IS学園・一夏先生   作:猫林13世

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あけましておめでとうございます、本年もよろしくお願いいたします。


護衛としての本音

 無事にチェックも済み、書類に目を通していた簪の許に、本音がお茶を持ってやってきた。

 

「お疲れ様、かんちゃん。少し休んだら?」

 

「本音がお茶を淹れてくれるなんて珍しいね。明日は雨でも降るんじゃない?」

 

「これでもかんちゃんのお付きのメイドなんだけどな~。お茶くらい淹れられますよ」

 

「知ってるよ。本音は私や虚さんよりも家事が上手だもんね」

 

「他の部分では負けてるからね~。これくらいは出来ないと」

 

 

 自分が劣っているという自覚があるようで、本音は少し寂しげな表情を浮かべたが、すぐに何時もののほほんとした空気に戻った。

 

「そういえばかんちゃん、放課後は織斑先生とずっと一緒にいたんでしょ? 何か面白い話は無いの?」

 

「無いよ、そんなの……別に遊んでたわけじゃないんだし、織斑先生は真面目な人だから」

 

「やっぱりそうなのかな~? おね~ちゃんも信頼してるし、おりむ~も溺愛してるから悪い人じゃないとは思うんだけどさ~……」

 

「あの印象が強すぎる?」

 

「うん、そうなんだよね」

 

 

 簪も思っていた事なので、本音が何を気にしているのかはすぐに理解出来る。もしかしたらあの事件の時が素で、普段は自分たちを欺いているのではないかという疑念だ。

 

「本音の気にし過ぎだと思うよ」

 

「なんでそう言い切れるの~?」

 

「だって、そんな裏があるような人を、お姉ちゃんが信用するとは思えないし」

 

「もしかしたら、楯無様すら欺けるような人だったら?」

 

「本音がそこまで私たちの身を心配してくれてるなんて思ってもみなかったよ」

 

「なんだよ~! こっちは割と本気で心配してるのにさ~」

 

「分かってるよ。だから、それは不要だって教えてあげようと思っただけ」

 

「ほえ?」

 

 

 簪が何か根拠を持っているようだと感じた本音は、先ほどまでの緊張感漂う空気から、何時もののほほんとした空気に変わった。

 

「さっき織斑先生から聞いたんだけどね、織斑先生自身もあのイメージをどうにか払拭したいって思ってるみたいだった」

 

「そうなんだ~。でも、それも演技だったとしたら?」

 

「あの表情は演技じゃないよ。それに、そんなこと言ってたら千冬に殺されちゃうよ? あの子は並大抵のブラコンじゃないし」

 

「おりむ~は否定してるけど、あれはブラコンだよね~。って、そういう事じゃなくて!」

 

「本音が心配してくれてるのはありがたいよ。でも、お姉ちゃんや虚さんが見破れないような相手なら、私たちが警戒しても無意味じゃない?」

 

「それは! ……そうかもしれないけど」

 

 

 否定したくても、人の心の裡を見抜く力は、本音や簪よりも姉二人の方が一枚も二枚も上手である。それは本音も痛感している事なので、簪の言葉を素直に受け取ったのだった。

 

「人の懐に入り込む力は本音が何枚も上だけど、さすがに織斑先生の懐には入り込めないでしょ?」

 

「入り込んで殺されたくないもん」

 

「殺されはしないと思うけど……だから、本音はいつも通りにしてくれてればいいよ」

 

「かんちゃんがそう言うなら……」

 

 

 護衛としてしっかりと考えている事が分かって、簪はなんだか嬉しい気持ちになっていた。そして同時に、一夏に撫でられたことを思い出して少し恥ずかしい気持ちにもなって、少し顔が赤くなってしまった。

 

「およ? かんちゃんは何で赤くなってるのかな~? もしかして織斑先生と何かあったのかな~?」

 

「何にも無いよ! ちょっと凹んだ私を励ましてくれただけ!」

 

「凹んだ? 何かあったの?」

 

「ちょっと動作不良があってね……危うく再起不能になりそうだったんだ」

 

「なっ! 何でそんな大事な事を教えてくれなかったの!」

 

「結果的にこうしてピンピンしてるわけだし、打鉄弐式も完成したんだから教える必要もないかなって。そもそも付き添うとか言ってたくせに来なかったのは本音でしょ」

 

「そんなこと言ったっけ?」

 

 

 分かり易い恍け方に、簪は思わず苦笑いを浮かべる。本気で一夏の事を疑っていたら、忘れることも無く付き添ってきたはずなので、今のやり取りだけで本音が本気で一夏を疑っているわけではないという事が簪には分かったのだった。

 

「とにかく、こうして無事に部屋に帰ってこれたのも、打鉄弐式が完成したのも織斑先生のお陰なんだから」

 

「楯無様だけじゃなくて、かんちゃんも陥落させたなんて、織斑先生はさすがだね~」

 

「あっ、もしもし千冬? ちょっと耳に入れておきたい事が――」

 

「なにしてるのかな!?」

 

「冗談だよ。というか、そんなこと言ったら織斑先生に失礼だと思わないの? 本気で怒らせたらどうなるか、一番心配してるのは本音でしょ?」

 

「これくらいで怒ったりはしないと思うけどな~。むしろ危険なのはおりむ~の方だし」

 

 

 こんな冗談を千冬に聞かれたら、それこそ地の果てまで追いかけられそうだと、本音は苦々しげに呟いて簪の笑いを誘ったのだった。




本音もしっかりしてる部分はあるんだけどなぁ……目立たない

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