姿を消した。
「相変わらず素早い移動だな……ついさっきまで目の前にいた人がいなくなったら、普通の人は驚くんだろうが」
「一夏兄なら何でもありだからな」
「姉さんも消えるからな……」
身内が人外だという事を理解しているので、千冬と箒はその二人が起こす事に関しては驚くことはしない。
「ところで、一夏さんが何を気にしてるのかが気になるな」
「一夏兄が考えていることなど、私たちには分からないだろ」
「それはそうなんだが、ラウラの専用機にトラップが仕掛けられているってどういう事だ?」
「さぁな……解決したら教えてくれるだろう」
「そうだろうな」
「どうかしたの?」
「おぉシャルロット」
休憩中でトイレに行っていたシャルロットが戻ってきて二人に話しかける。千冬はさっきまで一夏がこの場にいて、ラウラの専用機になにか罠が仕掛けられていると教える。
「トラップ? ISにそんなものを仕掛けられるのって篠ノ之博士くらいじゃないの?」
「ウチの姉さんがラウラの専用機製造に関わっていたとは思えないが」
「束さんがそんなことをするとも思えないしな。この間の簪にアドバイスしたのだって、結局は邪魔したかっただけのようだし」
「誰の?」
「簪と、一夏兄のだな」
束としてはちょっとした茶目っ気だったのだが、一夏からしてみれば迷惑極まりない行為だったのだ。
「でもさ、織斑先生が気にしてるって事は、篠ノ之博士絡みじゃないの?」
「姉さんだけに興味を向けてる人ではないから、違うとは思うけど、一夏さんが気にしてるということは、あまり猶予がないという事なんだろう」
「まぁ一夏兄だったら一日もかけずに罠の解除を終わらせるだろうから、猶予なんて無くても良いんじゃないか?」
「一夏さんだって休みたいと思うだろうし、あんまり切羽詰まった状態でやるのは避けたいと思うだろうが」
「一夏兄なら、二,三日休まなくても大丈夫だと思うが、無理をしてる一夏兄を見たくないからな……」
「ずっと気になってるんだけど、織斑先生って何者なのさ?」
「私の自慢のお兄ちゃんだ!」
「いや、そういう事じゃないんだけど……」
「気にするな、こいつはこういう奴だから」
千冬の説明になってない説明で納得しろという箒も普通ではないのだが、シャルロットはこれ以上聞いても何も得るものはないだろうと判断して、黙ってセシリアとラウラの訓練に視線を向けたのだった。
千冬の説明もダメだな……