IS学園・一夏先生   作:猫林13世

8 / 368
相変わらずの行動理由……


一夏の専用機

 コンテナの外で待機していた簪と本音は、中身が気になり一夏に問い掛ける事にした。何故束に聞かなかったのかと言うと、先ほどのやり取りで自分たちは束に気に入られていないと判断したからだ。

 

「あの、織斑先生……」

 

「何だ?」

 

「その中身はいったい何なのですか?」

 

「お前が躍起になって造ろうとしているもの、といえば分かるか?」

 

「っ!」

 

 

 何故その事を知られているのか、という部分でも驚いたが、コンテナの中身を理解して驚いた方が、簪の中の比重として大きかった。

 

「何故……二人は候補生でも何でもないですよね?」

 

「普通『コレ』は国から貸し与えられるものだが、この中身はこの馬鹿が二人に贈与する、という抜け道だ。後処理を丸投げしてるのを見て、恐らく国に伝えてないんだろうが」

 

「いっくんのソレだって、束さんが贈与したから今もいっくんが持っていられるんじゃないか~」

 

「俺以外に動かせないからだろうが……そもそも、あの惨劇を生み出した原因とも言えるものを、誰が動かしたいんだ」

 

『それは心外だわ。私は、貴方の為にやったというのに』

 

「「?」」

 

 

 第三者の声が聞こえ、簪と本音はきょろきょろと辺りを見渡したが、何処にも人影は無かった。

 

飛縁魔(ひのえんま)……喋るなら姿を表したらどうだ? 二人が困惑してるだろ」

 

 

 一夏がブレスレットにそう声をかけると、何処からか女性が現れた。

 

「別に貴方以外がどう思おうが関係ないもの。それに、貴方があの男たちを許せないと思ったから、私は力を貸しただけよ」

 

「……ただ単にお前が男の血を吸いたかっただけだろ」

 

「私はあんな不味そうな男どもの血なんて欲しくなかったけど、貴方がそれを望んだから、死なない程度に血を吸い取っただけよ。不味くて半分以上捨てたけどね」

 

「えっと……それって、例の誘拐事件の事ですよね? 犯人側は目だった外傷はないのに大量に出血していたっていう……」

 

「そうよ? あの血は私が捨てたものだから、傷口が無くても出血するのよ」

 

「その所為で色々と大変だったがな……」

 

 

 何の悪びれも無く言い放った飛縁魔に、一夏は呆れた視線を向ける。その視線を受けても、飛縁魔は笑みを崩す事は無かった。

 

「だって、さすがに精気を吸い取るのはダメでしょ? 私としては、殺しても良かったんだけど」

 

「当たり前だ。お前が本気で精気を吸い取ったら、並の人間じゃすぐに干からびる」

 

「その点、一夏はいくら吸い取っても問題ないから良いわよね~。そのお陰で、こうして私の美貌は保たれているのだから」

 

「私よりおっきいかもしれないね~。ねぇねぇ、触ってもいいかな~?」

 

「別に良いわよ? ただし、自信喪失しても知らないわよ?」

 

 

 飛縁魔に許可をもらった本音が、気になっていた部分に手を伸ばし――

 

「す、凄い」

 

 

――その感触に驚いた。その光景を見ていた簪は、自分のと見比べて凹み、束は面白そうに笑い、一夏は盛大にため息を吐いた。

 

「俺の活力がお前のアンチエイジングに使われているかと思うと、所有権を放棄したくなるんだが」

 

「あら、貴方だって相方がよぼよぼのおばあちゃんより、スタイルが良い美人の方がやる気が出るでしょ?」

 

「そもそもお前は機械だろうが……動作に不備が無ければ人の姿の時なんて気にしない」

 

「相変わらず釣れないわね~。一度交わればその気持ちも変わるかしら?」

 

「「っ!?」」

 

「女子高生の前で直接的な表現は止めろ」

 

 

 顔を真っ赤にした簪と本音を見て、一夏はため息交じりに飛縁魔にツッコミを入れる。

 

「ツッコミなんかよりも『アレ』を入れてほしいのだけどもね」

 

「……お前、年々下品になってないか?」

 

「あら、下品は美徳よ?」

 

「もういい……」

 

 

 飛縁魔相手に何を言っても無駄だという事を長年の経験で知っている一夏は、もう一度ため息を吐いてから束に視線を向けた。

 

「もう少しマシな性格設定には出来なかったのか? 俺が手伝ってた時にはもう少し大人しかったはずだが」

 

「うーん、よりリアルな飛縁魔にしようと思ったら、こうなっちゃった」

 

 

 束の「てへっ」と言う感じに舌を出して片目を瞑る仕種に、一夏は頭痛を覚え頭を抑えながら首を左右に振った。

 

「お前にも言っても無駄だったな……」

 

「付き合い長いから、いっくんなら束さんの全てを知っているはずでしょ~? だから、飛縁魔がそうなった理由も、なんとなく分かってるはずだよね?」

 

「……『その方が面白いと思ったから』だろ」

 

「せいかーい!」

 

「……更識妹、布仏妹、間違ってもこんな大人になるんじゃないぞ」

 

「は、はい……」

 

 

 一夏の心からの言葉に、簪は素直に頷いた。一方の本音は、未だに飛縁魔の身体を触っていて、一夏の言葉は耳に届いていない様子だった。

 

「何時まで触ってるんだ、お前は」

 

「織斑先生、この人凄く気持ちいいです」

 

「気をつけろよ。そいつは吸おうと思えば女の精気も吸えるぞ」

 

「えっ!?」

 

 

 一夏の脅しに屈した本音は、すぐさま飛縁魔から距離を取った。もちろん、そんなことは無いのだが、これで必要以上に触ろうと思わなくなっただろうと、一夏は内心ホッとしたのだった。




束なら抜け道くらい自分で作っちゃうでしょうね……

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。